東方訪問記   作:白い花吹雪。

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5-2 万能の従者

館内は、壁や床にやたらと赤色が使われている以外に、これといったところはなかった。

一階、二階共に割と広いが誰もいない。ただし、あちこちに血の跡や死体が転がっていたので、「何か」がこの館を荒らしていったのはほぼ間違いなさそうだった。

 

凛は、そんな死体のうちの1つをしゃがみこんでまじまじと見つめた。

「この死体…なんか、おかしいわね」

 

「え?何が?」

 

「ぱっと見人間の死体のように見えるけど、魂の力の残留がない。自然の魂なら、死んでも肉体にわずかに力が残るものなのに。もちろんノワールとは違うのかもしれないけど…それにしても、生まれながらに魂が入ってた肉体とは思えない。まるで、作り物の肉体のような…」

 

「…」

 

あおいは、手をパチンと叩いた。

「正解よ、凛さん。やっぱり霊騎士ね」

 

「え?」

 

「こいつらはね、『妖精メイド』。名前に反して、妖精じゃないわ。吸血鬼の牙にかかった人間が、魂を作り物の肉体に閉じ込められた姿…生きた死人なの」

 

「作り物の肉体に…?」

その時点で、もう自然の理に反することだ。

霊騎士の考えに従えば、命を持った肉体をいたずらに作り出すことと、自ら命を断つことはあってはならない。

だがまあ、そんなことを言っても無意味だろう。

 

「霊騎士さんからすれば、ちょっと信じられないかもね。でも、この世界は他とは価値観が違うのよ。とりあえず先に行きましょ。そのうち、まともなメイドが出てくるかもしれないし」

 

 

 

道中、開くドアは全て開け、開かないドアは武器で破壊して通った。

全体的に洋風の部屋が多く、やはり死体がゴロゴロしている部屋も少なくなかったが、使えそうなものはなかった。

 

 

二階の廊下の突き当たりで鍵がかかった部屋を見つけた。

またドアを破壊して通ろうかとも思ったが、何となく鍵が見つかりそうな気がしたのでやめておいた。

 

 

「あれ、壊さないの?」

 

「鍵が見つかりそうだからね…何となくだけど」

 

「ふーん。ま、適当に探しましょっか」

 

廊下を少し戻り、左側にあるドアを開けた。

その先には食堂らしき部屋があり、これまた真っ赤なテーブルクロスが引かれた大きなテーブルと、それを取り囲む6個の座椅子が目に付く。

「つくづく豪華よね、この館」

 

「そりゃ、この大地の領主様が住んでおられるとこだからね」

 

「領主?…でも、この土地に住人なんているの?」

 

「いるわよ。妖怪、ゾンビ、吸血鬼…いろんな人外の存在がね」

 

「…この地は、人外魔境の地だったのね」

 

「何を今更。というか、東方の世界で人間を探す方がちょっと大変よ…特にネームドの連中ならね」

そんな会話をしていると、奥のドアがギィと開いた。

 

そして現れたのは、メイドだった…ただし身長は一般的な人間とほぼ変わらず、服が破けており、左肩に包帯を巻いている。

それは2人を見るや否や、その目を光らせて神速とも言える速度で突っかかってきた。

すぐに回避したが、微かに右腕を斬られた。

その直後、妙に血が流れ出る感触を感じた…どうやら、向こうが持っている短剣には出血性の毒があるらしい。

 

あおいは?大丈夫か?と思って見てみると、ものの見事に攻撃を受け止めていた。

女が目を光らせ、攻撃を繰り出す度に、あおいはそれらを全て防ぐ。

凛の目には、速すぎて攻撃モーションを捉えられなかったのだが。あおいは、やはりこいつのことを知っているのだろうか。

 

「…!」

歯を食いしばって短剣を押し込むメイドに、あおいは無表情で言った。

 

「初めましてね、メイド長咲夜さん」

 

「あ…ああぁ…」

 

向こうは、あおいに名前を呼ばれるとますます力をこめた。

「どったの?ずいぶんイライラしてるみたいだけど」

 

「…うるさいわ!」

女は、手を外してバックした。

 

「変な奴らが出てきたと思ったら、次はあんた達…何なのよ今日は!」

 

変な奴ら、という台詞にあおいは反応した。

「変な奴ら、ねえ。もしかして、二人組の外来人の男?」

 

「や…やっぱり、あんた達の仲間なのね…!」

 

「ええまあ、そんなとこ。けどね、少なくともあたし達はあんたとやり合いたいわけじゃあないのよ。それより、お嬢様に会わせてくれる?どうせあんたに聞いても何も答えないでしょ?」

 

「何の冗談かしら…どこの誰かもわからない奴を、お嬢様に会わせるなんて…!」

 

「ま、それもそっか。ならさ、あの二人に会わせてくれない?あいつらに会えたら、何でも話すからさ」

 

「…」

女は、渋々納得したようだった。

 

先ほどの扉の鍵はこいつが持っているそうなので、扉を開けさせることにした。

女は、二人の後ろから短剣を構えてついてくる。

「ちょっとでも変な真似したら、刺し殺すからね!」と釘を刺してきたが、あおいは二つ返事で答えた。

 

 

 

 

「ところで、ここの領主ってどんな人なの?」

 

「どんな人…って言われてもねえ。まあ、なんというか?見た目の割に大層長生きな、吸血鬼のお嬢様よ。まあ、この世界の吸血鬼はみんなロリっぽいらしいけどね」

 

「吸血鬼…ってことは、やっぱり人の血を吸うの?」

 

「ええ。人間に抱かれてる恐怖は絶大だから、最強の種族なんて言われることもあるわ。ただ、ぶっちゃけそんなでもないけどね」

背後から鋭い視線が刺さってきたが、あおいは気にしない。

 

「で、確か500年くらい生きてんのよねあいつ。昔この領地を支配していた吸血鬼の子供で、そのまま地位を引き継いで、色々と人間達に持て囃されてる…ってことじゃなかったっけ。まああたしとしては、正直そんな持ち上げるような相手でもないように思うけどね」

 

「それなりには強いんじゃないの?」

 

「確かに、この世界では有数の強さらしいわ。けどね、それはあくまで能力と相手に恐怖を与える力があるからこそ。あたしなら、そんな手こずることもないと思う。何なら、タイマンでも大したことないと思うわ」

 

あおいが喋る度に、すぐ後ろから感じる凄まじい怒りと殺気が強くなる。

「そ、それで…その人、性格的にはどうなの?」

 

「性格…。まあ領主を名乗るだけあって大人びてるわね。でもちょくちょく抜けてて、わがままで、受け流すってことができなくて。何つーか…年の割には大して成長してない、ちょっとおっきな子供よ。まあ、見た目通りとも言えるわね」

 

 

「…」

 

「カリスマだとか何だとか自称してる…って聞いたことあるけど、正直笑わせんなって話よ。あんなのでカリスマって。(笑)をつけて呼んでやりたいわ。しかも、あれで変に姉貴ぶったりもするんだから、大笑いものよね」

 

その時、後ろのメイドが大爆発した。

「だ…黙って聞いてれば、あんた…!」

ナイフを振り上げ、怒りに満ちた顔であおいに襲いかかった。

 

と、異変が起きた。

メイドは突然微かなうめき声を上げ、四つん這いになって口を押さえた。

そして何やら悶え苦しみ、口から紫の血を吐いた。

そして…

 

 

 

 

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