東方訪問記   作:白い花吹雪。

8 / 77
長らく「正体不明」とされてきた、不気味な触手を有する化け物。
しかしその正体は、それ自体は蜘蛛のような見た目で、他者に自身の胚を植え付け、寄生し、やがて宿主の肉体を食い破って新しい個体が生まれる…というサイクルを続ける妖怪の一種。
当然ながら、未確認飛行物体や超常現象とは何の関係も無く、かつてこの地で起きたという異変の黒幕とも一切関係はない。



2-3 濃霧

少女とはぐれないようについていくこと数分。

 

「まだなのか?」

 

「もうすぐだよ」

龍神を前にして、二人は歩みを続けていた。

 

しかし…

何分、視界が悪い。

濃霧と化した霧のせいで、2メートル先も見えない。

 

「なんか、はぐれそうだな…」

姜芽はそんな事を言いながら歩いているうち、龍神の姿を見失った。

 

「…あれ?龍神?どこ行った?」

 

「何言ってんだ、俺はここに…」

彼は振り向いたが、後ろにいたはずの姜芽の姿が見えなくなっていた。

それどころか、声も聞こえなくなっている。

 

(…あれ?後ろを歩いてたはず…)

姜芽の気配はなくなっていた。

しかも、気づけば先程の少女も消えている。

 

(変だな…)

ここで、龍神はふと思いついた。

 

(ん?そう言えば…)

相手を完全に消す、いや、正体を消す力。

名前は出てこないが、そんな力を持つ者の話を聞いたことがあるような…

そんな気がした。

 

と、そこへ姜芽が走ってきた。

 

「姜芽!」

 

「よかった…ビビったよ。あれ、あの娘は?」

 

「申し訳ないが、はぐれてしまった。とりあえず、霧を抜けよう」

 

龍神が前、姜芽が後ろをゆく。

 

(しかし、あいつの名前…。あと少しで思い出せそうなんだが…。えーと、何だっけ…)

考えながら歩いていた龍神は、自然に猫背になってゆっくりと歩いていた。

 

 

その時、複数の刃物のようなものを振り上げる影が地面に映った。

 

見るが早いか刹那の速さで刀を抜き、振り向きつつ後ろにいたものを斬りつけた。

 

「ぐっ!」

 

「っ…!」

そこには姜芽ではなく、先端がナイフのように尖った、青と赤の翼のようなものを生やした化け物がいた。

青い翼?の先は切れ、青い血を垂らしている。

 

「思いだしたぞ…お前はぬえ、だったな!

あの娘に化けて、俺を殺すつもりだったのか!」

 

「もう少しだったのに。それより、なぜわかった?」

 

「影がバッチリ見えたんでな…」

 

「ちっ、ぬかったわ…」

 

「姜芽をどこにやった!」

 

「教えたところでどうせ見えないのだ、知る必要はない。

それより、私を斬りつけておいてタダで帰れると思うな!」

 

「心配すんな。タダで帰れるなんて思っちゃいない。

お前こそ、余計な事をしたことを悔やませてやるよ!」

 

 

まず、龍神が刀を構えて飛びかかった。

しかし、ぬえは容易くそれを交わし、すれ違いざまに攻撃をしてきた。

しかしそれは計算済みで、触手を三本まとめて受け止めた。

 

それを見たぬえは、もう片方の触手を伸ばしてきた。

龍神はこれも受け止め、電撃を流した。

そして、ぬえが感電している隙に触手ごと振り回し、近くの岩壁に投げつけた。

 

「ぐっ…!」

 

「まだまだだ。…そういや、お前はオカルトと関係があるんだっけか?

そういうのは大好きなんだ。なんなら一度生で見てみたかった。是非見せてくれないか?」

龍神の問いかけに対し、ぬえは、

「ふふ…そうか…。

いいだろう、見せてやろう。

その代わりに…」

 

そして、

 

「貴様の命を貰おうか!!」

と、飛びかかってきた。

 

これには対処が遅れ、龍神はモロに体当たりを喰らい、吹き飛ばされた。

 

そして、そこを逃さんと飛びかかってきたところを身をよじって交わし、再び触手を斬りつけた。

 

「!!」

右の触手を斬りおとし、赤い血が迸(ほとばし)った。

 

「おお、右も左も一本ずつ…

なんか、それみたいのを見ると斬りたくなるんだよなぁ!」

 

