その日、呉の児童養護施設ではトランプ大会が開かれていた。
「うーん…」
明乃はトランプを片手に持って悩んでいた。
「こっち」
「あっ!」
そして二枚の手札のうち、片方を選ぶと持っていた少年の驚いた声が上がる。
「やったぁー、上がりだぁ〜」
「す…すげぇー!ババ抜き二択百発百中じゃん」
「超能力者だー!」
そこで明乃はサクラの持ち寄ったアメリカ産のお菓子と共に孤児院の子供達とトランプに勤しんでいた。
「相変わらずそう言うの強いよねミケちゃん」
「えへへー、ただの勘なんだけどね」
「だからって強すぎでしょ…」
相変わらずの豪運持ちの明乃にもえかは言うと、その隣でサクラは子供達と戯れながら苦笑していた。
「次違うゲームやろうよ」
「じゃあ七並べー。私もやる〜」
すると永遠とババ抜きを見て、明乃の豪運を前に驚いていた子供達は、次に飽きて新しい遊びを提案してくる。
生憎、この施設にあるゲーム機は数が少なく喧嘩の原因にもなるのでほぼほぼ出番がなかった。
「ねぇねぇ」
「ん?どうしたの?」
そこで一人の少女がサクラ達に聞いた。
「雫さんから聞いたんだけど、三人ともスキッパーの免許持ってるんでしょ?」
「うん、持ってるよ」
もえかは頷くと、サクラ達も頷く。
「中学の時にとったよー!」
「小型・中型・大型フルコンポしたわ」
「いーなー」
スキッパーの免許と聞いて少女は羨望する様子で見ており、明乃はそんな質問をした少女に首を傾げた。
「スキッパー興味あるの?」
スキッパー仲間が!と内心で明乃は少年少女達を見る。元々、スキッパーに乗るのが大好きであった彼女からすれば、同じ趣味の子が現れたのだと内心で嬉しく思った。
「あるあるー」
「ぼくもー!」
すると少女は頷き、近くにいた少年も頷いて話に混ざってきた。
「わたしね、ブルーマーメイドのスキッパー乗ってる人に助けてもらったの」
そう言い、少女はスキッパーに乗りたい理由を話した。
「だから私もそういう人になりたいんだー」
「そうなんだ」
その理由を聞いて明乃は共感して頷く。
「じゃあしっかりお勉強しないとね」
「うん!」
もえかに少女は頷くと、明乃は少し考えた。
「もっと早く知ってたらここにいる間に色々教えられたのにー」
スキッパーに興味がある、と言う事に彼女はスキッパー同好会を作りたいと思いつつスキッパーを取るための試験問題を送ってあげたいと言う同郷の者としての優しさがあった。
「実技の方はともかく、筆記試験の内容とか傾向は教えられるから、帰ったら試験対策をまとめて送ってあげる」
「ほんと!?やったー!」
「よかったね〜」
もえかのそんな粋な計らいに少女は喜ぶと、明乃は微笑ましげに見ていた。
「それ僕も欲しい!」
「うん、データで送るから共有してね」
もえかは頷くと、少年を見る。そして彼女は聞いていた子供達に話しかける。
「その試験にも言えることだけど、一〇〇個の問題と答えを覚えても、出題されるのはその内の五〇題だけで、残りの半分は試験には必要なかったりすることが多いの」
そんな彼女の少し優しさがある口調は、わんぱくなこの年頃の子供達の注意を引いて静かに聞かせる。
「でも試験では使わなくてもそれらの知識はどれも必要なものだから、早いうちから学んで全てを覚えておくことが大事だからね」
「頑張る!」
「交通ルールは特に入念に覚えないとね!」
明乃は言うとサクラも頷く。
「そうそう、じゃないと私みたいに実技試験受かっても筆記試験で一回落ちることもあったりするから…」
「えっ!?お姐ちゃん落ちたの?」
「一回だけね…」
そこで少し遠い目をしたので、聞いていた明乃達や子供達も『よほどショックだったんだ…』と何とも言えない微妙な雰囲気を作ってしまった。
「あらあら、夜でも賑やかね」
すると岡峰が現れて話しかけてきた。
「三人とも、明日は早いんでしょう?遊んでくれるのはありがたいけど、程々にして休んでね」
「「「はーい」」」
彼女達は岡峰に言われて答えると、そこで先ほど七並べを提案した少女が言った。
「じゃあみんなでお風呂入ろ!」
「うん、良いよー」
「七並べは?」
そんな移ろ気味な少女に七並べをやろうとしていた少年は驚いた様子で見ていた。
「男子は後だからね!」
「わ…分かってるよ!」
そこで少女に言われて少し顔を赤くして少年は答えた。
「あら、じゃあおねーさんと一緒に入る?」
そこでサクラは少し茶化すように少年達に言うと、直後に後頭部を殴られた。
「お姐ちゃん?」
「…へい」
冗談のつもりで言ったのだが、生憎もえかには冗談に聞こえなかったらしい。馬鹿みたいに痛い。明乃に至ってはすでに風呂場に子供達を扇動して突撃しておりここには居なかった。
そして純粋無垢な明乃だから今の話を聞いてもきっとイマイチ理解しきれずに真顔で『それはダメだと思う』なんて言い出しかねなかった。
「雫さん、一緒にトランプしない?女子は風呂長いしさー」
「ふふ…そうね」
子供達も流石にサクラと風呂に入るのは色々な面でまずい事は直感的に分かっていたため、岡峰に話しかけてサクラがアメリカから持ってきた菓子と共にトランプに興じ始めた。
風呂場で服を脱いで浴場に入った明乃達。
「なんか新鮮だなー」
「本当ね〜」
「何が?」
