東方訪問記   作:白い花吹雪。

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未だ謎の多い少女の姿をした霊。
長い月日をこの姿で過ごしてきたためか、年季の入った口調で話す。
自身の霊力を円盤状に固めたものを飛ばして戦い、その威力は侮れない。
かつてとある僧侶に命を奪われた人間の成れの果てとも言われているが、この世に強い未練があるため簡単には成仏しない。



突如姿を現した、謎の霊。
現在のところ、これと言った能力や活躍は確認されておらず危険性はないと思われるが、自身の能力を人前に見せていないだけの可能性もある。
布都と共にいる所を多く目撃されているが、関係について詳しいことはわかっていない。




3-5 御霊よ眠れ

突如として、寂れた廃村のような集落が目の前に現れた。

「ここは…?」

隆起した地面の上に崩れた家があったり、倒壊した家や歪んだ家があったりと、まるで大地震の後のようだった。

「人里…随分変わっちゃったわね」

あおいが、どこか哀愁を漂わせながら言い捨てた。

 

「これが、元の人間たちの集落…」

 

「確かに、これじゃ住めないでしょうね。…とりあえず、掃除だけしていきましょう」

あおいよ言葉通り、あちこちに化け物がいた。

それらは服はボロボロで、顔や腕は血にまみれていた。また肌の腐敗も町にいたものよりひどく、もはやゾンビと大差ない。

さらには…

「おかしいわね、なんでここにいるのよ?」

おそらく元は妖怪と思われる化け物が、斧を振り上げて襲いかかってきた。

あおいはそれをたやすく切り返し、後頭部を地面に叩きつけて倒した。

「一撃で…」

 

「これくらい、なんてことない」

さらに進むと、縄が道をふさぐようにクモの巣のように張られた所に出た。

「なにこれ?」

 

「面倒だし、切ってしまいましょう」

凛が剣を一振りする。

 

切れた縄をよけて先へ進む。

「…!?」

何か、右側の建物の陰に消えていったものがあった。

「何かしら…とりあえず、追いましょう!」

 

道中に現れる化け物を剣やフレイル、体術で倒しつつ進んでいく。

しかし、どこまでいっても先ほどの影の主は見つからなかった。

 

 

途中で、簡単な鍵がかけられた家を見つけた。

「蹴破れるかも。試してみましょう」

あおいがドアを蹴ると、たやすく破れた。

そして中へ入る。

 

凛もあおいも、言葉にはしないが気配を感じている。

ただし化け物のものではなく、ノワールの者の気配を。

 

(ここから感じるわね)

凛は恐る恐る、部屋の隅の物置の襖を開けた。

「ひっ!?」

 

「きゃっ!」

物置の中には、ひどく怯える一人の男がいた。

「あら、康助(こうすけ)じゃない」

それは、龍神の5つ下の弟である康助だった。

「…あ、なんだあんたらか…」

 

「びっくりさせないでよ…それで、あなたはなんでこんな所にいるの?」

 

「え?あ、ああ、それはな…おれ、実は今変なやつらに追われててな、それでここに隠れてたんだよ…」

 

「変なやつら?」

 

「ああ。いきなりこの世界に来て、適当に歩いてたら、奴らにばったり出くわして…そしたら、いきなり襲ってきたんだ。しかも、こっちの攻撃は何一つ通じない。まるで、幽霊みたいな…」

 

「幽霊…?」

凛の目付きが鋭くなる。

「それ、どんな格好の奴らだった?」

 

「なんか神主?みたいな格好だったよ…てか…あ!」

康助は突然声を上げ、

「来やがった!な、頼むからあいつらを追っ払ってくれ…!もしおれのことを聞かれたら、おれはここにはいない、って言ってくれよ!」

と、物置の襖を閉めてしまった。

 

「ずいぶん怯えてたわね…てか、康助の攻撃が効かないって…一体何者なのかしら?」

 

「確かめる方法はただ一つね。実際に向こうの顔を見てみましょう」

 

