武蔵救出の為に、晴風は単艦で接近を始める。砲の動きに注視しながら野間が報告する。
『武蔵まで三〇……』
逐一報告を入れ、武蔵との距離を、晴風はジリジリと詰めていた。その様子は、武蔵からも確認できていた。
「っ!晴風が接近してきます!!」
「え!?」
「晴風が……?!」
思わずもえかは窓越しに接近してくる晴風を見た。
「近づかないでって、信号を送ったのに……」
接近んしてくる晴風を見ながらもえかは思わず晴風に乗っている親友の名前を呟いていた。
「ミケちゃん……」
晴風では武蔵救出の為に明乃が指示を出していた。
「タマちゃん、武蔵の主砲塔を狙って」
「うぃ」
「絶対に武蔵を止めよう」
「ブ〜イ」
明乃の決意に、任せろと言うように立石はピースをする。
「メイちゃん、武蔵の横に着いたら。全魚雷発射!」
「憧れの全射線発射……まじ!」
西崎は明乃の指示を聞き、気分が明らかに高揚する。通常の演習でもなかなかやらない所業に、西崎は興奮していた。
「射撃のチャンスは一回限り。一回で、何とか足を止めたい……」
「集中的に艦尾を狙いましょう」
そう言うと明乃は頷き、攻撃目標を明確に定めた。そして西崎は真剣な表情になって答える。
「分かった、絶対命中させる。…りっちゃん、かよちゃん。行くよ!」
『了解でーす!』
『はーい!』
魚雷発射管を回転させながら姫路と松永は答えた。同時に主砲も旋回し、武蔵を狙う。その様子を武蔵艦橋からもえか達は心配げに見ていた。
「(ミケちゃん…まさか……)」
もえかは晴風が本気で武蔵を相手に戦おうとしている事に焦りと希望を感じていた。
そして距離を詰め、明乃は指示を出した。
「目標!武蔵艦尾!攻撃始め!」
「照準点、武蔵艦尾!全弾当てるよ!発射用意!……撃てぇ!!」
目標指示を聞き、座標を固定した西崎は指示を飛ばした。そして、魚雷発射管から計八本の実弾魚雷が発射される。
「発射!」
魚雷発射と同時に主砲も砲撃を開始する。モンタナから譲り受けた54口径5インチ連装砲三基六門が火を吹く。
連射に優れた本砲は武蔵艦尾に着弾するも、船体が動くだけでビクともしなかった。
「ダメだ……ビクともしない……」
ほぼノーダメージの武蔵を見て武田達は改めて武蔵の堅牢さに冷や汗を掻いた。
そして、発射された八本の魚雷は武蔵の後方の着弾し、次々と水柱が上がった。
「よっしゃ!全弾命中!!」
魚雷が全て当たった事に西崎が喜んでいると、野間から報告が入る。
『武蔵!速力低下!!』
どうやらスクリューの破壊に成功したらしく、速度が落ちたと叫んだ。
しかし、魚雷攻撃で船体が大きく揺た武蔵は、残っている全砲門を晴風に指向した。
「……来るぞ!」
「全員、衝撃に備えて!!」
46cm九門が指向し、思わず真白達は冷や汗を掻く。そして、仰角が固定されると主砲が一斉に火を吹いた。
『武蔵、発砲!!』
直後に、晴風の周囲に多数の水柱が上がる。付近に着弾した影響で船体が跳ね上がり、艦尾が海面に叩きつけられる。
その影響で、明乃達も思わずよろめいてしまった。その光景はみくらからも確認できていた。
『後部発煙機使用不能!』
『爆雷投射機、損傷!』
『第五運用科倉庫。火災発生!現在消化中』
晴風ではけたたましくサイレンが鳴り響きながら被害報告が多数上がる。
「い、一撃でここまで……」
「いや、凄すぎる……」
知床や西崎は一撃でここまでの被害を出した武蔵に恐怖していた。
そして無線室でも……
「あぁ!駄目だ…壊れちゃってる……」
八木が機械を触るも、動かなくなった機械を見て報告した。
『無線機損傷!!』
「無線もダメか……!!」
報告を聞き、真白と明乃は艦橋に下がっている時計を見た。
「艦長、五分稼ぎました」
「鈴ちゃん、急いで武蔵から離れて!」
「りょ、了解!!」
命令通りに、明乃は撤退指示を出し。逃げるのは得意だと前々から言われていた知床は舵を回す。
『武蔵、発砲!!』
しかし、そんな晴風を逃すまいと武蔵は砲撃を集中させる。
船底スレスレを武蔵の砲弾が通過し、さらには速射砲の攻撃も受けて晴風の周りに砲弾が着水する。
『一番砲!用弾装置故障!』
『炊事室で火災発生!消化作業に入るね!!』
報告を聞き、納紗が思わず呟く。
「これが武蔵……」
「進行方向を押さえられています!!」
「逃げ場がないよぉ!!」
晴風は武蔵からの猛攻を受け、艦橋で明乃も思わず沈没する事を考えてしまっていた。
晴風が猛攻に晒されているのを見て、武蔵艦橋ではもえかがバリケードを壊していた。
「艦長!?」
「どうなさったんですか!?」
いきなりバリケードを壊し始めたもえかに思わず親子達が問いかける。
「…砲撃を止めるの」
「無茶です!!」
「艦長!!」
無謀な考えに呼び止めるも、もえかは叫ぶ。
「じゃないと、晴風が!!」
すると、もえかの手を小林が握ってもえかに言った。
「落ち着いて下さい……艦長……」
そう言い、もえかはそこでこの人数で武蔵を止めることは不可能だと感じて、動かしていた手を止めていた。
「ごめんなさい……」
