突如として魚雷攻撃にあった日本の横浜のフロート。
二発の魚雷の直撃を受けた事に対し、日本政府は公式声明にて『これは国家への襲撃であり、領土攻撃と判断。この事態に対し、日本政府は厳格な対応をとる』と宣言。また同時に海上安全整備局と国土保全委員会に対し、事態を防げなかったことへの追及と非難を行った。
「ーーでは、我々はこれで失礼します」
長野にある首相官邸。そこで日本国首相は、事態説明のために横須賀から訪れたブルーマーメイド幹部を見送った。
その後ろ姿は弱々しく、憔悴している様子を隠しきれていなかった。
先のフロートはの魚雷攻撃は、沈没こそしなかったものの、日本の領土と認められている海域での攻撃であり、またフロートへの攻撃は日本本土の攻撃であると既に想定されていた事案であった。
故に日本政府は時間がすぐに海上安全整備局に対し、事態の収集と状況説明を強く求めた。
「全く…あれほど権限と資産を与えていると言うのに…」
そんな部屋を後にしたブルーマーメイド幹部に対し、同室にいた商工大臣がぼやいた。
ブルーマーメイドやホワイトドルフィンを傘下に収める海上安全整備局は、加盟国の分担金によって賄われている。金額は加盟国のGDP値によって変化し、一番多い順からアメリカ、日本、EUの順に分担金を多く払っている。
日本の場合は特に、女子海援隊と言う現在のブルーマーメイドの基軸戦力となる組織がいたと言うことから一部捜査権限などの権限も与えていた。
「この際仕方ないでしょう。かの組織は確かに海上の安全を確約した組織なのですから」
環境大臣が口を挟むと、彼女の海上安全整備局を擁護する言い方に閣僚の名でも反応が分かれた。
「RATt事件の時、あの組織は隠蔽しようとしたのだぞ?今回の情報も、本当に信用できるのか?」
そこで外務大臣が苦言を呈す。
数年前、日本中を震撼させ、自国の海軍力増強とブルーマーメイドの存在意義を問われる事となったRATt事件。あの時、海上安全整備局上層部は失態を隠すために当時参加していた航洋艦が叛乱を起こしたとして、事件を有耶無耶にしようとした。
その後の海上要塞占拠事件でも、かの組織は十分な情報共有をアメリカと行なっておらず、それによりアメリカ海軍が管轄海域沿岸まで接近する羽目となった。
あのRATt事件以降、事件の中心となった武蔵を始め大和型戦艦は全て日本帝国海軍に返還を要請。アメリカ・イギリス・ドイツなどと共同歩調をとって海上安全機構から条約失効後の戦艦を奪い返した。
そのような過去があり、また裏で何か事態を隠しているのではないかと言う懸念に総理大臣が答える。
「既に特高も動かしている。時期に情報も掴めるはずだ」
総理大臣も、自分たちの預かり知らぬところで海上安全整備局が動き、尚且つ内政干渉とも取れる強い権限を行使しての交渉に眉を挟ませていた。
「全く、分担金を支払っている分だけの仕事はしてもらいたいものだ」
農務大臣は忌々しそうに口にすると、総理大臣は聞く。
「大蔵大臣。来年度の予算案だが…」
「はっ、今後は削減をすることも視野に入れた予算案を制定させます」
「ああ、その方向で頼む。それでだが此度の一件。我が海軍を出すべきかね?」
その時に国防大臣が言う。
「総理、諸外国から弱腰と見られる姿勢は、断じて避けるべきです」
国際的にも日本の領土として認められているフロートへの攻撃。実質的に本土襲撃として日本政府は緊急事態法を発令し、戦時内閣への移行も視野であると海軍出身の国防大臣は強く進言する。
「ここは一刻でも速く、敵の拠点を割り出し、戦艦による攻撃を行うべきです!」
二発の魚雷による攻撃は、既に無視できない経済的損失を出していた。
日経平均株価も、開場以降大幅な値下げを記録していた。
「しかし襲撃犯がまだわかっていない。迂闊に動けば、逆に海上安全整備局から顰蹙を買うぞ?」
「そもそも魚雷攻撃をしたのは誰なのか。これは彼らに任せきりにするのも、国民感情の上でも避けるべきです」
そう進言したのは内務大臣だった。彼は二発の魚雷攻撃を受けた際、同地にいた人々から潜望鏡を見たと言う証言があることを既に掴んでいた。
「状況から判断して潜水艦、若しくは潜水艇による攻撃が妥当でしょう」
「しかし現場の当時の状況から、潜水艦による侵入は不可能と断定します」
内務大臣と国防大臣による説明を受け、総理大臣は聞く。
「では潜水艇による攻撃となるか?」
「恐らくはそうなるかと」
国防大臣は総理大臣の質問に頷く。
「…」
総理大臣はそこで考える。
これは海賊が行ったテロ行為か、はたまた武装組織が行った軍事的行動なのか。それによっても国としての対応は大きく変わることとなる。
「我々は如何なる攻撃も容認しない。その為にまず、国民への説明と対応策を考える。総務大臣、至急国土保全委員会に連絡を。この後の予定は、全てキャンセルだ」
「分かりました」
