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一話
「グスッ……行っちゃうの?」
ある施設の前で一人の茶髪の少女が泣いていた。その少女を慰める様にもう一人の黒髪の少女が一人の少女の肩を優しく握っていた。
二人の視線の先には銀髪の髪を持ち、エメラルド色の瞳を持った少女が悲しげに二人を見ていた。
「ごめんね……ずっと一緒にいられなくて……」
「ううん……大丈夫…」
泣くのを堪えながら、茶髪の少女は顔を上げる。少女のサファイアのような大きな瞳はしっかりとエメラルド色の目を捉えていた。
黒髪の少女も同じ様に銀髪の少女を見ると、少女は片手に二人から貰った三人で撮った写真の入ったロケットを握りながら後ろで待っていた迎えの車に乗り込む。空いた車の窓から少女達は顔を見合わせる。
「ーーまたいつか会おうね」
「うん…そうだね」
「約束も忘れないでね」
「うん」
そう言い、三人は寂しさを残しながら約束を残して別れて行った。
ーー10年後
巨大なクレーンが吊り下がり、多くの物資搬入が行われているのは港湾に浮かぶ一隻の超大型艦であった。多数の砲塔が取り付けられ、巨大な三連装砲が四基それぞれ背負い式に配置され、ハリネズミの様に機関銃や機関砲が搭載されていた。そんな巨艦の中、ガラスで覆われた艦橋の中にある一つの椅子に座り込んでいる一人の少女がいた。
銀髪の少女は上半身に白いダブルブレストのジャケットを羽織り、首には藍色のネクタイを着け。下半身は革靴に黒いタイツ、ストレートスカートを履いていた。
少女は目を閉じながらまるで瞑想をする様に静かに、少しも動かずにしていると艦橋に上がってきたもう一人の金髪の少女に声をかけられて目を開けた。
「艦長、全ての物資の補給が終わったってさ。いつでも出航出来るよ」
声をかけられ、意識が急激に戻った少女はクルリと金髪の少女の方を向き、声をかける。
「ええ、分かった。報告ありがと」
海軍の士官服を思わせる風貌をした少女は同じ様な格好をしている金髪の少女に返事をすると座っていた席を降りて、畳んでいた。
席から降り、カツカツと軍靴を鳴らしながら肩までスラリと伸びた銀色の長髪を持っている少女は艦橋を歩くと艦内無線の受話器を取って回線を開く。
「出航準備。各要員は配置に付け」
その直後、艦内のベルが鳴り響き。艦橋に幾人かの人が登ってそれぞれ配置に付く。
『砲術科、配置完了』
『航海科、同じく完了致しました』
『機関科、準備完了。いつでも行けます!』
「総員配置完了しました」
艦の運航に欠かせない人員の配置は完了した。後は出航するのみである。報告を受け、息を大きく吸った銀髪の少女は目線の先に広がる大海原を見ながら声を上げる。
「出航準備!前部員!錨鎖詰め方!出航用意!錨を上げ!」
その後に艦全体に響く様にラッパの音が轟く。
「機関、圧力一杯!」
『機関、圧力一杯!』
少女の指示の元、着々と出航するための準備が進む。
「両舷前進微速。赤黒なし。二四〇度宜候。モンタナ出航!」
野太い汽笛と共に戦艦モンタナは離岸してサンディエゴ軍港より出航する。水中では四軸のスクリューが回転し、ゆっくりと速度を上げて行く。
ここの港の特性上、タグボートを使用せずにどんな巨艦でも出航が可能だ。出航していく一隻の戦艦を岸壁から幾人かの生徒が帽を振って見送っていた。
そんな群衆の中の一人、パリッとしたスーツに身を纏った一人の初老の男性がモンタナ見ながらポツリと呟く。
「……頑張ってこい。俺の娘よ…」
モンタナ級戦艦
それは史実では第二次世界大戦の開戦や航空主兵論の台頭によって一隻も完成することの無かった巨艦である。
基準排水量63.221トン。
全長281.94m。全幅36.7m。
主砲に50口径16インチ三連装砲を四基搭載し、54口径5インチ連装砲を十基搭載。その他にも多様な機関銃を装備している。
最高速力は28節。
もし建造されていてばアメリカ合衆国が最後に建造する最強の戦艦になるはずだった。
サンディエゴ海洋学校
アメリカ海軍の主要基地であるサンディエゴ海軍基地の一角を借りて創設された海洋学校である。女性の憧れの仕事であるブルーマーメイドへの階段をほぼ確実に登れるこの学校はアメリカでも高い人気を有している。
ブルーマーメイドとは、海の治安を守る女性だけで構成された組織。女子学生にとって花形の職業である。
国際機関であり、本部がハワイのニイハウ島に、中央管制機構として東京湾上にブルーマーメイド統合管制艦がある。
そしてブルーマーメイドを育成するための学校は世界中に存在し。私、サクラ・A・ミヤマ・ファーゴはその中の一つ。サンディエゴ海洋学校女子部の二年生の生徒だ。サンディエゴ軍港所属のモンタナ艦長を務め、現在留学の為に日本に向かっている途中である。
「ーー航海は極めて順調よ」
「うん……了解」
タブレットで現在の位置と進路予想図を見せながらこのモンタナの副長であり、親友のケイリー・ウィリアムズが言う。艦橋にはブルーグレー色の水兵服を着用した同級生達がそれぞれ指揮を取っていた。
現在、舵を取っている航海長のエマ・クラーク。
艦橋の外をボーッと見ている砲術長のルイーザ・J・ホワイト。
船体内の機関室で罐の調子を見ている機関長のクレア・ミラー。
ケイリーにタブレットを持って行かれた書記のネル・ウィルソン。
