東方訪問記   作:白い花吹雪。

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1-4 詰問

「…」

あれから、凛は気分が晴れなかった。

「どうしたの?顔色悪いけど」

 

「…私の剣は、人的存在を殺めるためのものじゃない…」

先ほどの事を、まだ気にかけているようだ。

「まだそんな事言ってるの?あいつらは人間じゃなく化け物。殺らなきゃこっちが死ぬ」

 

「ここでは普通に暮らしている人々がいる。その人達まで巻き込むなんて、ましてや彼らを殺すなんて、私には…」

 

「はあ…」

あおいはひと息つき、質問した。

「じゃあ聞くけど、自分があいつらみたいになった時、どうしてほしい?」

 

「…?」

 

「あたしはこういう想像が苦手なんだけど…少なくとも、自分の体が壊れて化け物になっていくのを黙って見ててもらうよりは、殺された方がマシだと思うわよ?」

 

「…」

 

「こればかりは、綺麗事は通用しない。それに、うちらの力だけじゃ限界がある。どんなに頑張っても、犠牲は出るものよ。あたし達の目的は、少しでも連中の拡大を防ぎつつ、生き残ること。成功には必ず何かしらの犠牲がある。成功が大きければ、犠牲も自ずと大きくなる…」

 

「…わかった、わかったわよ」

凛は言葉にならない想いを押さえ込み、手を強く握った。

 

 

 

「…それで、行くあてはあるの?」

 

「あるわけないでしょ。そうねえ…あ、ちょっと!そこのあんた!」

あおいは通りすがりの男に声をかけた。

「は、はい?」

 

「博麗神社に行きたいんだけど…ここからみてどこにあるかわかる?」

 

「南口を出て、ずっと南西に行けばあったはずです…」

 

「そう、ありがと。凛さん、行くわよ!」

 

「え、ええ?」

 

 

 

 

 

 

「待ちなさい!」

突然、呼び止められた。

 

「え?」

二人を呼び止めたのは、金髪の若い女だった。

「あなた達…さっきまで何してた?」

 

「何って…?」

 

「大したことはしてないわ。ただ、ちょっと観光をね」

女は鋭い目付きで二人を見る。

「観光…ねぇ。さっき東の通りでちょっとした騒ぎがあったんだけど、何か知らない?」

あおいが言っていたやつだろうか。

何にせよ、凛は知らない。

「私は知らない。さっきまで街の西側にいたし…」

 

「知ってる。妖精が人間を襲った件でしょ?」

 

「そうなの?私は詳しく知らないけど、結構大きな騒ぎではあったわよね」

 

「あたしもあれに巻き込まれた一人よ?」

 

「どんな風に巻き込まれたの?」

 

「妖精…チルノが通りすがりの人間を喰い殺した上に襲ってきたのよ。喰われた男もやがて立ち上がって襲ってきた。しかも、噛まれてない奴らまで化け物になって襲ってきた」

 

「それ本当?」

 

「勿論よ」

 

「それで、襲ってきた人達はどうしたの?」

 

「殺したわよ、全部」

 

「え…?」

 

「仕方ないでしょ?そうしなきゃあたしがやられてた。それに、どうせ妖精はくたばってもいずれ…」

 

「なんで…なんでそんな簡単に誰かを殺せるの!?」

 

「殺せるわよ。私たちはそういう存在なの」

 

すると、女の目付きが険しくなった。

「なら、その気になれば罪もない街の人達も殺せる、って事よね?」

 

「そこは何とも言えないけど…取り敢えず、あなたが余計な心配をする必要はない」

 

「大有りよ!ただでさえ人間が減って、あちこちパニックになってるのに、あなた達のような怪しい奴を放ってはおけない!」

何だかまずい空気になってきた。確かにあおいは、衝動的に人を殺めることがしばしばあるが…。

凛は今まで黙って傍観していたが、口を出した。

「落ち着いて。私たちは敵じゃない」

 

「騙されないわよ!今すぐここから出ていきなさい!断るなら、無理にでも…!」

 

すると、あおいが輪の方に手を伸ばした。

「凛さんの言う通りだわ。確か、あんたはアリス…だったわね?ちょっと落ち着いて」

 

「…なんで私の名前を知ってるの!ますます怪しい!」

 

「あー、それはねえ…ま、まずはその殺意をなんとかして」

 

「あんた達がここを出ていけば済む話よ!あんた達は、少なくとも私たちの味方とは思えない。味方でないなら…」

と、ここで凛が行動に出た。

 

 

 

 

突然彼女の体が、ほのかな白い光に包まれて見えなくなった。

やがてその光が消えた時、彼女の表情からは敵意と殺意が消えていた。

「…私に何を?」

彼女を光に包んだのは凛だった。

「ごめんなさいね、まともに話せなさそうだったから、一旦精神を落ち着けさせてもらったのよ」

一度心の中の感情を静め、精神を落ち着かせることで、正しい思考と理性を取り戻させ、正常な意志疎通が出来るようにする。

これは「気休め」と呼ばれる術で、ここでは凛だけが使える。

「じゃ、改めて話しましょう。まず、私たちはあなたの敵じゃないし、この街の人達に手を出すつもりもない」

 

「…本当?」

 

「勿論よ。私達は訳あって、偶然この世界に来た。だからこの世界の存在に仇をなすつもりは一切ないわ」

 

「そういう事。さっきは…まあ状況的に仕方なかったけど、あたし達は基本、あんた達に手を出すつもりはないのよ」

 

「…その言葉、信じていいの?」

 

「信じられないかも知れないけど、信じてちょうだい。

生きてる者同士で、無駄な争いはしたくない」

凛とあおいの想いが伝わったかはわからないが、彼女はもう二人を攻撃しようとはしなかった。

「…わかった。私も無用な争いはしたくない。今は取り敢えず、貴女達を信じてみるわ」

 

「ありがとう」

 

「勘違いしないでよ!まだ完全に信用したわけじゃない。少しでも怪しい事をしたり、善良な人に手を出したら…」

 

「わかったわかった。まず、あんたは家で人形でも作ってなさい」

 

「っ…」

彼女はあおいを睨み、黙って去っていった。

 

 

 

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