「呉…ですか?」
「うん!」
図書室で話を聞いていた真白は驚いた様子で明乃を見た。
「昔暮らしてた児童養護施設が呉にあってね、今度の連休に里帰りすることになったの」
「なるほど、良いじゃないですか」
真白は明乃の話を聞いて帰郷を予定していた彼女にそんな感想を漏らした。
「久しぶりなんでしょう?」
「うん」
中学校に上がって以来、一度も行くことがなかった呉の養護施設に行くことに明乃は見てわかる通りに浮き足立ち始めていた。
「あ、そうだ!」
そこで明乃は思い出したように真白に提案してきた。
「よかったらシロちゃんも一緒に行かない?」
その提案に彼女は一瞬固まってしまった。
「…え!?私ですか!?」
「うん!」
驚く真白に明乃は頷いた。
「えへへ、実はもかちゃんやサクちゃんとも話してたんだ」
彼女はそう話し、事前に同じ養護施設出身の二人に真白を連れて行きたいという話をしており、了承をもらっていた。
「雫さん…あ、呉の寮母さんなんだけど、雫さんにみんなのことも紹介したいってね」
そう言い、彼女は真白を見る。
「なんたってみんな家族だから!」
変わらない彼女の合言葉。あの航海で何度も聞いた彼女のアイデンティティだ。
「家族…そうですね」
真白はそんな一途でもある揺るがない彼女の考えの根底を振り返り、彼女の行動にもそれが現れていると思った。
「誘っていただきありがとうございます。知名艦長やファーゴ艦長にもお礼を言わないと」
「それじゃあ…!」
明乃は真白の反応を見てついてくるのかと目を輝かせるが、そんな彼女に真白は申し訳なさそうに答える。
「あっ…いや、その、すみません。気持ちはとても嬉しいんですが、実は私も一度実家に戻る必要がありまして…」
「そうなんだ…」
真白は先約があることを申し訳なさそうに伝えると、明乃もそればかりは無理である上に、実家ともなるととても大事であることは彼女は理解していた。
「残念だけど仕方ないね」
残念そうにしていた彼女を見て、真白はそこで明乃に言う。
「あのっ、次にまた休みができたら、その時はご一緒させてください。
他のみんなも連れて遊びに行きましょう」
真白はそう言うと、明乃も喜んで頷いた。
「うん!楽しみにしているね!」
彼女は頷くと、数日後の出発に備えた。
そして迎えた特別休暇…の前日の放課後。
「お待たせ〜」
休暇を余すことなく使うために放課後からフェリーに乗って呉まで向かう予定であったので、猿島フロートで明乃達はサクラと合流するために校庭で待っていた。
する遠くからエンジン音を轟かせて日本のナンバープレートを針金で取って貼り付けた様に固定された
「お、お姐ちゃん、それって…」
「ん?モンタナの装備品。申請して借りてきたの」
「へぇ…」
そこで二人は淡々と言われたことに顔が引き攣る。
この車両は、元々船内が広いモンタナでは乗組員の移動手段として用意されており、同時にヘリコプターへのパイロット移動や兵装運搬などにも利用されていた。元々は歴とした車であるため日本の法律に合わせてプレートナンバーを持ち出し、車体に取り付けて移動できるようにしてあった。
それを今回は諸々の書類審査を通り抜け、モンタナから降ろして移動用に使おうとサクラは提案したのだ。
「運転できるの?」
「じゃなかったらこの前スーちゃんと泊まった時にキャンプ用具運べていないでしょ」
「あそっか!」
指摘をされて明乃はその時にこの小型トラックを使用していたことを思い出して驚いていた。そしてその後に明乃は車両を見回して言った。
「えぇ〜、運転中丸出しじゃん!」
そこでボディーはおろか、シャーシしかないような一枚板の敷かれた荷台を見て言った。そこでサクラは明乃に言う。
「大丈夫。そんなに飛ばさないわよ。そもそもコイツ、最大速度で四〇キロまでしか出ないし…」
「ふふふ、これはすごいね…」
そんなサクラが乗ってきたフレームしかないような車両を前に表情を引き攣らせながらスーツケースを乗せながら、これまた取って貼り付けたような座席に座ると、明乃は不安そうに見ていた。
「大丈夫?動く?」
色々と大事な部分もないような気がしてならない車両に不安を取り除けずにいると、サクラは言う。
「これでも一〇〇〇ポンド載せれるのよ?余裕よ」
「…ごめん、私ポンド分かんない」
「大体四五〇キロくらいだよ」
明乃はポンドが分からず、隣でもえかが簡単に計算をしていた。
「よし、シートベルト締めた?」
「締めたよ」「OK」
そこで二点式の古いシートベルトで二人は体を固定すると、サクラは確認してからアクセルを踏んで猿島フロートを後にして横須賀港に向かう。
その後、明乃達は横須賀港で呉まで向かうカーフェリーのチケットを取ると、船内にトラックを停めてから甲板に上がった。
「天気良し。海も穏やか…」
そして陽の落ち掛けている甲板に明乃は出て両腕を大きく広げた。
「絶好の夜間航海日和だね」
「明日のお昼頃にはつけるかな?」
