東方訪問記   作:白い花吹雪。

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この世界でも珍しい、仮面の妖怪。
複数の能面を持っており、それぞれに異なる力がある。
能面は全部で48あり、これらすべてで1人の人格を構成しているが、キーとなる仮面が一つだけあり、これを失うと狂ってしまうという。
凛央の侵攻が始まって間もなく姿を消し、現在は行方不明。


7-2 面の狂戦士

はしごを登った先の通路をしばらく進むと、鉄のテーブルや座椅子が置かれた小部屋に出た。

そのテーブルの上には、何かの資料が置かれていた。

 

 

「  "ウルトゥス・フェレア"研究観察資料

 

 

この世界に来てから、私は実に多くの生体兵器を開発してきた。

そんな中で、"ウルトゥス・フェレア"は比較的初期に開発したものだが、まずまずの完成度を誇っている。

 

このC.S.T.は面霊気の化け物をベースとしたものであり、元々は初期に行っていた妖怪への生物実験の過程で誕生したものだ。

 

件の化け物は"面霊気"の名の通り無数の面を持っていたのだが、そのうちの1つを残してすべて破壊したところ、精神的に不安定になると同時に凶暴化が見られた。

また、妖怪としての肉体も不安定となり、時折霊力が肉体から流れ出す場面も見られた。

 

そこにBerserk-αを投与したところ、生前の優れた戦術をある程度キープしつつ、他者を積極的に攻撃する性質を持つC.S.T.となった。

また、不安定だった肉体も安定し、それどころか生前とは比べ物にならないほどの強化が起きた。

 

欠点は、面を破壊したこととウイルスの作用による動物的本能の活性化により、目につくもの全てを攻撃するほどの凶暴性も有するようになったことだ。

ただ、これに関しては鋼鉄のマスクを被せ、視力を完全に封じることでカバーできた。

 

このC.S.T.は聴力に優れ、霊力にも敏感に反応する。

そのため視力がなくなったところで、スペックがそこまで落ちたわけではない。

いずれにせよ、初期に開発したものの中ではかなり優秀なものと言える。

 

もっとも、現在及びこれからもそうであるかは疑問だが。

 

 

(それ以上は掠れて読めない──)   」

 

 

 

 

 

奥の部屋に入ると、人間ベースと思しき化け物が3体現れた。

いずれも斧や剣を持っていたが、動きは大振りで避けやすく、今さら手こずる相手でもない。

 

早急に片付け、二人は先を急いだ。

 

 

先の部屋は、階段を登った先にあった。

奇妙なことに、この部屋だけ床が木で作られていた。

歩くと、独特な音が鳴る。

 

「この床…うぐいす張りになってるわね」

 

あおいが呟く。

 

 

奥へ進むと、奇妙なものが壁際に立っていた。

銀色の仮面、あるいはマスクのようなもので頭をすっぽりと覆われ、手には薙刀のような刃物を持っている。

その全身は黒っぽく、紫の血管が浮き出ている。

 

装束のような服は破れており、ところどころから砕けた面のようなものが垂れ下がっている。

 

「あれが、さっきの資料にあったやつかしら?」

 

すると、それは薙刀を振り上げ、一直線に二人に向かって突っ込んできた。

飛び退いて回避したが、化け物はすぐに振り向き、凛を狙ってくる。

 

──どうしてわかるの。目は見えていないでしょうに。

 

そう思ったが、すぐに床がきしんで音が鳴っているのが原因だとわかった。

 

凛は体を霊力で包んで浮上し、床から足を離した。

床を歩かなければ、音で気づかれないだろう…と思ったのだが、しっかり凛を探知して襲ってきた。

 

そこで、さっきの資料にあった内容を思い出した。

C.S.T.「ウルトゥス・フェレア」は、音だけでなく霊力にも反応する。

もしあおいの言う通り、こいつがそれであるなら。

 

「…!」

 

凛は霊力を遮断し、部屋の入り口の階段に飛び降りた。

そのまま静かにしていると、化け物はしばらく薙刀を振り回した後、辺りをキョロキョロし始めた。

さらに、薙刀を下げてゆっくりと歩き始めた。

 

(やっぱり、そうなのね)

 

凛は手を差し出し、魔弾の構えを取った。

幸い魔力には反応しないようで、近づいてはこなかった。

 

 

凛は視線を逸らさず、静かに魔弾を収束させる。

──狙うべきは、装束の裂け目。砕けた面の破片が垂れ下がる、あの隙間だ。

 

「あおいさん、背後を取れる?」

 

階段の影から小声で問いかけると、壁際に張りついていたあおいが頷く。

 

「音を立てなきゃ、いけると思う。あたしの武器なら、一撃で胴体を裂ける」

 

「じゃあ、タイミングを合わせて──」

 

凛はすっと立ち上がり、今にも放てそうな魔弾を構えたまま、わざと霊力を揺らし、床を鳴らした。

C.S.T.…「ウルトゥス・フェレア」は即座に反応し、仮面の奥から呻き声のようなうねりを発し、薙刀を引きずって振り返った。

 

(今──!)

 

刹那、あおいの体が音もなく加速する。

空気を裂くように跳び、闇を纏ったムチが怪物の背中へ一直線に振り下ろされる。

 

ギン……!

 

金属を裂く音とともに、刃は背中の装束と砕けた面を跳ね飛ばし、その下に隠れていた脊髄のような部位を裂いた。

紫の血が飛び散り、ウルトゥス・フェレアが仰け反る。

 

だが、倒れない。

 

振り返ると同時に、薙刀があおいをなぎ払うように振るわれた。

 

「くっ──!」

 

あおいは跳び退いて回避するが、薙刀の刃先が左の腕をかすめ、血が舞った。

 

怪物は追撃しようと一歩踏み出す。

だが、その瞬間、凛が構えていた魔弾が放たれた。

 

「そっちを向きなさい!」

 

魔弾は怪物の左肩──マスクから外れた肉体部分に直撃し、轟音とともに爆ぜた。

ウルトゥス・フェレアがふらつき、仮面の奥で声にならないうめき声をあげる。

 

一瞬、凛の胸に哀れみが浮かんだ。

けれど、それを振り払うように彼女は叫ぶ。

 

「あおいさん!あと一発…打ち込んで!!」

 

「任せて!」

 

闇の力を纏い、あおいがもう一度突っ込む。

今度は回避の余地すら与えず、突き込むように斬撃が深く食い込んだ。

 

ズンッ──!

 

深々と食い込んだ刃に、紫色の液体が噴き出す。

怪物の体が震え、膝から崩れ落ちた。

 

「終わった……?」

 

凛が息を整えながら確認する。

 

崩れ落ちた怪物の体が、ぴくりと痙攣する。

変異した妖怪は、最後に微かな唸りを上げた。

 

 

 

「こいつは…たぶん、こころね」

あおいは、死体を見下ろしながら言った。

 

「面が割られてる…惨いことするわね、まったく」

 

凛には、その意味はよくわからなかった。

 

 

 

化け物が最初にいた壁の横にはレバーがあり、それを引くと近くの壁が動いて通路が現れた。

二人は迷わず、その先へと進んだ。

 

 

 

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