食堂で他愛もない世間話をしていると明乃が言う。
「子供の頃は
「ミケちゃん昔は入学ローテーション知らなくて、自分も呉女に入るんだと思ってたもんね」
「あー、あったねそんな事」
「わぁあ〜!言わないでよ〜!」
二人から言われて顔を真っ赤にして恥ずかしくする明乃。そんな微笑ましいミスには宮里達も笑ってしまう。
「そのせいというか、おかげというか、いろんな地方から人が集まるから面白いわよね。言葉や習慣が少しずつ違ったり」
「アメリカも南部と北部で食文化もまるっきり違いますしね」
クレア達機関科の面々も南部出身で、その為に時々南部訛りの会話で話しかけられることも多々あった。
「言葉なんかはのむさん顕著。ねー♡」
「黙っとりん!私にとってはこれが標準語だでね」
「訛ってる訛ってる」
羽瀬に能村が反論すると苦笑気味にサクラは突っ込んだ。すると羽瀬は言う。
「まぁ実際、のむさんより私の言葉の方がわやなんよね〜」
「確かに…」
「いろんな地方の言葉が混ざっていますよね?」
「あら分かる〜?」
もえか達もさっきから多数の方言を使っている羽瀬に言うと、彼女は反応した。
「うち、転勤族でね。しょっちゅう引っ越しては住む場所変わってたから方ちゃんぷるーなんだわぁ。あえて色々使ってるトコあるっちゃけどね〜」
「…それはちゃんぽんなのでは?」
「どっちでもあるやんね」
羽瀬はサクラに少し笑って答える。これでも同級生である為、宮里達とは話す時に妙な緊張感というのはなかった。
「
「そんなに!?」
転勤族にしては転勤族し過ぎているような気がしなくも無い引越し速度に明乃は聞いていて驚いていた。
「
「一周回って自慢してるわ〜」
羽瀬は笑いながら言っていた。
「でも羽瀬さんがいろんな地域の日常を知っているおかげで、入学当初は通訳みたいになってたわよね」
「おもしか経験やったねぇ」
宮里はそう話し、全国から優秀な面々が集まっただけに起こる問題に入学したばかりの苦労話を思い出していた。
「アメリカじゃあ、鈍ることはあっても地域特有の言葉ってあまりないんですよね〜」
そこで食堂で水を飲みながらサクラが言うと、能村は首を傾げた。
「あら?地下鉄とかお城の呼び方とか違っとぉとちゃうん?」
「うーん、どちらかというとそれも訛りに近いんですよね〜」
そこで日本語が達者なサクラと能村は方言の話題で盛り上がっていると、もえかが食堂で視線を感じた。
「あの、誰かこっち見てますけど」
「ん?」
そして彼女が言うと、能村がその視線の元まで目線を向けた。
「谷掛じゃんね。どうかしたん?」
「…あっ!」
そこで近くで視線を送っていた大和電信員の谷掛 小鈴に羽瀬はハッとなって立ち上がる。
「そういえば小鈴っちにもお菓子持っていく約束してたんだった!」
彼女はそう言い、方言チャンプルーで様々な方言で言いながら谷掛に抱きつく。
「ごめんっちゃ〜、かんにんねぇ。許してけろー!」
「……べつに、イイケド」
しかしどこか八木にも似た物静かな雰囲気のある彼女は気にしていない様子で言っていた。
「……」
「うん?なぁに?」
そこで谷掛は羽瀬を見上げたまま沈黙しており、何か言いたげな様子であったので羽瀬は話を聞いていた。
「うんうん…そうなん?」
「?」
そこで谷掛は羽瀬に耳打ちをすると、話を聞いた羽瀬は伝言ゲームの要領で宮里に報告した。
「みやさ〜ん、大和の整備終わったで〜」
「そう、伝言ありがとう谷掛さん」
彼女は報告を受けてから気になったので腕時計で時間を確認した。
「結構良い時間になっちゃったわね」
そこで昼過ぎの時間帯になったことに気がついて口にすると、宮里はもえか達に聞いた。
「帰りの船は何時だったかしら?」
「十七時なのでまだ少しありますね」
そこで時間を確認すると、宮里はそこで提案をした。
「それならちょっと大和を見に行きましょうか」
「わあっ、是非!」
大和への視察と聞き、明乃は嬉しそうにして頷く。滅多に入る機会のない大和な上に、あの写真を撮ったのも大和だ。気分が高揚しないわけがなかった。
「私は小鈴っちと一緒に行くっちゃから、此処でバイバイするね」
そこで軽くじゃれ付いている羽瀬と谷掛は言うと、谷掛は人形のように羽瀬に腕を掴まれて手を振っていた。まるで餌付けされた猫のようだ。
「ほなまたおいでぇな〜」
「はい、また!」
羽瀬に明乃は頷くと、彼女達は食堂を後にした。
そして岸壁に向かう途中で宮里達は出国をしたスーの話を聞いていた。
「…それで、スーちゃんは一時帰国してるんです」
「そう、そっちも良い結果に落ち着いた見たいね」
彼女はそこでスーが横須賀校の中等部に進学するもしれないと言う話を聞いて安堵した様子を見せた。
「なかなか粋なことしよるじゃん。来島の巴御前は伊達やあらーへんね」
「代わりに親父が対応に苦労しましたけどね…」
「それは仕方ない。元はアメリカの問題やったんやし」
