蒸留装置の修理を行い、真水供給ができるようになったモンタナ。
晴風に水を供給しながら二隻はトラック諸島近海に到着する。
ウルシー環礁での沈没事故から翌日、モンタナ艦橋では……
「ようやくここまで来ましたか……」
「そうね……」
サクラとケイリーはマシューと戯れながら今後について話していた。
「シアがワクチンをブルーマーメイドに渡したらしいですね」
「ええ……これで事件解決に大きく前進するわ……」
そんな風に話しているとシルフから報告が入った。
『前方に感あり!数一!距離一三マイル!』
「了解、晴風にも伝達!」
『速度一八節!』
『射撃指揮所からも艦影視認!あれは……』
すると上部の射撃指揮所から報告が入る。
『武蔵です!!』
「何ですって!?」
唐突な武蔵発見の報に艦橋全体で震撼する。
「相手が武蔵ならとっくに射程内だぞ!!」
「どうして撃ってこない…?!」
「総員戦闘配置!後続の晴風に連絡!退避せよ、退避せよ!!」
咄嗟に喧騒が場を包むと、情報が入る。
『いえ違います!!あれは武蔵ではありません!!あれは……』
すると広がっていた霧が晴れ、徐々にその艦影が映り出す。
『二連装主砲……あれは…コンゴウクラスです!!』
すると現れたのは二連装主砲を抱え、スラリとした艦橋を持った戦艦だった。艦橋には赤いラインが引かれ、横須賀女子海洋学校所属である事を明記していた。
「確か…行方不明の中にコンゴウクラスっていたわよね……?」
「はい。横須賀女子海洋学校所属の比叡です」
ネルの報告にサクラは納得する。
「比叡……通りで武蔵と似るわけだ……」
金剛型戦艦二番艦 比叡
横須賀海軍工廠にて建造が行われ、欧州動乱後の海軍軍縮条約であるニイハウ条約失効後に艦橋を大和型戦艦のテストベットとして実験が行われ、さらにお召し艦を務めた事もある由緒正しい戦艦だった。
なお、練習戦艦として使用されていた為にいくらでも実験しやすかった為。さまざまな大和型のテストベットとして活用され、それゆえに艦橋はとても大和型と似ていた。その為、射撃指揮所も一瞬大和型と勘違いを起こしてしまった。
「へぇ〜、本当に大和にそっくりね……」
「そりゃ見間違えるわ」
「まぁ、でも大きさが全然違うしね」
そう言い、艦橋メンバーは納得の声をしているとサクラは言う。
「ネル、比叡に発光信号。停船命令を」
「了解」
そう言い、モンタナから発光信号が送られた。
「さて、これで応えてくれるかどうか……」
サクラは是非とも応じて欲しいと思っていたが、お返しは砲弾の雨だった。
『比叡、主砲の仰角つけました!っ!撃って来ました!!』
「やっぱりか……回避!面舵一杯!!」
「宜候、面舵一杯!!」
転舵するとすぐ横を砲弾が着弾した。
「やっぱり比叡も……」
「ええ、例のウイルスに感染しているわね……直ちに横須賀女子とブルーマーメイドに連絡!」
そうして、回避したモンタナはブルーマーメイドからの返事を待った。
「艦長、ブルーマーメイドから通信です」
砲弾を避けていると通信が入り、報告される。
「内容は?」
「近くの部隊が到着するまで、可能な限り比叡を捕捉し続けよ。ただし、晴風、モンタナの安全を優先とせよ。です」
「そのブルーマーメイドの到着予想時間は?」
「およそ、四時間です」
「四時間か……」
到着時刻を聞き思わず全員の顔が渋くなる。渋くなったのはモンタナが撃たれるからではない。晴風にその砲火が向かった場合にあった。
比叡の主砲は14インチ……35.6cmある。これはあのアドミラル・シュペーの主砲の28cm砲よりも強力だ。これでは駆逐艦の晴風には荷が重すぎた。
「晴風に連絡。『晴風は現海域より至急退避されたし』」
「はっ!」
そして通信を入れた後。晴風では、
「モンタナより通信!『晴風は至急現海域より退避されたし』です!」
通信を聞き、ブルーマーメイドの到着時間とも相まって唖然としていると納紗がある報告をした。
「艦長!このままでは後三時間で比叡がトラック諸島に到着します!!」
同時刻 横須賀女子海洋学校 校長室
そこではやって来た真霜が真雪にある報告をしていた。
「ーーーこれが今回の調査で分かったことです」
と言って真霜はファイルを渡した。中身を呼んだ真雪はその内容を呟く。
「実験艦は深度1500mまで沈降。制御不能、サルベージは不可………のはずが火山活動により上昇した…と」
「さるしまに乗せた研究員は全員拘束し情報を吐かせました。まず間違い無いでしょう」
真霜がそう言うと、真雪はファイルに書かれていたウイルスに関して聞いた。
「……このウイルスの特性は?」
「このウイルスは感染者同士で一つの意思に従い行動するようです」
「まるで蜂や軍隊アリのようね……」
報告を聞き深刻な表情を浮かべる真雪。すると真霜が言った。
「関係者によると元々軍事目的で開発されたウイルスのようよ」
「軍事目的?」
「ええ、この研究機関は第三国の支援を受けて『命令を完璧にこなす従順な兵士を簡単に作れて、尚且つ使用した証拠を残さないようにするウイルス』を開発するよう指示を受けたらしいわ」
「……この情報は何処から齎されたの?」
「アメリカ中央情報局から…」
「……」
