翌朝、孤児院の前でサクラの運転する
「うわー、かっけー」
「僕も運転したーい」
その車両を前に男児達は群がって羨望の眼差しで剥き出しのハンドルを握るサクラに言っていた。
「ふふっ、坊や達がお姉さん達より大きくなったら運転できるわよ」
サクラはそう言い、子供達が帰ってきてから散々乗せて施設の周りを乗り回りていたのを思い出す。なかなか無い経験に子供達は大はしゃぎでミュールに乗っていたことを振り返る。
この数日で特に男児人気が凄まじい事になっていたサクラは満更でも無い様子だった。
「よいしょっと!」
そこで明乃達はスーツケースを荷台に乗せて紐で縛っていく。
彼女達は全員が制服を纏っており、これから向かう場所に最適な服装を整えていた。
「忘れ物はない?」
「うん!大丈夫!」
岡峰が聞くと明乃は自信たっぷりに頷くと。
「まぁ、もし何か見つけたら横女に送るから」
「大丈夫だってば!」
「うふふ」
しけし明乃のことだ、どこかしらで忘れ物をしていそうな雰囲気もありそうで少し不安がもえかとサクラにはあった。
「大丈夫?」
「二人で確認したから大丈夫だよ」
「ちょっと!もかちゃん、お姐ちゃんも酷いよー!!」
明乃の一歩後ろで二人は耳打ちし合うと、運悪く明乃の耳に届いて彼女は反論気味に頬を膨らませた。
「また来てねー!」
「ありがとう。また来るね」
もえかは少女に頷くと、彼女は嬉しそうにしていた。
「スーちゃんのお父さんのことも何か分かったら連絡するわ」
岡峰はそう言い、明乃達は頷いた。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
『『『『行ってらっしゃ〜い!』』』』
子供達と共に岡峰は手を振ると、明乃達もそれに答える。
「「「行ってきま〜す!」」」
そしてミュールに乗り込むと、サクラがエンジンをかけて孤児院から走り出して行った。
その後、ミュールは剥き出しの車体で呉市街地に向けて走り出し、その車上で明乃は風に吹かれながら今までの疲労が溜まっていたからなのか、乗り心地に慣れたからなのか、座ったまま眠ってしまっていた。
「ミケちゃん、もうすぐ着くよ」
すると隣に座っていたもえかが話しかけて目を覚ます。
「わぁーー!」
そして駐車場にミュールは停車すると、シートベルトを外して明乃は感嘆してその施設を見上げる。
「ここが呉女子海洋学校…!」
そこで彼女は煉瓦造りの建物を見上げながら言った。場所は江田島にある呉女子海洋学校であった。
「外観はヨコスカとあんまりかわらないネ」
「そだネ」
そこでひたすらに見覚えがある施設を前に明乃達はそんな感想を漏らした。
「まあ元々こっちが本校で、横須賀とかは分校って扱いだもんね」
「あ、そうなんだ」
「逆になんで日本の海洋学生が知らんねん」
そこで半眼になってサクラは明乃達を見ると、そこで近づいてくる人影が二人。
「遠路はるばるようこそ呉へ」
「あっ」
そして明乃達を見て話しかけてきた人物に明乃が反応した。
「宮里先輩、野村先輩」
そこでは呉女子海洋学校の豪華な士官服に身を包んだ大和艦長・副艦長両名が立っており、訪れた明乃達を出迎える。
「こんにちは!」
「本日はお時間をいただきありがとうございます」
「少しばかりお世話になります」
「どういたしまして」
そこでサクラは早速謝礼で二人にアメリカ版オ○オを渡すと、物珍しい菓子に宮里達も嬉しそうにしていた。
「長旅で疲れたら?」
「いえ、しばらく呉に滞在していたので」
「ほっかー」
ミュールで乗りつけた三人に能村が労うと、宮里が話す。
「堅苦しい挨拶は抜きにしてとりあえず艦に…と言いたいところだけれど、」
「今、大和は整備中だでね。とりあえず食堂にでも行こまいか。荷物はこの近くに預けときん」
「はい」
随分と訛ってる日本語だなと内心で思いつつも、ドイツ人で広島弁を語るミーナという強い印象があった為にもえかもそれほど驚く事はなかった。
「車はここで良いですか?」
「うん、それで良か」
そしてミュールを停車させたサクラに能村は頷くと、五人は学内に入っていく。
「大和が整備中って、何かあったんですか?」
「ただの最終チェックじゃん。私らも明日からまた海洋実習に出るんでね」
一瞬大和の整備と聞いて何か問題があったのかと思ったが、定期点検だと知らされて乗れない事には少し残念に思っていた。
「実習に備えて今日は半休みたいなものなの。今日時間が取れたのはそのおかげというワケ」
「なるほど、そう言う事ですか」
宮里にサクラは頷いて見上げた。
そして彼女達は学校内にある食堂に案内された。
施設の中は呉女子海洋学校のセーラー服を纏った生徒達が多数出入りしており、そんな中で横須賀女子海洋学校とサンディエゴ海洋学校の制服というのはかなり目立った。
「さて…」
そして席に着くと、そこで宮里が話を切り出す。
「こうしてゆっくり話をするのは初めてかしら。横須賀ではなんだかんだで慌ただしかったし…」
彼女はそう言いながら明乃に視線を向ける。
