翌朝、早朝に目覚めた三人は顔を洗っていた。
「はいタオル」
「ありがとう!」
洗面台の前で明乃は顔を洗うと、横でもえかがタオルを差し出してきた。
「ふふっ、寝癖ついてる」
「えー?どこどこ?」
もえかが指摘すると、明乃は自分の長髪が邪魔をして寝癖の正確な場所を触って確認すると、もえかはスプレーも使って明乃の髪を梳いた。
「はい、綺麗になった」
「わーい!」
そして綺麗になった髪を前に明乃は久しぶりにもえかに梳いて貰えて満足していた。
「もかちゃんにもやってあげる」
「残念、先にお姐ちゃんにやってもらっちゃった」
もえかはそう言うと、明乃は羨ましがった。
「えー、お姐ちゃんにやってもらうのずるーい」
「じゃあ、明日お願いしちゃおうかな」
「わーい、私も明日はお姐ちゃんにやってもらお〜」
明乃はそう言うともえかの後ろに立つ。
「じゃあ髪型いじっちゃうねー」
「いいよ」
そしてもえかの髪を明乃はいじり始めた。
台所ではサクラと岡峰が朝食を作っており、包丁片手に材料を切っていた。
「朝ごはんできたわよ〜」
『『は〜い』』
そしてサクラが片手に料理を持って呼びかけると、奥から二人の返事を聞いた。
「おお、似合っているじゃない」
「みけちゃんにやってもらったの」
「えへへ」
そこで出てきたもえかがツインテールに髪を纏められており、サクラは言うと明乃が反応していた。
「わぁ、お姐ちゃんの料理なんて初めてかも」
そこで目玉焼きにベーコン、フライドポテトにパンケーキと、見事なまでのアメリカンブレックファーストが用意されていた。
「おいおい、この前蕎麦作ったやないか」
「そうだけどさ〜」
「あの時は、みんなで作ったからね」
席に座りながらそう話していると、サクラは言う。
「どうせならと思ってホワイトハウスの朝食と同じメニューで作ってみたの」
「おお!」
「すごい…流石は大統領御令嬢」
そこでフフと微笑むサクラに、途端に料理が高見えしてくる明乃ともえか。正直、この孤児院からこんな有名人がぽんぽん出てくるなんて岡峰も思っていなかった。
「さ、冷めないうちに食べちゃって」
「「「いただきます」」」
サクラも席に座って言うと、三人は手を合わせて食事をとり始めた。
彼女の作った朝食は好評で岡峰も満足げに食べていた。ただ彼女は歳のせいか、明乃達よりも量は少なかったが…。
すると朝食を取る間に岡峰から聞かれた。
「三人とも、今日は何か予定はあるの?」
その問いにもえかは首を横に振る。
「こっちにいる間は特に何も。最終日には予定を入れてあるんだけど」
「そうなの」
もえかが答えると、ずっとこの施設にいると聞いて岡峰は言った。
「せっかくだからどこか遊びに行ってもいいのよ?退屈でしょ」
「退屈じゃないよ!雫さんと一緒にいられるし!」
明乃がそこでやや反論気味に言うと、ここから出ない事情も話した。
「それに実を言うと、ここまでの往復移動費で遊ぶお金はあんまりないんだよね」
「あら、それは切実な問題ね」
岡峰は明乃達のお財布事情を知って微笑ましげに言うと、サクラは聞いた。
「私が奢ろうか?お金あるし」
「いやいや、流石にお姐ちゃんにこれ以上お世話になるわけには…」
明乃はそう言い、RATt事件の際のトイレットペーパー然り、この前の蕎麦然り、色々と彼女には助けられてばかりであったことを思い出しながら申し訳なさそうにした。
「え〜、別に気にしちゃいないんだけどね〜」
「お姐ちゃん、世の中には『タダより高いものはない』って言う諺があってね…」
「あらあら、出世払いしてもらおうかと思っていたのに」
サクラは少し茶化すように言うと、明乃は少し頬を膨らませた。
「も〜、そんなことだろうと思ったよ!」
「どーどー、冗談だって」
「冗談に聞こえないって、お姐ちゃん!」
明乃はサクラに言うと、もえかが隣で笑った。
「ふふふ、でも車も出してもらって色々と疲れているんじゃない?」
「Non non.短い距離だし、マスタングに比べたら小さいわよ」
「ははは…」
「流石アメリカ」
そもそもこの年で自動車免許を持っていた彼女に二人は苦笑気味に見ていた。一体全体、どうやって日本の免許を取得したのかは気になるところであった。
「もともと休日をゆっくり過ごすために来たようなものだから、退屈なくらいでもちょうどいいのかも」
そんなやり取りを前にもえかは岡峰に言う。
「あ、でも家のことで手伝えることがあったら言ってね」
「そうねぇ、何かあったかしら」
そこでもえかから言われ、岡峰は少し考えてしまう。
「そうそう、花壇のお手入れをしようと思っていたの」
彼女はふと、この施設でやってほしい事を思い出して三人に提案する。
「せっかくだから手伝ってもらおうかしら」
「任せて!」
明乃は頷くと、その花壇の場所はどこだったかと思い出そうとする。
「その前にお片づけね。これもみんなでやっちゃいましょう」
「おー!」
そこで彼女達は食べ終えた朝食の食器を片付けていく。
「じゃあ、私が持ってきたお菓子食べ比べはそのあとかな」
