モンタナと武蔵で砲戦を開始した頃。晴風の艦橋では……
「凄い……」
「モンタナが……武蔵と……」
砲戦を始めた二隻の超弩級戦艦の一騎打ちを見て晴風の艦橋メンバーはその激しさに言葉を失う。しかし、そんな激しい砲戦が目の前で起こっていると言うのに明乃は見る様子もなく積もっていた感情が爆発していた。
「(もかちゃん…)……シロちゃん…悪いけど……後任せていい?…私、行ってくる……」
「ちょっと待って下さい!どこに行く気ですか!」
真白の問いに明乃は言う。
「武蔵の所……」
すると真白が反論をする。
「馬鹿を言わないでください!私たちは状況を把握し、学校に伝えることが任務だ!それに今はモンタナが発砲しているんです!ヘタをすると巻き込まれますよ!!」
真白がそう言うが、明乃はもえかの事しか頭になくパニックを起こしていた。無理矢理にでも行こうとする明乃に真白はついに……
「っ!!いい加減にしろ!!毎度毎度、自分の艦をほったらかしにして飛び出す艦長がどこにいるか!!」
真白は今までの鬱憤を晴らすかの如く叫んだ。しかし……
「で、でも…もかちゃんが……私の幼馴染があそこに居るの…大事な親友なの……」
そう言うと真白の静止も聞かず明乃はスキッパーに乗って飛び出してしまった。
艦長が飛び出してしまった晴風ではいつになく苛立った様子で真白が言う。
「っーー!!艦長を援護する!!機関、全速……」
明乃を追いかけようとした矢先、通信が入った。
「モンタナより通信!『晴風は東舞校艦隊の救援に迎え。スキッパーはモンタナが対処する』です!」
「モンタナが……」
すると真白達は明乃のスキッパーを空中で追いかける影を見つけた。
「な、何だあれは!?」
「あれは……始めて見ます……」
納紗ですら初めて見ると言うその影は探照灯を照らすと最も簡単に明乃の乗るスキッパーに追従していた。
明乃の乗るスキッパーを発見したSHー2対潜ヘリコプターは上空から追いかけた。
「これよりスキッパーを追いかけます」
パイロットがそう報告した直後、明乃の乗るスキッパーは夕焼けで見えにくくなっていた岩礁に乗り上げ、明乃はスキッパーごと海に転落してしまった。
「スキッパーが転落!!これより緊急で救助を行います!!」
そう言うと共に、ヘリコプターに乗っていた乗員は扉を開け、救助用のハーネスを下ろした。
『スキッパーが転落!?これより緊急で救助を行います!!』
ヘリからの報告にモンタナでは緊張が走る。
「……生きているの?」
その問いにヘリコプターから続報が入る。
『……晴風艦長の生存を確認!救助をしました!』
その報告にホッとしていると艦に振動が走った。
「現状を報告!!」
するとCICから報告が入った。
『武蔵の砲弾が後部艦橋下に直撃!!』
「まだ撃てる!?」
『戦闘に支障はありません!しかし、装甲ボックスランチャーは完全に壊れました!!』
戦闘に支障はないと確認し、サクラは叫ぶ。
「そのまま砲撃を続行!!晴風艦長が救助されるまで注意をこちらに引きつけろ!!アスロック発射用意!目標、武蔵艦尾!!全弾発射!!」
直後にモンタナからアスロックが発射される。本来は対潜用のミサイルだが、武蔵の船体の大きさから当たるだろうと予測してのことだった。
艦中央から煙が上がり、アスロックが放たれる。
「主砲!武蔵の副砲を撃て!!」
「了解。目標、武蔵副砲。一斉発射!!」
ドドドドォォォン‼︎
発射された砲弾は武蔵の前後左の副砲を破壊する。それと同時に着水したアスロックは武蔵の艦尾に当たり、爆発を起こす。
「視界内の副砲の破壊を確認しました!!」
「同じく、アスロック命中!武蔵、速力低下!!」
ルイーゼは報告をし、戦闘は続行されていた。
「凄い……まるで映画のワンシーンです…」
「艦長……無事だよね……?」
東舞校艦隊の救助をしながら晴風は二隻の戦艦の戦いを見ていた。まさかこの時、明乃はスキッパーから落水しているとは思ってもみなかった……
「……武蔵、離れて行きます」
「そうか……」
「艦長、追撃の許可を……」
「いや、もういい……」
ルイーザの上申をサクラは断る。武蔵と戦闘を行う事、四時間。一向に決まらなかった勝負に、武蔵も部が悪いと感じたのか撤退をして行った。
戦闘が終わり、ネルが報告を入れる。
「取り敢えず右舷副砲以外は破壊に成功……三番主砲塔の旋回装置も故障させましたが……」
「おそらく修理するだろうな……」
武蔵に残った武装は主砲と一基だけの副砲、それに速射砲。まだまだ火力が残っていると感じながらサクラは聞く。
「こちらの被害は?」
「はい……本艦の被害は左舷側装甲ボックスランチャー二基、40mm機関砲四基、20mm機関砲八基、左舷対潜ボックスランチャーが破壊。推進軸一本も損傷。それと、第一主砲塔用弾装置の故障です」
報告を受け、サクラは艦橋を後にしながら指示を出す。
「最初に主砲と推進軸の修理をお願い……」
「艦長、何処へ?」
ケイリーが聞くとサクラは答える。
「……医務室だ」
そう言うと、艦橋にいた全員はサクラが何をするのか理解した。現在、モンタナには救助された明乃がスキッパーと共に収容されている。
何故、あんな行動に出たのかを問いただす為だろう。だから、誰も彼女を止めようとは思わなかった。
艦橋を降り、船内の医務室に向かうと、入り口でシアがサクラを待っていた。サクラを見たシアは親指で医務室の中を指しながら容態を伝える。
「体調も問題無いわ。怪我もなし、念の為服を着替えさせておいた」
「……了解」
「じゃあ、私は見張っているから……」
そう言うとシアは扉を開ける。中に入るとベットの上でモンタナの病院衣に着替えさせられた明乃が半ば放心状態で座っていた。
「明乃」
「……」
呆然とする明乃に、サクラはズカズカと近寄ると明乃の肩を掴んでサクラは明乃の顔を凝視した。
「明乃……歯、食いしばりなさい」
そう言うとサクラは右手を大きく振りかぶって明乃の頬をビンタした。
パチンッ!
