ダンジョンで蒼炎の勇者を目指すのは間違っているだろうか?   作:かい

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魔法問答

 ひたすらに全身が痛い。

 特に頭と腹は馬鹿みたいに痛い。

 ええい、あの黒猫とマッチョマンめ。容赦なくブン殴りやがって。

 脳震盪でも起きていたらどうするつもりだったのだろうか。

 ……いや、逆にアレだけやられておいて『痛い』だけで済んでいる今が不思議過ぎるんだが。

 まぁ、念のためだ。帰ったらポーションを2本くらい飲んでおこう。

 寝ている間に死んでいる、なんて御免だ。

 

「おかえり!! ところで君、途中でなんか凄いところに行ってなかったか!?」

「ただいま帰った。行ってはいたが、場所はわからん」

 

 飛び出して来たアグニ神を素通りして中に入る。

 しかし、やはり恩恵にはGPSのような効果が備わっているらしい。

 そこまで精度は良くなさそうだが、大体の場所がわかるのであれば、使い道はあるだろう。

 

「まぁ、それなら良かったのだが! ところで、その本は何だ!?」

「ん? いや、俺もよくわかっていないのだが、何でも『脳筋でも完全理解! 超わかりやすい現代魔法』……と言う事だ」

 

 改めて言葉にしてみると、実にひどいタイトルだな。

 いや、わかりやすい分には結構なのだが。

 しかし、何と言うかこう……どこか信用ならないと言うか……胡散臭いハウツー本の臭いがすると言うか……

 

「むむむぅ! 下界にしては中々のセンスだな!!」

 

 えぇ……?(愕然) 中々のセンス……? これが……?

 まぁ、アグニ神が言うならそうなのだろうが……どうにも納得がいかん。

 

「まぁ、その本についてはお前の好きにすると良い!! 俺は夕食を作って来る!!」

「ああ、わかった」

 

 そう言って、アグニ神は家の奥へと歩いて行く。

 さて、それでは折角だし、この本を読んでみる事にしよう。

 胡散臭くはあるが、魔法に関して書いてあるのなら、読んでみる価値はあるはずだ。

 ベッドに腰掛け、本の表紙を捲る。

 

『脳筋クソゴミカス猪でも完全理解! 超わかりやすい現代魔法! 第一章』

 

 ……どうやら、筆者は猪に凄まじい恨みがあるらしい。

 自分の農作物を猪に食い荒らされでもしたのだろうか。

 

『魔法を大まかに分類すると、まず先天系のものと後天系のものに分かれる。先天系とは言わずもがな対象の素質や、種族の根底に関わるものを指す。そのため、種族ごとに属性の偏りが大きい(エルフならば風や回復等)が、それらの魔法は総じて強力な効果のものが多い』

 

 ほう、確かに分かりやすい。

 だが、この文字と文字の間にびっしり書き込まれている文字に関しては、マイナスポイントだ。

 見た感じ何らかの式のようだが、見づらい事この上ない。

 

『後天系とは、即ち神の恩恵(ファルナ)を媒介として発現する可能性のあるものだ。法則性は全くの皆無であり、あるのならばこちらが教えて欲しいくらいである。ただ、基本的には経験値(エクセリア)による発現が主とされている』

 

 成程、つまり敵を倒しまくれば自然に発現すると言う事だな。

 実に単純明快でわかりやすい。相変わらず中の式は鬱陶しいが。

 ページを捲り、次の記述へと移る。

 

『ただ、後天系の場合は本人の興味、意思に依るところもかなり大きい。本人が何に関心を抱き、求め、恐れ、憧れ、嘆き、崇めるのか。それを起源とした魔法の発現は実に多い。つまるところ、魔法とは自分自身の内面を映す鏡でもあるのだ』

 

 ……ん? なんだ……?

 文字間の式が、蠢いて……?

 

『さて、そんな鏡はここに用意してある。欲するのならば己自身と向き合い、自身の可能性を抉り出すが良い』

 

 恐る恐るページを捲る。

 そこにあったのは顔だ。文字で出来た(アイク)の顔。

 

『よし、では始めるか』

 

 文字で出来た(アイク)が語りかけて来る。

 成程、これが先ほどの記述が言う「鏡」なのだろう。

 つまり、これは俺自身というわけだ。

 

『俺にとって、魔法とは何だ』

 

 知らん。

 今までに持っていた事も、使った事もない。

 

『俺にとって、魔法とはどんな認識だ』

 

 ファンタジーの塊。そして夢想の産物。

 現実にはあり得ない、法則を通り越す超常的な力。

 

『では、俺にとって魔法はどういうものだ』

 

 俺が魔法と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、所謂エレメントってやつだな。

 炎だったり、水だったり、雷だったり。

 他だと回復だったり、光だったり闇だったり……ああ、テレポートというのもあるか。

 

『だが、俺はそれを求めていない』

 

 そうだな。アイクは魔法を使わん。

 強いていうのなら衝撃波と蒼炎だが……アレらは今の俺が持つべきでは無い。

 

『では、今の俺は何を求めている?』

 

 強いて言うなら、その場での爆発的な加速だろう。

 アイクの居合切りも、天空も、結局のところアレが出来なければ話にならん。

 

『そうだな』

 

 ああ、そうだ。

 

『だが、それは自分の力で身につけたい』

 

 まぁな。

 

『出来るわけがないのに』

 

 俺は、アイクでは無いからな。

 目指す、なんて言っているが、完全なアイクに成れるなんて思っちゃいない。

 成れて精々がアイク擬きだ。

 

『悲観的だな』

 

 だってそうだろう。

 足りない物が多過ぎるし、余分な物も多過ぎる。

 たまたま、誰にも憚られずに憧れを追い求める機会があったからやっているだけだ。

 それに、俺如きが完全なアイクに成るだなんて、アイクに対する冒涜も良いところだ。

 

『そうなのか』

 

 そうだ。

 だから、出来る限りアイクに近づけるように頑張っている。

 アイクの技の再現も、その一環だ。

 まぁ、あんなのまともにやってても出来るわけが無いんだが。

 空中での加速とかマジで不可能だろ。

 夢の中でも出来る気がしない。

 

『だから、俺が望むのは可能性。それを成すための基盤だ。違うか?』

 

 ああ、その通りだ。

 最初から最強のチートツールを使うのには、少々気が引ける。

 

『よし、それでこそ俺だ。精々励むといい』

 

 文字で出来た(アイク)が笑う。

 そしてすぐに、世界が暗転した。

 





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