東方訪問記   作:白い花吹雪。

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3-4 灰色インフェクテッド

二人は町の東口を出、南東へ向かった。

しかし、その途中で…

 

 

「お、また会ったな。何してんだ?」

 

声をかけてきたのは、例の人間の魔女だった。

「ちょっと、色々と情報集めにね」

 

「そうか。…なら、まあ…情報、って言えるかわかんないけど、私も知ってることがあるぜ」

 

「何?」

 

「里の東の外れに、いつの頃からか古びた小屋があるんだけどな…そこに、何かとんでもないものがある…って話だ」

 

「とんでもないもの…?」

 

「詳しいことはわからない。でも、そこはいつ行っても扉に鍵がかかってて、開けられないんだ。で、その鍵は里の誰かが持ってるらしいんだが…それが誰なのか、そして何のために鍵をかけてるのかまったく謎なんだ」

 

「ただ単に、近くの家の倉庫とかじゃなくて?」

 

「いや、その近くに家はない。それに、行ってみればわかるが倉庫にしては小さすぎる。何より、その中からは明らかに異様な力が漂ってくるんだ…魔力とも、霊力ともつかない力がな」

 

霊力と聞いて、凛は反応した。

「霊力…?もしかして、死者と何か関係があるのかも…!」

 

「その可能性もある…ていうか、実際そんな感じの噂が立ってる」

 

「というと?」

 

「噂じゃ、あの倉庫の中には冥界…死者の世界と繋がるものが置かれてるんじゃないか…って言われてるんだ。まあ、所詮噂だと思いたいが…あの雰囲気じゃ、そうも思っちまうよな」

凛は、あおいの顔を見た。

彼女もまた、行くつもりのようだ。

 

「で、またお前らは行くつもり…と」

 

「わかってんじゃない。で、あんたは何してんの?」

 

「いや、何してる、って言われてもな…」

 

「散歩でもしてるの?」

 

「そういう訳でもない。

ただ…何だろう、なんとなくここに来たくなったんだ。

いや、来たくなったというよりは…誰かに行け、って言われてるような気がしてな」

 

「誰か、って誰よ?お師匠様?」

 

「お師匠様…って、そんな奴いないぞ?私は独学でここまでやってきたんだからな」

そのセリフを聞いて、またもやあおいの眼光が鋭くなる。

「あーそう…じゃ、お友達の名前は覚えてる?」

 

「霊夢のことか?」

 

「…そこは大丈夫そうね」

二人が去ろうとしたその時、

「あ、そうだ」

 

「なに?まだ何かあるの?」

 

「霊夢が、今どこにいるか知ってるか?」

 

「知ってるか、って…」

凛は返答に困った。

「知ってるわよ?」

あおいは淡白に答えた。

「どこにいる?」

 

「んっ」

あおいは北通りの方を指差す。

「ちょっ、あおいさん!」

 

「何よ、本当のことでしょ?」

 

「いや、そうじゃなくて…」

 

「なんだ?北の通りにいるのか?」

 

「そう、なんだけど…」

 

「会いにはいかない方がいいと思うわよ」

 

「なんでだ?」

あおいは鋭い眼差しを魔女に向ける。

「だってあいつは今…無残な骸になってるもの」

 

「あおいさん!」

凛がなんてことを、と言わんばかりに声を張り上げる。

「えっ…?ど、どういう事だ…?」

同時に、魔女は目を見開き、凍りついた。

「聞いて。このところ、あちこちに変な化け物が出てるでしょ?あいつらは、ある種のウイルスってものに感染した奴らなの。そして霊夢もまた、それに感染した」

 

「…なんだ、病気か!それなら、助かるんじゃないか!?」

 

「それは無理ね。なんせあれは恐らく、自然に発生したものじゃなく…誰かが人工的に作り出した、特別なウイルスだから」

 

ここからは、凛も説明に加わった。

「ただの病気とは訳が違う。

感染すればいずれ自我を失い、体が変異する。そして異形の化け物になって他人を襲うようになる。その成れの果てが、町の人達よ。

彼女も同じ…いや、もっと酷い末路を辿ったわ」

 

「なんだと…?」

 

「あいつは、うちらの目の前で変異した。

頭が真っ二つに割れて理性を失い、私達を襲ってきた」

 

「それで、お前らは…霊夢を、どうしたんだ…?」

 

「それは敢えて言わない。けど、これは覚えといて。ああいうものに感染して変異したやつは、大抵どうやっても助からない。だから、殺してやるのが最善策であり、一番の思いやりなのよ…残念だけどね」

 

「つまりお前らは、霊夢を殺した…と…」

魔女は無表情のまま、震えだした。

「待って!」

凛が弁明に入る。

「勘違いしないで!私達は、好きで彼女を殺したわけじゃない!

