様々な「オカルト」にまつわる事象を操る能力を持っているが、その性格は決して野性的ではなく、大人しい。
また、過去の異変や事件とも特に関係はなく、能力者ではあるが、この世界のありふれた住民の1人に過ぎない。
里で有名な占い師と名前が似ているが関係は不明。
現在どこで何をしているのかは、誰も知らない。
来た道を戻ろうかとも思ったが、ご丁寧にも出口までまっすぐ伸びた横路があったのでそっちにした。
「なんて都合のいい…」
さらにこの横路は東へ向かって伸びている。
つまり、ここを道なりに進んで出た後も直進すれば街へ行けるかもしれない。
「やっと出れた!」
結構長い道だったが、何事もなく森を抜けられた。
そして同時に、森の出口の前に一つだけポツンと存在する家が気になった。
「誰かいるかも。訪ねてみましょう」
玄関へまわり、ドアを叩いたが反応がない。
「留守かしら」
「こうなったら…」
あおいは一人で裏へ歩いていき、
「ちょ!何するつもり!?」
窓から侵入しようとする。
「流石に怒られるわよ!やめなさい!」
「大丈夫よ。だってここの住人は、アリスだもの」
「…え?」
「たぶん、ここはアリスの家よ。あいつなら、話せばわかってくれるでしょう。ほら、入るわよ」
アリスか。彼女は何か情報を知っているかもしれない。
あおいに連れられ、凛はしぶしぶ窓から家に入った。
「お邪魔するわね…」
靴を脱ぎ、中に入る。
そこは様々な薬品や本、実験器具が置かれた部屋だった。
「まるで実験施設ね」
「あいつは魔法使いだからね…ここで魔法の研究をしてたんでしょ」
個人でここまで本格的にやるなんて、余程熱があるのね。
多様な薬品の入った容器の数々を見ながら、凛はそう思った。
廊下は玄関から真っ直ぐに伸びていて、一定の間隔を開けて廊下からみて右側に部屋があるようだ。
「彼女はいるのかしら?」
「わかんない…ドア叩いても返答なかったし、留守のような気がするけどね」
とりあえず、部屋を一つずつ見ていく。
最初の部屋を出てすぐ隣の部屋はドアが開かず、入れなかった。
次の部屋はリビング。ここにもアリスはいなかった。
次の部屋はドアに鍵がかけられており、これまた入れなかった。
もう残っている部屋は一つしかない。
「ここにもいないなら、諦めましょう」
最後の部屋のドアは初めから開いていた。
中を覗くと…
「あ、いたいた」
後ろを向き、うつむいて何か作っているアリスの姿が。
「お取り込み中、失礼するわよー」
あおいが声をかけると、アリスは振り向く事なく、
「あら、また来たのね」
と言った。
「また…ってあんたの家にくるの初めてなんだけど。
で、ちょっと聞きたい事があるんだけど、いい?」
それにはアリスは答えなかった。
「さすがに図々しいと思われたんじゃない?
…ごめんなさい、玄関のドアを叩いたんだけど反応がなかったから窓から入らせてもらったの。
最近、森で変な怪物が出没してるって噂があるそうだけど、あなた、何か知ってる事ない?」
「あら、また来たのね」
どうも、話が噛み合わない。
「え?私は、あなたが何か知ってる事はない?って聞いたんだけど…」
「どうして…こんな事に…」
アリスはまるで凛の話を聞いていないのか、答えになっていない発言を繰り返す。
「ねえ、さっきからあんたさぁ…」
あおいがアリスに近づく。
と、アリスの手から何かが落ちた。
それは人の手だった。
「!?」
凛は一瞬人形の手かとも思ったが、あおいの反応を見る限りそうではなさそうだ。
ギギギ…という不気味な音をたて、アリスの首が180°回転する。
その顔は目が異様に飛び出ており、不気味な笑みを浮かべていた。
「アリス…!?」
それは首が後ろを向いたまま立ち上がり、操り人形のような動きで近寄ってきた。
「…感染したのね!」
あおいがそう叫んで武器を出そうとしたその時、先ほどまでアリスが作っていたモノの正体がわかった。
「…!?」
血のついた服と帽子。ツギハギされた跡のある異様に長い腕。
変質した髪で一部隠れた顔。大きく抉れた胸と腹。
複数のトゲのような物が生えた左腕。
全体が鋭利な刃物のようになった右腕。
そして何より、全体的に蓮子に似たフォルム。
これが、アリスが作っていたモノ…
「菫子…!」
目の前のこれは、菫子に間違いないとあおいにはわかった。
「これが…人…!?」
「そっか、あんたが森の事件の犯人だったのね!」
よく見ると、アリスが両手から糸のようなものを伸ばし、それを菫子につけて操っている。
「ついに人を人形にしようと試みた訳ね」
「私の…家族…」
アリスは不気味な言葉を発しながら宙に浮く。
そして菫子を操り、こちらに向かわせる。
菫子はふらふらしながら走ってきて、凛に掴みかかろうとする。
凛はこれをかわし、蹴りでカウンターを繰り出した。
そして間髪入れず、倒れた菫子の額を剣で刺した。
しかし菫子は死んでおらず、凛を抱きしめるように掴んで胸元に噛みついた。
「んっ…!」
噛みついた、といっても貪り食っている訳ではなく、牙を突き立てて血を吸っているようだった。
「ぐ……うっ…!」
ぐちゃっという音と共に押さえる力が弱くなり、抜け出す事ができた。
あおいが、菫子の額から上を叩き潰したのだ。
さすがに菫子は動かなくなった。
と思ったら、凛が抜け出して間もなく再び動きだして襲ってきた。
(まだ生きてるの!?)
さらにそれと同時に、街にいたのと同じ化け物が部屋に入ってきた。
「…っ、最悪!」
すぐに倒そうとしたが、あおいに止められた。
「あいつらはあたしがやる、それより菫子についてる糸を切って!」
「糸…!?」
「あいつは操られてるから、糸を切らないと!」
あおいはアリスだった化け物を指差した。
よく見ればその手指から白い糸のようなものが伸びていて、菫子の体の各部にとりつけられている。
あれで菫子を操っているのか。
「わかった!」
とは言え、いきなり切ろうとしてもガードされるのは目に見えている。
そこで凛は、
「 [ソールサーバント]」
幽体と肉体を切り離し、肉体を菫子の方に向かわせて囮にし、幽体でアリスの方へ向かう。
作戦は見事に成功、菫子…もといアリスが肉体に気を取られている間に、幽体の方で二人を繋ぐ糸を全て切った。
(やった!)
アリスは若干怯み、菫子は倒れて動かなくなった。
そして凛はすぐに幽体を肉体に戻す。
「やったみたいね!」
あおいが、無数の化け物の死体を背に言った。
アリスは降りてきた。そして、
「私…なんか…あれ…」
不気味な笑みを浮かべて意味を成さない譫言を発しながら、凛目掛けて新たな糸を投げるように振ってきた。