「学生艦が叛乱!?」
「んな、馬鹿な…」
と、モンタナでは懐疑的な意見が多数だった。今回の叛乱が三年生とか戦艦級ならまだしも、今回は一年生。それも操艦を始めたばかりの……言って終えばチェリーやら新米と言われる状態だ。
そんな新入生、それも駆逐艦が叛乱なんて甚だ可笑しいのが普通だ。
と言うかそもそも演習用の魚雷一発の他には緊急時しか使わない実弾しか搭載していない駆逐艦に何が出来るのかと言う話だ。
実弾を使うには艦長、副長が同時に離れた位置にある鍵を指す必要がある。それはもちろん二人の同意がなければ使えない。
第一、反乱を起こしたとて駆逐艦如きでは周りにいる戦艦や巡洋艦に一瞬で制圧されるはず。
それを瞬時に判断したからこそこの文は怪しさプンプンだった。
「どうする?サクラ?」
ケイミーに問われ、サクラは少し考えた後に口を開く。
「……進路はこのまま。鳥島沖に向かう」
「了解。因みに理由は?」
ケイミーの問いにサクラは答える。
「もし、私が晴風の艦長だったら、叛乱の疑いを晴らすために事情説明をかねて次の集合地点の鳥島に向かうから」
「あー、なるほど納得」
艦橋にいる全員が納得の様子を浮かべ、顔をお互いに合わせて頷くとエマが呼称する。
「了解しました。進路このまま、鳥島沖南方に向かいます」
「レーダー、よく見といて」
各々すべきことをする中、ネルがある提案をする。
「艦長、試験運用も兼ねてヘリを飛ばすのはいかがでしょうか?」
「うむ、良い案だな…よし、偵察を兼ねてヘリコプターを出せ」
「了解しました」
翌日 航洋艦晴風 艦橋
「学校からの連絡は?」
「まだない」
「私たち、見捨てられたんじゃないの?」
学校側にも晴風の叛乱容疑が掛かっていることは承知しているはずだ。しかし、一切の通信がないことに全員が不安に包まれていた。
初めは晴風の機関が故障したことに始まる。理由は単純で、晴風は高圧缶を採用しているせいで壊れやすかったのだ。なお、同じように高圧缶を採用している艦艇は同じようなことが度々起こるので教官もわかっているはずだ。
そして遅刻して晴風が西之島新島に到着すると突如として教官艦であるさるしまから57mm砲の砲撃を受けたのだ。それも実弾を……
このままでは死人が出てしまうかもしれないと判断した晴風艦長の岬明乃は既に自衛用として装填されていた一発の演習用の模擬魚雷をさるしまに向けて発射した。
砲撃の回避に夢中でさるしま以外の艦艇が動いていることに気づく事は無かったし、どう動いているのかも確認できなかった。
そして、海上安全整備局からのあの通信である。
それからと言う物艦橋にいる面々で相談した結果、明日の集合地点である鳥島沖に向かっていた。
叛乱容疑とは言え、容疑。つまり弁明すれば容疑は晴れる可能性がある。もとより先に砲撃されたと言う事実があるし、機関故障のための遅刻の連絡は事前に済ませているのでその時の記録も見せれば良い事。まだ希望が消えたわけではなかった。
「きっと、事実確認中なのかも……」
不安に駆られる皆を励ます為に、明乃はそう言う。
「こ、このまま鳥島沖10マイルまで退避でいいんだよね…?」
「うん、私達が叛乱を起こしてさるしまを攻撃して沈めたみたいに言われているけど、ちゃんと説明して誤解を解かないと」
晴風航海長の知床鈴が行き先を聞き、明乃は答える。
「合流地点に着いた途端、捕まっちゃわないかな?」
心配症の彼女は不安げな声を露わにしながら舵を握る。するとその横で……
「『おまえらーなぜ猿島を攻撃した?』
『ちがうんです!さきに攻撃したのは猿島のほうで…』
『うそをいうな!』」
と、一人芝居をするのは晴風の書記。納紗幸子だった。彼女は少々特殊な趣味を持っており、こうした一人芝居が得意だった。
「やっぱり、信じて貰えないって事?」
納紗の一人芝居に反応するのは猫柄フードを被った晴風水雷長の西崎芽衣だ。彼女はブルーマーメイドや自分たちの所属する学校が自分たちを守ってくれないのではないかと心配する声だった。
「兎も角、我々は一刻も早く何処かの港に入ろう。艦長」
「うん…そうだね」
晴風副長、宗谷真白が意見を述べ。明乃は賛同する。確かに、どこか港にいち早く滑り込めば下手に戦闘をすることなく安全に帰れる。このまま海を彷徨い続けるのも不可能だ。
「全く……こんなクラスになったばっかりに…ついてない」
真白は思わず口癖となりつつある言葉を溢して愚痴る。
と言うのも、彼女の実家はブルーマーメイドの名門家であり。実母は横須賀女子海洋学校の校長を務め、三姉妹の長女は一等監察官という階級を持ち、次女はとある艦艇の艦長を務めている。おまけに二人とも武蔵の艦長を務めた経歴を持つ成績優秀者。
それなのに自分は航洋直接教育艦の副艦長……
