モンタナにヘリコプター要員が追加されてから一週間後。
サクラ達は陸上の学校の校舎で授業を受けていたのだが……
「人の話を聞かんかい!このアワビがぁああ!!」(# ゚Д゚)
校舎に一人の怒号が飛ぶ。一瞬全員がびくりとなるが、声のした方を見ると慣れた様子でその場を離れて行った。
そして怒号が飛んだ先にはサクラとクレアの姿があった。
「ミラー機関長!!また門限外に街に出やがって!これで今月何度目だ!!」
そう言い、またも門限を破って街に出て遊んでいたクレアに対し、サクラは厳重注意をしていた。
すると、クレアはそんなサクラを見ながら舐め腐った態度で言う。
「別に良いだろ。誰にも迷惑は掛けていない」
「迷惑だと?門限破って怒られるのは私なんだが……?」ビキビキッ
そう言い、怒り心頭なサクラに対し、クレアは興味なしといった様子で話していた。すると鐘が鳴り、授業開始の合図があった。
「……ったく、次門限破ったら機関長を誰かに代わって貰うから」
「へいへい、わっかりましたぁ」
そう言うと、サクラは頭から湯気を出しながら校舎にズカズカと戻って行った。その様子を眺めながらクレアは座っていたベンチから立つと、同じ機関員であり、クレアとは幼馴染の一人であるシリカ・オットソンが声をかけた。
「クレア、また艦長に迷惑をかけたの?」
「迷惑?好きなようにやって居るだけだ」
「だからって門限破ったのこれで五回目だよ?ちょっとやりすぎだよ」
二人は校舎に戻りながらクレアの生活や、サクラに関して話をしていた。
「クレアは艦長のどんなところが嫌いなの?」
シリカは単刀直入にそう聞くと、クレアは少し間を置いた後に答える。
「……アイツの考え方が嫌い」
「考え?」
するとクレアは続けて言う。
「アイツはこの前、大統領の娘になった」
「うん、そうだね」
シリカはテレビで見た大統領就任式を思い出しながら答える。
「大統領の娘になって……大統領の娘になったから、アイツを邪魔する者は誰もいない。
それに、『みんな仲良く』って言う考えが嫌い。……人なんて、深い関わら無い方がいいに決まっている」
クレアは苦い表情を浮かべながら教室に向かう。
クレアの話を聞き、シリカは少し考えた後にクレアに対して言う。
「うーん、クレアの意見もわかるけど。だからって他人に迷惑をかけるのは悪いと思うよ?
たとえ、クレアが親に言われて無理やりこの学校に入ったとしても。入ったからには、学校のルールくらい守らないといけないんだし」
「……シリカまでアイツの味方になるの?」
軽く睨むようにクレアは言うと、シリカは慣れた様子で淡々と答える。
「艦長の味方じゃないよ。ただ、みんなが思って居ることをクレアに言っただけ」
「……」
シリカの意見を聞き、クレアは少しサクラの行動を思い出していた。
「アイツの親父の当選が確実になってから、明らかにアイツと接点を持とうとする生徒が増えた。どうせ、自分の顔を覚えてもらおうとしか考えないな奴らばかりだと言うのに、アイツは馬鹿真面目に全員と話しをしている。どうせ中身は空っぽなのに……」
クレアはそう言い、シリカも同様にサクラが休憩毎に必ず誰か他のクラスメイトの挨拶を受けて居ることを思い出していた。
「クレア、艦長相手にアイツ呼びは無しだよ」
「なんでさ?」
「艦長も艦長で苦労して居るんからさ」
するとクレアは軽く激昂しながらシリカに言う。
「だけど、アイツは欲しいものをなんでも手に入れられる。お金も権力も、ウチらとは大違いよ……」
そう言うと、クレアは溜息を吐いた。
そんなクレアの愚痴を聞いていると、いつの間にか教室の前に着いていた。
「はぁ、どうしてあんな奴と一緒に生活しなきゃ行けないんだよ……」
「まぁまぁ、後少しの辛抱だから」
「ああ言うお嬢様気取りの奴って嫌いなのに……」
そう言うと、クレアは扉を開けて教室の中に入って行った。すでに教室にはクラスメイトが座っており、授業が始まろうとしていた。
「遅いぞ!」
そう言い、サクラが遅く入ってきたクレア達に対して軽く注意をしていた。
「すみません、トイレ行っていて遅れました」
そう言うと、二人は自分たちの席に座って教科書を取り出して授業を受けていた。
「(やれやれ、意地になっちゃって……言ってることもはちゃめちゃだよ……)」
シリカは心の中でそう思いながら後でサクラに謝っておこうと考えるのだった。
サンディエゴ海洋学校に入学してはや三ヶ月ほど。サクラ達モンタナクラスは艦長と機関長の確執を持ちながらも、比較的平穏だった。
毎度毎度門限を破って寮を飛び出ていくクレアにサクラは寮母に怒られる日々を送っていた。
「やれやれ、胃が痛くなってきそう……」
寮の部屋で溜息混じりに呟くと、部屋に送られてきた牛乳ボトルを量の共用冷蔵庫に押し込んで来たケイリーが戻って来た。
「はぁ……全くみんな飲むかだろうからってこんなにいらないって送ってやる………ってあれ?サクラ、どうしたの?」
そう言い、疲れた様子のサクラに聞くと。サクラは溜息混じりに答えた。
「ん?あぁ、ちょっと機関長の抜け出しをどうしようかなって……」
