四国沖 洋上
モンタナと晴風が停泊するその場所では太陽が沈み始め、海が荒れ始めていた。
モンタナ船内のCICで、レーダー監視員をしているシルフ・オノ・ハインツは常時作動しているレーダーに反応があったのを見た。
「……っ!レーダーに感!数五!右60度!!距離200!!」
シルフの報告から一斉に全員が配置に着く。
「あれ?艦長は?」
「ちょっと探してくる」
艦橋に上がるもサクラの姿が見当たらず、エマが探しに行った。
エマが艦橋から消えるとシルフから再び通信が入った。
『接近する艦艇は間宮及び明石他護衛の航洋艦二隻とウィチタ級補給艦です!』
しかし、艦長、副長ともに不在で少しゴタついていたモンタナは晴風に報告する余裕がなかった。
少し前、晴風艦橋では真白が怒鳴っていた。
「艦長たちはまだか!?」
「まだ、ですねぇ〜」
納紗がそう答えると真白は苛ついた様子で呆れていた。
「何をもたついているんだ…!」
出て行ったのは昼前、そして今は夕刻。トイレットペーパーを買って帰ってくるだけの簡単な任務なのに、何故遅いのか。そう思っていると……
「ぬっ」
晴風で飼っている猫の五十六が口に何か咥えて艦橋に上がって来た。
「ん?」
「ひやっ!?」
思わず真白が声を上げて驚いてしまう。無理もない、なぜなら五十六が咥えて来たのが鼠だったからだ。
「かわ……いい……」
すると立石は五十六の捕まえた鼠を見て呟く。その可愛さから思わず手に取ろうとすると五十六が爪を立てる。
「こらこらこら」
すると咄嗟に納紗に抱っこされ、鼠を取り返すことができなかった。
鼠を手に取った立石は撫でるとそのネズミは人懐っこく、反応をしていた。
「人懐っこいですねぇ~」
「生き物は、持ち込み禁止だろう!?」
「飼い主が見つかるまで預かっておきましょうか?」
こんなに人懐っこいのだから誰かのペットなのだろうと思った納紗はそのままにすることを提案した。…と言うか、これは鼠というよりもハムスターのように見えたからだ。
同時刻
見張り台にいた野間は晴風に近づく艦影を見つけた。
「間宮・明石および護衛の航洋艦二隻!右60度!!距離200此方に向かう!!」
報告を聞いた艦橋では混乱が広がっていた。
「また攻撃されちゃうの~!?」
「いやな予感が当たった!!」
「ど、如何しよう~艦長たち。まだ戻ってきてないし……」
「ボイラーの火を落としているから、何れにせよ逃げられない!!」
するとミーナが突撃して来て叫んだ。
「何をしとる!ド間抜け共が!艦長は!」
「まだ戻ってきていません!」
「なにぃ!?」
機関を再び動かすことには囲まれているだろう。そう予測し、逃げられないと真白達は悟った。
「……」
不安げに様子を伺う立石。その手にはあのハムスターがいた。元々魚雷発射管要員の姫路達が漂流物を漁っていた時に偶然見つけた生き物で、五十六に捕まった後。その可愛さから立石の手の中に収まっていた。
しかし、そのハムスターは先ほどとは売って違い、まるで悪魔の使いのような顔をしていた。
間宮、明石、舞風、浜風の四隻が探照灯を照らしながら晴風を囲む。
「四隻が包囲体制を取りました!!」
「威嚇だ!気にするな……全く、艦長は何をしているんだ……」
ルイーザが思わず愚痴っていると聴音員から通信が入った。
『スキッパーの音を確認。それと……小型艇らしき推進音も確認!』
「何っ!?」
咄嗟に後ろを見ると、スキッパーの後方をブルーマーメイドの小型艇が共に向かって来ていた。
「おいおい、マジかよ……」
焦るメンバーだが、それよりももっと恐ろしい緊急事態が起こる。
「晴風、発砲!」
「嘘でしょ!?」
「伏せろ!!」
その直後、艦橋のガラス一枚に衝撃と共に大きなひび割れが起こる。
「うわぁっ!?」
「何が起こって……!?」
たまたま艦橋に上がって来ていたエリーが恐る恐る外を見るとそこにはミーナに投げ飛ばされて海に落ちていく立石の姿があった。
間宮、明石、舞風、浜風の四隻が晴風を囲み、艦橋では……
「艦長たちが戻って来ました!……っ!?ブルーマーメイドの哨戒艇もいます!?」