サクラにビンタされ、頬がやや赤くなった明乃にサクラは聞く。
「どうして、あんな事をしたの……?」
「…モカちゃんがいたから……」
明乃はようやく返事をするとサクラは明乃の隣に座る。
「モカちゃんが……ねぇ…」
すると明乃は徐々に口を開く。
「モカちゃんが……武蔵にいて…それで助けたくて……」
すると明乃は涙を溢しながらサクラの胸に飛び込む。
「お姐ちゃん……私…どうすれば良いの……?あの時、どうしたら良かったの……?」
嗚咽声を漏らしながら明乃がサクラに聞く。医務室に明乃の泣き声が響く。
「私……やっぱり艦長に向いていない……」
すっかり艦長としての自信を失っている明乃に、サクラは先ほどとは打って変わって優しく背中をさする。
「そんな事はないわよ…」
そう言うとサクラは明乃に優しい声色で言う。
「貴方に足りないのは
「待つ事……?」
明乃が疑問に思うとサクラは頷く。
「そう、明乃に必要なのはそれだけ。それ以外に関しては艦長として十分よ」
そう言うと、明乃は疑問に思いながらもサクラに背中を軽く押される。
「さ、着替えな。もうすぐ晴風と合流だ」
そう言われ、明乃は乾燥された制服に着替えていた。
「今回は申し訳ありませんでした」
合流早々に真白が頭を下げる。甲板ではサクラと頬の冷やした明乃が立っており、明乃はそのまま晴風に戻った。その様子を見て真白が不満げにしていたのを見て、サクラは真白に言う。
「宗谷副長。岬艦長にはあまり強く当たらないで下さいね」
「え?で、ですが……」
「あの子もあの子で色々と悩んでいるから……」
そう言うと、真白は思わずサクラを見るとそのまま敬礼をして甲板を後にする。その様子を眺め、サクラは感傷に浸っていた。
「やれやれ、初々しいねぇ〜…」
そんな風に思いながらサクラは甲板を歩き、損傷した箇所と修理状況の見回りを始めていた。
同時刻 横須賀女子海洋学校 会議室
「東舞校教員艦一六隻が航行不能!?」
上がってきた報告に真雪は驚愕する。
「教員艦は最新鋭の装備だったはず。なのに何故……」
そう疑問に思っていると、秘書は詳しい事情を答える。
「電子機器と誘導弾が全て機能不全を起こしたようです」
「乗組員は?」
「三重の安全装置は伊達ではありませんね、軽傷者が数名だけです」
秘書の報告に真雪はホッとした。
「武蔵の燃料と弾薬は?」
「出港時に満載状態なので推定で燃料は八割……弾薬に関しては戦艦モンタナと撃ち合いになったので六割ほどかと……」
「なぜそんなに搭載を?」
「大和型の砲弾を洋上補給するのは困難なので……」
秘書は武蔵の弾薬に関してそう述べた。すると会議室に教員が飛び込み、衝撃的な報告をする。
「校長。比叡、鳥海との通信が途絶しました!」
「なんですって!」
教官からの報告に真雪は声をあげてしまった。その後、部屋の明かりを消すと現在の状況を伝えた。
「今、所在不明の艦艇は?」
「摩耶、五十鈴、名取、時津風、天津風、磯風並びにドイツより参加予定だったアドミラル・グラーフ・シュペーです」
「そんなに……いま動かせる艦艇は?」
「補給活動中の明石、間宮。護衛の秋風、舞風、浜風。偵察中の長良、晴風、浦風、萩風、谷風、そしてモンタナです」
「山城、加賀、赤城、生駒、伊吹は現在ドックに入っていてどんなに急いでも後半年は動かせません。航洋艦は前倒しはできますが、せいぜい後三ヶ月は無理かと……」
「……」
報告を聞き、真雪は深刻な表情を浮かべていた。