深山さくらと名乗った女の子は瞬く間に同じ養護施設の子達から色々と詰め寄られる。
何処から来たのか。
何が好きなのか。
何歳なのか。
「あ…えっと……」
そんな単純な質問だったが、さくらちゃんはそんなみんなに怯えてしまっていた。それを見て、雫さんはやや困った表情を浮かべながら言った。
「こらこら、あまり皆んなが詰め寄るとさくらちゃんが困ってしまうでしょ?」
そう言い、少し落ち着いた様子のさくらちゃんは息を整えていた。
その様子を眺めながらも、私はさくらちゃんの元に近づくと挨拶をした。
「初めまして!サクちゃん!私、岬明乃」
「っ!?」
猫が蛇を見たくらい驚いた様子のさくらは、明乃の言い方に疑問を持った。
「サク…ちゃん?」
すると明乃は元気よく頷いて答える。
「うん、さくらだからサクちゃん!」
そう言うと後ろからもえかが明乃に話しかける。
「ミケちゃん…さくらちゃんも困っているからさ」
「え、えっと……」
「あっ!この子はもかちゃん。私の友達!」
「ど、どうも、知名もえかです。よろしくね」
「よ、よろしく……」
お互いに挨拶を済ませるとグイグイとくる明乃に目を回しそうになるさくら。
すると明乃はさくらに色々と聞いた。
「何歳なの?」
「え、えと……七歳です……」
「わぁ!私より一個年上だ!!」
そう言うと明乃はさくらの手を掴んだ。
「これからいい場所連れてってあげる!!」
「え?あ、ちょ……」
するといきなり明乃はさくらやもえかを引き連れて養護施設を出ていく。雫もそれを引き留める様子はなかった。
「近くを案内してくる!」
「ええ、行ってらっしゃい」
そんな訳で明乃、もえか、さくらの三人は施設を出て行った。
「ど、何処まで行くの……?」
施設を出て、森の中を歩く明乃達。さくらはいきなり声をかけられて何処に行くのだろうかと疑問に思いながら三人は森の中を歩く。
もえかも此処に来た当時に似た様な事をされたのでさくらの心情はよく理解できた。
「もーすこしっ!」
そう言って森の中を歩いていると、今まで木々で生い茂っていた森が一気に開け、目の前には大海原が広がっていた。
「着いたーっ!!」
「おぉー……」
その景色に圧倒されるさくら。そして思わずさくらは呟く。
「目の前が全部海……」
「いいでしょ?此処、私のお気に入りの場所なんだ。たまにブルーマーメイドの艦も通るよ?」
「ブルーマーメイド……?」
そう言い、さくらはブルーマーメイドの事を知らない様子だった。するとさくらは明乃に聞いた。
「あの……ブルーマーメイドって何?」
「えっ!?もしかして知らないの?」
「う、うん……」
「へぇ!そうなんだ!!」
明乃やもえかはブルーマーメイドを知らないと言ったさくらに驚きつつも、ブルーマーメイドとは何たるかをさくらに話した。
「ブルーマーメイドは海を守る仕事なの!」
「そうなんだ……」
すると明乃は海を見ながら言う。
「私ね、昔事故にあった時にブルーマーメイドに助けてもらったの」
そう言い、明乃はかつて豪華客船の沈没事故でブルーマーメイドに拾われた時のことを思い出しながら呟く。
「その事故でお父さんとお母さんがいなくなって一人になっちゃったけど……」
「明乃ちゃん……」
そんな明乃を見て申し訳なくなるさくら。すると、明乃はさくらやもえかを見ながら言う。
「でも、大丈夫!今は一人じゃないから!ね、もかちゃん!」
「そうだね」
「それにサクちゃんもね!」
そう言うと明乃はさくらに思い切り抱きついた。
「!?」
その事に驚くさくらだったが、明乃はそんなさくらに陽気で明るい声で話す。
「これからは私達がお姉ちゃんだと思って、いっぱい頼ってね!それから私の事はミケちゃんって呼んでね!」
そう言うと思わずさくらはクスリとなりながら明乃に言う。
「うーん……でも、なんで明乃ちゃ…ミケちゃんがお姉ちゃん?歳は私が上なのに……」
「えー、だって私が先に此処に来たんだもん!」
「あはは……」
それから山道を少し散策した後、明乃達は施設に戻った。
施設の玄関では雫が三人の帰りを待っていた。
「雫さん、ただいまーっ!」
「ただいま」
明乃ともえかはそう言うとさくらも少しだけ勇気を出して雫に言った。
「……た、ただいま…!!」
その様子を見て雫はホッとした様子を浮かべてさくらの手を取った。
「はい、お帰りなさい」
そう言うと三人は施設の中に入り、そこから三人の生活が始まった。
共に食事を摂り。
共に勉学に励み。
同じベットで川の字になって寝る。
昼間は明乃やもえかがさくらを連れてブルーマーメイドの話や海の話で盛り上がる。
そんな生活を続けているうちにさくらも海に魅了され、いつしかブルーマーメイドを目指そうと心の内に決める様になった。
そしてこの頃から、さくらは目元を隠していた銀色の髪を纏めるようになった。
今まで隠れていた緑色のエメラルドのような透明な瞳があらわになった時。明乃やもえかは口をポカーンとさせた後に
「「綺麗な目!」」
と言っていた。そう言われ、少し嬉しくなるさくらだった。