真霜の話を聞き、真雪は顔が険しくなる。軍事利用をする為のウイルスが日本で作られていた事もそうだが、最も憤慨したのはそのウイルスが生徒達に広がってしまった事だった。
今月初めにアメリカ船籍の貨物船が砲撃を受けたとアメリカ政府から批判のメッセージが送られて来たことから、無理矢理ではあるが今回の事件にアメリカも加わる事になっていた。
「取り敢えず、このウイルスに対処する抗体を作らないと……」
真霜はそう言うと、真雪はそう呟く真霜に紙を出す。
「それに関しては報告が上がっているわ。『この抗体を直ちに量産してほしい』と」
「え!?」
驚く真霜に真雪はその訳を言った。
「晴風とモンタナには鏑木美波とシア・コトーが居るわ」
「あの海洋大始まって以来の天才とコロンビアの魔術師がですか……?」
「今回の海洋実習に丁度二人が乗り込んでいたのよ」
「成程……」
訳を知った真霜は納得の表情をした。
「二人のおかげで抗体の生産は既に始まっているわ」
本来は幾多ものテストを受けて審査が通る新薬開発は、今回は緊急事態という事でもう量産が行われていた。
そこで安心した声を出していると教員の一人が教室に飛び込んで報告をした。
「校長!モンタナと晴風がトラック諸島沖にて比叡を発見したと報告がありました!!」
「何ですって!?」
すると真霜が聞く。
「状況は?!」
すると詳しい情報を伝えた。
「三時間で……トラック諸島に……」
「不味いぞ…トラック諸島は交通の要所……」
「はい、一万人ほどが居住し。毎日千隻ほどの船が出入りしています」
ネルから報告を受け、深刻な表情になる。
「ブルマー本隊を待っている暇はありません。ここで止めなければ……最悪の事態になります」
「「「……」」」
そのことを想像してしまい思わず顔が青ざめる。
「どうする?このまま比叡をねじ伏せるか?」
「強行突撃をするにしたって武装を破壊しないと……」
「第一、ウチの砲じゃあ向こうを沈める可能性がある……」
至近距離から16インチ砲を受けた場合。船体を大きく損傷させ、沈没する危険があった。するとモンタナは晴風から通信を受ける。
「晴風より通信!『晴風がこれより囮となって比叡をトラックから引き離す』と……」
「何を馬鹿なことを言っている!!……晴風に無線を繋いで!」
そう言い、通信をすると開口一番サクラは怒鳴る。
「何考えてんだ!!比叡の火力じゃあ、晴風が沈む可能性があるぞ!!」
そう怒鳴ると明乃から返事が返って来た。
『サクちゃん、比叡が後三時間でトラック諸島に到着する』
「だけど、相手は14インチ砲を搭載している!晴風を一撃で沈められる火力よ。危険すぎるわ!」
『大丈夫、ウチにはリンちゃんがいるから』
『そうですよ。逃げるのは知床さん、得意ですから』
電話の後ろからそんな声が聞こえる。その声を聞き、サクラは少し考えた後、電話越しで言う。
「……岬艦長、それは全員が納得しての事?射撃を惹きつけるのはこちらから撃つよりも危険なことよ?」
『大丈夫。晴風は動きが俊敏だから。それに、皆んな了承している』
「そう……」
そこでサクラは最も安全に比叡をトラック諸島から離れさせ、尚且つ停船させる方法を考える。
「……岬艦長、今から作戦を伝える。指示通り動いてくれる?」
『うん、分かった』
「「「艦長!?」」」
サクラの言動に驚く艦橋メンバー。するとサクラは無線越しで明乃に言う。
「晴風はその場で旋回して比叡を引き付けて。比叡を挟み込むわよ」
『了解』
そう言うと通信を切る。そしてサクラは叫んだ。
「横須賀女子海洋学校に作戦内容を連絡!!交戦許可を!!」
「了解!」
「比叡を付近の環礁海域に比叡を誘い込め!!」
「はい!」
「晴風を守れ!副砲、射撃開始!」
「宜候、射撃開始!!」
副砲であれば交戦許可はいらない。自己防衛のためにやむを得ず射撃したと言うことになる。交戦許可が出るまで晴風に頑張ってもらうしか無い。
「頼むわ……ミケちゃん…」
比叡の放火に晒されながらも華麗に逃げ回っている晴風を見ながらサクラは小さくつぶやいていた。
「モンタナが比叡との交戦許可を求めて来ました」
「!!」
横須賀女子海洋学校校長室でモンタナの申請に真雪は驚く。すると教員が続報を伝えた。
「『現在、三時間後にトラック諸島に到着する比叡を遠ざけるため』との事です」
「三時間……とてもブルーマーメイドでは間に合わない……」
真霜がそう呟くと真雪は少し考えた後に教員に言う。
「……教頭、モンタナに交戦許可を」
「分かりました」
真霜も事の重大さを理解した為、何も言わなかった。そして交戦許可を降し、教員がさった後。真霜は最も近い場所にいるブルーマーメイド艦を探した。
「現状、最もモンタナに近い場所にいるのは……べんてんね……」
「あの子の船ね……」
「今、全速で向かっているだろうけど……」
「歯痒いわね……」
真雪はそう言うと、ふと思い出した様に言う。
「そう言えば、モンタナの艦長はあの人の子だったかしら?」
そう言うと真霜は少し間を置いた後の口を開いた。
「……ええ、だからこの情報もあの子から直接渡されたようよ」
「そう……優秀な子の様ね…」
そう言いながら真雪は報告書に載っていた名前を見ていた。
その様子を見て、真霜は少し不思議そうな表情をしていた。