六月末
モンタナ寮 遊戯室
横須賀女子海洋学校に設置された留学生用の寮舎、そこでは改装中のモンタナから運び出されたゲーム機やらスロットルなどが置かれていた。
元々は寮にある大部屋を改造したものなのだが、中にカジノ台やビリヤードまであると言う噂を聞きつけた他の艦の生徒も遊びに来ていることから、いつしかここは『モンタナ遊園地』と言われていた。
本当はこの時期であれはここにある機器は撤去され、モンタナに戻っているはずなのだが、案の定と言うべきかモンタナの改修作業に遅れが出た事で今週一杯はまだ置かれる事になっていたのだ。
「おぉ!!」
「やった!!」
そして今日は晴風メンバーが遊びに来ており。明乃、真白、サクラは遊戯室に置かれたルーレット台で遊んでおり、明乃がボロ儲けをしていた。
未成年なのでモンタナが用意した交換できない無料チップだが、既に明乃の前には山の様に色とりどりのチップが積み上がっていた。
「凄い…チップの一点掛けが二連チャン……」
「わーい、一杯だ〜」
あーあー、ディーラーやっているシルフが涙目だよ……
そんな山盛りチップを見て呆然としている者がいる中、明乃は最初の200チップが1188倍になって帰って来た事に喜んでいた。
そして案の定と言うべきか、横にいた真白は全部負けていた為、持っていたチップの数は少なかった。
そんな所持金が259,200チップになったのを見て納紗が写真を撮りながら言う。
「流石は艦長ですね。ちょっと分けて欲しいくらいです!!」
そう言い、明乃の山盛りチップを見た西崎達も同じ様に羨ましそうな目で見ていた。
そして明乃達はワイワイと盛り上がっていると遊戯室に誰かが入って来た。
「ここにいたのね、晴風クラス!!」
「「「?」」」
そこには二人の生徒が立っていた。
一人は航洋艦天津風艦長、高橋千華。もう一人は同じく天津風副長の山辺あゆみだった。
「今日こそどっちが上かはっきりさせてやるんだから!」
そう言い、なぜか明乃に堂々と宣言する高橋に、明乃は陽気に答える。
「あっ、ちーちゃん!」
「ちーちゃん言うな!こっちはやる気満々で来ているって言うのに緊張感なさすぎるのよ!」
「いつもすみません、うちの艦長が……」
そう言い、申し訳ない気持ちも混ざって山辺は頭を下げる。
「あゆみ!そんな下手に出る必要ないって言っているでしょ!」
「下手に出てる訳ないでしょ?常識の範囲内です!それに、ここには先輩だっているんですから」
そう言い、山辺は高橋にここには二年生のモンタナクラスの人がいると注意を入れた。
「随分と元気だ事で……」
「いつものパターンですけどね」
そんな高橋達の様子を見て思わずサクラが呟き、真白が答える。するとその横で納紗が一人芝居を始めた。
「『燻りつ透けていた火種が燃え上がる』
『横須賀女子海洋学校の頂点に立たんとする天津風の艦長はラット事件で名を馳せた晴風を不倶戴天の敵と定め、虎視眈々と追い落としを狙っているのであった』
仁義がたいナレーション風」
「好きだね、それ……」
「うぃ……」
少なくとも、ここにミーナはいないので、この趣味に共感できる人は居なかった。
「とにかく!晴風ばかりに大きい顔をされたら私の立つ瀬がないのよ!