武蔵の猛攻を受けている晴風の機関室では駿河が階段を駆け上がって報告した。
「機関長! 水! 水!」
「んだって!?今行く!!」
柳原が慌てて出ると、そこには床が水浸しになったボイラーがあった。
『艦長! 左弦機関室に浸水!』
黒木の報告を聞き、明乃達は驚く。
「ありったけのポンプ持ってきな!!罐の火を消すなよ!!」
ホース片手に柳原が叫んでいた。
「機関室まで…」
もう、満身創痍でいつ沈んでもおかしくない状況に、真白は明乃に聞く。
「……艦長、みんなに離艦準備させますか?」
「マジ!?ここで逃げるの!」
「蛇は頭が食べられたら生き返るものも生き返らないんですよ!」
「ごめんなさい! 私がもっと操舵できてたら…」
西崎や納紗、知床が悔し涙を流しながら徹底抗戦する意思を示した。その表情を見て、明乃は涙を流すも、他の全員の安全を考えて離艦をさせようとしたが……
『武蔵!再度こちらを指向中!!』
「っ!この距離では!!」
野間からの報告に真白は武蔵を見ると、主砲は全てこちらを向いていた。
「まずいっ!!」
そう思った直後、武蔵の三番主砲に煙を吐いた何かが着弾し、爆発を起こした。
「っ!?なんだ!!」
その直後、武蔵の周りを複数の水柱が囲い込んだ。
「これは……」
「鈴ちゃん!面舵一杯!!」
「面舵一杯!!」
咄嗟に明乃は指示を出すと野間から報告が入る。
『後方、艦影視認!!』
「ブルーマーメイドか?」
「見てきます!!」
納紗がそう言い、艦橋から背後を確認しに向かった。
それと同時に宇田がレーダーで識別を確認する。
『識別信号確認! 比叡、舞風、浜風、アドミラル・シュペー、てんじん。それから……モンタナです!』
「モンタナ!?」
そう言い、モンタナがいる事に驚く真白。明乃は聞き覚えの無い艦名に首を傾げた。
「てんじんって…」
「うちの学校の艦です!」
戻ってきた納紗が報告を入れる。てんじんに乗艦していたのは数日前に退院したばかりの古庄教官だった。
「古庄教官!」
「間に合ってよかったわ……遅れてごめんなさいね」
現れた艦艇を見て明乃は野間に叫んだ。
「野間さん!無線機が使えない事を伝えて!!」
『了解!』
そう言うと野間が手旗信号で伝える。するとシュペー艦橋からミーナが手を振って声をかける。
「ココ〜!みんな〜!」
「来てくれたんですね〜!」
納紗がミーナを見て喜んでいると武蔵は主砲を旋回し、砲撃を行う。
「しまった!横須賀が!!」
真白が叫んだその直後、てんじんとは別の方向からロケットブースターの推進音や機関銃の発射音がし、武蔵の砲弾を迎撃する。
空中で武蔵の砲弾が四散し、煙を上げた。
「今のは……っ!!」
その直後、海面スレスレを飛ぶ二つの細長い影を見た。けたたましいローター音を上げて二機のヘリコプターが晴風を守るように飛んでいた。
「あれは……」
その影は前に見ていたモンタナの搭載機とは違って機体はとても細く、先端にガトリング式機関銃の付いた砲塔を備え。その両脇にミサイル発射筒やミサイルポッドを搭載していた。
「……ヴァイパー1より、モンタナ。砲弾の迎撃成功」
攻撃ヘリコプターを操縦していたアリスが通信を入れる。するとモンタナから通信があった。
『ーーモンタナよりヴァイパー1、よくやった』
するとモンタナから晴風に向けて発光信号が送られる。
「『防空は任されたり。遅れてしまって申し訳ない。……モンタナ艦長サクラ』」
「サクちゃん!!」
発光信号を聞き、明乃は後ろを見る。そこには今まで見慣れてきた艦影があった。
「みんなが来てくれたなら…まだ戦える!」
「私も異存はありません!」
駆けつけた増援を見て、明乃達は失いかけていた戦意を取り戻していた。するとモンタナとシュペーから発光信号が送られる。
「シュペーとモンタナが、作戦の指示を求めています!!」
野間から報告を受け取り、晴風が信号を送る。
「これから武蔵に突入します。晴風の援護を!!」
明乃が野間を介して信号が全艦に送られる。
「え・ん・ご求む。だそうです!」
「了解」
ケイリーが発光信号を受け取り、サクラは艦橋で頷く。そして艦隊は武蔵を包囲するように陣形を組むと、旗艦てんじんから通信が入る。
『これより我艦隊は晴風の武蔵乗艦作戦の援護を行います。全艦、突撃準備を成せ!目標……
武蔵!』
通信を聞きながらサクラは指示を飛ばす。
「砲術長!ミサイルをありったけ撃て!!目標、武蔵主砲!!」
「了解!CIC、聞こえたね?ミサイル発射用意!!レーダー照準用意!目標、武蔵主砲!!」
「それから、ヴァイパー1、2に連絡!砲撃開始と共に敵対空砲の破壊をせよ!!」
「了解!ヴァイパー1、2。砲撃開始と共に武蔵対空火器を破壊せよ!繰り返す!武蔵対空火器を破壊せよ!」
「艦橋には生徒がいる事に留意し。垂直方向から侵入して破壊しろ!」
『『了解!』』
指示を飛ばし、ヘリコプター二機は晴風から離れて移動を開始し、攻撃体制に入る。
駆けつけた増援艦隊を確認したもえかはその艦艇群を見ながら、呟いた。
「風が、吹いた……希望の風が……」