そしてその後、荷物を広げたりなど諸々の作業を済ませてから施設でもえかと明乃はじゃんけんをしていた。
「じゃんけん…ぽん!」
お互いに手を出した結果、なんともえかが勝利した。
「やった!今日はハヤシライス!」
「わーい、雫さんのハヤシライス久しぶりー!負けたケド」
明乃は今日の夕飯をかけてもえかとじゃんけんをし、珍しく負けたことに驚きつつも、もえかの好物であるハヤシライスを前に両手を上げる。
「じゃあカレーは明日ね」
「明後日は筑前煮、お願いしていいですか?」
「ふふっ、良いわよ」
サクラに岡峰はそう言い、明日と明後日の夕食を決めると明乃は嬉しそうにしていた。サクラはそこで岡峰に聞いた。
「作るの、手伝いましょうか?」
「今日の分の下拵えはできているから大丈夫。明日から手伝ってもらおうかな」
彼女はそう言い、ここまで船や車を乗り継いできた彼女達を見る。特にサクラはずっと運転を担当していたので、明乃達以上に疲労が溜まっていると思っていた。
「今日は移動で疲れたでしょ。先にお風呂に入ってきたら?」
彼女の提案で三人はこの施設の浴場に向かって久方ぶりにこの施設で入浴をした。
「はぁーーっ…」
水を張った浴槽の中で明乃は大きく腕を伸ばしていた。
「ここのお風呂も久しぶりー。久しぶりオンパレードだー」
「そりゃあ、数年ぶりに帰ってきたらそうでしょうよ」
そんな明乃にやや苦笑気味にサクラは言うと、明乃はそんな反応にやや不満げであった。
「もう、お姐ちゃんなんて十年ぶりくらいなんだからもっと祝おうよ!」
「いやぁ、もうなんかみけちゃんの反応を見てたらお腹いっぱいになってきた気ガス…」
サクラ自体は純ジャパではないのだが、ここで数年間暮らした経験を持っていたので懐かしさももちろんあった。
特に彼女に関してはアメリカに飛んでしまったので、そもそも日本に帰ってきたのが数年ぶりという具合である。
「もともと結構広いお風呂だったから、成長した今でもあんまり狭くなったって感じはしないね」
「確かに」
そこで明乃ともえかは久しぶりの浴場に浸かりながらそう言うと、そこでサクラはボソッと呟く。
「…そもそもアメリカは風呂文化がないから風呂自体が久しぶりすぎる…」
「「Oh…」」
風呂という素晴らしい文化がないアメリカ。シャワーが当たり前であり、バスタブがあるだけマシな風呂事情。
そんな日本で暮らした経験の方がまだ長いはずのサクラは目を細めて呟く。
「モンタナを改装した時に付ければよかったかな…」
「「うーん…」」
何とも言い難い、難しい問題を前に明乃達は微妙な表情をしてしまった。すると明乃がふと、今使っていた浴槽に少し疑問を覚えた。
「むしろ昔の方が狭く感じてたような…何でだろ?」
「あの頃は私たち以外にも一緒に入ってた子がいたから…」
「実際ちょっと狭かったかも」
その疑問にもえかとサクラが答えると、明乃は納得した様子で数回頷いた。
「そっか」
そこで明乃はもえかやサクラを見ながら言う。
「だからかな。今は三人で余裕あるのに、こうやってくっついて入る方が落ち着くの」
三人で体を寄せ合いながらそんな話をする。
「ずっとこうやって入ってたしね」
「そうそう!」
「こんな感じだったっけ?」
「そうだよ!」
そう言いながら三人は浴室で風呂に入り、三人は仲良く風呂場を後にした。
その後、岡峰が用意したハヤシライスに三人は舌鼓を打ちながら久しぶりの施設が静かなことに首を傾げた。
「そういえば今ここで暮らしてる子達は?どこにもいないみたいだけど…」
「ん?ああ」
明乃に聞かれ、岡峰はその理由を話した。
「今ちょうど全員、学校の行事でキャンプに行ってるの。明後日には戻るわよ」
「ああ!あのキャンプ行事」
ここに子供達がいない理由を聞き、明乃は納得した様子で思い出す。
「そういえば今時期だったわね。懐かしいなぁ」
「私、その行事行けなかったんだよね…ちょうど直前でアメリカに飛んじゃったから」
もえかやサクラもそのキャンプ行事に懐かしさと羨望を思い出すと、サクラは言う。
「なんか思い出しちゃった。昔、三人でボートに乗りに行ったことなかった?」
「あぁ…」
「あったあった」
そこで三人でキャンプに出かけた時のことを思い出し、思わず笑ってしまう。
「あの時、みけちゃんが猫を助けようとして湖に落ちちゃったんだっけ?」
「そうそう」
「ああ、そうだ。ずぶ濡れになって戻ったら飯盒が真っ黒になってたアレだ」
サクラはこれもまたいい失敗の思い出だなと微笑んでしまう。
「ふふっ、帰ってきたら紹介するわね」
「うん!」
岡峰に明乃は頷くと、そこでもえかが言う。
「紹介といえば私たちもね」
彼女は今日の帰省に来れなかった真白の話をする。
「本当は今日、もう一人連れてきたかったんだけど、都合が合わなくてダメだったんだ」
「あら、同じ艦の子?」
岡峰はここにもう一人友人が増えいてたのかもしれないと知り、少し微笑ましくなる。
「そう!シロちゃんって言ってね」
「晴風の副長さんなの。すごく優秀なんだよ」
岡峰は話を聞き春からかこれほどピンチを経験した晴風の副艦長と聞き、何より明乃の友人と聞いてその興味は更に高まる。
