もえかの呟きにサクラは頷いた。
「そう、<リヴァイアサン>…上層部では仮称的にそう呼んでいるテロ組織よ」
渡した資料を読んで、もえか達は少し首を傾げた。
「仮称的?」
「彼らは正式な集団名を名乗っていないから、こっちで名前つけて分かりやすくしたのよ」
彼女はそう話すと、次に命令書に添付された参考資料を見ていく。
「ここ二年くらいで急激にその活動を激化させている組織よ、ブルーマーメイドやホワイトドルフィンに対してテロ行為をしている組織」
「え?でもこんな組織、聞いたことないよ?」
そこで明乃が首を傾げて聞いてきた。その疑問にサクラは頷く。
「当然よ、だって彼らのテロ行為は全て事故扱いだもの」
「「…」」
彼女はそう話すと、二人は途端に眉を顰めた。
ブルーマーメイドになって久しく、こうした上層部に対する色々と隠蔽や謀略などを見てきていたが、それでも『国際機関が何をしているんだ?』といちいち目くじらを立てていれば、こちらが先に倒れてしまうほどであることは分かっていた。そして無闇矢鱈と事実を公表すれば、いずれ大惨事となって収拾がつかなくなることも分かっていた。
「彼等はブルーマーメイドとホワイトドルフィンを辞職、若しくは脱走した隊員で構成された組織。武装も十分だけれど、どうやって資金調達をしているのかはいまだに分かっていない」
「…だから、隠蔽したのね?」
「そう、脱走隊員で構成されたテロ組織なんてこの組織の威厳が損なわれるわ。特にこんな状況じゃあね…」
彼女はそう話すと、二人の脳裏には昨今の汚職事件に対する市民からのデモ活動を思い出す。たしか真白と納沙がデモ活動を見て辟易としていたと言っていたのを思い出す。
「彼等は最近まで欧州やアメリカを中心に活動していたけど、この前のフロートの攻撃は彼等が行った可能性が高いとされている」
「高い…じゃあ犯行声明は出ていないってこと?」
「ええ、今の所はね」
二発の魚雷を撃ち込まれたフロートは、今の日本であれば話題沸騰の問題である。絶対安全を謳い、その通りにフロートは傾きはしたが沈没しなかった。しかしフロートと言う、言わば巨大な船舶を前に『不沈神話』に若干の揺らぎが生まれていることもまた事実。
最近は地盤沈下が治っていると言うのが地質学者の見解で、多くの国民は安堵していた矢先にこの攻撃である。
「彼等の活動目的は不明。襲撃理由も不明だけど、欧州で武器保管庫を襲って、そこで多量の武器が強奪されたわ」
「「…」」
そこで知らされる数多の新情報に明乃達は自分たちの知らないところで大問題が起こっていたのかと驚愕しながら資料を読んでいく。
「え?この火災事故も?」
「ええ、トゥーロンの船舶火災事故も、ノーフォークのガス漏れ事故も、みんなこのリヴァイアサンによる攻撃と断定されているわ」
その情報は、近年立て続けに起こっている火災事故やガス爆発事故、交通事故などである。
「交通事故に遭ったのは何もブルーマーメイド、ホワイトドルフィン上層部。暗殺の対象になり、既に多くがやられたわ」
そう話すと、彼女達はそのニュースを知っていたので、事故ではなく暗殺だったのかと驚いていた。
「じゃああの時も?」
「上層部でこのリヴァイアサンに対する対策会議が開かれてたって話らしいわ」
彼女はそう言うと、明乃達はサクラの口から話される情報にため息を吐く。
「で、流石にフロートに攻撃をされて、その時に死傷者が出てどうしようもないから、組織内の公開捜査に踏み切ったってところかしらね」
「今まではどうしていたの?」
「特殊部隊を使ってたそうよ、まあこっちはアーカイブの閲覧許可を得て知ったからいまいち把握できていないんだけどね…」
軽く肩をすくめてサクラは言うと、話を聞いた明乃達も苦笑していた。
「で、今後は日本での活動が増えるかもしれないって話になって、ここで対策本部が建てられるようになったってわけ」
「「なるほど…」」
事情を把握した二人は納得した様子で頷くと、もえかが聞いた。
「でもどうして日本で活動するって分かったの?」
「そういうタレコミがあったのよ。その直後にフロートに攻撃があったから、本部はこれを本物と判断した」
サクラは明乃達に与えられた命令書を読む。
「これから貴女達にはこのリヴァイアサンに関する捜査と、可能なら捕縛、テロ行為を防ぐ総合的な任務を受けてもらうわ」
改めて命令を読むと、そこでもえかが気がついて驚いていた。
「…随分と権限が与えられるのね」
そこで与えられた自由裁量権の幅の大きさは思わずそんなことを漏らしてしまう。
「ええ、流石に国土保全委員会に火をつけられて慌てているのよ」
「日本政府から怒られたわけだものね…まあ仕方ないよね」
日本の国土に攻撃が加えられたことに対し、もえかは了解を守るはずのブルーマーメイドがこの為体とはという話にもなるため、ため息を吐くしかない。
「最悪、予算を減らされる可能性もあるから無視できないよね…」
「うーん…」
笑えない冗談にもえかは微妙な反応をすると、彼女に与えられた役職を見る。
「あれ?お姐ちゃんがトップじゃないのね?」