今日こそはどっちが上かはっきりさせてやるわ!勝負よ!」
ガツッと指をさしながら言う高橋に納紗は思わず疑問に思う。
「勝負と言っても何をするつもりでしょう?まさか艦同士で撃ち合うとかですか?」
「撃ち合いならさんせーー!」
「うぃーー!」
そう言い、トリガーハッピーな西崎と立石は気分が上がる。するとそこで高橋が水をさした。
「安心しなさい。天津風は今整備中なのよ」
そう言うと西崎達は明らかに気を落として、明乃からの少々チップを分けてもらった後に会話から消えて行った。
「意外だな、てっきり撃ち合いが目的で来たのかと思ったが……」
そう真白が言うと、後ろから山辺がこっそりと真白達に耳打ちした。
「なるべく穏便に済ませたくて整備中に来たんですよ。少しだけ付き合ってもらえます?」
「山辺さん……」
そんな配慮を聞き、思わず真白は呟く。
「副長って苦労が多いですよね……」
「ええ、まぁ……」
「私もサクラ艦長の様な人なら楽でいいな。と、時々思います」
そんな呟きを聞き、思わず苦笑してしまうシルフだった。
「(うちの艦長も大変なんだよ〜…)」
口には出さなかったが、シルフはサクラに対して別の意味で大変だと内心叫んでいた。
そんな副長ズの話しを聞こえたのか分からない明乃は高橋に聞いた。
「じゃあ、何するの?」
「ふっふっふっ……」
すると高橋は徐にコントローラーを出しながら言った。
「ゲームよ!」
「ゲーム?」
「そう、正確に言うと格闘ゲームね。格闘ゲームで対戦して私に勝ったら。…まぁ、今日くらいは負けを認めてあげるわ」
「それでも一日だけなんですね」
そう言い、納紗が高橋に突っ込んでいた。
「まぁ、でも万が一にも負けることはないと思うけど」
「わかったよ!つまりみんなで遊ぼって事だね」
ポジティブに考えた明乃は明乃と格闘ゲームをする事を念頭にしていた高橋の思惑と違う思考になっていた。
「遊びじゃないのよ!勝負よ!勝負!」
そんな明乃に高橋は突っ込むと、やや呆れた様子で言う。
「全く…ちゃんと分かっているのかしら……で?晴風からは誰が挑戦するの?」
「ここはやはり艦長なのでは?」
「うーん、でも私はよく分からないし……」
そう言い、明乃は格闘ゲームに慣れてないと言うと、納紗が質問をした。
「そもそも、なぜ格闘ゲームなのですか?」
「そりゃ勿論、私が好きだからよ!」
その瞬間、一気に場が静粛に包まれる。
「つまり初めから有利な戦いを……」
真白がジト目で高橋を見ると、彼女は思わず叫ぶ。
「人聞きが悪いわね!晴風だって私の知らない所でラット事件で名をあげたんだから五分じゃない五分!!」
「無茶苦茶だよぉ〜!」
そう言い、知床が涙目になりながら話していると、遊戯室にまた来客があった。
「あら、みなさまお揃いで楽しそうですわね」
「あっ、万里小路さん!」
入ってきた万里小路に明乃は話しかける。ここだけの話、万里小路はちょくちょくここの遊戯室に遊びに来ている常連だ。その為、今日もルーレットで遊びにきていたのだった。
「何があったのですか?」
「実はカクカクシカジカで……」
「まぁ!勝負事でしたら是非ともお力添えをさせてくださいな」
納紗の説明を受け、万里小路は理解した。
ラット事件の際。シュペー、武蔵ともに突入部隊に入って薙刀をブンブン回していた彼女はやる気があった。
「で、でも格闘ゲームだよ?」
「万里小路さん、意外にもゲームが得意とか?」
「げーむ……と言うのはご存知ありませんが。万里小路の名にかけていい試合ができるよう頑張りますわ」
「大丈夫かなぁ……」
サクラはゲームを知らないってどんな箱入り娘だよと思いつつも、その様子を眺めながらシルフに聞いた。
「シルフ」
「?」
「この格闘ゲーム知ってる?」
「ええ、あんまこっちの方は得意じゃないから殆どやった事ないけど」
「そっか、シルフはオープンワールド系が好きなんだっけ?」
「そうそう、そっちの方がやりやすくて好きだねぇ」
