ピシッ…という音と共に、骸の背中が割れる。
そして、そこから何かがゆっくりと姿を現す。
さながら、羽化する蝉のように。
やがて、それはその全容を現した。
肌が真っ黒く、蜘蛛のように長い足を持ち…と思いきや、それは右肩のあたりから長いものが何本も生えた、どちらかと言えば腕に近いもので、実際はその下…体の下部分に6本のサソリのような足を持っていた。
背中には蝙蝠のような翼が2枚あり、人間で言う頭部はなく、胸の辺りに虫の複眼のような緑色の目がぶつぶつとある他、その少し上に円形の口がある。左腕はなく、腕らしきものはすべて右半身に集まっている。
脚はサソリのようで、腕は蜘蛛のよう。そして、背中には蝙蝠のような羽根があり、胸には昆虫のような目がある。さながら様々な生物を掛け合わせた、人工の生物兵器のような見た目の怪物が、そこにはいた。
「ずいぶん立派な変身ね…」
呆れたように言いながら、凛は魔弾を放つ。
これといって弱点やそれを隠しているらしき場所は見当たらないが、とりあえず胸の目を撃った。
数発撃ち込んでも微動だにしないので、次は足を狙う。
すると、飛び上がって避けてきたと同時に天井に貼りつきぶら下がった。
そしてその状態で、腕を伸ばして突き刺してきた。
全てをまとめての攻撃だったので連続で…ということはなかったが、問題はその次だ。
なんと、腕を縮めて体の方を引き寄せて突っ込んできたのだ。
間一髪で避けたが、怪物の体は地面にかすって傷をつけ、さらにそのままぶつかった壁をへこませた。
「すごいパワーね…前以上に」
あおいはそう言いつつ、その背中を薙ぎ払った。
さらに足にムチを巻きつけ持ち上げようとしたのだが、足は思いの外脆いのかすぐに取れてしまった。
そして6本のうち2本の足がない状態で、変に傾きながらも怪物は立ち上がってくる。
その複眼は、まさしく虫のような無機質な印象を受ける。
やがて、足は取れたところからまた生えて再生した。
そして元通り立ち上がり、再びジャンプする。
ただし、今度は落下攻撃を仕掛けてきているようだった。
落下地点を予測して適当に距離を取り、こちらもタイミングよくジャンプして回避した…と思ったら、着地後間もなく腕を振るってきた。
ちょうど着地しようとしていたところだったので、見事に食らった。
凛、あおい共に壁に背中から叩きつけられたが、なんとかすぐに起き上がって反撃の構えを取る。
凛は剣を構え、「賽の目斬り」を繰り出す。
足や胴体、腕などあちこちをまとめて切り裂き、血を流させた。
しかし、やはりすぐに再生される。
そこで、次は「剣霊武斬」を放つ。
これは斬撃を飛ばす遠距離攻撃だが、再生や止血を抑制する効果もある。
こいつに効くかはわからないが、試してみたのだ。
結果、怪物の腕のうち2本を根本から切り落とすことができた。
数秒後待っても再生しないところを見ると、効果はあったか。
しかし、代わりに怪物は残った3本の腕の先端から粘液のような液体を出し始め、それを腕に絡め始めた。
液体は糸を引き、蜘蛛の巣のように腕それぞれの間で広がった。そして腕を広げ、それらをそのまま動かして刺してきた。
腕の1本ずつは離れていても、その間をカバーするように糸を引いた液体が伸びている。
この液体にどんな性質があるかはわからないが、ひとまず触れないほうがいいだろう。
躱す際に見たのだが、この液体は真っ白く、糸を引くほの見た目は蜘蛛の巣にも似ている。
そして、胸にある目は複眼のようだが、それはまさしく蜘蛛のそれだ。
もしかして、こいつは蜘蛛の遺伝子を持つ変異体なのだろうか?
それはあおいも思ったようで、「変異したら蜘蛛だった…って?」などと言っていた。
「しかし、無駄に羽根があるのがわけわかんないわね。ジャンプは出来るけど、羽根で飛行できないんじゃどうしようもないじゃん…まあかつての面影、って感じ?」
そう言えば、こいつは変異する前にも羽根があった。もっとも、どんなものだったかよく覚えていないが。
ちなみに腕は2人を刺そうとして床に突き刺さるのだが、その部分と周囲には液体がつかない。
そして、腕と腕の間に伸びる液体はいつの間にか透明になっており、液体というよりは糸のようになっていた。
やはり、蜘蛛の糸に似ている。
と、ここでまたジャンプして天井に貼り付いてきた。
今度は2人の頭上まで近づこうと、ゴソゴソと動いてくる。
その前に撃墜してやるとばかりに、凛は魔弾を放ち、あおいはトゲ鉄球を生成して飛ばす。すると、怪物は途中で頭から落ちてきた。
そして、やはり蜘蛛のようにひっくり返ったまま足と腕をビクビクと動かした。
「[斜塔斬り]!」
凛が技を放ち、体を斜めに裁断する。
大量の血が噴き出すが、まだ死ぬ気配はない。
そこで、次はあおいが行く。
両手を向かい合わせるように構え、大きな黒光りする槍を作り出す。それを、刃先を下に向けて怪物の頭上に浮かべる。
「ごめんね、お嬢様。あたし達、あんたに見てもらうまでもなく運命が決まってたみたい!」
そして、怪物が起き上がったそのタイミングでまっすぐに突き落とした。
槍は怪物の体をほぼ垂直に刺し貫いた。
怪物は、わずかに腕を動かしつつうめき声を上げて事切れた。