シュペー奪還作戦を終え、シュペー艦内の消毒作業と抗体接種を終え、一段落した後。モンタナの甲板で懇親会の準備が行われていた。
奪還作戦が終わり数時間後、モンタナと晴風に挟まれたシュペー三隻の間で喧騒が広まる。そんな中、サクラと明乃はミーナに紹介されていた。
「明乃、サクラ。こちらがシュペー艦長……」
「テア・クロイツェルだ今回は私の艦の副長が世話になったのと我が艦の危機を救ってくれた事に感謝する」
そう言い、名前を名乗ると明乃達も自己紹介をする、
「晴風艦長の岬明乃です」
「モンタナ艦長、サクラ・A・ミヤマ・ファーゴです」
サクラの氏名を聞き、テアは心当たりがあるような引っ掛かりを覚え、思わずサクラに聞き返す。
「失礼、サクラ艦長に少し伺いたいのだが。ファーゴはもしや……「シッ」…そうか……」
するとサクラは口の前で人差し指を指す。するとテアは確信すると共にこれ以上深く詮索することはなかった。
「「?」」
テアとサクラの短い会話で疑問符が浮かんだミーナと明乃だったが、サクラは別の話題を振った。
「テア艦長、シュペーはこの後どうなるんですか?」
そう言い、テアに今後の予定を聞いた。
「この後はゼーアドラー基地で修理と補給を行う予定だ」
「じゃあ、ミーナさんは……」
「無論、我々と共に行く」
その言葉を聞いて納沙は衝撃を受けて静かに晴風の自室へと戻って行った。共通の趣味を持つほぼ唯一に近い友人が別れると知ってショックを受けていた。
「基地に戻ったら。念の為、精密検査を受けて欲しい」
するとその傍から美波が顔を出し、最重要でやって欲しいことを伝えていた。テアは了承すると杵崎姉妹の声が響く。
「「ご飯ができました〜!」」
「できました!」
そう言うと会場となった甲板状に並べられた机に日本、ドイツ、アメリカの料理が並ぶ。
「これは……」
出てきた料理を見てテアは少し驚く。
「これは、ラックスフィレだな?」
様々な料理の中でテアは中央に置いてあった寿司桶に入っていた寿司に注目する。
「そうです艦長!寿司とも言います!」
その横でミーナは説明を入れる。
「「我々も手伝いました!!」」
その横でシュペーの生徒が手伝ったとテアに報告を入れる。生魚の切り身をそのまま乗っけた見た目をしている寿司にやや怪訝な目をしていると、横から別の寿司桶が渡される。
「クネーデルやマチェスも乗せてみました」
そう言い、ドイツと日本食を混ぜたような料理が出来ていた。
「ああ、スシ、サシミ、カロウシってヤツか?」
「最後のは、何か違う」
突然出てきた言葉にあかねがツッコミを入れていた。
「これはアイントプフだな?」
そして寿司を見たテアは次におでんに興味を持った。
「そうです艦長。おでんとも言います」
「おでん?」
そう言うとおでんに興味津々に他のドイツ生徒も見ていた。
「艦長、そろそろ挨拶を……」
「ああ」
そう言うとテアはモンタナの壇上に立ち、挨拶をする。
「今回、我々の普段の努力により艦と自らの心の制御を取り戻した、このめでたい日に感謝し、モンタナの艦長に音頭をとっていただきたい」
「っ!?わ、私っすか!?」
コーラを飲んでいたサクラは思わずコップを落としそうになりながら答える。
「そうだとも」
ミーナにも催促され、サクラは持っていたコップを掲げなら言う。
「じゃ、じゃあ……皆んな……チアーズ!!」
「「「乾杯!」」」
「「「プロージット!!」」」
サクラの音頭と共に甲板でコップを鳴らす音がする。
そうして始まった懇親会では晴風、シュペー、モンタナの三カ国の料理が振る舞われた。
ある場所では山盛りザワークラウトに美波がドン引きし、それを簡単に平らげてしまったテア。
シュペーの炊事員が作った創作寿司に賛否両論の晴風とモンタナの乗員。
一人で多くの生徒に立ち向かい表彰される等松。
甲板に飛び乗って四対一を簡単に制した、カッコいいと評判になった野間に集まるドイツ艦の生徒。
モンタナのカミラが作ったシカゴピザに驚く晴風メンバー。
脂っこい料理ばかり出てくるアメリカ料理に胃もたれを起こさないかと思いながらコーラ片手にフライドチキンを食べているシュペー乗員。
そんな中、テアとミーナは……
「はい、艦長。あ~ん」
「はむっ、ムグムグ……」
ミーナがテアにソーセージを食べさせていた。
「それ、ソーセージ?」
と明乃が今テアの食べている物を聞く。
「我が艦、特製のブルストじゃ!これがずっと食べたくてな〜」
と言ってミーナは嬉しそうにブルストを食べていた。
「はむ、ムグムグ……なかなか行けますね!」
さらに残ったブルストを万里小路が絶賛しながら食べた、そんな様子を見て真白はブルストを取ろうとした時。
「ぬうー、パクッ!」
と言って五十六が掠め取って行った。
「あっ……」
ここで真白の不運が炸裂し、周囲からは笑い声が聞こえた。
懇親会が行われる中、ミーナはテアを見ながら言う。
「艦長、ずっと預かっていたものを……」
「っ!被せてくれ」
テアはそう言ってせがんで後ろを向く。そしてミーナは、テアの後ろから艦長帽をテアの頭にそっと被せた。
その瞬間、テアの目から一筋の涙が出てきた。
「艦長さん……」
そんな、二人を見て久しぶりの再会に心情を理解した知床は涙をしていた。
「私は泣いてない!!」
テアは袖で涙を拭き、照れ隠しをした。
