ダンジョンで蒼炎の勇者を目指すのは間違っているだろうか?   作:かい

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圧倒的に一方的な模擬戦

 さて、ダンジョンを出てから、随分と歩いているわけだが、これは一体どこに行くつもりなのだろうか。

 この辺りの地理をほとんど知らない俺には、どうもわからん。

 ……というか、今思い出したのだが、そういえば俺、アグニ神の家の位置を把握して無かった。

 いや、ある程度の記憶はある。

 あるのだが、それを元にしてたどり着けるかと言われると、かなり難しい。

 さて、どうしたものか……っと、どうやら目的地に着いたようだ。

 リオンさんが急に方向を変え、通りに面した門の一つの中に入っていった。

 しかし、これは・・・館?

 

「こちらです」

 

 リオンさんの後に続き、館の中へ入る。

 ……いや、広いな。外観から大きいのはわかっていたが、中に入ると更に大きく感じる。

 しかも、滅茶苦茶に綺麗だ。これだけ大きいと掃除も大変そうなもんだが、埃一つ落ちていない。

 

「……あら?どうしたの、リュー?」

 

 俺が館の綺麗さに感動していると、鈴を転がすようなと言えば良いのか、涼やかで、透き通った声が聞こえてきた。

 声のした方を見てみれば、そこに座って居たのはまるで聖母の如き女性。

 ……しかし、ちょっと胸元空きすぎじゃ……って駄目だ!

 慌てて視線を女性の顔に戻す。

 ふぅ……危なかった。危うく解釈違いで死ぬところだった。

 アイクは女性の胸をガン見したりなんかしない。絶対にしない。

 もし見たとしても、それは何か理由があるからだ。邪な気持ちなど一切ない。

 

「突然失礼しました、アストレア様」

「それは良いのだけれど……その子が、どうかしたの? 多分、アリーゼが言ってた子でしょう?」

「……その、彼と模擬戦を行いたいと思いまして……」

「わかったわ。でも、やりすぎちゃダメよ、リュー。貴方はもうLv2なんだから」

「はい、わかっています……行きましょう」

 

 リオンさんはこちらを軽く一瞥すると、庭の方へと歩いて行ってしまう。

 ……いや、まだ俺がアストレア神に挨拶してないんだが。

 その場に立ち尽くす俺を見て、アストレア神が困ったような笑みを浮かべる。

 

「ごめんなさいね? 彼女、良い子ではあるんだけど、ちょっと潔癖すぎるところがあって」

「……それが彼女の長所でもあるんだろう。特に気にしていない」

「そう言ってもらえるとありがたいわ」

 

 アストレア神が立ち上がり、俺の方へ歩み寄ってくる。

 

「自己紹介がまだだったわね。私はアストレア。ここの主神をしているわ」

「アイクだ。恩恵はアグニ神より授かった……では、申し訳ないが、これで失礼する。あまり彼女を待たせるわけにもいかん」

「ええ、そうね。……頑張ってね」

「ああ」

 

 アストレア神に一礼し、リオンさんが出て行った扉の方へと歩いて行く。

 中を見てみると、どうやら庭に通じているらしい。

 そのまま扉を通り、扉を閉めようと後ろを振り返ってみると、アストレア神が手を振っていたので、軽く会釈を返してから扉を閉める。

 

「……何か、ありましたか?」

 

 奥の方に待ち構えていたリオンさんが、若干棘のある声で聞いてくる。

 

「いや、特に何も無かった。自己紹介をし合ったくらいだ」

「……そうですか。では、早速始めましょう。訓練用の木剣は、そこに」

「わかった」

 

 立てかけてあった木剣を手に取り、軽く振ってみる。

 ……まぁ、ロングソードよりは軽いと言ったところか。使うにあたって問題は無いだろう。

 しっかりと柄を握り直して、リオンさんの対面に立つ。

 勿論、構えはアイクと同じもの。半身になって、剣先は下げる。

 さて、模擬戦だ。ここでしっかりと戦闘の技術を身に付けなくては。

 

「……では、行きますッ!」

 

 そこから始まった模擬戦は、ただただ単純な繰り返しだった。

 

 木剣で強かに腹を打たれ、吹き飛ばされる。叱咤を受け、反省し、立ち上がる。

 強烈な蹴りが横顔を抉り、体を地面に叩きつける。叱咤を受け、反省し、立ち上がる。

 足を払われ、背中から地面に倒れる。叱咤を受け、反省し、立ち上がる。

 倒され、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。倒され、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。

 倒され、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。倒さる、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。

 倒され、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。倒され、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。

 倒され、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。倒され、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。

 倒され、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。倒され、叱咤を受け、反省し、立ち上がる。

 

 ただ倒される方法と叱咤の内容が違うだけで、これの繰り返しだ。

 途中、もう少し加減した方がいいかと聞かれたが、こっちの方がキツい分解りやすく、手っ取り早く戦闘の技術を得ることが出来る方法だったので、継続してもらった。

 実際そのおかげで、ほんの少しづつではあるが、リオンさんの攻撃にも対応できるようになってきたように思う。

 

「ふっ!」

「ッ!」

 

 腹目掛けて突き出された木剣を、体を捻って躱す。

 そして、そのまま体を引き戻そうとせず、足の位置を入れ替えて木剣を振る。

 

「ハァッ!」

「うぐっ!」

 

 しかし、その攻撃は体勢を低くすることによって容易く避けられてしまい、カウンターの足払いで顔面から転ばされる。

 ……鼻が痛い。しかし、体の方がもっと痛い。この程度の痛みは、もう慣れた。

 衝撃で放してしまった木剣を握り直し、立ち上がる。

 

