「それじゃ、スーは行く!」
その日、荷物を持ってスーザン・レジェスは自分の荷物を持って立ち上がる。
少し前、彼女は真白達の手によって中等海洋学校への進学が推薦されることとなり、皆で盛り上がったものであった。
ただ、そのやり方がアメリカ側や国土保全委員会が隠蔽しようとした情報を使って、真雪が強請っていた為に事情を察した全員が苦笑したわけであるのだが…。
「一時帰国とはいえ、やっぱり寂しいよ〜」
「いっそのこと晴風でスーちゃんの国まで送って行きたかったね」
「船の修理終わってないけどねー」
ほまれや伊良子は名残惜しそうにし、西崎は修理中の晴風の事を思いながら現実を突きつける。
「またすぐ会える!」
「そうだね」
彼女のパスポートは海賊側が用意した偽造パスポートであり、彼女は一時帰国した後に正式な旅券発行を受けて日本に戻ってくる予定であった。
公式な書類で日本に訪れることとなるため、今度は心置きなく出迎えることができるようになる。
「ブルマーの艦に乗せてもらえるんでしょ?いいなー」
「スーも楽しみ!」
宇田にスーも頷く。これから安全のためにブルーマーメイドの艦艇に乗り込むため、そのことを少し羨ましいとがられていた。
「真冬さん」
「ん?」
そこで明乃は彼女を迎えに来た真冬を見る。
「スーちゃんのこと、よろしくお願いします」
「おう、任せときな」
任された彼女であったが、そこで少し笑いながら言う。
「まぁ乗せてくのはアタシの艦じゃないけどな!ヤボ用ついでに迎えに来ただけで」
「違うんかーい」
納沙からそこで呆れられてツッコミを入れられると、他の生徒達もジト目で真冬を見ていた。まぁ彼女らしいといえばそうなのだが…で全て終わってしまうのがなんとも言えぬところであった。
そして彼女に回収されたスーはブルーマーメイドの艦艇に乗り込んで行った。
その後、晴風乗組員達は艦艇の修理や授業などを消化していく。元より春先のRATt事件で色々と皺寄せで月月火水木金金のような忙しささえあった晴風クラス。今回の海賊事件でさらにカリキュラムに遅れが出始めていた。
「…お休み?」
そんな中、明乃は船内教室でその話を聞いて首を傾げた。すると教壇に立つ古庄は説明をする。
「海賊事件の後始末で授業が止まっていたとはいえ、生徒であるあなた達にも艦の修理も含め様々なことに協力してもらいました」
損傷が特に大きな晴風はマストの交換や電子装備の新装備。損傷した装甲板の交換など、ドックに入っての整備が行われており、功労艦でもある晴風は特に優先して修理が行われていた。
「艦の修理もあとわずか。近々、新たに組み直した授業と演習が再開されます。そこで、」
古庄は今回の特別休暇の詳しい事情を説明する、
「本格的な授業再開前の今、『事態収集に努めた生徒には休日を与えて然るべき』との決定が下ったの。
日程は四日後の日曜日から八日間。一度実家に戻るなり、趣味に興じるなり、羽目を外しすぎない程度に羽を休めること」
彼女は担当の晴風クラスに言明する。
「連絡は以上。休みに入るまで、残りの数日は各自与えられた作業に力を尽くすように」
そう締めくくると、彼女は教室を後にした。
「やったーーお休みだーー!」
その直後、駿河が嬉しそうに両手をあげてこの特別休暇に万々歳していた。
「気楽ねぇ」
「嬉しくないの?」
そこでため息混じりに懸念を抱く等松の呟きに内田が首を傾げた。
「ちゃんとした休みなんて久しぶりだよね」
「…お休み自体は嬉しいんだけど」
知床に等松も頷く。そもそもこの近頃の忙しさで誰しもが
「これまでのトラブルで授業は確実に遅れてる。その皺寄せが来るのはこれから。そのタイミングでまとまった休みが与えられると言うことは…」
「月月火水木金金」
美波がゲンドウポーズでその懸念を口にする。
「…それってつまり、この休みが明けたら…」
「年中無休」
西崎は狼狽え、立石は目元を暗くさせる。これからカリキュラムの皺寄せでまともに休みがなくなるという予測に駿河達は叫ぶ。
「「「死ぬ気で休もう!!」」」
「そこまで極端なことはないだろう」
そんな彼女達に真白は冷静になってツッコミをかけた。
「確かにミミちゃんの考えにも一理ありですが、リンちゃんの言うとおり、ちゃんとしたお休みは久しぶりですし、今回の件はただのご褒美だと思います」
納沙も今後の予定や、すでに始まっているであろうカリキュラムの見直しを前に真白と似た意見に落ち着く。
「まぁ実際のところ、授業開始後のお休みも少しずーーつ削られてはいるでしょうけど」
「じゃないと間に合わないもんねー」
伊良子はそこで頷く。しかし実際の問題として、本来一年生で済ませるはずの一部教育課程は後回しにしてでも消化しなければならない海洋実習は残されていた。
「お休みかぁ…」
「艦長、なんか予定ある?」
唐突に与えられた休暇に、明乃はやや天井を仰いで考えていたところを西崎に聞かれた。