するとテアはモンタナを見ながら気を紛らわすように言う。
「しかし……モンタナのかなりボロボロだな……」
そう言い、機関砲や砲塔が壊れて煤だらけになった様子を見てテアが言うと、横から声がかかる。
「いやはや、大変だったよ。直撃弾三発だってさ」
サクラが片手にジンジャーエールを持ちながら近づく。三発も直撃弾を受けたと言うのに平気で航行できる堅牢さには驚きだったが、モンタナの設計思想を思えばそれは当たり前なのかもしれなかった。するとテアはサクラにある提案をした。
「サクラ艦長、我々と共にゼーアドラーに行って修理を受けたらどうだ?」
「いえ、我々はこれからアプラにて修理と改修を行う予定となっております」
「そうか……では、ここでお別れか……」
「そうなります」
「そうか……今までありがとう」
そう言い、テアとサクラは握手をした。その様子を眺め、ミーナは納紗がいない事に不審に思っていた。
その頃、納沙は晴風にある真白の部屋で任侠映画を見ていた。
「盃は返しますけん……以後ワシを晴風のものと思わんでつかい……帰るゆうても……帰れんぞ……」
親友との別れに寂しさを感じていた。
楽しかった懇親会もあっという間に時は過ぎ、陽が落ちた後。全員で片付けをし、夜になった事で明かりを落としたままシュペーは修理のために出航する。
「どうした?副長」
「ココ……いえ、何でもありません」
甲板ででそう言い、ミーナは納沙のことを頭の隅に置いた。そして、アドミラル・グラフ・シュペーは汽笛を鳴らして徐々に速度をあげる。
「楽しかったぞ〜!!」
ミーナがそう言うと真白達も答える。
「私たちもです!良い航海を!!」
「グーテライゼ!」
汽笛を鳴らしながら、シュペーは去って行く。そしてシュペーの汽笛を聞き、納紗は真白の部屋から飛び出す。
納紗は来ないのかと思いながらミーナは残念に思っていた。すると……
「ミーちゃーん!」
と言う納沙の大きな声が聞こえた。思わず柵に手を当てて身を乗り出すと
「わしゃあ、旅行って来るけん!」
「体を厭えよ〜!」
「ありがとう〜!!」
と、お得意の任侠映画の言い方で別れを述べた。シュペーが離れ、納紗はシュペーを見送っていると後ろから真白が肩を掴んで声をかける。
「間尺に合わん仕事をしたのう」
真白もほぼ毎日任侠を聞かされていたので、それに影響されていた。
「もう一文なしや……」
目を潤しながら、納沙は笑みを浮かべて真白にそう返した。
「艦長、シュペーの出航を確認しました」
「了解」
シュペーの汽笛を聞き、サクラは第一艦橋上にある場所でシュペーを見送る。
ネルからの報告を聞き、下の艦橋ではルイーザがため息を吐いた。
「はぁ〜あ。あっという間だったねぇ〜」
「そうね……本当に、あっという間だった……」
感傷に浸りながら艦橋では晴風を見る。するとルイーザがケイリーに聞いた。
「あ、そういえば明石から連絡あった?」
「ん?ああ、あったわよ『荷物は受け取った。予定通りに晴風に取り付ける』とね」
「それなら良かった……」
それはモンタナから晴風に贈られるプレゼントのような物だった。元々、シュペーの流れ弾が晴風に命中し、三番砲塔は木っ端微塵に吹っ飛んでいた。このプレゼントもルイーザがそのお詫びと言って提案したのが始まりだった。
「ウチらもここでお別れか……」
「寂しいわね……」
すると機関室からクレアの声が轟く。
『さぁ、感傷に浸ってる時間はねぇぞ!もうすぐ出航だ!!』
そう言い、時刻を見ると出航時間が近づいていた。
「んじゃまぁ……出航準備をしますか……」
「宜候、出航用意!機関出力一杯!錨を上げ!」
『機関、出力一杯!』
その後、カルミアが晴風に分かりやすく出航する旨を伝えるためにラッパを鳴らす。
「〜〜〜〜〜♪」
その音を聞き、晴風から明乃達が出て来る。
「サクちゃ〜ん!!」
「ミケちゃ〜ん!」
そこで明乃とサクラは互いに甲板に出ると名前を言い合う。
「今までずっと……晴風を守ってくれてありがとう!!」
明乃が今までの感情を出しながらそう言うとサクラは答える。
「ミケちゃんとモカちゃんの姐はだれ?守るのは当たり前よ!!……じゃあ、また学校で会いましょう!」
「うん!また会おうね!!」
「あまり全部のことを背負い込むなよ〜!!」
するとサクラは砲術長の立石を見ながら言う。
「ちゃんとプレゼントは受け取ってね〜」
「プレゼント?」
「一体なんでしょうか……」
「うぃ……?」
そう思うと、どんどん離れて行くサクラは最後に真白に向かって叫ぶ。
「宗谷さん!ミケちゃんをしっかり支えてね!!それは、貴女にしか出来ないから!」
「…?わ、分かりました!!」
サクラの謎の言葉に疑問になりながらも、答えると。モンタナは汽笛を鳴らす。
ボォォォォオオ~!!…ボォォォォオオ~!!…
野太い、モンタナ特有の汽笛が鳴り。ほかの晴風のメンバーも出て来て、離れて行くモンタナに手を振った。
「行っちゃうんだね……」
「ええ…そうですね……」
真白は明乃と話すとモンタナが見えなくなるまで全員が手を振り続けていた。
ボォォォォオオ~!!……ボォォォォオオ~!!……
今、万感の思いを込めて 汽笛が鳴る。
今、万感の思いを込めて 船が行く。
戦艦モンタナは真夜中の水平線上の彼方へと消えていった……