「……アイク」

「次だ。頼む」

「アイク、もういいでしょう。もう十分です。これ以上は──」

「たっだいまー!!……って、何してるのかしら!?」

 

 リオンさんが何か言いかけたところで、快活な声が響いて来た。

 どうやら、アリーゼさん達が帰って来たらしい。

 見てみると、アリーゼさんが何やら血相を変えてこちらに走って来ていた。

 

「大丈夫!? リオンと何があったの!? 顔がもうボコボコよ!?」

「……ア、アリーゼ!? いや、これは、その……」

 

 顔に触ってみると、確かに感覚がいつもと違う。

 どうやら俺の顔は今、随分ボコボコになっているらしい。

 まぁ、あれだけ顔面ダイブしたり、顔面キックされたら、そうもなるか。

 ……しかし、これは拙いな。

 アイクのIKE面がボコボコになっているのは、かなりいただけない。

 水か何かで冷やせば治るだろうか。

 

「とりあえず、はいこれ飲んで!」

「わ、わかった」

 

 アリーゼさんの気迫に押されて、差し出されたガラス瓶の中身を飲んでみる。

 

「……おお」

 

 すると、全身の痛みが一気に引き、顔の腫れも治った。

 これはアレだろうか。所謂ポーションというやつだろうか。

 

「よし、これで元通りね! ……で? 何があったの?」

「大方、そこのエルフの頭に血が上って、と言ったところで御座いましょう」

「ちょっと、輝夜……で? どうなの?」

「……ッ」

 

 チラリと、横目でリオンさんを見てみる。

 リオンさんは、覆面越しにもわかる程、絶望の表情を浮かべていた。

 実際、ここに連れて来たのはリオンさんだが……まぁ、うん。ここまで付き合わせたのは俺の我儘ってのもあるしな。

 

「俺が彼女に頼んで、巡回を中断してまで模擬戦の相手をしてもらっていた。その時に容赦なくやってくれと言う俺からの要請に、答えてくれた結果だ」

「あら、そう?」

「おやおや、英雄志望様は、随分とお優しゅう御座いますねぇ」 

 

 輝夜さんが口を袖で隠しながら目を細める。

 上品な仕草だが、その雰囲気は明らかにドス黒い何かを纏っており、かなり怖い。

 

「……駄目よ、輝夜。この子がそうだって言ってるんだもの、きっとそうなのよ」

「……はいはい。わかりました」 

 

 アリーゼさんに宥められて、輝夜さんの雰囲気が戻る。

 ……しかし、これアリーゼさんもわかってる感じか。

 

「……もう一度言うが、これは全て俺が頼んだ結果だ。彼女に責めるところなど、何一つ無い」

「ええ、そうね。……で、リオン?」

「ッ!!…………はい」

 

 アリーゼさんに声をかけられた瞬間、ビクリとリオンさんの体が飛び跳ねた。

 

「どうだった? この子は」

「……凄まじいの一言に尽きます。教えたことをすぐに吸収し、実践して、瞬く間に成長する」

「あら! それはすごいわね! じゃあ、今日はもう遅いし、リオンに【アグニ・ファミリア】まで送ってもらうといいわ! 大体の場所はわかる!?」

「……まぁ、それっぽい特徴は」

「だったら大丈夫ね!」

 

 そう言って、俺たちの背中を押し、門の方へと歩いてゆく。

 

「……ありがとうね、リオンのこと」

 

 そして、門に着いたかと思うと、俺の耳元でそんなことを囁いた。

 ……これはかなり心臓に悪い。できれば次からは事前に言ってからで頼む。

 

「じゃあ、また今度ね!」

 

 手をブンブンと振るアリーゼさんに手を振り返し、踵を返す。

 そこでやっと気付いたが、すでに時刻は夕方だったらしい。

 これに気付かないとは、どれだけ模擬戦に集中していたんだ、俺は。

 

「……アイク」

 

 消え入りそうな声が上から聞こえた。

 

「なんだ?」

「……その……すみませんでした」

「いや、気にしないでくれ」

「しかし……私は……」

 

 ……ふむ。

 この人は多分、アレだ。結構引きずるタイプの人だ。

 であれば……こう言う時、アイクだったらどう声をかける……?

 

「……なぁ、明日はどうする」

「明日?」

「明日も俺に付き合うのか、巡回に行くのか」

「……明日は、巡回に行きたいと思います。貴方は、私が思っているより、何倍も強かった」

「……そうか。だったら、次に暇な時があったら、また同じように模擬戦を頼みたい」

「ッ……!」

 

 はいいつもの。

 

「ええと……いい、の、ですか?」

「ああ。アンタからは学ぶことがまだ残ってる。……嫌なら、別に構わんが」

「あ、い、いえ! ……その、是非……」

「……じゃあ、よろしく頼む」

 

 手を差し出し、握手を求める。

 

「ッ…………は、い。よろしく、お願いします……」

 

 随分と戸惑ったようだが、恐る恐ると言った具合に手を出して来たので、俺の方からリオンさんの手を握りに行くと、面白いくらいに体が跳ねた。

 そして、何かとんでも無いものを見るかのような目で繋がれた手を見ている。

 ……もしかしてエルフに、握手という習慣は無かったのだろうか。

 

 まぁ良い。兎にも角にも、次の模擬戦の約束を取り付けられたのは大きい。

 さて、じゃあ、アグニ神の元へ帰るとしよう。





 なんかウチの主人公が異常者だの何だの色々言われてるが、これは、まだウチの主人公がこの世界を『夢』だと認識してるからだ!
 だって仕方ないよね! 普通、転生も憑依も現実に起きるわけが無ぇんだもん!

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