いったいなぜこうなったのだと思っていると芽衣がムッとした様子で反論する。
「何よ、こんなクラスって……そりゃ晴風は、合格した生徒の中でも最底辺が配属される艦かも知れないけど!それは、あんたも一緒でしょう!」
すかさず入れられた反論に真白も乗っかってしまう。
「一緒にするな!私は、入学試験は全問正解していたはずなのに……解答欄を一つずらして回答したから……」
真白の口から衝撃的な黒歴史紛いな話を聞かされ、思わず呆然となる他の面々。すると納紗は一口、
「ついて…ないんですね~」
「うるさい!」
哀れみのような、同情のような目線を向けられている真白とは裏腹に明乃は……
「そ、そっか〜、私なんて受かっただけでも奇跡なんだけどね~。たまたま勉強していた所が出て、ましてや艦長何て~」
と、自分の幸運エピソードを語っていた。それを聞いた納紗は、
「こちらは、強運の持ち主ですか~」
「うぃ」
と、晴風砲術長の立石志摩と少し羨ましげな目をして明乃を見ていた。
そしてう雰囲気が和やかになったところでふと、納紗が丁度真横を飛ぶ海鳥を見ながら呟く。
「こんな時、あんな風に学校に戻れたらいいんですけど‥‥水素やヘリウムを使わない空飛ぶ船って、作れないですかね?」
そんな風に言う納紗に間白はため息を交えながら答える。
「はぁ…あんなの空想の産物だ。馬鹿馬鹿しい……」
真白はそう答えるが、彼女達はまだ水素やヘリウムを使わずに空を飛ぶことのできるヘリコプターの存在を知らなかった。
やがて時間は過ぎ、正午となる。
「みなさ〜ん、食事の用意ができました〜」
炊事室から案内が流れる。
「本日のメニューは……晴風カレーです!」
昼ごはんのメニューを聞き真っ先に反応したのが……
「カレー…」
砲術長で、普段は物静かな志摩だった。
「そう言えば、今日は金曜でしたね」
「カレー!!」
思い出しながら納紗が呟くと、志摩は嬉しそうな顔を浮かべた。その時のテンションは今までの中でも最高潮だろう。
「じゃあ、交代で食べに行こうか?」
「うぃ」
「ウチの艦のカレーどんなのかな?」
横から芽衣が混ざり込み、艦内はカレーの話題で盛りがっていた。
カレーの話題は船内の機関室でも同様に起こっていた。
「お風呂とカレーどっち先にする?!」
機関員の駿河留奈が他のメンバーと相談していた。旧式艦である晴風では機関室は一種のサウナと化しており、昨日の無茶振りもあって総点検で汗まみれになっていた。
「カレーじゃない?」
「カレー」
「カレーでしょう」
同じ機関員の若狭麗緒、広田空、伊勢桜良がそう答える。ここは女子校、男子の目がない彼女達は欲望のままにシャワーよりもカレーを優先していた。そしてその横では…
「宗谷さん一緒にカレー食べに行かない?」
機関長補佐の黒木洋美が真白を誘おうとした時。
「むぅ~‥‥クロちゃんは、マロンと一緒に行くんでぇ!!」
と、機関長の榊原麻侖が黒木の左腕を掴んで駄々を捏ねていた。
船内でカレーで盛り上がっている時、艦橋上部。マスト上部の見張り部屋の中で居眠りをしていた野間マチコは外していた眼鏡をかけ、水平線上に浮かぶ影を見つけた。
「右60度。距離三万。接近中の艦艇は……アドミラル・シュペーです!」
「「「!?」」」
伝声管を通して伝えられた報告に明乃達は驚愕する。
「アドミラル・シュペー!?」
「ドイツからの留学生艦です」
ここにドイツ艦がいる理由を納紗から聞き、明乃は驚愕しつつも指示を飛ばす。
「とりあえず総員配置に!」
「総員配置!」
双眼鏡で詳しい艦影を確認していると鈴から報告が入る。
「速度20節で接近中」
「見つかっちゃいました……」
「その様だな」
真白が呟いた直後、野間からさらに報告が上がる。
「シュペー、主砲旋回しています!!」
「えっ!?」
「撃ってくる…!!」
「問答無用ですね……」
冷や汗がブアッと流れる。即座に明乃は叫んだ。
「野間さん!白旗を!!」
そしてすぐに見張り台から野間が左手に白旗をもって上に掲げる。しかし……
ドドドォォォン!!
シュペーの三連装砲が火を吹いた。
「シュペー、主砲発砲!!」
「何で!?」
「エンジンも止めないとダメだ!!」
「確かに白旗だけじゃ、降伏になりませんね」
驚愕する明乃に真白と納紗が説明を入れる。エンジンも止めなければ逃走の疑いありと見て降伏にはならないからだ。
「でも、逃げるんだよね……?」
後ろから鈴が聞くと明乃は頷く。
「うん、180度反転する、面舵一杯!前進一杯!」
明乃は逃走を決める。もしこのままシュペーの砲撃が止まずに、エンジンを切ればこちらは蜂の巣にされるからだ。
「面舵いっぱ~い」
鈴は、舵を右側に切る。その間に野間から報告が入る。
「着弾〜!!」
シュペーの砲撃が晴風の左舷に着弾した。