そこで子供達の髪を洗ってあげながら明乃が言うと、サクラは頷いた。何が一体新鮮なのだろうかと聞いていた少女が首を傾げた。
「私たちが昔ここにいた時は女の子しかいなかったから。男子不在でねー」
「そういえばそうだったね」
「そうなんだー」
明乃達がまだこの孤児院にいた頃の事情を聞くと、それを聞いた少女達は驚いていた。
「どちらかと言うと、あの時の方が珍しかったみたいだけどね」
もえかがそこで浴槽に浸かりながら言う。すると一人が吐露した。
「私も女子だけがよかったなー」
「そう?」
「うん!」
女子だけしかいないと聞き、羨ましがったその少女に明乃は『如何なんだろう?』と首を傾げていた。彼女からすれば男の子と一緒にいる時しかできないようなこともありそうなのにと思っていた。
「ねー、三人は恋人いないの?」
「えぇー?いないよー、うち女子校だし」
少し期待した様子で見てきたので明乃は言うと、サクラが言う。
「私のところは学内で恋人作っちゃうと停学になっちゃうのよねー。隣に男子校があるせいで」
「厳しいんだね」
「こわーい」
サンディエゴ海洋学校は男子部と女子部が併設されており、基本的に両者の行き来は教師以外は不可能であった。そのため出会えるのは洋上に出た時のみである。
「何度か合同訓練をやっているからまあ、色気のない高校生活ってわけじゃ無いんだけどね」
「「「「へぇ〜」」」」
そこでアメリカの学校という珍しい話を聞いて明乃達も興味深く頷いていた。
「じゃあ好きな人は?中学の時とか!」
「そう言うのもなかったなー、でもみんな好きだよ?」
明乃はそう少女達に答えていくと、浴槽に浸かっていた一人が言った。
「もかちゃんとお姐ちゃんはモテそうだけどね」
「そんなことないよ」
「あー、でも私髪切ってからよく言われるんだよね〜」
サクラがそう言うと、一斉に湧き立った。
「え!?じゃあ告白とかは!!」
「あるわよ。授業終わった後に呼び出されたりとかして」
「「「「ええー!!」」」」
それには明乃達も驚いてサクラを見ていた。
「誰々?」
「それは秘密」
彼女はそう答えると、明乃ともえかは『一体誰から…』と少々思い当たる人物がいない…わけでは無いのだが、候補者が多くて分からなかった。
「まあ、女子校に行くと私みたいに男っぽい子ってすごいモテるんだよね〜」
「へぇ〜」
「確かに。サクラお姉さんって男の人みたい」
「かっこいいけどね」
短髪で最近はウルフカットのサクラを見てそんなことを話していた。
「それを言ったらもかおねーちゃんも面白いのにー」
「高嶺の花ってやつかもね」
「ふふっ、ありがとう」
もえかは明乃に言われると嬉しそうにしていた。
「ウチのクラスにねー、もう付き合ってる子居るんだよー。隣のクラスの子と」
「ほんとに?すごいねー」
そこで明乃達はそこで洗い終えて浴槽に浸かった。
その後、風呂から出るとそこで明乃達はサクラが持ち寄ったお菓子の話で盛り上がっていた。
「甘いねー」
「食べすぎると太っちゃう」
彼女が持ってきたアメリカのお菓子ということで、少々日本人の舌からすれば濃い味付けに一部の面々は顔を顰めていた。
「でも確かに、ちょっと甘ったるい感じだよね」
「アメリカ人が太る理由だよ」
「ははは…」
スーツケースにパンパンに詰め込んで運んできた菓子類に明乃達も最初こそ珍しがってもりもり食べていたのだが、だんだんとくどさを感じるようになってしまった。
「ねえねえ」
すると一人の少女が聞いてきた。
「サクラねーちゃんのお父さんって、凄い人なんでしょう?」
「そりゃあそうさ。私の叔父はなんたって大統領なんだから」
サクラは微笑んで答えると、その肩書きを前に子供達は湧き立つ。
「大統領…!!」
「凄い、本物だよ!」
「大統領ってなんだっけ?」
「えー、そこからー?」
まだまだ小学生が多い子供達はそんな話をして盛り上がっていた。
「でも実際、こんな機会もなかなか無いよね」
「うんうん。私達もまさかお姐ちゃんが大統領の娘さんになるなんて思ってなかった」
「私もだよ」
そう言うもえか達にサクラも言うと、自分の義父となった叔父を思い出す。正直引き取られるまで顔すら知らなかったのだが、今では良き父親だと誇れる自信があった。
「もえかおねーちゃん達は会ったことあるの?」
「うん、少し前にね」
「スゴーイ!」
「まじの大統領に会ってんじゃん!」
彼らはそう言い、子供達はその時の話を根掘り葉掘り聞いてきた。
「ねえねえサインとかある?」
「ふふっ、ちゃんとあるわよ」
「お姐ちゃんに言われて貰ったんだよねー」
「わー、見たい見たい!!」
「寮に置いてきちゃったから、また今度ね」
そんな話をしながら時はあっという間に過ぎると、子供達は眠気と言う最大の敵には敵わずにベッドで話し疲れて眠ってしまった。
「明日でまたお別れかー」
最後の子供を寝かしつけた後に明乃達は自分たちの用意した敷布団に入って言う。
「あっという間だったね。
「うん」
「そうね」
明乃にもえかとサクラは頷く。彼女達は川の字で寝ており、昔と同じ順番で眠っていた。
「でもみんな元気でよかった」
明乃はそう言い、話し疲れる程に元気な子供達や岡峰を前に安堵していた。
「私たちも明日のために早く寝ないと」
「そうだね、おやすみ〜」
サクラが言うと明乃達も頷いてから目を閉じて睡眠に入った。