ダンジョンで蒼炎の勇者を目指すのは間違っているだろうか? 作:かい
青を基調にした
ブーツはしっかりと膝丈まであり、爪先に鉄板が張られた仕様のもの。
そして極め付けは、背中にたなびく赤いマント。
……うむ、これはアイク。
鉢巻は鉄の額当てが張られた防具仕様だし、剣も体格的な問題で片手用のロングソードになっているが、まぁ、そこは仕方がない。安全に配慮した結果だ。
「むむぅ! 良いぞアイク! 格好いいぞ!!」
「……な、何と言うか……異様なまでに似合っていますね……」
「ええ、本当に。まるでお客様の為にあるようでございます」
アグニ神、リオンさん、店員の三人から送られる賞賛を浴びる。
ふふん、そうであろう、そうであろう。
何せ、俺の体はアイクのものだからな。これが似合うのは当然のことだ。
と言うか、むしろ似合ってもらわないと困る。
「じゃあ、あとは勘定だな! 幾らだ!」
「こちら合計で11万3000ヴァリスになります」
「よぉし買った!!」
アグニ神が懐の袋から金貨を一掴みほど取り出し、店員に渡す。
受け取った店員は丁寧に金貨の枚数を数えて、どうやら余ったらしい分をアグニ神に返した。
しかし、支払いがあまりにも豪快である。
恐らくこのような所は信用第一だったから返して貰えたのだろうが、他所だとそうも行くまい。
……いや、神を騙そうとする輩が居ればの話だが。
「……さて、それではいよいよダンジョンですか……」
「そうだな! 俺はこれでお役御免か!」
「アンタは着いてこないのか」
「む! どうしたアイク! 寂しいのか! しかし、神はダンジョンに入れんのだ! すまんな!」
「そうか。では仕方ないな」
ふむ、そうなのか。それは知らなかった。
あと、決して寂しいわけでは無い。俺の精神年齢を何歳だと思っている。
「では、降りましょう」
「うむ!」
リオンさんの後に続き、エレベーターに乗り込む。
……しかし、どうやって動いているのだろうか、このエレベーターは。
少なくとも、ファンタジー的な力が働いていることは確かだが……いや、考えるだけ無駄か。
「神アグニ。今日のところは、1階層のみの探索で構いませんね?」
「ああ、それがいい! まず、慣れるところからだ! 構わんな、アイク!」
「勿論だ。俺は指示に従おう」
「よし! 流石だぞアイク!」
……なんか、さっきからアグニ神に幼児扱いをされている気がする。
いや、確かに子供ではあるが、そこまででは無いだろう。8か9歳だぞ。
小学生で言う2、3年生……いや、そう考えるとそのくらいが正解なのかもしれない。
だがしかし……まぁ、いいか。
羞恥心などドブ川にでも捨ててしまえ。どうせ起きたら忘れるんだ。
そんな事を考えているうちに、エレベーターが3階に到着する。
そこから階段を降りて、こちらをチラチラと振り返りながら別れを惜しむアグニ神を見送り、リオンさんの案内で受付に並ぶ。
……しかし、すごい視線の数だな。
まぁ確かに、覆面のエルフを侍らせた8、9歳の子供など、注目の的以外の何者でも無いわけだが。
「……気になりますか?」
キョロキョロと辺りを見回す俺を見かねたのか、リオンさんが心配してくれた。
覆面で表情はそこまで読み取れないが、その表情は平然としている。
恐らく、このような視線にはもう慣れているのだろう。
俺もアイクを目指すのなら、この程度のことで動じていては駄目だ。
「問題ない。もう慣れた」
「ッ……そう、ですか。不躾なことを聞きましたね」
「いや、気にするな」
構わんのだが、その一々過剰に反応するのは何なのだろうか。
それ、結構びっくりするのでやめて欲しいのだが。
「次の方」
「……空きましたね。行きましょうか」
「ああ」
リオンさんと共に、恐らく狼の獣人であろう受付嬢の前に……か、カウンターが高い……幼児化の影響が……!
「……冒険者登録かしら? リオン」
「はい。その通りです、ローズ。彼は【アストレア・ファミリア】ではなく、【アグニ・ファミリア】ですが」
「ふぅん、そう……ええ、承りました。……文字は書ける?」
「……文字か」
ローズと言うらしい彼女が、俺に問いかける。
……ふむ、どうなのだろうか。何故か今までこの世界のよく分からない言語が読めていたが、書くとなるとどうにも怪しい。
まぁ、やってみるだけやってみるか。
「……恐らくだが、書ける」
「恐らくって……まぁいいわ。はい、これ。台はその下にあるから、勝手に使って」
ふむ、台……ああ、これか。
カウンターの下にあった台を引っ張り出し、その上に乗る。
よし、これで書ける……いや、書けるか……?