「特に晴風の艦長。岬さん……よね?」
「はい」
話しかけられて、先輩からの視線を受けて少し明乃は背筋が伸びた。
「一応、改めて自己紹介するわね。大和の艦長、宮里十海よ」
「副長の能村進愛だわ」
そして二人から自己紹介を受けたので、三人も同様に答える。
「晴風艦長、岬明乃です!」
「武蔵艦長、知名もえかです」
「モンタナ艦長、サクラ・A・ミヤマ・ファーゴです」
お互いに挨拶を終えると、宮里は三人を見ながら嬉しそうにしていた。
「学校行事以外でも他校の生徒と交流ができるのは嬉しいことだわ。この面子で集まるとどうしても遊戯会でおこった海賊事件の話になりがちだけど…」
「(私だけ副長…)」
宮里が言う隣で能村は気を揉みそうになる。元々大和の艦長志望の経験があった彼女は自分以外の全員が艦長である事に少し思う部分があった。
「あまり過去の話ばかり続けても仕方ないし、今日はもっと別の話で楽しみましょう」
「そうですね」
宮里にもえかは頷くと、そこで彼女達に近づく一人の生徒が話しかけてきた。
「それでしたら…」
その生徒の手には包まれた小包が添えられていた。
「こちらのお菓子のお話でもいかがでしょう〜?中は手作りのクッキーです」
そこで一人の生徒が話しかけてきた。制服からして呉校の生徒であった。
「わあっ、美味しそう!」
「やろ〜?」
そして渡されたクッキーを見て明乃は目を煌めかせていた。一つ手にとって口に運ぶと、昨日食べたアメリカのお菓子よりも優しい甘味で食べやすかった。
「羽瀬!あんたはいきなり…」
「あらら…」
宮里はそこでクッキーを差し入れで持ってきた彼女に軽く諌めると、彼女はほんわかとした雰囲気で答える。
「ごめんねぇ?お菓子で作ったのお裾分けしてたんよ〜」
「いえ、ありがとうございます」
「ふふっ」
その生徒は嬉しそうにする明乃に嬉しそうにすると、宮里が聞いた。
「よかったら羽瀬さんも一緒にどう?席も空いてるし」
彼女に言われ、その生徒は明乃達の反応を見ると、察したように宮里は彼女達に聞いた。
「いかがかしら?」
「私たちはもちろん」
「大丈夫ですよ」
もえかとサクラは無問題と答えると、その生徒は答える。
「じゃ〜ちょっとお呼ばれしよっかな〜」
そして彼女は空いていた席に座って自己紹介をする。
「えっと〜…大和の砲術員、羽瀬甘恵です〜。好きに呼んでねぇ?」
その時、明乃はやや驚いて羽瀬を見た。
「えっ、砲術員なんですか?てっきり炊事の方かと」
「そ〜、お料理が好きな砲術員」
手作りクッキーを差し出してきたので、料理好きから炊事員を担当していると思っていたので、少し意外な様子で明乃は羽瀬を見た。すると彼女は砲術員をしている訳を話した。
「砲術の方は別に好きじゃないんだけどね〜?砲術の成績が良くって勧められたからこっちにしたんよねぇ」
「おぉ〜!そうなんですか」
明乃は羽瀬から事情を知ると、それでも大和の砲術員と聞いて乗組員の立石などが喜びそうだと内心で思っていた。すると宮里はそんな羽瀬の気苦労を察していた。
「好きなことより得意なことを選ぶ。合理的だけど、なかな難しい選択よね」
「無理してでも好きなことを選ぶ人も多いですからね」
「そこら辺は本当に人によって分かれますよね」
もえかにサクラも頷く。気持ちはよく理解できるからだ。
「まぁお料理は趣味でもでもできるし、良いかな〜って」
羽瀬はそう言い、砲術員の道を歩んだ理由を話す。確かに、船内には厨房もある上に砲術員と違って料理というのは船外に出てもやれる機会はあった。
「ところでその制服。横須賀と…見た事ない学校よねぇ?」
「私のはサンディエゴ校の士官服です」
「まあ海外?遠い所からご苦労様です〜」
そこで羽瀬は見慣れない制服が、遠く海を超えた海外から来た学校の制服である事に驚いていた。
「今日、なんかあるのん?」
「いえ」
「数日前から学校がお休みになったので、連休を利用して呉に来たんです」
羽瀬の疑問にもえか達はここに来た理由を話すと、彼女は納得した様子で頷いた。
「私たち、子供の頃は呉に住んでいたので。里帰り見たいなものですね」
そこでもえかの話に能村はやや驚いていた。
「呉に住んでたん?それは初耳やわ」
「私も叔父に引き取られる前までは此処に住んでましたからね」
サクラも言うと能村達は意外な様子でこの三人が集まっていた理由に納得する。
「そんなら呉での暮らしはそっちが先輩じゃんねぇ」
能村はそう言い、呉暮らしが長い様子のサクラ達を見ていた。
「ほんなら
「そう…ですね、ちょうど宮里先輩と連絡を取る機会がありまして」
「せっかくなら
宮里は言うとサクラも頷く。
「なにせ学校一つで一学年しかないですからね、海洋学校って…おかげで年上の先輩との青春なんて夢のまた夢ですよ」
「あはは…」
そんな彼女のぼやきに聞いていたもえかは苦笑していた。
「アンタ、そんな理由で海洋学校に入っとん?」
「いやいや、もちろんブルマーになるためですとも」
そこで半眼になって能村が聞いてきたので、サクラは首を横に振りながら答えた。