隣でもえかが言うと、後ろから荷物を纏め終えたサクラが出て話しかけてきた。
「…宗谷さん、一緒に行けなくて残念だったわね」
「うん。でも次はみんなでいけるよ」
明乃はそう言うと、次々と妄想が膨らんでいく。
「その時は武蔵とかモンタナの子とかも誘ってさ!」
「すごい人数になりそう」
「私、その時日本にいるかな…?」
そんな彼女の提案にもえかは笑い、苦笑気味にサクラは答えると、三人は船内に戻ってトランプを使って遊だり、課題をこなして時間を過ごした。
翌日になり、カーフェリーからサクラの運転する車両に乗り込んで三人は目的地に向かう道路を走る。
「うわぁ…懐かしいわね…」
「あの駄菓子屋さんとか、まだ残ってたりするかな〜?」
道中でそんな昔話に花を咲かせながら、運転中の車両から直に吹きつけて来る風に今までにない感覚で笑い合いながら車は目的地に到着する。
「見えた!」
そこで囲われたコンクリートブロックを見ながら明乃が車を降りると、もえかも付いて行く。
「懐かしいなぁ」
「変わってないね」
そして二人は先に門をくぐった。
「あっ!」
すると明乃は施設の前で待っていた人物を見て小走りで駆け寄った。
「雫さん!」
そこでこの児童養護施設の寮母の岡峰 雫は駆け寄って抱きついてきた明乃に昔と変わらずに優しく抱きしめた。
「ただいまっ!」
「お帰りなさい。久しぶりね」
ここを出ていった孤児の久方ぶりの帰郷に岡峰も嬉しそうにして明乃達を見た。
「待ってたわ」
「ただいま。ご無沙汰しています」
もえかもそこで岡峰に抱きついた明乃に微笑ましく見ながら挨拶をすると、
「おかえり、もえかちゃん。すっかり大人になって…」
そこでとても落ち着いている様子のもえかを見て岡峰は言うと、胸元で明乃が聞いてきた。
「ねえねえ私は!?」
「明乃ちゃんは変わらず元気ね」
「えぇーっ、私も変わったよー!」
実質変わっていないと言われたような気がし、明乃は反論気味に声を上げた。
「お久しぶりです」
すると車を施設の中に入れて降りてきたサクラが挨拶をしてきた。
「久しぶり。春の時は申し訳なかったわね」
「いえ、春先はお忙しかったでしょうから」
岡峰はそう言い、春先に日本にサクラが入国をした際に連絡を入れたことについて軽く謝罪を受けた。
その後、荷物を持って施設に入ると、そこで岡峰はこれまでの話を一通り明乃達から聞いた。
「そう…」
そこでRATt事件や海上要塞の事件の諸々の話を聞いた彼女は、予想以上の苦労に労いをする。
「入学してからも色々大変だったみたいね」
「大変も大変。大変だったよー」
明乃はそう言い、その苦労を前にため息を漏らす。
「とにかく後始末の報告書諸々が…」
「そっちのほうがね」
「まあ、そりゃあね…」
もえかとサクラは苦笑気味に明乃を見た。元々、読書感想文などの作文系が大の苦手であった明乃はまさに地獄絵図であった。
「とにかく、無事よかった。頑張ったわね、三人とも」
岡峰はそんな苦労をしてきた彼女達にそんな労いの言葉をかけた。
そしてその後も彼女達は軽く世間話をしながら、もえかがここのきた理由の一つをもえかが話した。
「それから、スーちゃんってこのお父さんの件ね」
それは孤児院が使うデータを人探しに使おうと言う萌香の提案だった。
「私の方でも情報を集めてみるから、何かわかったら連絡するわ」
「ありがとうございます」
事情を聞き、岡峰も快く承諾してくれるともえかは感謝をした。一時はサクラが『親父の情報網でも使ってみる?』と言ったときは流石に二人して苦笑していた。国家権力をそんなことに使い分けにもいかないだろうと明乃達は正常な判断をしてお断りさせてもらっていた。
「あっ、そうだ!」
その時、明乃は思い出したように席を立つと、もえかとサクラを連れて用意された部屋に入った。
「ちょっと待ってて」
「?」
そこで彼女は実に楽しみな様子で言うと、その後に少し部屋の中でガタゴトと音を立てた後に三人が出てきた。
「ジャーン!」
そこで出てきたのは横須賀校のセーラー服と士官服、サンディエゴ校の士官服に身を包んだ明乃達。
「あら、横須賀とサンディエゴの制服ね」
特にサンディエゴという海を越えた学校の制服を前に岡峰は物珍しそうにその制服を見ていた。
「よく似合っているわ」
「えへへ、雫さんに見てもらいたくて持ってきたんだ」
そんな彼女達を見て岡峰も嬉しそうにする。
「…改めて、入学おめでとう。ここで育った子はみんな私の自慢よ」
彼女はそう言い、無事に養護施設を後にし、こんな風に制服を見せてくれたことに成長を感じていた。
「ねぇねぇ、雫さんも着てみる?」
「えぇっ!?それは流石に…」
すると明乃の提案に岡峰は驚いて彼女を見た。
「ふふっ、どれが良いですか?」
「最近はそう言うのも流行っているみたいですよ?」
「もうっ、もえかちゃんにサクラちゃんまで!」
その提案にもえかや明乃も乗っかったことで岡峰は少し恥ずかしさから少し声を荒げてしまった。