「何!?生徒を撃ったのか?!」
テロリストのリーダー達は戦慄した。
一人が暴走して生徒を撃ち、一人が負傷したのだ。
「不味いぞ……アメリカを刺激してしまった……」
「どうする?」
「徹底的に隠せ。向こうにバレれば人質どころじゃ無い」
「生徒を盾に逃げ出さねぇのか?」
「それこそ、アメリカを焚き付けるに十分だ。上から誰一人として傷つけるなと言われていたのだ。それなのに……」
テロリストのリーダーは拳を握ると仲間に聞いた。
「撃ったのは誰だ?」
「アイツです……」
「そうか……」
するとリーダーは片手に銃を持つと船内を出て行く。
先ほど、サクラに取引をしたばかりのリーダーは甲板に出るとある場所に通信を入れた。
「ーーーこれが、モンタナを襲撃した犯人の情報です」
ホワイトハウスでモーリスは新たに情報を受け取る。
「メキシコ系犯罪組織か……」
「裏には麻薬カルテルがいるのはまず間違いないでしょう」
「引き続き調査を頼む。徹底的に洗い出せ」
「はっ!」
モーリスはプロジェクターに映し出された映像を眺めていた。
「(モンタナは現在機関が停止し、漂流して居る。錨が降ろされていないと言うことはシステム自体が停止して居る可能性があるな……)」
「大変です!あのライブ映像がネットに上がっています!!」
「何っ?!」
「急激に拡散しています!」
「誰が流した!?」
「接続場所は…セドロス島沖です!」
「モンタナからか……!!」
サクラが縛られて居る映像を眺めながら彼らはテロリストが何を思っての行動なのかを推測していた。
サクラを人質にした映像が流れて居るのをテロリスト達が確認したのはモーリス達から遅れて二〇分後の事であった。
「誰が流した!?」
「アザゼルです!」
「彼奴か……!!」
映像を確認したリーダーはズカズカとボートに戻ると、乗っていたアザゼルを追求する。
「貴様、どう言うつもりだ……!!」
するとアザゼルは飄々とした様子で答える。
「俺様を追い出した仕返し」
するとリーダーはアザゼルの胸ぐらを掴みながら怒鳴った。
「貴様!何をしたのかわかって居るのか!?これは、アメリカ人の怒りを焚き付けるだけだ!俺たちは……逃げ場を失ったんだぞ……!!」
「知らねぇよ。んな事」
そう言い、アザゼルは不満げに答えるとリーダーはアザゼルを睨みつけた後に彼の持っていた携帯を叩き壊して、海に放り投げてると指示を出した。
「貴様は俺の側にいろ。下手な行動を起こせば……分かっているな?」
そう言うとリーダーは下されたタラップを伝うとそのまま船内に戻って行った。
同じ頃、船内ケイリー達が避難した密室部屋ではクラスメイト達が不安を抱えながら夜を過ごしていた。
「……(そろそろ行くか)」
全員が寝静まったのを確認したケイリーは静かに、誰も起こさないように立ち上がるとそのままダクトの方に移動する。
ダクトに登って入ろうとした時、ケイリーは後ろから肩を軽く叩かれた。
「何処に行くの?」
小さな声で声をかけたのはルイーザだった。彼女はケイリーの目を見ると、再び聞いた。
「副長、何処に行く気ですか。こんな真夜中に……」
ややキツイ目線で問いかけると、ケイリーは答えた。
「これから籠城するために必要な物資を回収しに行く。立てこもりが何日続くかは分からない。だから、私が代表で倉庫に行って物資を取りに行く」
「外ではテロリストがウヨウヨして居るんです。もしバレたら……」
「大丈夫。倉庫までダクトで繋がって居るし、テロリストも倉庫に居るとは思えない」
「しかし…」
「大丈夫。ちゃんと安全を確認してから移動するから」
そう言い、ダクトに登った時。ルイーザが提案をした。
「私もついて行きます。長物も持って居るので」
そう言い、ルイーザは肩に担いでいるM25狙撃銃を見せた。
しかし、ケイリーはあまり乗り気ではなかった。
「狭いから使えるかは分からないわよ?」
「でも、拳銃一丁よりは威力良いですよ」
そう言うと、ケイリーは少し考えた後に答えた。
「そうね……数は多い方がいいかもしれないけど……本当にいいの?」
「ええ、大丈夫。逃げるのは一丁前よ」
「あぁ、危ない記者だものね……」
そう言うと二人はうつらうつらとなっていたネルの肩を叩く。
「ネル」
「っ!ど、どうした?!」
起こされて驚くネルに対し、ケイリー達はこれから物資の回収に行く旨を伝えた。
「それって大丈夫なの?もし捕まったら……」
「大丈夫。ここに来るにはダクトの中を移動しないといけないし、大の大人はあのダクトを通れないから大丈夫」
そう言い、ケイリー達は大丈夫だと言ってネルを落ち着かせると。ネルはケイリーにある注文をした。
「あの……もし行けたらで良いんだけど。私の部屋からパソコンを持ってこれるかな?このタブレットじゃあ、ちょっと不安でね……」
そう言い、ロックされている武器管制システムの画面を見せた。