そして龍神が再び斬りかかる。しかし今度はガードされた。

さらにその状態で蹴られ、またもや龍神は飛ばされた。

しかも今回は後ろに木があり、全身をしたたか打ち付けた。

「ぐほっ…!」

 

ここで怯む訳にはいかない。

動きを止めれば、大きな隙になる。

しかし、龍神は動こうとしなかった。

 

そこを見逃さず、ぬえはまたもや飛びかかった。

と、その時。

「かかったな」

龍神が怪しげに笑った。

その直後、

 

「!?」

ぬえは突然現れた、光り輝く檻に閉じ込められた。

「なんだ…これは!」

 

「電気の檻だよ。出ようとして柵に触れれば感電する。

触らないほうが身のためだぜ?」

ゆっくりと起き上がった龍神がそう言う。

「小賢(こざか)しい技を使われると面倒だからな、気絶したふりをして誘き寄せて閉じ込めた。

あっさり引っ掛かりやがって」

龍神は柵の外で嘲笑う。

「き、貴様…!

私を出せ!この!」

暴れていると、柵に触れた。

高圧電流が流れ、ぬえは苦しんだ。

触手を失い、更に戦いによって傷ついた彼女に、もはやこれ以上暴れる力はなかった。

 

 

「さて、幾つか聞かせてもらおうか。まず、お前は何で俺達を襲った?」

 

「…食事のため」

 

「何だと?」

 

「生きるため!あんた達を食べるため!」

 

「他に餌はいなかったのか?」

 

「今どき、どこ行っても誰もいないのよ!

だから、勝手の効かない余所者ならと思って…」

 

「…ほう。じゃ次だ。どこで俺達の存在を知った?」

 

「知らなかった…ただの偶然!

森であんた達を見かけて、流れ者の外来人なら喰っても問題と思った。だから、引き離して一人ずつやろうと思ってたの!

なのに…あっさりバレて…」

 

「なるほどな。じゃあ、最後だ。本当の姜芽はどこだ?」

 

「さっきも言ったはず…。

どうせ見えないんだから、あんたが知る必要はないわ。

どうせあんた達は…ぎゃあああああ!」

 

「答えろ」

龍神は、鋭く冷酷な目で妖怪の首に刀を突きつけた。

 

「さっきいたあたり…里の近くにいるはず。

まあ…今頃はどっか行っちゃって、見つからないでしょうけどね!」

 

「ほう。…これでおしまいだ」

 

「そう…なら、さっさと出してよ!」

 

「出したら俺を喰うだろ?…まあそれも面白い、やってみてもらおうじゃんか。

お前にそんな事が出来るかは知らんがな…」

 

龍神はまた何か術を唱えた。

そして、

 

「ほらよ、出してやるよ」

と言って、指を鳴らした。

すると、柵が電気からレーザーに代わり、みるみる縮み初めた。

 

「ちょっと…!何す…!」

レーザーはぬえの体を焼き切り、縮みきると消滅した。

そして、ぬえは全身が檻の形にそって切り分けられた無数の肉塊と化し、その場に崩れ落ちた。

 

龍神はその中の一つ、顔だったと思われる部分を拾いあげた。

怒りに満ちた顔だった。

 

「化け物の癖に、小綺麗な顔しやがって」

 

龍神は刀を振り上げて電気の力で軟化させた。

そしてそれをローラーの様に変形させ、

「殺人技·[生体ローラー]」

 

ローラーのように転がして、肉塊を全て押し潰した。

おびただしい量の肉片と血が飛び散る。

 

目の前には血にまみれた、潰れた肉片が大量にあった。

その肉片の中から臓器だったと思われる物を取り出し、握り潰す。

 

ニチャニチャという生々しい音が響き、手は血の色に染まる。

 

「この感触…久しぶりに一仕事したって感じだな」

 

霧のかかった、無人の荒野。

無数の肉塊と、おびただしい量の血。

その中で、龍神は怪しげな笑いを浮かべた。

 

 

 

 




『妖怪』
この世界に住み着いている、人型の化け物の一種。
元は人間の恐怖や妬みなどの感情から生まれた存在で、人間の肉体を糧とするものとその心の闇や負の感情を糧とするものの2種類に分けられる。
細かくはいくつかの種類に分けられ、個体数も非常に多いが、本当に強いものはごく一部のもののみ。
一部では、神あるいは悪魔となった妖怪も存在するという噂もある。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。