そこにあったのは、少なくとも3匹のどす黒い蛇が絡み合ったように見える塊。
蛇はいずれも、頭をこちらに向けている。
2人を見つめる6つの目。
それらは、昏く生気のないものだった。
なによ、薄気味悪い。
そう思った直後だった。
蛇たちは不気味な音を立て、解散した。
そしてその中心、蛇たちに絡まれていたものの全容が見えた。
それは、全体が真っ黒で…
頭部にあたる部分に青色の丸いものがある、人型をした物体だった。
いや、恐らく生物…この蛇たちの本体、あるいは片割れなのだろうが、そう思えなかった。
何というか、生物であるという感じがしなかった。
しかし、そう思って動きを止めたのは凛だけ。
葵は、間髪入れずに鞭を振るった。
青色の部分を叩くと、鈍い音とともに液体が飛び散った。
それは青くドロッとしていて、血のようには見えなかった。
「気持ち悪い…」
凛が声に出すと、葵は鼻で笑った。
「何を今更」
と、その青色の部分のすぐ上が開いた。
牙が並んでおり、ここが口であるように思えた。
そしてそこから、濁った茶色の液体が飛び出してきた。
また酸性の液体かと思い避けたが、床を溶かすようなことはなかった。
凛は、床に飛び散った茶色の液体を警戒しながら、わずかに身を引いた。酸ではないとはいえ、何かしらの危険があるかもしれない。
葵は鞭を引きながら、目の前の異形を睨みつける。青い部分を打った手応えはあったが、決定打ではない。まだ動ける。
「凛、どうする?」
「どうするも何も、倒すしかないでしょ。でも、あれ、本当に生き物なの?」
凛は、一歩踏み出しながらも戸惑いを隠せなかった。あまりに「生物らしさ」が欠けている。血の代わりに青い液体を流し、動きもどこか人形じみている。
その間にも、異形は再び口を開き、茶色の液体を吐き出した。今度は勢いよく、広範囲に向けて——。
「っ…!」
葵は瞬時に跳び退き、凛もそれにならう。液体は床にべったりと広がり、じわりと染み込んでいった。
「…毒かもね」
葵が呟く。床を溶かさないが、吸収された様子が不気味だ。もしこの部屋が生き物の体内だったりしたら…。
「じゃあ、これ以上長引かせるのは危険ね」
凛は短剣を構え、葵は再び鞭を握る。
異形は微動だにせず、ただ青い目のような部分を光らせて2人を見つめていた。
「次の攻撃で決める!」
葵が低く叫ぶと、2人は一斉に駆け出した。
異形が反応したのは、そのわずか一瞬の間だった。
青い目のような部分が一際強く光ったかと思うと、全身の黒い体表が波打つように脈動し、そこから無数の触手のような細い蛇が飛び出した。
「来るわよ!」
凛が声を上げる。だが、葵は怯まない。
触手が鞭に絡みつく前に、鞭を素早くしならせて一閃。空を裂く音と共に、数本の蛇を叩き落とした。
その隙に、凛は滑り込むように異形の懐に踏み込んだ。躊躇いを振り払うように、手にした剣を突き出す。
突き刺さった。青い球体のすぐ脇、かろうじて柔らかそうに見える黒い部分へ。
ぐちゃっ、と濁った音。青黒い液体が凛の腕に飛び散り、ぬめりとした感触が肌を伝う。
「効いてる…!」
凛が確信したその時、異形の口が大きく開いた。今度は声のような音が漏れた。
悲鳴なのか、ただの振動なのか判別できない、機械と生物の中間のような、気味の悪い音。
「凛さん、下がって!」
葵が叫ぶと同時に、鞭を大きく振るう。異形の脚部に絡みつけ、そのまま力任せに引き倒した。
ずしん、と鈍い衝撃。その巨体が床に激突する。
「今よ!」
ふたりが声を揃える。
凛は最後の一撃として、青い球体へと剣を深々と突き刺す。葵は鞭を振り下ろし、頭部らしき部分に勢いよく叩きつけた。
異形がビクリと痙攣したあと、再び沈黙した。
しばらく、何の音もしない。
凛は息を切らせながら、剣を引き抜く。その刃には青黒い粘液がまとわりついていた。
「……終わった?」
凛が呟くと、葵は周囲を警戒しながら頷く。
「たぶんね。けど……油断は禁物。こんな奴が出てくるなんて、今までとはレベルが違うわ…いろんな意味で)」
「ええ。あんなのがまだいるなら……」
言いかけて、凛は視線を床に落とす。茶色い液体が完全に吸い込まれ、まるで最初から何もなかったように床は乾いていた。
「やっぱり……ここ、生きてるんじゃない?」
「やだ、気持ち悪いこと言わないでよ」
沈黙が落ちる。
それは、戦闘の終わりを告げる静寂ではなく、新たな不安をもたらす不気味な静けさだった。
あおい「投稿、だいぶ間が空いちゃった。ごめんなさいね」
凛「言い訳はしない。
あやうくエタるところだった。
これからまた、毎週投稿を目指します」
あおい「あたしたちのストーリーは、もうしばらく続きます。何卒、よろしくお願いします」。