 

 

 

二人が家の外に出ると、すぐ近くから何かの気配がした。

その方へ向かうと…確かに神主のようにも見える格好をした女と、緑の髪と袴の女が立っていた。 

その瞬間凛が感じたのは、強い霊力。

そして…物質としての存在をほぼ認められない肉体。

(この感じ…こいつら、霊体の類いね)

霊騎士として、凛は感じ取った。

 

「む?見かけない顔だな。新しいよそ者か?」

 

「まあそんな所ね。てか、あんた達はここで何してるの?」

向こうはあおいの質問には答えず、

「単刀直入に言おう。この近くに、外来人の男がおるはずだ。そいつを我らに引き渡してもらいたい」

と言ってきた。

「そんなの知らないわね。てか、この世界に男なんているの?」

凛は惚けた。

「知ってたとして、あんた達には教えない。…と言ったら?」

あおいは挑発した。

「聞き出すまでよ。…どんな責め苦を与えてでもな」

 

「そう。なら悪いけどね、あたし達はどんな拷問をされようと「それ」を言うつもりはないわよ」

 

(私がごまかした意味…)

惚けた意味がないじゃない、と思ったが、まあ仕方ないだろう。

それに、今回の相手は恐らく霊。凛にも十分に勝算がある。

「ほう。自ら辛い道を選ぶとは、風変わりな女よのう」

 

「あらそう?あんた達こそ、()()()()に喧嘩売りに行ったり、()()()に説教食らったりしてた方が余程幸せだったと思うけど?」

すると、緑の袴の女が恐ろしい顔をした。

「…貴様、あの方を侮辱したな?それに、なぜ我らの事を知っておる?」

 

「知りたいなら教えてやろっか?」

ここであおいは武器を取り出した。

「ま、あたし達に勝てたら、だけどね」

凛もならって剣を抜く。

「…良かろう」

 

「なるほどねぇ…」

向こうの二人も身構えた。

 

 

「望み通り、地獄に送ってやる」

 

「貴様らの望み、叶えてやろう。我らが、その首を貰ってやる」

 

 

 

聞くが早いか、凛は剣を高く掲げる。

「霊法 [ジャスティス·オリフラム]」

剣の先端が太陽の如く光り輝き、凛とあおいの力と魔力を大きく引き上げる。

そして素早く「[パニッシャーラッシュ]」という技を繰り出し、高速で縦横無尽に飛び回りながら相手を切りつける。

さらにそのまま、

「[剣廻]!」

緑の袴の女のまわりを回転しながら切りつける。

連続攻撃が効いたのか、緑の袴の女は怯んだ。

 

今回の敵は亡霊。

性質はノワールの亡霊とは違うだろうが、まずはある程度攻撃して動きを止めなければならない、というのは変わりないだろう。

それにはやはり、素早く連続攻撃を叩き込むのが一番だ。

 

「鞭技 [鉄流星]」

あおいは、もう1人に大量の鉄球を降らせて攻撃する。

しかしこちらは数発当たった程度で、避けられた。

 

「…ほう、やりおるな…だが、貴様らに我らを倒せるものか!」

相手の周りに、複数の円盤が浮かび上がる。

そして…

「[血肉刻み]」

それらが一斉に飛んでくる。

あおいは空中に鋼の板を作り出してこれを防ぐ。

間髪入れず、相手に飛びかかる。

「[エクスタースラム]!」

 

 

 

白髪の女はうめき声を上げ、倒れて動きを止めた。

その刹那、あおいは背後から波動を食らい吹き飛ばされた。

「光法 [怒霊の白光]」

 

「っ…!」

攻撃者―先ほど凛が怯ませた方は、あおいを睨み付けたまま、音波系の技で追撃してきた。

「[テラードレイク]」

 

素早く横に飛び込んで回避する。

 

(なんでノワールにあるような技ばっかなの?)