どうやらスペック的に相手が強いものを使えば、間に合わなくなる可能性があるとの事。
その為、自分が組んだ特製ノートパソコンの方がもしもの際に対処できるとの事らしい。
「分かった。探してみるよ」
「無理しないでね」
「じゃあ、他のみんながパニックを起こさないようにお願いね」
「ええ」
そう言うと、ケイリーとルイーザは深夜の船内をダクトを通って外に出る。
船内は主電源が落とされた影響で非常灯しかついておらず、不気味な赤い空間が広がっていた。
「メインシステムの保護は間に合ったみたいね……」
「窓の外にはブルマーとホワドルが来ていたし、海軍艦艇も来ていたよね?」
「ええ、そりゃあ大統領の娘が人質だもの。躍起になっているに違いないわ」
「さっすがだねぇ」
そう言うと、ケイリーは慣れたようにダクトを匍匐前進で進んでいると真下の通路を複数人居ると思われるテロリストが話しながら歩いていた。
『おい、艦橋にいたガキは逃げ出した可能性があるってよ』
『まぁ、でも良いだろ。まだ船の中に生徒は残っているんだ』
そう話すテロリストの話しに、思わずケイリーとルイーザは息を殺して話を聴き続ける。
『人質はどうしているんだ?』
『今は教室に集めている。何しろ人手が足りない』
『周りは軍艦だらけで増援も望み薄。こっちからの砲撃を警戒して向こうは距離をとっているらしいぜ』
『武装が使えねえのにな』
『めげずにCICでやってるってよ。諦めりゃ良いのに……』
話を聞く限り、どうやらネルの対処は相当骨が折れているようで、諦めムードが出ているようだった。
さすがだと思いつつ、ケイリーは盗聴を続けた。
『しかし、モーリスの娘を人質に取ったは良いが。これで俺たちはアメリカの敵になったか』
『おまけにアザゼルの馬鹿が生徒を撃ちやがった。上に気に入られるからって好き勝手しやがって……』
『ああ、ごもっともだ』
どうやらシリカを撃ったのはそのアザゼルと言う男のようだ。
憤りが込み上げる中。テロリストはボロボロと情報を溢す。
『何人やられた?』
『一二人だ。残っているのは二四。殆どが外だ。ったく、少しは中にも人を割いて欲しいもんだ』
『シールズや強制執行課に潜入させない為だ。用心に越した事は無い』
どうやら相手は綿密な作戦を練って襲撃を企てたようだ。どうりで動きが早いわけだ。幸いなのは統率が比較的取れている事だろう。
もしこれが暴走し始めたら恐らく他の生徒達にも危害が及ぶ。そうなる前に事態の収集ができれば良いのだが……
そんな事を思っているうちに、テロリスト達はどんどん遠ざかっていく。
足音が聞こえなくなり、ケイリー達はダクトを進んで倉庫にたどり着く。
ケイリーの予想通り、そこに人はおらず。ケイリー達は物資をダクトの中にこっそりと詰め込み出す。
主に保存の効くレーションと水なのだが、中身を丸ごとダクトに押し込んでいた。
しばらく押し込んでいるとダクトにいるルイーザから声が聞こえた。
「オッケー、荷物は十分詰まったよ」
「了解、荷物を持って戻ろう」
そう言うと、ケイリーはダクトを通って来た道を元に戻り始める。
「(これで食料も手にいれ、馬鹿がべらべらと喋ったおかげで情報も手に入れた。あとは……)」
荷物を押しながらダクトを通る途中。ケイリーは前を進むルイーザに言う。
「ルイーザ、この荷物をお願いできる?」
「ん?了解。ネルのパソコンね」
「ええ、ついでに内の状況を見てくる」
「気をつけて」
そう言い、ルイーザは横にそれたケイリーを見届けるとレーションや水の束を続々とみんなのいる空き部屋に落としていた。
時刻は午前二時。事件発生から七時間ほどが経過していた。
サクラが縛られている映像は常にホワイトハウスの壁に映され、リアルタイムの映像を見ていた。
娘の無事を確認しながらモーリスは映像を眺めていると、ふと違和感を感じた。
「(やけに変則的な瞬きだな……)」
映像に映るサクラは時々顔を下ろした後にまた顔を上げて瞬きをしていた。
しかし、瞬きは早い時や長い時もあり。モーリスは瞬間的にそれが何を表しているのかを理解した。
「(艦内のテロリストは少数。人質多数、乗り込みは危険。機関停止。武装は使用不可……成程やるなサクラ)」
テロリストに気づかれていないやり方で情報を伝えていることに舌を巻くモーリスだった。
横のテレビ画面では、報道官が記者達への問答の様子を伝えていた。
「(しかし、情報がもっと欲しい。どうやって伝えるべきか……)」
そう思いながらモーリスは思考を巡らせ始めていた。
「これか……」
士官室に忍び込んだケイリーはネルのカバンの中から一台のノートパソコンを見つける。
ケイリーは頼みの物をカバンごとダクトに持って行くと、そこでは細長いカバンが置かれ、副長室から持って来た荷物があった。
「みんながいるのも確認した。これであとはサクラやみんなを救出に行くだけだけだ……」
ケイリーはそう呟くと、ダクトを通って倉庫に戻って行った。