「まだないよー」
「そりゃそっか。今聞いた話だもんねー」
彼女も自分でも何も決まっていないことを思い出した。すると明乃の携帯が震えて、そこで届いたメールを確認して席を立った。
そして彼女は艦を降りると、そのまま校庭を走って待っていたもえかの元に駆けつけた。
「もかちゃーーーん」
大きく手を振って明乃は言うと、もえかも軽く手を振って答えた。
「お休みの話聞いた?」
「うん」
そして合流した二人はそのままゆっくりと校庭を歩き始める。
「書類仕事とかで忙しかったから、お休み嬉しいよー」
「ふふっ、大変だったもんね」
元々書類仕事が大の苦手である明乃は、ここ最近の艦艇の修理に必要な物品の搬入許可のサインから、事件の始末書・顛末書・報告書の三セットを書く必要があった。特に後者に関してはブルーマーメイドから強く求められており、明乃と真白は書類仕事に忙殺される日々を送っていた。
「それでね、さっきサクちゃんとも話していて、休日の予定ちょっと考えてみたの」
「わぁっ、どんな?」
もえかの提案と聞き、明乃は目を煌めかせた。
「
そこで彼女は明乃に提案をした。
「私たちも里帰りしてみない?」
「里帰り…?」
彼女の口から出た意外な提案に明乃は目を丸くする。
「うん」
もえかは頷くと、サクラが提案してきた今回の旅行の話をする。
「場所は呉。私たちが出会って、育った養護施設。雫さんにもしばらく会っていないし、いい機会かなって」
そこで彼女の脳裏には、三人が出会った養護施設の景色が浮かんだ。
「いい!いいかも!」
そんなもえかからの提案に、明乃は頷く。
元々、彼女達は両親がいなかった期間が長く、『家族』をあまりよく分からずに育ってきた二人であるため、こうした『家族らしい』行動に憧れを持っていた。
「そういえば高校に入ってから雫さんにお手紙も出せてなかったよ。元気かなー、雫さん」
「もう一つ理由があってね」
もえかはそこで付け足すように明乃に言う。
「スーちゃんのお父さん探してるんでしょ?」
「うん」
そこで明乃は少し前に日本を離れた親友を思い出す。旅券が正式に発行されるまでの期間帰ってはこないので、少し待ち遠しく思っていた。
「日本のどこにいるのかわからないみたいだし、広い範囲で情報を集めたほうがいいと思うの」
もえかはそこで以前に明乃から聞いていたスーの来国目的を口にする。祖国で病魔に臥した家族のために、出稼ぎに来ていると思われる彼女の父親を探しに来ていたのだ。
「雫さんなら顔も広いし、協力してもらえれば頼もしいんじゃないかと思って」
「そっか!確かに横須賀だけで探すより可能性あるよね!」
孤児を預かる養護施設という事でそもそもの数が少ないことから、それだけ広い範囲をカバーするためにそうした支援団体にも顔を出しているだろうと推測していた。
「ありがとっ!さすがもかちゃん!」
「ふふっ」
そんなもえかに明乃は飛びつくと、彼女の役に立てた様子にもえかも充足感を感じ取った。
「よーーしっ!連休は呉にレッツゴー!」
「おー♪」
そして二人は呉に帰郷することにノリノリであった。
その頃、モンタナでは艦長室でスーツケースにサクラは荷物をまとめていた。
「旅行?」
「ええ、里帰りをってね」
八日間分の荷物をまとめる彼女は、そこでアメリカらしい土産物も同封していく。
「へぇ、粋なことできるんですね」
「おう表出やがれ。ビンタだコンニャロー」
彼女はそう言い、話しかけていたケイリーに軽く不満げに返してからスーツケースに必要な荷物をまとめて蓋を閉じる。
「色々と船内装備借りていくわね」
「了解。貸出書類にサインだけお願いね」
頷くと、留守を預かることとなるケイリーはサクラの詰め込んだ荷物を見る。
モンタナ船内には多くの移動用の機材が用意されており、その中には
普段は船内の移動用やヘリコプターへの武装装備などで使用しているが、日本のナンバープレートも装備可能な改造が施されていたので、今回の旅行で使用する予定であった。
「お菓子?」
「ええ、アメリカにも日本にも同じのはあるけど、微妙に違ったりするでしょう?」
「ああ、オ○オは日本のはクッキーが分厚かったしね」
サクラの指摘にケイリーは頷く。見覚えのあるパッケージに嬉しくなって試しに買ってみたが、本国のものと微妙な違いがあって面白かったものだ。
「そそ、滅多に海外の食べ物なんてないだろうし、お土産にはいいかなって」
そう言い、荷物の中に詰め込まれたアメリカのお菓子類を見ながらスーツケースを閉める。
「しかし、あのスーちゃんは帰国ですか」
「そりゃあね。一応不法滞在者になっちゃう訳し…」
軽く運んでいく荷物をまとめた彼女は、そこで先の海賊事件によって数奇な運命を辿ることとなった少女を振り返る。
「じゃあ、出かけてる間は頼むわよ」
「お任せあれ〜」
ケイリーは頷くと、これから呉に向かうことになるモンタナ艦長を見た。