あおいは疑問を感じた。

「あれ、あんた達、お得意の技は使わないの?」

 

「あれらはあくまでこの世界の者に通じる技。異界の者であるお前達には、私達も異界の技で対抗する。 [ブラッドクロウ]!」

緑袴の女は赤い鳥のようなものを作り出し、くちばしを向けて飛ばしてきた。

 

「[ラドルの壁]」

凛は術攻撃だけを弾く壁を作り出し、攻撃を防ぐ。

 

 

一方凛はというと…

「[ヴァイパーショット]」

あおいのほうに気を取られている隙に、蛇のような黒い闇を食らった。

しかしこの程度なんでもない。

「剣技 [八百万の剣]」

複数の刃を打ち出して躍らせ、相手を切り刻む。

 

「奥義 [悪しき心を(マレヴォレント)討つ剣(·レパルス)]!」

剣を振りかぶって大きく後退し、全精力を込めて払い抜ける。

緑の神主袴を着た女の体から、おびただしい血と霊気が吹き出す。

 

…その血を浴びた途端、体が焼けるような痛みが走った。

「うっ…!」

血を浴びて体が焼けるとは…

これはまさか。

緑の女はにんまりと笑った。

「そうよ、[曰く付きの血液(リプライブラッド)]。お前たちの世界の術だ、知っているだろう?」

ノワールの闇術の1つで、自身が傷を負った際に飛び散った血を浴びたものにダメージを与え、さらに自身は回復するという術。

その効果はこの女にも通るようで、凛が今しがた切り裂いた所の傷が瞬時に修復していく。

「っ…なんで、闇と光を一緒に…!」

 

「与えられた力だから。ただそれだけよ。さて…

光法 [悪なる者に裁きを(リトリビューション)]」

光の術で、波動を飛ばしてきた。

「[白く輝く霧]!」

光と闇の攻撃を打ち消す技で応戦する。

 

しばし光の技と術で押し問答を続けた挙げ句…

霧が、術を完全に打ち消した。

どうやら、技に軍配が上がったようだ。

「私の弾幕…いや、術が破られるとは」

その直後、まだ消えきらぬ霧の中から、

「[ロイヤルクレッセント]!」

巨大な斬撃と共に、凛が飛びかかってきた。

「…!」

 

 

 

 

霧に隠れての奇襲は成功した。

最初に斬撃を飛ばし、ワンテンポ遅れて斬ったことで、血も浴びなかった。

 

「今のうちに浄化しましょう」

凛は、瀕死の傷を負った緑の袴の女に近づき、女の魂を抜き出す。

…霊騎士は、相手の魂だけをじかに取り出すことができるのだ。

(あら?)

浄化しようと魂を見て、驚いた。

この女の魂は白いのだが、紫色のドロドロしたものがまとわりついている。

これはおそらく「魂縛」と呼ばれるノワールの術の一つで、いわば亡霊やさまよう魂を無理やり術者の操り人形にするもの。

まさかと思い覗いてみれば、もう一人の…あおいが今戦っている方の女の魂も同様だった。

つまり、この2人は誰かに操られているということか?

そう言えば、さっきこの女は闇と光の術を使えることについて「与えられた力」と言っていた。

 

何にせよ、放ってはおけない。

「霊法 [ニルヴァ·カルマ]」

女が起き上がる前に、剣をその胸に突き立てると共に魂を浄化し、体と魂をきれいさっぱり消し去った。

そして…

「[エリクサーの滴]」

素早く回復しておく。

 

「…っ!!」

右の方から衝撃波を食らい、あおいもろとも吹き飛ばされた。

「貴様…よくもやってくれたな!」

残った白袴の女が、怒りの声を上げた。

そして、耳がおかしくなりそうな程高い波長の音波を放ってきた。

おそらくは、[パワーノイズ]か。すぐに耳を塞いだが、それでも頭に響いてくる。

「うっ…!こ、この…音…!」

あおいもまた、耳を塞いで音に苦しんでいた。

 

攻撃したいのは山々だが、手を離せば鼓膜が破れかねない。

「あ…[アーク・ジュエル]!」

相手の頭上に巨大な白い宝石を召還し、叩き落とす。

これ自体は袴の女に当たらなかったが、地面にぶつかり割れた宝石の破片の一部が見事女に命中した。

「ぐっ…!」

にわかに血が飛び散り、女の放つ音が弱まった。

(今だ!)