野間の報告の真白たちは驚愕する。
「何っ!?」
「ブルーマーメイドって、まさか私たちを捕まえに来たの〜!」
そんな時、艦橋に怒号が響く。
「カレーなんか食ってる場合じゃねぇ!!」
声の主は立石だった。いつもの物静かな雰囲気とは売って違い、今はまるで猫のようにフーフーと息を切らして感情むき出しだった。
仲良しの西崎が驚愕するくらい、今の立石は様子がおかしかった、
「た、立石さん!?」
これには思わず納紗も驚きの声を出す。
「……何じゃ?カレーとは?」
今日は金曜日ではない。なのになぜカレーの話が飛んでくるのか。頓珍漢な言動に疑問を浮かべるミーナ。
と普段らしく無い立石の様子に西崎は、
「おっ?……撃つのか?撃つのか?」
と、あまり警戒していない様子で言ったが真白が叫ぶ。
「やめろ!戦闘行為は禁止だ!」
「黙れ!」
しかし、立石は全く聞く耳を持たなかった。その怒気に少し真白が怯んでしまった。
「タマちゃん如何しちゃったの急に〜!」
と鈴が涙目で叫ぶ。
「いいから止めろ!」
真白が立石を取り押さえようとし、西崎もそれを手伝った。もしかすると間宮の接近でパニックになっているかもしれない。
抑えなければ本当に発砲するかもしれないと感じ、立石を取り押さえようとした。
「離せ!HA⭐︎NA⭐︎SE!」
「大人しくしろ!」
二人に抑えられても、立石は暴れ出す。
「「うわっ!」」
すると立石は鍛冶場の馬鹿力とも言うべきとてつもない力で二人を突き飛ばして壁に叩きつけた。
そして立石は四つん這いになって飛び移った、そして20mm機関銃のある場所に着くと機銃の向きを明石の方へ向ける。
「本当に撃つ気だ!?」
そして機銃を四方八方へ撃ちまくった、立石を追いかけた真白達は甲板へ伏せ、姫路達は立石の様子を見て怯えていた。
「ああ、撃っちゃたね~」
機関銃を撃つ立石に西崎が半ば諦めた様子で呟く。その横で真白が思わず叫ぶ。
「何て事をしてくれたんだ!!」
これでは向こうに攻撃できる理由を与えてしまったような物だ。これでは晴風がいつ撃沈されてもおかしくないと感じた。その銃口は今まで自分たちを守ってくれていたモンタナにも向けられていた。
やがて機関砲を撃ち尽くすと立石はもう一つの銃座に移動しようとした。その時、
「この!ドアホゥのドマヌケがぁぁああ!!」
追いついたミーナが立石の首根っこを掴み、投げ飛ばす。相当お怒りだったのが伺える。
しかし、場所が不味かった。狭い銃座で尚且つミーナが投げ付けた先は大海原。真っ逆さまに立石は海に落っこちてしまった。
「しまった…!!」
ここでことの重大さにようやく気づき、顔を青くする。ライフジャケットがなく、海は荒れている。溺死する可能性もあったのだ。
「タマちゃーん!」
「立石さん!」
「大丈夫!」
海に向かって呼びかけていると大きな波が晴風に向かい、その波に投げ飛ばされる形で立石は甲板に戻って来た。
「戻ってきた!!」
あまりにもダイナミックな帰還方法に驚く西崎。少ししてミーナや真白が戻ってくるとミーナは相手が濡れているにも関わらず抱きついていた。
「よくぞド無事で」
「いや、そこはご無事だって……」
ミーナの言い方に西崎は思わず突っ込んでいた。
「あら?あなたそんな所にいたの?」
すると納沙は立石のスカートのポケットに入っていたネズミに気づく。海水に使った影響なのかグッタリとした様子だった。
「タマちゃん、大丈夫!?」
するとそこに、晴風に戻ってきた明乃が立石を訊ねた。
「うぃ」
「あれ?いつもの調子に戻っている……?」
西崎はさっきとは違い、いつも通り物静かな様子の立石に困惑していた。すると明乃は真白達を見て言った。
「聞いて!補給艦の皆が助けに来てくれたんだよ~!!」
晴風で一悶着があった頃、モンタナでは……
「ーーーんで、あの艦は晴風とウチらの補給艦って事」
艦橋に上がったケイリーが事情を説明すると全員がホッとした様子で武装解除をしていた。
「良かった……」
「本当にね……」
そうして全員がホッとした瞬間。
ウォォォン!!ウォォォン!!