現在艦橋にはクレア以外の五人が居た。ここにいる全員が二年生であり、操艦も慣れたものである。
主席入学であるサクラを筆頭に全員の仲はとても良いと言えよう。今まで問題も起こさず、今回の日本留学だってクラスの功績があってのものである。
モンタナクラス四一名は進路を西に取り、日本の横須賀を目指していた。
「日本か……」
「あ、そういえば艦長は日本に住んでいたんでしたっけ?」
ふと、海を見ながら呟くとエマがサクラに聞いた。
「ええ、昔ね……」
とても懐かしそうに答え、艦橋にいた全員が思わずホッコリしてしまう。普段は少々手厳しかったりする艦長だが、甘い時は甘いメリハリのある性格を持ち、この性格からクラスメイトからも信頼を集めていた。
今回の進路は途中でブルーマーメイド本部のあるハワイの真珠湾に補給の為寄港し、補給を受けた後に横須賀までノンストップで向かう予定だ。
自分たちが乗る戦艦モンタナは今回の日本留学の為に各所に試験運用の為の新装備が取り付けられていた。
おそらくはブルーマーメイドや日本政府に売り込む為だろう。その為の訓練も含めてここ数ヶ月はとても忙しかった。
「やれやれ、仕事が増えるのも難儀なものだ……」
「まぁまぁ、それだけ信頼されているって事で良いでしょ?」
「そうなんだけどもねぇ……」
「んにゃ〜」
すると最後にサクラの足元に白黒ハチワレの猫が擦り寄ってきた。サクラはその猫を頭を撫でながら表情が少し緩みながら猫に向かって言った。
「マシューもそう思うか?」
ゴロゴロと声を上げながらマシューと言われた猫はサクラの前でゴロンと転がり、サクラと戯れていた。
マシューと戯れながらサクラはケイリーに聞く。
「横須賀までは後どのくらい掛かる?」
「ざっと見積もって二週間くらいかな……」
「そう……」
航海長のエマから予定を聞き、サクラはそのまま艦橋を後にする。
「じゃ、私は見回りをするから。後はよろしく」
「OK、任せといて」
ケイリーがそう答えると私はそのまま艦橋にあるエレベーターのボタンを押して下に降りて行った。
エレベーターを降り、機関室のある場所に向かう。
「やあ、どうだい」
「おー、艦長。バッチリよ」
そう言い、けたたましい音を立てながら動く機関部を見せながら機関長のクレアがサクラを迎える。
「いやぁ、やっぱウェスティングハウス式ギアード蒸気タービンは良い。出力も高いからな」
そう言い、機関室からタービンを愛でているクレアを見て、『ああ、いつも通りだ』とやや引き気味に思いつつ、異常はなさそうに思いながら機関室を後にする。
次に向かったのは艦内にある医務室だ。戦艦と言う事や、280メートルもある船体の関係で通常よりも医務室は広くなっていた。元々三〇〇〇人近い人員を必要としていた戦艦をたった四〇人で運用できる様に極度に自動化された影響だ。クラス全員が風邪をひいても余るほどベットが存在している。
某CMを真似たわけではないが『100人乗っても大丈夫‼︎』と言える位にはこの艦は余裕があった。
医務室に入ると部屋の患者用ベットで寝ている白衣を着た少女を見てややため息を吐きながら肩をトントンと叩く。
「シア、起きなさい」
「んー…後10分だけ寝かして……」
「そう言って何時間寝る気?」
そう言うとやや諦めた様子でベットから一人の少女が顔を上げる。常に眠たげな様子の彼女はモンタナの船医を務めているシア・コトーだ。シアは顔を上げるとそのままのっそりとした動きで医務室の椅子に座る。
「じゃ、また来るかもだから」
「ハイよー」
よれた白衣を着たままシアはそう答え、サクラは次の視察場所に向かう。
次に向かったのは食堂だ。船乗りのほぼ唯一の楽しみである食堂。食堂奥の烹炊場では大鍋に具材を入れて何かを煮ている様子の炊事員のカミラ・オタルだった。
「あ、艦長。また見回りですか?」
「ええ、そうよ」
そう言い、良い匂いのする厨房を見ているとカミラが小鉢に何かを盛り付けて渡してきた。
「艦長もどうぞ。試作で作ってみたミートスープです」
「ありがとう」
そう言われ、今日の昼食に出すと言うスープを少しだけ貰った。試しに飲むと肉の旨みが良く出た美味しいスープだった。
「おー、これは良いね」
「そう言っていただけで光栄です」
小鉢を返しながらスープの感想を言い、感謝をするとそのまま食堂を後にした。
「ええっと……次で最後だな…」
サクラは指を折りながら今まで巡った場所の確認をするとエレベーターのボタンを押した。
最後に来たのは後部甲板だった。スキッパー用のクレーンや多種多様な銃座や砲塔が置かれている中、艦尾近くのひらけた場所に布で包まれた四つの大きな物があった。そして、その二つの大きな物の周りで部品や何かを確認している生徒たちが居た。するとタブレットを片手に持った黒髪の生徒がサクラに気づき、声をかけた。
「おお、艦長!来たんですね」
「ええ、当たり前よ」
サクラに声をかけたのは主計長のエリー・マーブルだった。エリーはサクラと一緒に布に包まれた大型の荷物を見て、タブレットで予定を確認していた。
「取り敢えず、この後のハワイでの補給の時に二つ降ろされるわ」
「じゃあ、少しは広くなるわね」
「そうね、コイツのおかげでバスケットが出来ないってみんな文句を言っているわ」
「それはしょうがないわよ。皆んなこの船の持ち主が誰何かも分かっているでしょうに……」
「まぁ、アイオワ級とモンタナ級はね……」
二人はそんな事を話しながら甲板に並ぶ影を眺めていた。