午前八時二〇分
事件発生より一四時間経過
モンタナの廃倉庫にてレーションを摂っていたケイリー達は外の様子を眺める。
「(囲まれて居るか……)」
複数の軍艦を確認したケイリーは持ってきた物資を確認しながら自分の部屋から持ち出した荷物の部品を組み立てていた。
「(始めるならやはり夜だな。陽が登っている間は動きずらい)」
銃の組み立てが終わり、ケイリーはハッチを見る。昨晩はダクトだったが、昨日の人の少なさからかなり行動範囲は広いと感じ、サクラとの合流をしようと考えていた。
「……ネル」
「?」
「ちょっとお願いがあるんだけど……」
パソコンや他の機器も持ち込んだネルに、ケイリーはある依頼をしていた。
自分が拘束されて一夜が明けた。周りには軍艦が集まっているのがよく分かる。
艦長室には常に二人が警戒しており、いつでも自分を撃ち殺す準備ができていた。今頃、映像越しでモールス信号を送っているが、気付く頃合いだろう。話を聞いているとどうやらこの映像はネットに流れているようで、誰かが勝手に流したようだ。
「(気づかなければいいが……)」
サクラは隠しメッセージがバレない事を祈りながらその時を待っていた。
事件発生から一二時間以上が経過した。テロリスト達は人質の生徒達を解放する気はないようで、いまだに一人も解放されていなかった。
マスコミが勝手にモンタナに接近しようとした時。向こうから銃撃が飛んできたと言う情報もある。
重火器の中にはロケットランチャーもあり、ヘリコプターでの接近も危険。
内部情報はサクラから齎され、だんだんと詳しい配置図なども分かってきた。
後はいつ突入するかなのだが……
「生徒達の安全が最優先だが、どうすれば……」
そう、もし生徒達にもしもの事があればミッション失敗となる。
それだけは何としても避けなければならない事態だった。
ホワイトハウスでモーリスは伝えられてくる情報を纏めていた。
ライブ映像は無音なため、基本的に通信は電話で行っており、盗聴も防がれていた。
医務室では、銃弾を受けたシリカが目を覚ましていた。
「痛ててて……」
「あまり無理すんな」
肩を包帯でぐるぐる巻きにされ、ガーゼには少し血が滲んでいたシリカにシアが注意をする。
「傷口は塞いだ。傷は浅いから回復を待つだけよ」
「ありがとう、シア」
「私は二番目の天才よ?傷くらい簡単に治してやるわ」
そう話し、医務室では三人がホッとしていた。扉の外にはテロリストが銃を持って待機しているが。今まで粗相を起こすことは無かった。と言うか、そんな事をすれば容赦しないと決め込んでいた。
テロリストのリーダーは艦橋から周りを囲う艦艇を眺める。
元々艦橋にいた四人と機関科の五人が船内を探してもおらず、先に逃げ出したのだろうと思っていた。
「人質が負傷した事実はまだ届いていないようだな」
彼らは異様な迄に警戒していた。アメリカ人がメキシコ系犯罪組織の攻撃で負傷した。これでもし死亡すれば確実にメキシコはアメリカに蹂躙されるだろう。
今、自分たちは擬似的にアメリカに宣戦布告をしているような物だ。
今後の動きでは街の旗が星条旗に据え変えられるかもしれない。
それほどの事をしているのかと思うと緊張で逃げ出したくなってしまう。
いまだにホワイトハウスは動く気配はなく。焦ったくもあった。モーリスの娘の映像は世界中に流れ、今や注目の的。逃げれる可能性は限りなく低かった。
「(これからどう動けば良いのだろうか……)」
テロリスト達は目的を見失い始めながら、距離を保ちながらこちらの監視を行う軍艦を見ていた。
「……これで良い?」
倉庫でネルが映像を見せながら問いかける。
ネット上にサクラが縛られている映像を見て、皆が心配する中。ケイリーはネルに映像をループさせて欲しいと依頼していた。テロリストがネット上にサクラの映像を流していたのは驚きだったが、ケイリーはサクラからの命令を遂行する為に準備を進めていた。
時刻は午後八時。あたりはすっかり暗くなって視界は悪かった。
「ええ、十分。ありがとう」
そう言うと、ケイリーは部屋から持ち出したAR-18を持っていた。
6.5mmWCO弾の弾薬入りの弾倉も入っており、まるで襲撃を知っていたかのような武装だった。
「私が囮になるから。その間にみんなはボートに乗り込むのよ」
作戦はこうだ。ハッチから出たケイリーが囮となって船内で暴れ、その隙にダクトを通って他の生徒は外に逃げて走り出す。
そしてスキッパーか、テロリストの乗ってきたボートを奪って乗り込んで脱出する。
大勢のテロリストがいる中、ケイリーの責任が重すぎる作戦にルイーザが疑問に思う。
「大丈夫なの?」
その疑問に、ケイリーは答える。
「今回のテロリストは私たちが傷つくことに異様に警戒している。だから、無闇矢鱈に撃つ事は無いわ。それに、周りには多くの軍艦が取り囲んでいるからすぐに動いてくれるわ」
「大丈夫かなぁ……」
そう呟き、心配する声が上がるが。ケイリーは皆に言う。
「艦長が動けない今、最高責任者は私。つまり、私は貴方達を無事に外に逃さなければならない。逃げるのは最も最後ということになるわ」
「し、しかし……」
「二度は言わないわ。さ、行って」
ケイリーの鋭い視線に誰も言えなくなる。その覚悟を知り、生徒達は皆それぞれに労いの言葉をかけながらダクトに向かっていく。
脱出チームのリーダーであるルイーザにケイリーが言う。
「銃声が三発起こったら作戦開始よ」
「了解。副長も気をつけて」
「時間になっても来なかったらすぐに出して。全員が人質になるよりは絶対マシだから」
「わかりました……」
ルイーザは不満げに答えると、手に狙撃銃を持ちながらダクトに向かって行く。
全員がダクトに入ったのを確認するとケイリーはダクトとは別所にあるハッチの取手を取る。
「ここは艦長私室に繋がっている……バレるまで時間がないから素早く移動しよう」
そう呟くと、ケイリーは静かにハッチを小さく、静かに開けると外を見る。そこにはいつも見てきたサクラの広い部屋があり、誰もいなかった。扉も閉まっており、外から見えることもなかった。
「(見張り無し……すぐに動けるわね)」
周りに誰もいないのを確認したケイリーは素早く飛ぶと、ハッチの扉を静かに閉じ。扉に耳を当てる。奥からはテロリスト達の話し声が聞こえ。声の色から人数と場所を確認する。
片手にサプレッサー付きH&K MARK 23を構えるとドアノブに手を掛ける。
「……」ガチャッ!!パシュッ!パシュッ!!