突如艦内に警報が鳴り響く。その音を聞いたクラスメイトは驚愕する。
「これは……」
「中で何かあったみたいよ」
鳴ったのは内部で何か海賊が乗り込んだり、船内で異常自体が発生した時に鳴らす非常ベルだった。
「急げ!全員武器を持って!」
「場所は!?」
ケイリーが聞くと誰かが調べ、警報の発信源を叫ぶ。
「か、艦長室です!!」
その場所を聞き、驚くもケイリーは的確に指示を飛ばす。
「みんな、艦長室に!!急いで!!」
「「はいっ!」」
原則、非常ベルがなった場合、生徒は武器の所持を許可される。艦橋端に置かれた武器箱や、弾薬室などに置かれたM3短機関銃やAAー12散弾銃を持って艦長室に突撃する。
「サクラ!!」
ケイリーが真っ先に突撃するとそこではバケツ片手に息を吐くシアと、水をぶっ掛けられた様子のエリーとサクラ。そしてサクラはエリーに羽交締めされていた状態でグッタリとしていた。
「何が……あったの……?」
思わず武器を下ろしてシアに聞くと、彼女は呟く。
「良かった……ギリギリだった……」
するとエリーが詳しい話をした。
エマから言われ、艦橋に来なかったサクラを探しに艦長室に来たエリーはそこで窓の外を眺めているサクラを見つけた。
「艦長!四隻の艦艇が向かっています。指揮をおね……」
その直後、何の前振りもなくサクラは持っていたM1911の引き金を躊躇なく引いた。
「!?」
咄嗟に避け、エリーは反射的に自衛用に持っていたFNブローニングハイパワーの引き金を弾く。
「艦長!何をしているんですか!?」
すると銃声を聞いたシアが艦長室に突撃をして来た。
「チッ、遅かったか……!!」
するとシアに向けてまたサクラは発砲した。シアはそれを避けると隠れていたエリーに向かって叫んだ。
「エリー!注意を引いてくれ!その間に艦長を制圧する!!」
その剣幕にエリーは只事ではないと察し、頷く。そして机の陰に隠れながら拳銃を撃つ。M1911の装弾数は最大八発、対してこっちは一三発。いずれは弾切れを起こす。そのタイミングで接近する。
ここは日本、なので使用できるのはゴム弾まで。当たっても痛いだけだが、無茶はできず。エリーはサクラの発砲回数を数える。
「六…七…八…!!」
打ち切ったと確信してエリーは机から飛び出す。そしてそのままサクラの懐に入り、後ろから羽交締めをして床に倒れる。
「こんのぉお……暴れないで!!」
「うぅぅう……」
ただ闇雲に暴れるだけのサクラは勝てる筈もなく、ただ雄叫びだけを上げてる。それに危機を感じたエリーは視界端に映る非常ベルのボタンを見る。
「っ!うらぁっ!」
拳を握ってプラスチック製カバーを叩き割ってボタンを押す。その直後、シアが海水の入ったバケツを持って艦長室に駆け込む。
「艦長!」
その直後、シアは持っていたバケツを思い切りサクラ目掛けて掛ける。エリーと共にずぶ濡れになるも、海水をモロに被ったサクラはそのままグッタリと倒れてしまった。
「ーーという経緯です」
説明を終え、ケイリー達は困惑する。するとシアがバケツ片手にケイリー達に言う。
「詳しくは後で話すから今すぐ全員海水でシャワーを浴びて」
かつてないほど真剣な目をするシアにケイリー達は大人しく従い、その後にシアから直接説明を受けた。