館内は、壁や床にやたらと赤色が使われている以外に、これといったところはなかった。
一階、二階共に割と広いが誰もいない。ただし、あちこちに血の跡や死体が転がっていたので、「何か」がこの館を荒らしていったのはほぼ間違いなさそうだった。
凛は、そんな死体のうちの1つをしゃがみこんでまじまじと見つめた。
「この死体…なんか、おかしいわね」
「え?何が?」
「ぱっと見人間の死体のように見えるけど、魂の力の残留がない。自然の魂なら、死んでも肉体にわずかに力が残るものなのに。もちろんノワールとは違うのかもしれないけど…それにしても、生まれながらに魂が入ってた肉体とは思えない。まるで、作り物の肉体のような…」
「…」
あおいは、手をパチンと叩いた。
「正解よ、凛さん。やっぱり霊騎士ね」
「え?」
「こいつらはね、『妖精メイド』。名前に反して、妖精じゃないわ。吸血鬼の牙にかかった人間が、魂を作り物の肉体に閉じ込められた姿…生きた死人なの」
「作り物の肉体に…?」
その時点で、もう自然の理に反することだ。
霊騎士の考えに従えば、命を持った肉体をいたずらに作り出すことと、自ら命を断つことはあってはならない。
だがまあ、そんなことを言っても無意味だろう。
「霊騎士さんからすれば、ちょっと信じられないかもね。でも、この世界は他とは価値観が違うのよ。とりあえず先に行きましょ。そのうち、まともなメイドが出てくるかもしれないし」
道中、開くドアは全て開け、開かないドアは武器で破壊して通った。
全体的に洋風の部屋が多く、やはり死体がゴロゴロしている部屋も少なくなかったが、使えそうなものはなかった。
二階の廊下の突き当たりで鍵がかかった部屋を見つけた。
またドアを破壊して通ろうかとも思ったが、何となく鍵が見つかりそうな気がしたのでやめておいた。
「あれ、壊さないの?」
「鍵が見つかりそうだからね…何となくだけど」
「ふーん。ま、適当に探しましょっか」
廊下を少し戻り、左側にあるドアを開けた。
その先には食堂らしき部屋があり、これまた真っ赤なテーブルクロスが引かれた大きなテーブルと、それを取り囲む6個の座椅子が目に付く。
「つくづく豪華よね、この館」
「そりゃ、この大地の領主様が住んでおられるとこだからね」
「領主?…でも、この土地に住人なんているの?」
「いるわよ。妖怪、ゾンビ、吸血鬼…いろんな人外の存在がね」
「…この地は、人外魔境の地だったのね」
「何を今更。というか、東方の世界で人間を探す方がちょっと大変よ…特にネームドの連中ならね」
そんな会話をしていると、奥のドアがギィと開いた。
そして現れたのは、メイドだった…ただし身長は一般的な人間とほぼ変わらず、服が破けており、左肩に包帯を巻いている。
それは2人を見るや否や、その目を光らせて神速とも言える速度で突っかかってきた。
すぐに回避したが、微かに右腕を斬られた。
その直後、妙に血が流れ出る感触を感じた…どうやら、向こうが持っている短剣には出血性の毒があるらしい。
あおいは?大丈夫か?と思って見てみると、ものの見事に攻撃を受け止めていた。
女が目を光らせ、攻撃を繰り出す度に、あおいはそれらを全て防ぐ。
凛の目には、速すぎて攻撃モーションを捉えられなかったのだが。あおいは、やはりこいつのことを知っているのだろうか。
「…!」
歯を食いしばって短剣を押し込むメイドに、あおいは無表情で言った。
「初めましてね、メイド長咲夜さん」
「あ…ああぁ…」
向こうは、あおいに名前を呼ばれるとますます力をこめた。
「どったの?ずいぶんイライラしてるみたいだけど」
「…うるさいわ!」
女は、手を外してバックした。
「変な奴らが出てきたと思ったら、次はあんた達…何なのよ今日は!」
変な奴ら、という台詞にあおいは反応した。
「変な奴ら、ねえ。もしかして、二人組の外来人の男?」
「や…やっぱり、あんた達の仲間なのね…!」
「ええまあ、そんなとこ。けどね、少なくともあたし達はあんたとやり合いたいわけじゃあないのよ。それより、お嬢様に会わせてくれる?どうせあんたに聞いても何も答えないでしょ?」
「何の冗談かしら…どこの誰かもわからない奴を、お嬢様に会わせるなんて…!」
「ま、それもそっか。ならさ、あの二人に会わせてくれない?あいつらに会えたら、何でも話すからさ」
「…」
女は、渋々納得したようだった。
先ほどの扉の鍵はこいつが持っているそうなので、扉を開けさせることにした。
女は、二人の後ろから短剣を構えてついてくる。
「ちょっとでも変な真似したら、刺し殺すからね!」と釘を刺してきたが、あおいは二つ返事で答えた。
「ところで、ここの領主ってどんな人なの?」
「どんな人…って言われてもねえ。まあ、なんというか?見た目の割に大層長生きな、吸血鬼のお嬢様よ。まあ、この世界の吸血鬼はみんなロリっぽいらしいけどね」
「吸血鬼…ってことは、やっぱり人の血を吸うの?」
「ええ。人間に抱かれてる恐怖は絶大だから、最強の種族なんて言われることもあるわ。ただ、ぶっちゃけそんなでもないけどね」
背後から鋭い視線が刺さってきたが、あおいは気にしない。
「で、確か500年くらい生きてんのよねあいつ。昔この領地を支配していた吸血鬼の子供で、そのまま地位を引き継いで、色々と人間達に持て囃されてる…ってことじゃなかったっけ。まああたしとしては、正直そんな持ち上げるような相手でもないように思うけどね」
「それなりには強いんじゃないの?」
「確かに、この世界では有数の強さらしいわ。けどね、それはあくまで能力と相手に恐怖を与える力があるからこそ。あたしなら、そんな手こずることもないと思う。何なら、タイマンでも大したことないと思うわ」
あおいが喋る度に、すぐ後ろから感じる凄まじい怒りと殺気が強くなる。
「そ、それで…その人、性格的にはどうなの?」
「性格…。まあ領主を名乗るだけあって大人びてるわね。でもちょくちょく抜けてて、わがままで、受け流すってことができなくて。何つーか…年の割には大して成長してない、ちょっとおっきな子供よ。まあ、見た目通りとも言えるわね」
「…」
「カリスマだとか何だとか自称してる…って聞いたことあるけど、正直笑わせんなって話よ。あんなのでカリスマって。(笑)をつけて呼んでやりたいわ。しかも、あれで変に姉貴ぶったりもするんだから、大笑いものよね」
その時、後ろのメイドが大爆発した。
「だ…黙って聞いてれば、あんた…!」
ナイフを振り上げ、怒りに満ちた顔であおいに襲いかかった。
と、異変が起きた。
メイドは突然微かなうめき声を上げ、四つん這いになって口を押さえた。
そして何やら悶え苦しみ、口から紫の血を吐いた。
そして…