あおいさんが今言ってた通りで…仕方なかったのよ!」

だが、魔女はもうそんなのを聞いてはいなかった。

 

「あ…あああぁぁぁぁぁ!!!」

頭を抱え、しゃがみこんで嗚咽し始めた。

「…」

そんな彼女を、二人は黙って見下ろした。

凛には彼女の気持ちが痛いほどわかった。

しかし泣いてもどうしようもない。

凛もしゃがみ、咽び泣くその肩に手を置いて、

「顔を上げなさい。気持ちはわかるけど…いくら泣いても何も戻ってこないのよ」

と声をかけたが、それでも魔女は嗚咽し続ける。

「あ…あぁぁぁ…」

それを見て、凛は思った。

彼女が気持ちの整理がつくまで、ここにいてやろう。

 

「…凛さん、そろそろ行きましょ」

あおいが冷淡な言葉をかける。

「あおいさん、あなたね…」

 

「誰だって最初はこうよ。それにこいつは、今までに身近な人を失う経験がなかったはず。それなりの年してんだし、この際大人に近づいてもいいでしょ」

相変わらず、あおいは冷たい発言しかしない。

理不尽な苦しみを味わい続けた結果、人の心を失って冷酷無慈悲な人格を得た殺人鬼だからこその性格か。

「はあ…相変わらず冷酷ね」

 

「それに、このままここにいてもどうしようもない。

さっさと、今こいつが言ってたとこに向かうわよ」

 

「でも…」

凛は魔女を見る。

魔女は今なお、ただただ泣き続けている…

訳ではなかった。

 

先ほどまで魔女は顔を押さえて咽び泣いていたのだが、今はもう泣いてはいなかった。

かわりに…

「う…」

 

「?」

 

「うぅぅぅぅぅぅ!!!!」

顔の右側と右腕を押さえ、喚き出した。

「…どうしたの!?」

顔を覗き込むが、手で隠れて見えない。

「…顔上げなさい!」

あおいが若干強引に右手をはがす。

 

 

その顔は、右半分が灰色に変色し、変異していた。

さらに、右腕も肩から肘までの部分が同様に変異し始めている。

「!!」

二人はすぐに魔女から離れた。

「う…ううぅ…」

魔女はゆっくりと立ち上がる。

そして…

「ヴヴぅぅぅぁぁああああ!!!!」

絶叫を上げ、右腕から血が飛び散り、変異するー

 

 

 

先端に鋭利な骨がついた鯨のヒレのような形をした、白い電気を帯びた器官。

さらに右腕が変異したそれより少し小さい同様のものが、脇腹から生えていた。

「魔理沙…!!」

魔女だったそれは顔を上げ、二人を捉えるとうめき声をあげ、右腕と触手を突き出して電撃を放ってきた。

「っ!」

あおいは側転で、凛は横に飛び込んで電撃を回避した。

 

改めて化け物を見ると、奴は右腕と触手を少し後ろにやり、次の電撃を放つためチャージしている。

今のうちだ。

凛はそう思い、剣を抜いて飛びかかる。

 

「危ない!」

あおいが声を張り上げた。

その判断は正しく、あと少しで剣が届く…という所で、放たれた電撃をもろに食らった。

吹き飛ばされてもなお、凛は体が痺れたのか動かない。

それを見たあおいは、空中に無数の小さな鉄球を生成してそれを銃のように乱射した。

鉄球は化け物の目や肩に命中したが、若干動きが鈍る程度の影響しかなかった。

そうしているうちに、再び電撃を放とうとする動きを見せたので、顔に飛び蹴りを放って体を後ろに倒して電撃を阻止しつつ、馬乗りになって顔を何度も殴った。

 

あおいは、ノワールでも屈指の力持ちだ。

そのため、単に殴るだけでも十分な威力となる。

 

しばらく夢中で殴り続けていたその時、左の脇腹を刺されると同時に電流を流され、感電して痺れているうちに殴り飛ばされた。

飛ばされた後も、体が動かない。

それを見逃さず、化け物はあおいに狙いを定める。

しかしここで、凛の痺れがやっと消えた。

凛は立ち上がり、

「[剣霊武斬]!」

化け物の死角から斬撃を飛ばし、触手を切り落とした。

化け物は悲鳴を上げ、今度は凛を狙ってくる。

 

見た感じ、どうも電撃の溜めが速くなっているような気がする。使うのが右腕だけな分、溜めが速くなっているのだろうか。

何にせよ、放たれる前に決めてしまおう。

「あおいさん!」

電撃が放たれる直前、あおいに合図する。

あおいは素早く鎖を化け物の右腕に巻き付け、振り上げる。

そして凛は素早くその下に移動し、降りてくるタイミングを見計らって…

「[上り弦月]!」

剣を半月状に振り上げ、化け物の体の股から頭にかけてを垂直に切り裂く。

さらに、そのまま落ちてきた体にあおいが拳をめり込ませ、一度受け止めつつ体を完全に裂けさせる、という体術を食らわせた。

「[ドロップジャック]!」

 

 

「ふう…」

 

「もう動かないでしょうね…?」

 

「どうだか…まあ大丈夫だとは思うけどね」

 

「そう…ならいいんだけど。…あなたまで…どうして…」

 

「こいつもあなたも悪くない。悔しいなら、その気持ちは元凶にぶつけるために溜めておきなさい」

 

「…」

凛は、拳を強く握った。

 

「寄り道はこれくらいにしましょう。龍神たち…の前に、死に損ないどもの顔を見にいくことになりそうね」

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