「そうなの。会いたかったわね」
岡峰はそんな明乃の友人が来れなかった事に残念がっていると、明乃はそんなやや気落ちしかけた岡峰に言う。
「また次の休みにね、案内してって言ってたから。今度は皆んなも連れて遊びに来るね!」
彼女はそう話すと、岡峰は笑う。
「まぁ、賑やかになりそうね」
「みけちゃん、流石にこの施設には多いって…」
「相談しないとね」
そんな提案をした彼女にサクラはツッコミ、もえかは笑っていた。
すると岡峰はふと思い出した様子で明乃に言う。
「そうそう、二人がお風呂に入っている間に明乃ちゃんのスマホが鳴ってたわよ。ソファーの上に置いてたでしょ」
「ほんと?」
夕食を準備している間に彼女の携帯に連絡があった事を思い出すと、明乃は誰から連絡があったのだろうかと首を傾げながらソファに向かって携帯を取って連絡を確認する。
「何だろう?」
何か重要な連絡かもしれないと思いつつメッセージ画面を開く。
「あっ!」
すると送られた内容を見て明乃は携帯をブンブン振りながら皆の元に向かう。
「もかちゃん!お姐ちゃん!雫さん!シロちゃんから!」
そのメッセージにはクラスの集合写真が送られていた。
メッセージを送った真白は返信で明乃、もえか、サクラ、岡峰の四人で取られた集合写真が返信で送られた。
「艦長達も無事に呉に着いたんですね」
「うわぁ!!」
その様子を後ろから音もなく話しかけられた事で心臓が飛び出るかと思うほど真白は驚いていた。
「のっ、納沙さん!?いつの間に…と言うか勝手に部屋に入るなっ!」
「すみません。何度かノックはしたんですが…」
納沙はそう言い反応がなかった為に部屋に入った事情を話す。流石に彼女とてノックもなしに人の部屋に入ると言う事はしない様子だった。
「反応がなかったので『もしや…!?』と思いまして。常に「最悪」を想定するもんじゃけぇ…」
「何がもしやなんだ」
相変わらず一人芝居を始めてしまいそうな雰囲気に真白はやや冷めた視線を送る。
「万が一ということもありますから。無事でよかったです」
「まったく…」
そこで納沙を見ながら真白はため息を吐くと、納沙はそこで明乃とのメッセージ画面を見る。
「今朝みんなで撮った写真、喜んでもらえてよかったですね」
「…そうだな」
そこで先に出て行ってしまった明乃以外の晴風クラスの集合写真を見て言うと、真白は納沙に聞いた。
「納沙さんは明日帰るのか?」
「はい。私は実家も近いですし、のんびりです」
真白はこの後実家に帰る予定のため、納沙も似たような感じなのだろうと推察していた。
「実家が遠い人はすでに出発して、今の寮はスッカリカンですね〜」
「(スッカリカン…?)」
「すっかりスッカラカンの略です」
「思考を読むな」
極自然体で納沙は言ったので真白は突っ込んだ。
「シロちゃんも明日出発ですね」
「まぁな、じゃなければ今ここにはいないだろ」
彼女はそう言い納沙を見た。
「それはそうと、一体何をしにーー…」
その時、真白は納沙の傍らに置かれたバッグの中に仕込まれた『仁義のない争い』のDVDボックスが目に入った。
「(明らかな来た理由!!)」
すぐに真白は彼女が態々ここを訪れた理由を理解した。そして夜通しで見させる気なのだろうと予想できてしまった。
「…来たのかは知らないが、明日は早いからお互いもう寝るぞ」
「んもう、シロちゃんったらわかってるくせにぃ」
真白は速攻で目を背けてベッドに向かおうとしたところを納沙に止められる。
「一本だけでいいですから、一緒に見ませんか?」
そんな彼女の誘いに、真白は態々これをここまで持ってきたことにやや申し訳なさもあったので半眼になりながら答える。
「……一本だけだぞ」
「流石シロちゅわん!」
その返答に納沙は喜んだ。
「(…計画通り!)」ニヤリ
そして夜○月のような邪悪な笑みを浮かべる。
「一本見始めてしまいさえすれば、そのまま朝までフルコースじゃけぇ…!」
「何度見たと思っているんだ」
そんな納沙に真白は呆れた様子で見る。
「一本で終わりと約束したからな。明日にも響くぞ」
「仕方ないですねぇ」
ぐうの音も出ない反論をされ、納沙は渋々自分の中でお気に入りの一枚を鑑賞する。
そんな納沙とのやり取りを真白は明乃に送っていた。
「『今から納沙さんの映画鑑賞に付き合うので失礼します。おやすみなさい…』か」
相変わらず二人は仲がいいなあ、と感じながら明乃は返信のメッセージを送る。
「おやすみー、ココちゃんにもよろしくね…っと」
そしてメッセージを送ると、後ろからもえかが話しかける。
「私たちもそろそろ寝ようか」
「そうだね」
時間を見て明乃は頷くと、彼女は誰もいない孤児院を見て提案する。
「今日はみんなで寝よう!」
そんな彼女の提案にサクラ達は微笑ましく見る。
「あらあら、じゃあ私もお風呂入ってくるわね」
「お布団敷いておくね」
そして着々と寝る準備を進めていく彼女達。
「みけちゃん、寝相大丈夫?」
「もう、あの時よりマシになったって〜」
そう言い、明乃は反論の意味合いも込めてサクラを見ていた。