すぐにあおいと凛、二人同時に飛びかかる。

「…しまった!」

 

「奥義 [クライブガスト]!」

 

「奥義 [ダークネスタイフーン]!」

光と闇。相反する属性を持った二人の同時攻撃で、白袴の女に畳み掛けた。

 

 

しかし、まだ倒れてはいなかった。

 

「っ…かくなる上は…!」

女は、頭上に巨大なエネルギーの球を作り出した。

「あれは、まさか…!」

 

「これぞ…最終手段…貴様らも…これで終わりだ!!」

最期に技で自爆するつもりらしい。

「そんな簡単に巻き込まれるわけないわ…[ハボックショット]!」

あおいが球に連続攻撃を叩き込むが、まるで効果がない。

「ふふ、何をしようと無駄な事よ…

潔く、我と共に死ぬがいいわ!!」

 

 

(このままじゃまずい…でも、どうすれば…?)

逃げるという選択肢はない。

ならば女を怯ませて技を止める?

いや、そんな事をすればすぐに技を放ってくるだろう。

どうする…どうする…!?

 

 

 

 

(…そうだ!)

ここで、凛は閃いた。

あおいの方を見ると、彼女もいいことを思い付いた、という顔をしていた。

「あおいさん」

 

「同じ事、考えてると思う」

 

「なら話は早いわ、行きましょう!」

 

「ええ!」…ここに、「技の記憶」があってよかった。

二人は同時に叫ぶ。

「「地相術 [夢想日蝕]!」」

空が暗くなり、闇と光の球が大量に降り注ぐ。

しかし、これだけでは女の作り出した球は消えなかった。

だがそれは想定内。二人はすぐに次の術を撃つ。

「地相術 [エンペラースパーク]」

凛は光の属性を宿す電撃を放ち、

「地相術 [パーフェクトナイトメア]」

あおいは闇の属性を持つ氷を打ち出す。

さらにそのまま…

「「合術 [ホワイト·エクリプス]!!」」

再び光と闇の属性を宿す(ただしこちらは二人の力をあわせて放つ)術を放つ。

 

見事、巨大化していたエネルギー球を破壊できた。

そしてその破片は、見事なまでに袴の女に命中しまくり…

女は力尽き、倒れたのだった。

 

 

「あとは消すだけね。凛さん、やっちゃって」

 

「ええ。霊法 [ニルヴァ·カルマ]」

横たわる袴の女の体が蒸発し、消えてゆく。

 

 

 

「結局、彼女らは何だったのかしら」

 

「何、大した奴らじゃないわ。ただの、神霊よ」

 

「神霊…?よくわからないけど、すごそうね…」

 

「肩書きは、ね。でも、実際はそんな大した奴らじゃないわよ。まず、康助くんに教えてやりましょう。もう危険はない、ってね」

 

 

家の中に戻って物置を開けてみたが、もう彼はいなかった。

「あら、いつの間に…」

 

「まあいいわ。あたし達ができることはやったんだし。

それに、これ以上道草食うわけにはいかないでしょ?」

 

「そうね、すぐに次の目的地へ行きましょう」

 

 




『霊』
すべての生物に存在する「魂」と関係の深い存在。
この世界には、元となる生物の生死に関係なく魂そのものが独立した「幽霊」、命を失ったものが魂となった「亡霊」、強い恨みや憎しみを残して亡くなったものが亡霊となった「怨霊」が存在する。
また「神霊」と呼ばれるものも存在するが、こちらの性質はよくわかっていない。
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