武蔵との戦闘を終え、艦橋に上った明乃を追いかけてやって来たサクラは肩に銃を担ぎながらこの一ヶ月、ずっと艦橋で籠城していたもえか達を誘導しながら甲板に下ろす。
「武蔵が…こんなボロボロに……」
思わず親子が破壊された副砲や、速射砲を見て呟く。
先ほど、艦橋をのぞいた空飛ぶ何かが攻撃した後なのだろうと予測しながら、もえか達は後部甲板に誘導される。
艦橋を降りて、もえかと明乃は別れ。もえか達は病院に搬送される為にこれからヘリコプターに搭乗する予定だった。
明乃もついて行くと言っていたが、真白が飛んできて明乃を引っ張って晴風に戻っていた。
「本当に…サクちゃんなんだね……」
「ええ…一〇年ぶりね……」
ヘリコプターに移動する間、もえかとサクラは久しぶりの再会に花を咲かせていた。思わぬ形での再会だが、もえかは少し安心した様子でサクラを見ながら言う。
「助けてくれて、ありがとう」
もえかがそう言うと、サクラは当たり前と言わんばかりに言う。
「あの時言ったでしょう?二人の姐になるって……だから、これも姐としての役割……だと思うよ…」
「ふふっ、そうだったね……」
もえかとサクラはそう話していると、後部甲板に着艦していたUHー1Yを見る。扉が開けられ、その中にもえか達が入ると、サクラが扉を閉め始める。
「じゃあ、次会う時は学校かな?」
「うん、そうだね……」
ここで永遠の別れではない。それを分かっているからこそ、もえかとサクラは少し名残惜しそうになりながらも扉を閉める。
「出して下さい」
サクラはそう言うともえかを乗せたヘリコプターは精密検査を行う設備のある病院に向かう為に発艦する。
ブレードの回転数が上がり、コックピットでは訓練されたばかりのブルーマーメイド隊員のパイロットが操縦桿を握り締め。サクラは離陸して行くヘリコプターを眺めていた。
もえか達はまだ戦闘痕の残る武蔵から離れて行くのを空から眺めていた。
もえか達を見送り、サクラは振り向くと指示を出す。
「さぁ、まだ曳航作業が残っているわよ。Hurry Hurry!!」
「「「YES Sir‼︎」」」
そう言うと、モンタナから武蔵に乗り込んだ砲雷科と主計科の面々は武蔵前方に移動したモンタナを見ていた。
曳航する為のロープを受け取り、武蔵の艦首に括り付けるとモンタナが汽笛を鳴らす。それに呼応する様に武蔵からも汽笛が鳴る。
強行接舷した晴風はてんじんの手によって武蔵から引き離され、ロープが繋がれていた。
現在、ウイルスに感染していた生徒は抗体接種を受け。次々とピストン輸送でやって来るヘリコプターに乗せられて都内の病院に搬送されている。
その為現在武蔵を動かしているのは乗り込んだブルーマーメイド隊員達だった。
そしてモンタナが曳航を始め、横須賀へと向かう。
晴風はそのままてんじんが曳航し、ブルーマーメイド艦隊もシュペーや比叡など残った艦艇が曳航していた。
帰港地点である横須賀の吉倉桟橋では、宗谷真雪や真霜など教員らが救急車を配備して待っており、今回の事件で英雄的活躍を見せた晴風はタグボートによって岸壁に寄せられる。桟橋に船が止まり。タラップが架けられ、晴風乗員達は一ヶ月ぶりに地上に降り、下船を開始した事で波瀾万丈だった航海に一旦の幕を閉じた。
晴風乗員はそれぞれが今までの苦労を労い、疲れを癒していた。
「帰ってきた……」
下船し真白は晴風を見ながら、新しい家族の多聞丸と共に晴風を見る。
「陸だ〜…!!」
明乃もタラップを降り、目に涙を浮かべながら言う。
「帰って来れた……!!」
「なんかまだ信じらせません……」
岸壁で知床や納紗がそう言い、今の心情を答える。
初航海で叛乱容疑を掛けられ、シュペーに追い回された挙句、潜水艦に追われ…
トイレットペーパーが無くなったり。浄水装置が故障したりしながらも難破船の救助を行い。
比叡に追われ、シュペー奪還を行い、最後に武蔵を止めた……
今後、絶対ないであろう程。濃密だった初航海に全員が感慨深く思っていた。
「夢じゃない!!」
「うぃ〜」
西崎や立石は地面のコンクリートを叩きながら嬉しそうにする。その様子を見て明乃達は微笑ましく思っていると。突如、晴風から大きな音が響いた。
その音に思わず全員が振り返ると、そこでは晴風が艦首部分の亀裂が大きくなり、竜骨が折れた事で急速に船体が沈み込んでいた。
今までの猛攻にさらされた影響で晴風の船体は遂に限界を迎え、まるで最後の仕事を終え、眠りにつくかの様に晴風は沈み始めていた。
「晴風が……」
「ごめんね……」
伊良子やほまれがそう呟く。
「沈むなよぉおお!!」
その横で柳原は叫び、黒木が今にも飛び出しそうな柳原を抑えていた。そして晴風クラスが悲鳴を上げる。
今まで家同然に過ごして来た船が沈むことにショックを受けていた。
それはミーナも同じで、晴風で暮らして来た日々を思い出しながら、まだ目の前で起こっていることが夢なのではないかと思っていた。
晴風の奮戦を見ていた平賀や福内、真雪や真霜は晴風を悲しげに見ていた。
艦首部分から浸水し、艦尾が浮き上がる晴風。喫水下のスクリューが見え始め、本格的に沈み始めていた。
晴風の沈没にクラス全員が涙する中、明乃は晴風を見ながら海軍式敬礼をする。
それを見て、他のクラスメイト達も同じ様に沈んていく晴風を見ていた。
瞬きをする事なく、沈んでいく晴風を見ていた。
真雪や真霜、テアや曳航を終えてやって来ていたサクラも同じ様に晴風に向かって海軍式敬礼をする。
沈んでいく晴風の船体の隙間から夕陽の光が漏れていた。
「(今まで、お疲れ様でした……)」
サクラは沈んでいく晴風を見ながら今までの航海を思い出し、万感の思いを込めながら晴風を見ていた。
晴風が沈んだ事はモンタナも確認しており、報告を終えて戻って来たサクラ達は驚きと悲しみに包まれていた。
「確かに酷使の日々だったけどまさか沈むとは……」
モンタナから降りたアリスは船体が大きく傾き、沈没した晴風を見ながら思わず呟く。
「これからの海洋実習はどうするんでしょうね……」
ふとネルが呟くと、ルイーザが答えた。
「さぁ?予備艦でも使ってやるんじゃない?」
そんな事を思いながらクラスメイトは緊急改造を受けたモンタナを眺めていた。
「本当に…終わったんだね……」
「ええ、長い一ヶ月だったわね……」
そんなモンタナを見ながらサクラとケイリーはこの一連の事件を思い返していた。
「……さて、この後も仕事でいっぱいだわ」
「そうね、もうひと頑張りしますか……」
「書類報告に装備の撤去作業。ドックへの回航……やることは多いわね」
「何、望む所よ」
サクラはそう言うと桟橋を離れて行く。その様子を眺めながら改めてケイリーはこの事件は終わりを迎えたのだと感じていた。