「どうせならみんなが帰ってきてからにしたら?」
「それもそうね」
サクラはもえかに言われて頷くと、明乃がそこで特大スーツケースにパンパンに詰め込んで持ってきていたお菓子を思い出す。
「私、お姐ちゃんの持ってきたお菓子気になっているんだよね〜」
「つまみ食いは駄目よ〜」
「分かってるよ〜」
明乃はからの食器を回収しながらサクラに答える。
「そういえば、さっき言ってた最終日の予定って?」
「えっへへー、何だと思う?」
そして皿を洗っている最中に岡峰が聞くと、明乃は少し笑って言った。
「ヒントは呉!」
「ヒントになっているの?それ」
「幅広すぎるけど一応?」
「武蔵の全幅くらい幅広すぎやしませんかね」
そんな彼女のヒントにもえかとサクラは苦笑気味に皿洗いをして行った。
その頃、横須賀の猿島フロートに停泊中のモンタナ。
「副長〜」
「ん?」
船首で仁王立ちをしていたケイリーに乗組員の一人が話しかけた。
「どうした」
「本日のヘリコプターの訓練結果の報告に来ました」
「ん、了解」
休暇中とはいえ、留学艦でもあるモンタナは横須賀での実習の後に帰り際にハワイに寄港して実習を受ける予定であった。
彼女達にも八日間の特別休暇が与えられており、と言っても彼女達の故郷は遠く離れたアメリカにあるため、彼女達は船内に入り浸るか、時折横須賀や東京に出かけて日本土産を買ったりしていた。
「いいな〜、艦長は里帰りか〜」
「元々、艦長は孤児院で育っていた時期がありますからね」
船内で涼んでいた砲術員の面々はそんな話をしながらアイスクリームを食べる。
「しっかしあっついわね」
「日本の夏ってどうなってんのよ」
「正直、弾薬庫の除湿機もぎ取ってここに置きたい」
彼女達はCICで換装を行った兵装のシステム調整などの諸々の諸整備に翻弄されており、休暇の前日まで至る所で悲鳴をあげていた。
「セルフでサウナしている気分なんですけど」
「阿呆、サウナはもっと蒸し暑いわよ」
「そう、もっとガンガンに石を焼いて水を与えるのよ」
彼女達はそう話しながらモンタナ特製アイスクリームを食べる。
「エアコン効かせてんだから大丈夫よ」
そこでCICの座席で座っていたルイーザは言う。
「それよりも良いの?帰ってきたら強制執行課との合同訓練よ」
彼女はそう言い、八日間の特別休暇の後に詰め込まれている特別実習である強制執行課との合同訓練。その際、彼女達はヘリコプターを使った
するとその訓練を前に乗組員達は言う。
「暑すぎてやる気出ないっす」
「日本の夏、照り返しやばいっす」
彼女達はそう言い、母校のサンディエゴよりも別ベクトルで酷い夏に悲鳴をあげていた。そんな彼女達にルイーザはため息を吐いた。
「ヘリコプターを使った空中強襲訓練もするんだから、せめて自分の武器くらいはしっかり点検しなさいよ」
「「はーい…」」
やややる気のない返答を聞き、少し不安になりながら彼女は立ち上がってCICを後にする。
機関室では整備を終えたクレアが休憩がてらピーナッツコーラを飲んでいた。
「機関長、またそれ?」
「馬鹿タレ。南部出身ならソウルドリンクだろうが」
アメリアに言われてクレアはやや半眼で答えると、彼女はふと呟く。
「あぁ〜、今度バーベキューでもしたいな」
「プルドポークでも振る舞ってみたいっすけどね」
南部出身の彼女達はそんなことを言うと、クレアはふと思った。
「そう言やぁ、艦長は北部生まれか」
彼女は言うと、他の機関員も彼女の生まれを思い出しながら話す。
「シアトルらしいっすよ?」
「まあすぐ日本に移住して一時は二重国籍だったらしいけどね」
「へぇ〜」
サクラはシアトル生まれ、日本育ちの人物。確か母親が日本人で、父親がアメリカ人だと聞いている。
「艦長、綺麗な銀髪ですよね」
「うん、マジで綺麗」
「今度何の石鹸使ってんのか教えてもらおうかな…」
そこで彼女達は自分たちの艦長の銀髪緑眼の顔を思い返す。あの顔立ちから、どこに日本人の要素があるんだろうかと少し首を傾げてしまった。
「あの髪ってアルビノ?」
「いや、目が緑だから違うと思う」
「あれじゃない?若白髪ってやつ」
彼女達はサクラの容姿について色々と憶測を言い始めていた。
「艦長の生まれか…」
「今度、みんなの生まれ故郷の家庭料理とか食べてみたいですね」
「…パーティーでも提案してみるか?」
シリカにクレアは聞くと、彼女は良さげに頷いた。
「良いんじゃない?あの艦長なら割と簡単に意見通してくれそうだし」
「じゃあ、今度の合同訓練の後とかは?」
「そうだね。聞いてみようか」
そこですぐにクレアはメッセージを送ると、サクラは快く了承して今度の合同訓練後のパーティーの準備をクラスメッセージに送っていた。
「返答早いな」
「呉でのんびりしているんじゃないんですか?」
「そのようだ」
機関制御室を後にしてクレアは言うと、日本で購入したシガレット菓子を咥えた。
「ま、艦長にはのびのびと休暇を楽しんでもらいたいもんだね」
彼女はそう言うと、自分の部屋のドアを開けた。