「……なんだ、書けるじゃない」
なんか、書けてしまった。
いや、何で書けるのだろうか。俺の全く知らない言語が、何故かスラスラと出てくるのだが。
……まぁ、いい。神の存在に比べたら、この程度は些事でしかない。
しかしこれ、出身地とかはどうしたものか。
気付いたら此処に居たからな……まぁ、知らないと書いておくか。
「……ッ」
いや、だから、それやめろって。
突然やられると本当にびっくりするから……っと、終わったな。
「これで良いだろうか」
「……ええ」
ローズさんは俺の差し出した登録紙を受け取ると、サラリと紙に目を通しただけで、ポンと印を捺した。
「はい、これで登録は完了よ」
……え? 早くね?
いや、早い分には全然構わないのだが、それにしたって早くないか?
「で? アドバイザーは付ける?」
「いえ、しばらくは私が面倒を見ることになっています」
「……正義の使徒、【アストレア・ファミリア】の団員が?」
「ええ。アリーゼにダンジョンの巡回を兼ねれば大丈夫、と言われまして」
「そう。じゃあ、どうか気を付けて行ってらっしゃいませ」
登録の早さを受け、少々呆気に取られていたが、挨拶を受けて思考が戻った。
後ろを待たせないよう、急いで台から降り、再びカウンターの下に仕舞って、列を離れる。
その際、ローズさんから何やら意味ありげな視線を受けた気がするが、まぁ、気にしない。
「では、行きましょう」
そう言って歩くリオンさんの後を、小走りで追う。
こちらの事は気にもせずズンズンと歩いて行くので、こうでもしなければすぐに見失ってしまいそうだ。
時間にして10秒ほど移動すると、冒険者達が長蛇の列を作っているのが見えて来た。
リオンさんはそこの最後尾に並び、ようやく俺の方を振り返る。
「さ、これに並びます。そして……見えますか。あの下が、ダンジョンです」
ふむ、見えん。完全に身長が足りていないな。
ああいや、しかし、ジャンプすれば若干それっぽいのが見える。
……成程、あの大穴か。
「……アイク、進んでいますよ」
「……本当だな」
リオンさんに言われて見てみれば、既にリオンさんはかなり先にいた。
列を止めてはならないと、急いでリオンさんの元まで歩いて行く。
……どうやら、この列はだいぶ進みが速いらしい。
しばらく進んで行くと、ようやく大穴がはっきりと見える場所にまで来た。
大穴の中には、壁に伝うようにして螺旋状の階段が設置されており、どうやらそれがダンジョンにまで続いているようだ。
成程、ダンジョンというのは、思ったよりも地下にあるらしい。
「いよいよか」
「……ええ」
リオンさんに続き、螺旋階段を下りてゆく。
すれ違う冒険者達からは一様に驚愕の視線が向けられるが、全て無視だ。
「……アイク、まず最初に、これだけは覚えておいてください」
やっとダンジョンの床であろうものが見えてきたところで、リオンさんが振り返らずに言う。
声の質から察するに、どうやら相当大切な話らしい。聞き逃さないようにしなくては。
「……ダンジョンは、常に悪意を持って我々に接してきます。気の緩んだ冒険者を、疲弊した冒険者を、容赦無く殺しに来る……くれぐれも、気を抜かないように」
「わかった」
成程、そう言う心構えでいろ、という事か。
死地で気を抜くなど論外であるとして、確かに、疲れたからといってモンスター達が容赦してくれる訳が無い。
何せ、向こうも命がかかっているのだ。当然だろう。
──最後の一段を蹴り、ようやくダンジョンの地面に降り立つ。
壁と床は岩で覆われたその様は、まるでダンジョンと言うよりも洞窟のようだ。
だが、光源も無いというのに辺りを包むこの淡い光は、確実に常識では有り得ない。
間違いなく、此処こそがダンジョンなのだろう。
「……着いてきてください」
先を歩くリオンさんを追従しつつ、奥へ奥へと足を踏み入れてゆく。
……さて、先ずはチュートリアルだ。
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