東方訪問記   作:白い花吹雪。

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強大な力と、恐るべき狂暴性を秘めた小さな吸血鬼。
吸血鬼でありながら血を吸わず、人間に強い興味を抱いていたという。
その力を恐れられるあまり長らく軟禁されており、数年前にようやく開放されたという話もあるが、現在どこで何をしているのかは定かではない。




6-2 哀れみの怪物

ファイルを閉じ、龍神は言った。

「…ま、おおよそ予想通りってとこだな」

 

「そう…だな。あいつ、まだルナスクの件を諦めてなかったのか…!」

 

「そりゃ、そんな簡単に諦めるわけねーさ。奴らはしぶといのが売りだからな」

 

「…。とにかくこれで、今回の化け物騒動の原因が凛央なのは確定だな」

 

「そうなるな。まだ確たる証拠はないが、地殻変動や連中の異変もあいつが原因と見てまず間違いないだろう」

 

「これを見た限り、凛央はこっちの連中でC.S.T.を作るつもりみたいだな。…ったく、趣味が悪いぜ」

 

「ここの奴らでC.S.T.なんぞ作られたら、どんな化け物が出来るかわかったもんじゃない。何より…うん、そうだな。いくらなんでも趣味が悪すぎるぜ」

 

「化け物で化け物を作る…凛央ならやりそうな事だな。

…そう言えば、凛央はなんで俺達をこっちに連れてきたんだろう?」

 

「…」

龍神は答えなかった。

よく考えてみれば、いささか疑問だ。

「だが、今俺達が出来るのは進むことだけだ」

 

「ああ。先に進もう」

 

 

ある所で鍵を使い、扉を開いた。

その部屋にはテーブルや棚などが置かれており、机上には何枚かのプリントが散乱していたが、どれも何も書かれていなかったり、文字がかすれていたり、血で汚れていて読めないものばかりだった。

 

先を急ぐように進んでいた所、突然天井の通気口の蓋が落ちてきた。

その時、ダクトから不気味な生物が現れた。

脚部は色以外人間のそれとさほど変わらないが、上半身が紫色の肉塊で覆われ、その表面には人間の顔や手足がいくつも生えている。

腕は異常に長いものが四本。目は見当たらない。

口は歪で形の不揃いな牙が無数に生えたものが一つ。

 

二人は魔弾を放ったが、向こうはお構い無しでテーブルの向こうから姜芽に手を伸ばしてきた。

姜芽は間一髪でしゃがみ、化け物の手はギリギリで届かなかった。

化け物は姜芽を逃がして驚いたのか、俄に硬直した。

その隙に龍神の方へ飛び込み、改めて化け物を見た。

「こいつもC.S.Tか!?」

 

「…誰がもとかはわからんが!」

 

「そんなのどうでもいい!倒すのに変わりはない!」

 

化け物と距離を取り、姜芽は術を放った。

「炎法 [炎炎轟轟]」

龍神は普通に電撃を放つ。

しかし、化け物はこれらの攻撃にも全く怯まない。

 

と、またも化け物が手を伸ばしてきた。

姜芽はジャンプし、棚の上に飛び乗ってかわした。

 

幸いにも、この部屋には大きめのテーブルがいくつかある。

化け物の手はテーブルの反対側にギリギリ届く程度なので、テーブルの縁から離れるか、しゃがめば掴まれずに済む。

 

しかし、化け物の攻撃手段はただ掴むだけではなかった。

自らの体に生えた人間の腕を引きちぎり、それを投げてくる。さらにそれは床に落ちても、ピクピク動き回って近づいてくる。

攻撃すると簡単に砕け散るが、一度に数本投げてくるため少々厄介だった。

腕はどれも二人から少し離れた所に落ちるので、掴まれることはなさそうだが、念のため撃っておく。

 

化け物は本体のスピードと四本の腕を駆使し、二人を同時に捕まえようとしてくる。

二人はその腕に捕まらないよう、テーブルの反対側に移動しつつ攻撃する。

魔弾、あるいは技を当てた部位は、生々しい音を立てて血と肉片が飛び散る。

それでも、化け物は怯む事なく突っ込んでくる。

「面倒だ…一気に焼き払うか!」

姜芽は手を構え、化け物の周囲に無数の炎を召喚した。

「炎法 [路傍燐火]」

化け物の体はみるみる焼け焦げてゆき、化け物はもだえ苦しむ。

しかし、数秒もすると復帰して突っ込んできた。

 

そして、わずかに隙を見せた龍神が捕まった。

「ぐ!」

 

「させるか!」

姜芽は斧を取り出し、

「斧技 [レイドスレイヤー]」

化け物の腕を切り落とした。

 

「助かった…!」

 

「…しかし、何なんだこいつは!」

 

「どんなC.S.Tが開発されていても不思議はない。けど、さすがに疲れるな…」

 

「てか、このままだといつ倒せるかわかんないぜ。何とかできないか…?」

 

「そうだな…捕まらないためにも、術でやった方が良さそうだ。

けど、火とか電だと効果が薄いかもしれんな」

 