「ええ、私はあくまでも本部から派遣された連絡員に過ぎないもの。まあこっちの作戦指揮はもかちゃんとミケちゃんに一人って感じかな」
「へぇ〜、人員も決めて良いんだ〜」
そこで明乃はまだ決まっていない捜査担当官の欄を見ていうとサクラは頷いた。
「ええ、だから編成もミケちゃんの思うがままって感じかな。艦艇自体もこっちから用意するし、足りない人員はこっちから選ぶから」
「おお、入れたり尽せりだ…」
明乃はそこで何でもやってくれるサクラに目を輝かせると、彼女はサクラにこの艦艇に乗せていく人員を選んでいく。
「人員を決めたら、こっちに渡して。辞令渡すから」
「じゃあこんな感じで〜」
「「早っ!?」」
そこで人員策定を簡単に終えた明乃に二人は驚くと、サクラは人員名簿を渡されて中身を見ていく。
「…へえ、なるほどね」
「えへへ、ちょっと我儘だったかな…」
明乃はすこし恥ずかしげにしていると、サクラは少し笑って言う。
「いやいや、これでも通させるのが私の仕事だから。細かいことが決まったらまた通達するわね」
「分かったよ。お姐ちゃん」
明乃は感謝しながらサクラを見ると、彼女は明乃が選んだ人員を見て苦笑していた。
二ヶ月後。
横須賀 ブルーマーメイド基地
「全く、どうしていきなり前線部隊に移動なのか…」
そこでため息混じりに真白は停泊していた艦隊を見上げた。
「話だとかなりの異動命令が前線、後方問わずにあったみたいですよ?」
そこで隣に立つ納沙もタブレットを片手に話した。
「リンちゃんも元々いた管区から移動したらしいですしね」
「北海道から移動とはな…」
そこで二人は停泊していた新型FFM『ようてい』に乗り込んでいく。
移動先でこんな最新鋭艦を与えられたことに驚きながらタラップを上がる。
新たな辞令によって前線部隊に移動となった彼女は、一部では『え、どうして?』と降格を疑われてしまい、その噂消しに納沙と奔走する羽目になっていた。本来の引き継ぎ業務と合わせて仕事をしたので、倍以上に疲れてしまった気がしていた。
「あれ、副長?」
船内に入ると、そこで知っている声が驚いた様子で話しかけてきた。真白達は驚いてその方を見ると、そこでは制服の上着を馴染みの猫パーカーを着込んでいた西崎と立石が立っていた。
「水雷長?」
「立石さんまで…」
そこで納沙は驚いた様子で二人に近寄って飲み会以来の再会を果たした。
「久しぶり〜」
「久しぶり…」
二人も真白達が乗艦したことに驚いた様子で見ていた。
「今日はどうされたんですか?」
「私達、今日からここに異動になったんどよね〜」
「あら、皆さんもですか?」
納沙が言うと西崎達は驚いた様子で真白達に聞いた。
「へぇ、じゃあ副長達も?」
「ああ、今日からこの艦艇の配属となった」
真白は頷くと、そこで次に船内通路を通って知った声がまた聞こえた。
「おうおう!誰かと思えば副長達じゃねえか!」
そこで話しかけてきたのは柳原、その一歩後ろで黒木が驚いた様子で見ていた。
「宗谷さん?!」
「ああ、飲み会以来だな」
彼女達は驚いた様子でいると、放送が鳴った。
『あー、あー。乗艦した隊員は、全員船内食堂に集合してください。繰り返します。乗艦した隊員はーー…』
その声もまた、誰もが知っていた声だった。
「今のは八木さんの声ですね」
「ああ、どう言うことだ?」
そこで放送を聞いて真白達は首を傾げながら船内食堂に向かった。
「あっ!副長〜!」
「駿河さん…?」
食堂では先に待っていた駿河や広田達が真白達を見て手を振って反応した。
「どうして貴女達が…?」
これには黒木も驚いており、すると彼女達は事情を話す。
「私たち、同じ時期に異動したらしくって〜」
「そうそう、機関長達もだったんだ〜」
柳原達は久方ぶりの再会に花を咲かせながら席に座ると、次々と乗組員が乗艦をして集まってくる。
「あれ?副長だ」
「本当だ、みんなも居るよ〜」
そこで武田や小笠原が入ってきて驚いて食堂に居た隊員達を見る。
「あ!皆んないるぞな〜!」
「お、お久しぶりです…」
勝田や知床も食堂にやって来て、次々と懐かしい顔ぶれが集まっていく。
「どう言うことだ?」
「まるで晴風クラスですね〜」
「まあ一部知らない隊員もいるけどね〜」
そこで見知った顔が多い船内に彼女達は驚きながら西崎は言うと、見知らぬ顔の隊員の兵科色を確認した。
「航空科だな…」
「私たちの頃はそもそも創設した手でしたからね」
「え?じゃあ、この艦艇はヘリコプターが配備されるってこと?」
西崎達はそんな話をしていると、食堂の扉から彼女達のよく知る顔が現れた。
「皆んな、お待たせ〜」
そこで少々疲れた様子で明乃が入ってくると、集められた隊員達は彼女を…正確にはその階級章を見て驚いていた。
「いっ、一等保安監督官…」
「うわ、艦長すごい出世してたんだ…」
そこで航空科の隊員等も、明乃のことを知っている様子で驚いており、真白は彼女達は元々『おんたけ』の航空要員だったのかと察すると同時に、明乃のこの出世が直近に行われたものなのだろうと察することができた。
「ごめんね〜、ちょっと出港に必要な書類に手間取っちゃって」
彼女はそう言い、昔と変わらないあの明るい雰囲気で真白達を見た。