「あぁ……あいつの事?さっさと機関長を変えればいいんじゃない?」
「うーん、でもなんか寂しいからね……」
「だけど、これだけ規則違反してたら色んな所から苦情が来るんじゃない?」
「そうね…そろそろ対処しておかないと……」
そう呟くと、サクラは少し顎に手を当てながら考えていた。
その日、サンディエゴ郊外の人気の少ない道では多数の自動車が停車していた。
ここは無許可のドラッグレースを行う会場であった。多種多様な車が停車する中、違法な物も混じっていた。
そんな真夜中のレースが始まろうとしている時。会場に並ぶ車の中に一台のチャレンジャーが停まっていた。
「………」
そのチャレンジャーの運転席にはクレアがハンドルを片手にレースが始まるのを待っていた。
クレアは自分がチューニングしたこの車を使って何処まで走れるのか挑戦していたのだ。
ここは街から離れており、滅多に警察が来る事もない。その為、クレアはコッソリとこのレースに参加して時々賞金を稼いでいたりしていた。
顔バレを防ぐ為に軽く変装をしており、クレアはレースが始まるのを待っていた。すると、ふと見物客の中にいる一台の車を見ていた。
「マスタングか……」
白の下地に黄緑と緑の線が入ったマスタングを見ながらクレアはこのレースには合いそうだと思いながらキーを回す。
ブンッ……
「…あれ?」
不思議に思ってエンジンキーを何度も回すが、エンジンが掛からない。
「プラグがイカれたのか?…仕方ない、このレースは諦めるか……」
エンジンが動かないなら車はただの鉄の塊。仕方なくクレアは事情を説明してレースを棄権し、車を路肩に移動してボンネットを開ける。
「このプラグが緩んでいたのか……」
幸いにも修理は簡単に終えられ、エンジンもちゃんと掛かった。
しかし、既にレースは始まっており、車は先ほどけたたましいタイヤの擦り切れる音と共に走り出した後だった。
「今日は観戦だけして帰るか……」
他の見物客が走り出した車を見送った後、クレアもそれに混じって運転席からその様子を眺めて居ると突如、運営がざわめき出していた。
すると遠くからサイレン音が聞こえ、さっきまでレースカーがいた場所にパトカーが飛んで来た。
レースを見に来ていた見物客はパトカーを見て一斉に逃げ出し、かく言う自分も直ったばかりのチャレンジャーのエンジンを掛けて逃げ出した。
「ふぅ…危なかった……」
幸いにも警察は見物客は追い払うだけで終えたようで、追いかけてくることは無かった。どうやら本命はレースカーの方だったようで、現在もパトカーのサイレン音が街に鳴り響いていた。
「しかし、警察が摘発をし出したか……もう、やらない方が良さそうだな」
いくら趣味とは言え、捕まると愛車が持っていかれるし、学校も退学になってしまう。わざわざついてきてくれたシリカや他のみんなに迷惑をかけるのだけは勘弁だから、クレアは急いで学校に戻って行った。
『こちら04、レースカーを捕らえた。現在南下中』
『司令局、こっちに応援を寄越してくれ』
『司令局了解した。増援を送る』
無線機から聞こえる声を聞きながら、運転席に座るサクラは携帯で連絡を取っていた。
「ええ…ええ、そうですか。それでは……」
携帯の連絡を切ると、サクラは助手席に座っていたシリカに問いかける。
「ミラー機関長は捕まっていないそうよ」
「そうですか……細工は上手く行ったみたいね」
「でも良かったの?貴方、ミラー機関長の味方だと思っていたけど……」
少し驚いた様子のサクラにシリカは答える。
「機関長とは幼馴染なんですよ。まぁ、悪友というべきでしょうかね……。
ちょくちょく車に乗って外に出て居るので何となく思っていましたけど……まさかこんな危険な事をして居るとは思っていませんでした。
こっちも心配ですので。レースを潰して、それでクレアが出て行かなくなれば万々歳ですよ」
「おぉ……結構バッサリいくのね」
「ええ、クレアも意地になって逆張りしてるだけですから」
そう言うと、シリカはサクラに詳しい事情を話した。
「自分達、機関科は同じ土地で育ってきたんです。
元々、機関長の実家は船の修理屋をやって居るんです。それで、機関長の実父が元々ホワイトドルフィンで機関員をしていた人で、お堅い人だったんですよ。
今回の受験だってその実父が受験させたんです。初めは猛反対でしたけど、私たちも行くって事でなんとか抑えていたんですけどね……」
「なるほど……」
シリカの話しを聞き、やけに不満げだった理由がわかると。シリカはやや苛立ちながら言う。
「全く、クレアが違法ドラッグレースに出ていたとは思いませんでしたけど」
「これで門限外に飛び出す事は無くなるかねぇ……」
「クレアは良くも悪くも機械バカですから大丈夫ですよ。……あんな子ですけど、宜しくお願いします」
「ええ、腕は確かだもの。絶対手放さないわ」
そう言うと、サクラ達を乗せたマスタングは車を降りる。明日からは航海実習だ。艦の心臓部でもある機関室を担当するクレアには是非とも腕を光らせてほしいと思うサクラだった。