そこで総理を中心に閣僚たちは己の職務を遂行した。
そして首相間であの廊下を歩く総理大臣は内心吐露する。
「(全く、面倒な時代に生まれたものだ…)」
その時、太平洋の洋上にてとある艦隊に一機の
『着艦します』
「うむ」
機内では一人のブルーマーメイド隊員が乗り込んでおり、洋上を進む
現在、ヘリコプターを大規模運用している海上安全機構では、アメリカの大量製造した飛行船母艦であるエセックス級を参考に全体の設計を近代化したヘリ空母を運用していた。
航行海域は公海上である為ホワイトドルフィンが運用を行っており、このようにハワイなどから離陸したヘリコプターの移動する補給拠点として整備されていた。
「お疲れ様です」
ブルーマーメイド所属を表す赤白の塗装の施されたヘリコプターを前に艦長兼艦隊司令が敬礼をする。
「ご苦労」
降りてきたブルーマーメイド隊員も敬礼で答えると、そこで早速給油を行う様子を横目にホワイトドルフィン隊員と話す。
「まさか貴女が来られるとは予想外でした」
「何せ喫緊の問題でして、現場から直接指揮を取ることとなったので」
艦長と話すブルーマーメイド隊員は、ハワイ王国の海上安全機構から派遣される人間で、尚且つそれなりに中でも著名な人物であった。
「サクラ二等保安監督官」
専属のパイロットがサクラに声をかけると、彼女はそれに軽く反応してから艦長に言う。
「では、私はこれで」
「ええ、分かりました。お気をつけて」
軽い談笑を済ませ、離陸していくヘリコプターを艦橋から眺める艦隊司令。
「サクラ・A・ミヤマ・ファーゴ…」
ホワイトドルフィンの制服を纏う彼は、そこで飛び立っていったサクラを見て呟く。
アメリカ生まれで、日本人の間に産まれた子。かつて、偉大なアメリカを復活させた大統領の家族であったことは艦長の知るところであった。
「本部の人間がわざわざ飛んでくるほどの事案なのか…」
彼はこの前の横浜フロートの襲撃事件が、どれだけ海上安全機構の中でも重い事件に該当しているのかを考えていた。
「…巻き込まないでくれよ?俺は平和に出世したいんだ」
今までの勘が嫌な予感がすると囁くと、彼は飛び立っていったヘリコプターの方角を見てため息をついた。
そして再び離陸をしたヘリコプターの機内で、日本に派遣される事となったサクラは、そこで改めて資料を見る。
「…」
その資料には顔写真付きのブルーマーメイド隊員の顔が乗っており、その中には岬明乃や知名もえかの名前が載っていた。
「ミケちゃん…もかちゃん…」
彼女は片手にロケットを手に取ると、中に入った子供の頃の三人が大和を背景に写る写真を懐かしげに眺めた。
「…」
そして暫くその写真を眺めた後、パイロットの無線で意識が現実に戻る。
『間も無く、横須賀飛行場です』
「…分かった」
そこで彼女は視界の遠くに日本のフロートを見る。
ハワイから可能な限り速達で日本に訪れる。
「何年振りかしらね…」
確か海洋学校の二年生の時に留学して以来だ。
懐かしの日本、幼少期に暮らした日本。平和な日本。
サクラの目には全てが懐かしく見えていた。
「…」
ヘッドホンを付け、横須賀に整備された横須賀飛行場のヘリポートを見る。
卒業後、横須賀に整備された大規模ヘリポートは、今日も無数のヘリコプターが離発着を繰り返していた。ホワイトドルフィンとも共用しており、ちょうどホワイトドルフィンの哨戒ヘリコプターが離陸していた。
そして用心を乗せたヘリコプターが着陸をすると、そこで数名のブルーマーメイド隊員がサクラを待っていた。
「ご苦労様です」
そして扉が開くとすぐに敬礼でサクラを出迎えた。
「済まない。暫く世話になるよ」
サクラも敬礼で返すと、そのままヘリポートを歩く。
「随分と盛況なようだね」
「はっ、ここは官民共用のヘリポートですので」
「…なるほど」
そこで軽く説明を受けなが彼女はヘリポートに用意された車に乗り込む。
そしてヘリポートから横須賀にある海上安全整備局の本部に移動する。
「護衛付きか」
「はい、用心のために」
そこで前後に用意された車を見てサクラが呟くと、そこで事情を説明される。
「…そこまで深刻か」
日本における反ブルーマーメイド的運動は日に日に苛烈さを増していた。
特に先の横浜フロートへの攻撃でその熱はさらに加熱化していた。
「変わってしまったな…」
まさか思うまい。ブルーマーメイドの制服を着て基地外に出かけることが危険になる日が来ようとは。事実、今日も横須賀の道路をデモ団体が練り歩いている。
「馬鹿なことを…」
そんなでも団体を冷やかな目でサクラは呟く。
もし海上輸送の安全を担うブルーマーメイドやホワイトドルフィンがいなくなればどうなるのか。特に海洋国家で、海の安全が国家の存亡に関わってくるこの国はよく分かっているのではないか?
そんな疑問と共にサクラはブルーマーメイドの基地に入って行った。