「うっ!?」ドサッ
「がっ!!」ドサッ
眉間を撃たれ、一瞬で制圧された二人はそのまま艦長室に倒れ込む。
すぐさまケイリーはサクラを縛っていた縄を解くと、サクラがケイリーに向かって言う。
「思っていたよりも動くのが早かったわね」
「夜の方が見えずらいかと思ってね」
縄を解き、自由の身となったサクラは手を軽く握った後にケイリーに聞く。
「なるほど……それで準備は?」
「既に出来てる」
「オッケー、じゃあこっちも準備する」
「こっちもやっておく」
そう言うと、ケイリーは先ほど片付けた二人のテロリストの様子を見る。
「うわぁ、カーペットに染み込んでらぁ」
「どうせ変えるから問題なし。こっちは行けるよ」
そう言い、サクラは本棚の本に紛れて入れていたマグプル FMG-9を展開し、サプレッサーとドットサイトを付ける。
ケイリーも映像を記録しているカメラを繋いでいるパソコンを触っていた。
「初めていい?」
「ええ、良いわよ」
そう言うと、ケイリーは持っていたAR-18を持つと、そのまま艦長室から飛び出して引き金を三回弾いた。
タンタンターン!!
「(三回の銃声……合図ね)」
遠くから聞こえた銃声を聞き、ダクトを通っていたルイーザは銃声を聞いて甲板から走り去っていったテロリストを見届けてカバーを外して外に飛び出す。
「こっちよ!」
ルイーザを先頭にエマやネル、機関科の子達が外に飛び出して走り出す。
目的はモンタナからの脱出。ケイリーが自信満々に『みんなを絶対助ける』と言い、ちゃんと作戦の説明もしてくれたが、それでも心配は隠しきれなかった。
しかし、迷っている暇はない。ケイリーが命懸けで作ってくれたこの時間を無駄にするつもりは一切なかった。
銃声を聞いてテロリストが居なくなった甲板の端に行き、止まっていた無人のエンジン付きボートに一斉に乗り込む。機関科のルリィは一瞬戸惑っていたが、ケイリーの言葉を信じて右舷にあったボートに乗り込む。
船内から怒号と一部銃声が聞こえる中。最後にルイーザが乗り込んだ。
「エンジン掛けて!」
「は、はいっ!!」
ルイーザがそう叫び、エマが紐を思い切り引っ張ってエンジンを掛ける。
「あとは副長の到着だけど……」
「ま、間に合うかな……」
ルイーザ達は心配した声をあげながら今船内で何が起こっているのだろうかと思っていた。
そして、複数回の銃声が聞こえた後。予定していた三〇分後ギリギリにケイリーが甲板からボートに飛び乗ってきた。
「急いで出して!!」
「りょ、了解!!」
そう言い、エマが舵を握りながらボートを走らせると、行き違う形でスキッパーやヘリコプターが飛んで行き、そこでケイリー達はブルーマーメイドに保護されたのであった……
そして、そこで衝撃的な話を聞かされるのであった。
銃声が響いた頃、船内の狭い通路では……
「急げ!」
「一体何が……!!」
「誰が撃った?!」
船内の銃声を聞いて慌てた様子でテロリスト達が通路を走っていた。
タンッタンッタンッタンッタンッ!!
すると自分達とは違う靴音が聞こえると突如目の前に白い影が現れた。
「「「!?!?!?」」」
するとその白い影は持って居た短機関銃を持ってテロリスト達に引き金を引いた。
ダダダダダダッ!!
発射された9mm拳銃弾がテロリスト達を肉塊へと変貌させる。それと同時に通路の壁や床が赤く塗装される。
碌な反抗も出来ぬままに三人のテロリスト達は斃された。
「残るは一九人……釣り出すか……」
短機関銃を片手に一人の少女がそう呟いていた。