東方訪問記   作:白い花吹雪。

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7-1 鋸妖怪

奥の通路を進んだ先は行き止まりだった。

しかし、付近に飛び降りられそうな場所があったので、二人はそこから飛び降りた。

 

その先の通路には、至る所に無残な姿の化け物の死体が転がっていた。

もちろん、無数の血痕も残っている。

 

姜芽たちかはわからないが、少なくとも誰かがここで化け物たちと戦いつつ、駆け抜けたことは確かなようだった。

 

 

 

その先の部屋には、奇妙なものが倒れていた。

全身が焼け焦げたように黒く、あちこちに血が付着した、右腕のない人型の物体。

 

見つめていると、それはゆっくりと立ち上がった。

そのフォルムと顔を見て、あおいは呟いた。

「さとり…?」

 

聞くが早いか、それはこちらを向き、左腕を構えた。

そしてそれは、外見がノコギリの刃のようになっており、ヴィーンという音を立てて動いた。

 

「…!」

 

化け物はそれを振り上げ、猛烈な速度で迫ってきた。

すぐさま横にダイブし、振り下ろしを回避する。

 

化け物の顔は、片目が潰れており、胸にもまた潰れた目のような何かがあった。

そこからも、あおいはその正体を悟ったようだった。

 

「…あおいさん、近づいちゃダメ!切り刻まれる!」

 

凛は、魔弾を放ちながら言った。

 

「言われなくても、あんなのに近寄らないわよ!」

 

凛の放った魔弾が化け物の胸に命中し、爆ぜるような衝撃音とともに煙が立ち昇った。

だが、化け物は微動だにせず、まるでそれすら気にしていないかのように首だけをギリ、とこちらに向ける。

 

「全然、効いてない……?」

凛の声が震えた。

 

化け物の左腕──ノコギリ状の変異した腕が、再び音を立てて動く。ヴィーンという不快な金属音が狭い部屋に響き渡り、あおいの背筋が凍りついた。

 

「そいつ、再生するわ…!普通の攻撃じゃ止まらない!」

 

「あおいさん!あの化け物のこと、何かわかる!?」

 

凛が問うたが、あおいは答えなかった。

代わりに、左腰の鞭──いや、モーニングスターの柄を握りしめる。

 

「…惨めな姿になったもんね、さとり様!」

 

冷笑と皮肉の混じる言葉。

しかし、化け物はその一瞬すら見逃さなかった。

轟音とともに床を蹴り、音の壁を割ったかのような速度で突進してくる。

 

「…来る!凛さん、横に飛んで!」

 

あおいの叫びに反応し、凛が魔力を膨らませる。

霊力の刃を纏った剣を構えるも、間に合わず──。

 

バシュッ!

 

モーニングスターの重い鎖が唸りを上げ、化け物の脚を絡め取った。

一瞬だがその体がバランスを崩す。

そこを凛が突いた。

 

「[斬滅・霊断] !」

 

霊力を一点に集中させた剣が、化け物の腹部を切り裂いた。

紫黒い血が噴き出すが──次の瞬間、化け物は呻き声すら上げずに再生を開始する。

 

「っ…何なのよこの再生力…!」

 

凛が後退する。その間も、化け物は音を立てて立ち上がる。

切り裂かれたはずの腹部は、既に塞がっている。

 

「さとり…」

 

あおいは小さく呟く。

潰れた片目。胸に浮かぶ第三の眼の痕跡。

藪睨みの一つ目で、こちらを追う異形の存在。

それは、彼女の知っている"さとり"ではなかった。

だが、かつて"さとりだった"ものだとは、確かに分かった。

 

「…ここはひとつ、あたしがやろうかしら」

 

「えっ…!でも──!」

 

「いいのよ」

 

低く、覚悟を決めた声だった。

 

 

あおいは鞭を巻き戻し、再び構える。

そして再び、化け物が動き出す。

狂った刃が唸りを上げ、無慈悲な殺意が、静かに空間を切り裂いて迫ってきた──。

 

 

あおいの腕がしなるように動き、鞭のようなモーニングスターが唸る。

 

「…一回死んだんなら、黙ってくたばりなさいよね」

 

鈍い音と共に、モーニングスターが化け物の顔面を正面から叩き潰した。

歪んだ頭部が裂け、黒い血と骨片が四散する。

続けて凛が魔弾を叩き込み、爆炎の中にその異形を呑み込ませる。

 

「…やった!?」

 

凛が、息を切らせながらも安堵の声を漏らす。

煙の向こうに、崩れた肉塊が転がっていた。

 

動かない。 再生の気配もない。

 

「…これで、終わりよね」

 

あおいは冷たく言い捨てた。

 

だが、その視線は油断なく、しばらく肉塊を見下ろしていた。

動かない。 だが──胸の「眼の痕跡」だけが、最後に一度だけピクリと震えたように見えた。

 

 

 

 

 

先の通路を抜けた先は、吹き抜けになった崩壊寸前のホールだった。

天井が高く、上階からの光が微かに差し込んでいるが、まるで廃墟の中枢のように陰鬱で、どこか嫌な気配が漂っていた。

 

「……変ね。ここ、見覚えがある」

 

あおいが小さく呟いた。

彼女の記憶通りなら、ここはあるものが暴走した場所。

 

 

その瞬間──

 

ギギギギィィィィ……ンッ……

 

鉄が軋むような音が背後から響く。 さっきの通路だ。

 

「…まさか!?」

 

凛が振り返った。 そこにいたのは、ありえない姿だった。

 

焼け焦げ、潰れた頭部のまま。 さっき叩き潰したはずのものが、再び立っていた。

ボロボロの肉の隙間から、新しい組織が芽吹くように生え始め、すでに脚と腕は元通りに近い。

 

「…まだ生きてたのね。失敗したわ」

 

あおいは肩をすくめ、吐き捨てるように言った。

 

「凛さん、もう一度やるわよ」

 

 

 

突進切りを躱しながら、凛は魔弾を飛ばす。

近距離戦は危険なため、距離を取りながら戦う他にない。

 

「まさか、再生までしてくるなんて…!」

 

「違うわよ。あれはもう、生き物じゃない」

 

冷ややかに言い捨てながら、あおいは鞭を構え直す。

 

「あれはC.S.T.…ただの、化け物よ」

 

あおいは、まるで遊戯を楽しむように、うっすらと笑った。

 

「さあ、地獄の続き。第二ラウンドといきましょうか」

 

 

 

 

再び化け物が突進する。

叫びも、息づかいも、怒りもない。 ただ、ノコギリの刃が唸るだけ。

 

同時に、ここまでに現れた人間や妖怪の化け物も複数現れたが、それらはいずれも鋸の化け物に切り刻まれた。

とにかく暴れまわり、敵味方の区別なく襲うタイプのクリーチャーなようだ。

 

 

血が飛ぶ。悲鳴がこだまする。

そして、あおいの冷酷な声が響き渡る。

 

「何度でも叩き潰してあげる…さとり様」

 

冷たい瞳が、微かに笑った。

 

 

 

虚空から鉄球を降らせる、あおいの技。

それを受け、化け物は倒れた。

 

「しかしまあ、哀れなもんねえ。右腕を落とされた上に、こんな姿にされるなんて…」

 

あおいは珍しく、素直に憐れんだ。

 

「…ま、とりあえず進みましょ」

 

 

奥にはエレベーターがあったが、壊れているのか動かなかった。

なので、その左手にあったはしごを登っていった。

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