東方訪問記   作:白い花吹雪。

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友人も家族も上官も持たない孤独な死神。
自身の存在意義や目的、能力を忘れ、ただひたすら冥界から現世へ脱走しようとする亡者を食い止めるためだけに生き続けている。
かつてはある偉大な存在に仕えていた。


4-5 狂える死神

「そんじゃ、現世に戻ろっか。…でも、どの方向に向かえばいいのかしら?」

この世界は平坦で、ほとんど変わらない景色が続くため、もはやあおいにも道がわからなくなっていた。

 

「それなら大丈夫。こっちに来てから、少しずつ勝手がわかってきたから」

 

「え!てことは…」

 

「現霊往来はできない。けど、現世に通じているところまで行くことはできる」

 

「おお!それだけでもいいじゃん。そんじゃ、早速やってくれる?」

 

凛が手を振ると、空中に青色の人魂が現れた。

そしてそれはみるみる形を変えていき、先端が細長い棒状になったかと思いきやコンパスの針のように回り始め、やがて北東を指した。

「あっちね。あっちに行けば、現世に戻れる場所があるはず」

 

「じゃ、ひたすらあっちに向かえばいいのね」

 

 

 

 

そうして、北東の方角に向かい続けてしばらくすると、現世につながる出口であろう光…ではなく、1本の小川が現れた。

「これは…」

 

「三途の川、ね」

あおいが確信を持ったように言った。

「まあ、ようはラドーア川みたいなもんよ」

ラドーア川とはノワールに存在する、死者の世である「冥界」と現世の間にあり、それらを隔てている川…ではなく空間の名。淡い青色の光が1本の川のように流れていることからラドーア川と呼ばれている。

 

「てことは、これを越えた先は…」

 

「すぐ現世に行けるわけじゃないけどね。でもあれが見えてきたってことは、もう少し。あの川を飛び越えて、ちょっと進めば現世に戻れるはず!」

2人は駆け出した。

 

川のほとりで立ち止まり、川を覗き込む。

幅自体はそこまででもないが、かなりの深さがあるようだ。

「結構深そうね」

 

「そりゃ、この世とあの世を隔てる境目だからね。この川は、向こう側から渡ってくるのは誰でもできるけど、こっち側から渡るのは生者にしかできないって聞くわ。ま、うちらには関係ない話だけどね」

 

「そうね。私達は生きてるし」

最も、正確に言うと凛も「生きて」はいないのだが。

 

「で、この川…飛び越えればいいのよね?」

 

「ええ。このくらいなら、軽く飛べるでしょ。というか三途の川に橋はないし、落ちれば蛇の群れに襲われるって話だから、どっち道飛び越えるしかない」

川の幅はざっと2メートルほど。異人である凛たちなら、助走なしでも十分飛べる距離だ。

凛が飛ぼうとした、その時…

 

「!」

横から斬撃が飛んできた。

 

「な…何!?」

斬撃が飛んできた方向を見ると、赤い髪に赤い目をした1人の女が立っていた。

「いけないねえ…あっちに戻ろうとしちゃ」

立派な大鎌を手にしたそいつは、呆れたように言ってきた。

「あんたは…小町、だっけ?なんでここにいんのよ?」

 

「ありゃ、お前さんあたしを知ってるのかい?…不思議な奴がいたもんだ。普通、あたしの名前を知ってる奴なんかいないのに」

 

「そりゃ、調べはついてるからね」

小町と呼ばれた女は、あおいを一瞬だけ睨みつけた。

「…そうかい。だがいずれにせよ、こっちから向こうに渡るのは基本的にダメだ。死人が勝手に現世に行くなんて、許されることじゃない」

 

「私達は死んでない」

すると、女は目を見開いた。

「なに、死んでない…?そんじゃ、生きたまま冥界に来たってことか…?今時、そんなことができる奴がいたなんてねえ」

 

「死人が現世に行くのは許されないのかもしれない。でも今言った通り、私達は生きてる。だから、この川を渡っても問題はないはずよ」

 

「ふん、この世界のルールを知ってから大口を叩くんだね。この世界では、一度冥界に来た者は、閻魔様の命令以外では決して現世に戻れないんだ」

 

「へえ…」

凛は、さりげなく女の魂を覗いた。

命を持つものではなく、亡霊の類でもなく、「本質」を待たない、見た目だけの魂。

そのことから、凛はこの女の正体を察した。

 

「その閻魔様ってのは、何者なの?」

 

「閻魔様は、死者の世の王だ。全ての死した者の魂を見定め、裁き、導く権限を持っている。この世界では、全ての魂は閻魔様のもので、閻魔様の元に帰すものだ」

 

「それで、あなたはその閻魔様の下僕か何かなの?」

 

「そんなことは忘れちまった。けど、少なくともあたしは、ここでこの川のガイドをやってる。向こうから来る者は迎えて、逆に向こうに渡ろうとする者は引き止める。それが、今のあたしの生きがいであり役目だ。正当に閻魔様の判決を受けて蘇るものは、この川は渡らないからな」

 

「ふーん…」

正直、どのような返答が返ってきたとしても、自分のすることは変わりない。凛は、そう思っていた。

何故ならば、こいつが「死神」であるから。

そして、それは凛達霊騎士の宿敵だからだ。

 

「とにかく、こっち側からこの川を渡ることは許さない。…生きてるんなら、ある意味好都合だ。あんた達の魂を抜き取って、閻魔様に持っていってやろう」

 

「あら、言ってくれるじゃない?」

あおいはムチを取り出した。

「まあ、死神とやり合うってのも悪くないわよね」

 

「この世界の死神ってのがどんなものかは、よくわからないけど…少なくとも、ろくな存在じゃないことはわかった気がするわ!」

凛もまた、剣を抜いた。

 

「へっ、やっぱりその腰の武器は飾りじゃなかったみたいだね。見かけない形だが…どんな性質を持ってるのかねえ?」

向こうは鎌を突き立て、怪しげに笑った。

 

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