能村はそう言いややグッタリした様子のサクラに言う。
「国も遠いし、手続きとかもあるから横須賀に戻るまでもう少しかかるけど、また会える日が楽しみです!」
明乃もきちんとした手続きを踏んで日本に入国をしてくることを心待ちにしながら言っていた。
「あ、そういえば」
その時、明乃はふとスーを送り届ける時のことを思い出した。
「見送りの時にルナちゃん…私の友人なんですけど『ヘリコプターでビューンとすぐ行って帰って来れれば良いのにねー』って言ってて…」
その時の話を聞いて明乃は首を傾げた。
「ヘリコプターよりも早く飛べたら、あっという間に移動できるのかな?」
「どうでしょうね。親父が大統領選挙中に使った時は一日でニューヨークからタコマまで移動できたしね」
「おお、随分と早いんだら。ヘリってのは」
そこで都市の名前を聞いて能村は驚いていた。するとサクラは頷く。
「飛行に革命をもたらしましたからね。ヘリコプターというのは」
モンタナの艦載機にも載せられ、続々と教育を終えたパイロット達が配属されていっている現状を思い出す。するともえかが言う。
「今の所、ヘリコプターより早い航空機というのはありませんが、いずれは研究が進んだら実用化できるかもしれませんね。最近はヘリコプターの登場で再注目されている分野ですし」
ヘリコプターの登場で大きな変革をもたらそうとしている現状にサクラは言う。
「私の乗組員一人が今もその研究を行っていたりするしね」
「あ、そうなんだ」
「祖先が一番飛びそうな研究結果を出していたとかなんとかで…」
「「「へぇ〜」」」
航空技術の関連の話を聞き、明乃達はそんな反応を示すと、彼女達は岸壁に到着する。
「あっ、大和!」
そこで投錨をされて停泊していた大和を見て明乃は言うと、宮里達も言う。
「良さそうじゃんね」
「ええ、明日からの実習も楽しみだわ」
整備が終わり、いつでも出港が可能な様子に満足げに頷いていた。
「…あの時、スーちゃんが言ってたんです。空を飛べたとしても船に乗りたいって」
そして明乃はそこで甲板に止まっていたカモメを見る。
「その時、私もそうかもって思って…」
「結局、みんな船が好きだからね」
宮里もそのスーの言葉に大いに納得をする。
「そんなら大和にも乗って行きりん!」
「やったー!」
そこで能村からの話を聞いて嬉しそうに明乃は言うと、もえか達は苦笑した。
「広いから全部見て回る時間はないかも…」
「流石に予約しちゃったから遅刻は無理よ」
そう言い、帰りのカーフェリーの時間注意しながら彼女達はタラップを上がる。
「あ、そうそう」
そこで能村は甲板に上がりながらサクラに聞いた。
「ファーゴ艦長達が乗ってきたあの車。あれ、どこから持ってきたん?」
聞いてきたのはサクラ達が乗ってきたミュールについてだった。その疑問にサクラは答える。
「モンタナの装備品ですよ。人員輸送やヘリコプターの武器、弾薬、燃料、そう言う諸々の物資を運ぶのに備え付けで置いてあるものを持ってきたんです」
「へぇ、あれ船内で使えるん?」
「いや、船内は電動自転車ですね。まあ甲板だけですけど、便利ですよ?」
「ええなー、あの小型トラックうちにも欲しいわ」
能村はそう言い、甲板上とはいえ簡単に移動ができそうなミュールに羨望していた。
「学校に申請して配備して貰えばよろしいのでは?」
「割と考えものね…」
そこで宮里もミュールを見て乗り気であった。
「普段、私たちは自転車だから大変なのよね」
「へぇ〜」
そこで大型艦特有の話を聞いて明乃は驚いた様子で声を漏らす。
普段、航洋艦の晴風は歩いて全て見て回ることができる為、明乃は良く分からなかった感覚だと思っていた。
「武蔵はどうなの?」
「同じかな。備え付けで自転車があるくらい」
そもそもの船体が巨大な大和型に立って彼女達はそんな話をしていた。
「ミュールだったら移動目的で簡易的に座席つっつけたら楽ですよ?」
「うーん、学校長に提案したところで通るのだろうか…」
「飛行船の資材運搬目的ってのは?」
「おお、なるほど」
船内に案内されながらも、すっかりサクラ達の乗ってきたミュールの話で盛り上がる宮里達。
「もかちゃんはどう思う?」
「うーん…確かにあったら便利だろうし、武蔵でも考えてみようかな…」
もえかはそう言い、どう学校長を説得するべきかと考え出した。
「ウチは航洋艦だから走られられる場所がないなぁ…」
「視察が楽でええやん。艦内の隅々まで見られるで?」
明乃の呟きに能村はそう言うと、明乃は春先にももえかに似たようなことを言われたっけかと思い出していた。
「大和って聞くと、ついつい懐かしくなっちゃうな…」
「へぇ、どしてなん?」
「昔、この二人と写真を撮ってて」
明乃はそう言ってロケットを取り出すと、中に収められた写真を見せた。
「へぇ、めっちゃいい写真やない」
そして写真を見た能村は幸せそうな様子の三人と、背後に映る大和を見て笑みを漏らしていた。