「じゃ、どうすればいいんだ?」

 

「風でいく。何がベースかは知らんが、闇は効かないだろうしな」

 

龍神は手に緑色を帯びた風を集める。

そして、

「風法 [迅旋]」

強風を吹かせ、同時に魔力の刃を複数飛ばす。

刃が化け物の体を覆う肉塊を切り裂き、顔を切り刻む。

 

「効いてるっぽいな…!」

 

「よーし…あとは光のやつをお見舞いしてやれ!」

 

「おお!」

姜芽は、光の上級魔法が記された魔導書を開く。

「[シャイニング]」

 

光の波動が一直線に放たれ、それと同時にまばゆい光が辺りを照らす。

そして光が消えた時、化け物の姿はきれいさっぱりなくなっていた。

その代わり、化け物がいた場所には黒い勾玉が落ちていた。

 

 

 

「消えたな…。おっ、何かあるな」

 

「勾玉…?っぽいな。何かの力を感じる」

 

「恐らくは、あそこにはめるものだな」

姜芽は、奥の壁を指差す。

そこには丸いくぼみがあり、白い勾玉がはまっている。

 

「なんか悪意を感じるな…まあいい」

くぼみに勾玉をはめると、壁自体が上に動いた。

 

「なるほど、これがカギの代わりになってたのか。だから妙な力を感じたのか?」

 

「かもな。…あれ、なんだ、普通に行けそうな道あるぞ」

龍神が指さしたのは、壊れた鉄格子がある通路。

「あ、じゃ先にそっち行くか」

 

 

 

奥には部屋があった。

…ただし、壊れた椅子やテーブル、引き裂かれたテーブルクロスや割れた食器などが散乱していて、ここで誰かが暴れたような痕跡があった。

「ここは」

 

「誰かがここで暮らしてたんだな…調べてみよう」

二人は部屋の中を見回した。

 

姜芽の方は、特に気になるものは見つからなかった。

(それにしても、一体ここで何があったんだ…?)

ズタズタになったカーペットを見下ろしながら、ぼんやりとそんな事を思った。

 

「姜芽!」

部屋の奥から、龍神の声がした。

「何か見つけたか?」

 

「ああ、面白い物を…な」

 

「そりゃ何だ?」

 

「これだよ」

龍神が指差したのは、古びた机の上に置かれたノート。

そこには…

 

「 ある少女の遺書

 

 

 

ここに閉じ込められて、もうどのくらいになるだろう。

次々に人間や妖怪が連れてこられる。

これから彼らがどうなるか、見なくてもわかる。

いや、わかってしまう。

 

皆、里の人達だ。

私を受け入れてくれた人達。

助けてあげたいけど、私には何もできない。

 

あの人は、どうかしている。

まるで、この世界の存在とは思えない。

いや、もしかしたら、この世界の存在じゃないのかもしれない。

だって、やってることが異常だもの。

 

あの人は私たちを使って、何かすごく怖いことをしようとしてる。

みんな、変な物を刺されて、おかしくなった。

もしかした ら私も、刺されたかも?

 

お姉ちゃんは?みんなは?みんなは無事かしら?

いまは何してるんだろう?

会いたい。

 

だれか、助けて。 

私ももうだめ…

みんな、おわ  りなんだ。

 

うでが痛い。

 

 

いたい く る しい 。

 

 あた  ま た い うで かゆ  

さわ た うで   と れ 。 

おなか  す た、な かた べた  い。

か  だがくさ て くず れる  

わ しが、てがく ずれ て。く

 

て とけ  もう じが け  ない。

か  なし 。

 

 

 たし がく    

れ る くさ  て  、か   て、 

だ や! 

?    ば   も

   

 な たく  な!   。

 

 

 

すて

  だれ

       」

 

 

姜芽は、呆然とした。

「これは…」

 

龍神は、ため息をついた。

「哀れなもんだな」

 

「というと?」

 

「これを書いたのは、さっきの奴だ。…あいつが見たらどんな顔するだろうな」

 

「…??」

 

「申し訳ないが、俺たちがしてやれるのは、一思いに殺してやることだけなんだよな」

 

「…」

姜芽は決して殺しは好きではない。

しかし、このような状況ではやむを得ない事もある。

かつての面影を全く感じさせない醜い姿となり、理性も自我も失い、かつての家族や友達を殺す化け物になってまで、生きたいと願う者はそうそういないだろう。

 

「で、ここはもう行き止まりみたいだ。勾玉で開けた通路から行こう」

 

 

 

 

勾玉で開いた通路を進んだ先は、今までとは雰囲気がまったく違っていた。

木材を基調とした床や柱に、鶴や竜が描かれた襖や障子戸。

天井にはランタンのような照明灯があり、床には何かの紋様の入ったカーペット。

まるで、旅館のような雰囲気だった。

 

「一気に雰囲気変わったな。旅館みたいだ」

 

「ここはあくまで日本なんだけどな…。しかし、城の中にこんなの作るなんて、凛央は和風好きなのか?」

 

「そんなことあるのか?」

と、通路の奥から何か、複数の足音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

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