そんな事を話していると遊戯室のテレビにコントローラーをつけた高橋と万里小路はガヤ兼実況の納紗の合図に合わせて試合が始まる。
「先手必勝!」
「『あーっとぉ!天津風艦長!素人相手に容赦ない攻撃だぁ!!』
『ヒドイゾーー!空気読めーーー!』」
「うるさいわね!!」
納紗のヤジに高橋はそう言うと、始まってから一分。第一試合は高橋の勝利で決まった。
「『天津風艦長、高橋千華選手。電光石火の早業でまさに赤子の手を捻るーーーっ!!』」
「当然の勝利ね!」
「あら…負けてしまいましたわ」
試合が終わり、満足したのか。高橋は自身ありげに鼻を高くしていた。
「やっぱり私が一番ね」
「ちょっと大人気ない気もするけど。これからは晴風とも蟠りなく接すると事ができるといいね」
すると万里小路は高橋を見ながら先の試合を誉めていた。
「高橋さん、素晴らしいお手なみでしたわ。私はまだまだ修行が足りませんですわね」
「そんな事ないと思いますよ……。明らかに経験の差ですし」
すると万里小路はあることが閃いた。
「そうですわ!次は私と薙刀でお手合わせいたしましょう!」
「(薙刀?!)」
すると高橋は脳内にさまざまな思考が走る。
「(ま、まさかゲームで負けた腹いせにリアルファイトでズタズタに……!?)」
万里小路を知っている人からすれば……いや、知っていてもお手合わせなんてしたくもないが、高橋は薙刀を持った万里小路を想像して震えてしまった。
「あ…あははは……ま…まままままぁたしかに私も少し大人気なかったかなぁ……ももももう一回くらい私に挑戦する機会を与えてもいいかなぁ……(だから殺さないで…!)」
震えた声で明らかに動揺した様子で高橋は言った。
「ではもう一度私と薙刀で……」
「それは無理!!」
すると万里小路は残念そうに答える。
「残念ですわ。高橋さんの体捌き、薙刀に活かせると思いましたのに……」
「他意はなさそうですね」
「体捌きもゲームのキャラの動きですけどね」
そう話していると高橋にケイリーが声をかけた。
「じゃあ、次私でいい?」
「あっ!シルフさん!」
明乃がそう言うと、シルフは茶髪のポニーテールを揺らしながら高橋に言う。
「次、お願いするよ」
「ええ、かかって来なさい!」
「艦長、相手は先輩なんですから。そんな口聞き……」
「あー、大丈夫大丈夫。そう言うの気にしないから」
「本当、すみません……」
そんな光景を見て苦労しているなぁ。と思う真白だった。
そして万里小路の次にシルフがコントローラーを握る。
「うわぁ、久々にするなぁ。この感じ……」
そう言いながらシルフはキャラを選ぶ。そして納紗の合図で試合が始まった。
そしてその瞬間、全員が驚く。
「『おーっと!高橋選手が飛び入りのダークホース、シルフ選手に押されている!押されているぞ!』」
「クッ!この人……強い!」
「おー、凄い上手ですね」
そんな山辺の呟きにサクラが言う。
「そりゃ、eスポーツ大会で優勝したシルフにゲームで勝つなんてむずいでしょ」
「えっ!シルフさんそんな強いんだ!」
「強い強い、シルフはゲームになると人が変わるもの」
するとゲーム画面からチーンチーンチーンとコングの音が鳴った。
「なななんとぉーー!シルフ選手!ノーダメージで高橋選手に圧勝!!高橋選手は見事に出鼻を挫かれました!!」
一方的にやられ、呆然とする高橋。反対に満足げなシルフ。
するとハッとなった高橋はシルフに土下座をする。
「もう一度、もう一度試合をお願いします!あの攻撃に勝てればもっと強くなれる気がするしますので……!!」
「いいよ〜、何戦でも。楽しかったし」
「やった!」
そんな訳でコントローラーを握った二人はゲームに熱中し始めていた。
「なんだか、勝負のことすっかり忘れちゃっていますねー」
「あのー、あんな艦長なんですが。悪い子じゃないので今後もともよろしくお願いします……」
「もちろん!」
「苦労しているな……」
真白は山辺を見て同類だと感じていた。