そんなある日、自由時間の間に三人は窓辺に立った。明乃の右隣にもえかが立ち、左隣にさくらが立つ。
窓から見える海を眺めているともえかがさくらに言った。
「……ミケちゃんは知っているけど、私のお母さん。ブルーマーメイドだったんだよ?」
「へぇ、そうなんだ」
すると明乃がさくらの顔を見ながら言った。
「『海の仲間は家族』、でしょ?」
「うん、だから私やミケちゃん、サクちゃんにもブルーマーメイドになったらたくさん家族ができると思うの。だから約束しよう!」
そう言うと、もえかは小指を出した。明乃がそれに続いて同じように小指を出す。さくらも同じ様に小指を出した。
そして三人で指切りをする。
「海に生き」
「海を守り」
「海を往く」
「「「そんなブルーマーメイドに!」」」
指切りをして、三人は約束をする。いつかは三人でブルーマーメイドになると……
「って事で勉強始めよっか」
「うん!そうだね!」
「でも、残ってるのは読書感想文だよ?」
「ガ、ガンバリマス…!!」
三人はそう言うともえかとさくらは明乃を見て笑っていた。
そして数ヶ月後……
気温が下がり、だんだんと冬に近づいていく中。明乃達はあの場所に向かっていた。
「急いで!もかちゃん!サクちゃん!」
「はぁ…はぁ…」
山道を歩く中、もえかは肩から息をしていた。さくらは背中に三脚とカメラを背負っているのに、苦しそうな様子は一切なかった。
今日は大和が航海から戻ってくる日。三人は大和をバックに写真を提案したのだ。
「手伝うよ」
「ありがとう。サクちゃん」
そう言い、疲れた様子のもえかの手をさくらは取るとそのまま三人は慌てた様子で道を走る。
そして、明乃のお気に入りの場所である岬へと到着するとそこでは丁度呉に入港しようとしている戦艦大和が航行していた。
「もう来てるよ!!急いで!」
「分かってるよ〜!」
そう言い、さくらともえかが岬にたどり着くと明乃ともえかは大和を眺め。さくらは持って来ていた三脚を立て、カメラをセットする。
「えーっと、タイマーはこうしてこうして……」
「早く早く!」
「もうちょっとで終わるから!」
徐々に大和が近づき、明乃達は冷や汗を流す中。さくらは準備を整えた。赤いランプが点滅する中。さくらは急いで二人の元に向かう。
すでにもえかと明乃は肩を組んでピースをしていた。そしてさくらはそんな二人の後ろに入り込む。
「よ……っと!」
「うわぁ!」
「!?」
軽い悪戯感覚でさくらは明乃達に乗りかかるように写真に入り込む。その瞬間、カメラのシャッターが切られ、カシャリと言う音と共に一枚の写真が出来上がる。
少しさくら達は写真を撮った後に呆然と大和を眺めた後。ハッとなって写真のことを思い出し、カメラを眺める。
「撮れた?」
三脚からカメラを取り外して中を見るさくら。ドキドキした様子で眺める明乃ともえか。
するとさくらはカメラの画面を見せた。
「ちゃんと撮れたよ」
「わぁ!やったー!」
「よかった……」
そう言い、喜ぶ明乃とホッとしたもえか。
「じゃあ、このまま雫さんに現像してもらえれば……」
さくらがそう言うと、大和から野太い汽笛が聞こえた。
「あ!あれ見て!」
汽笛と共に明乃が指差した先には、こちらに気づいた様子のブルーマーメイド隊員が手を振っていた。
「うん、手を振ってくれた!!」
そう言い、三人は写真が撮れた事やブルーマーメイド隊員の手を振られたことに喜びながら岬を後にして行った。
そして、その時撮った写真は雫さんに現像をお願いしてその日は夜を迎えた。
いつも通り、右からもえか、明乃、さくらの順番で横になり。消灯時間を迎え、部屋は真っ暗になる。
窓の外では冬に近づきつつあるからか、星がよく見え。煌めいていた。
昼間の興奮がおさまらず、いまだになかなか眠れない明乃やもえかを見て、さくらは二人に言う。
「ミケちゃん、もかちゃん」
「「?」」
いきなり声をかけられ、不思議そうにさくらを見る二人。
するとさくらは口を開いた。
「私、あることを決めた!」
「あること?」
すると、さくらは二人にある宣言をした。
「私、ミケちゃんやもかちゃんの姉になるっ!」
「おぉ!」
「いきなりだね……」
唐突な宣言に驚く明乃達だったが、さくらは更に続ける。
「二人のお姉さんになって、もっとたくさん勉強するの。
それで、ミケちゃんやもかちゃんをもっと支える、お姉さんになる!」
「おぉ……」
さくらの意気込みにもえかも声を上げる。すると明乃はさくらを見ながら言う。
「じゃあ、これからは
「うーん、今まで通りでいいかな」
「じゃあ、さくちゃんのままだね!」
「ふふっ、そうだね」
三人はそんなふうに話しながら夜空の星の下で約束を誓った。さくらは二人を支える姐になると……
さくらが二人の姐になると宣言した翌日
さくらは雫に呼ばれていた。
「どうしましたか?」
施設にやってきた頃とは違い、明るくなったさくらは雫にそう聞くと雫はやや言いにくそうにしながらも伝える。
「さくらちゃん。実は……」
雫の口から聞かされた内容にさくらは驚愕するのだった。