モンタナ船内で銃撃戦が始まった事はテロリスト達全体に伝わる。
「急いで船内区画に人員を後れ!」
「人質を連れて来い!」
リーダーが叫び、指示を出しているとアザゼルは嬉しそうな顔をしながらその様子を眺めていた。
「やっと始まったぜ、お楽しみが!!」
そう言い、アザゼルが銃を持って立ち上がった時。リーダーがアザゼルに言った。
「貴様は残って敵が来た時の対処だ」
そう言われ、アザゼルは艦橋に残るよう言われた。しかし、アザゼルはせっかく下で銃撃戦が起こっていると言うのに参加できないことに苛立ちを覚える。
今までこのリーダーには色々と制約を受けた。
自由な行動ができなかった。
海賊らしく女を犯すことが許されなかった。
積もり積もった不満がアザゼルをある行動に移させたのはある意味で自明とも言えた。
「俺様の邪魔しやがって……クソが」カチッ!!
「っ!お前何を……!!」
アザゼルは拳銃を手に取ると、銃口をリーダーに向ける。
するとアザゼルは恨めしそうにリーダーを見ながら言う。
「テメェには苛立ってたんだ。俺の邪魔しやがって……!!」
そしてアザゼルは引き金にかける力を強めた。
「お前っ!!」
咄嗟に、リーダーも拳銃を抜こうとしたが、アザゼルの方が早かった。
「消えな」ダンッ!!
放たれた拳銃弾はリーダーの脳を貫通し、一瞬でリーダーは意識を失って、血を流しながら倒れる。
「アザゼル!!」タタンッ‼︎ドサッ‼︎
そして、倒れたリーダーを見向きもせずにアザセルは残ったもう一人を撃つと、そのまま艦橋を後にした。
銃声の音を頼りに船内を走っていると、角で曲がった瞬間にアザゼルは変な音を聞いていた。
同時刻 船内 医務室
テロリスト達が通路を走り、響く銃声にクレア達は何があったのかと思った。
「こう言う時は下手に動かない方がいい」
シアがそう言い、クレアも頷いていた。今、病室ではシリカが傷を負っており、満足に動けない。そんな状態で無理に動いても足手纏いになって殺される確率が上がるだけだ。
その為、この事態に入口の防弾扉に鍵をかけて静観することを決め込んでいた。
ホワイトハウスではサクラが椅子に縛られたままの映像を眺めていた。
「状況に動きはないか……」
するとその時、映像に動く影が映った。
「誰だあれは?!」
現在、テロリストのライブ映像は一千万人程が見ており、西海岸沿いに警戒情報が発令されている中。一向に動きがないテロリストに対し、緊張感は限界に達しつつあった。
すると、その人影は覆面を取り、片手に拳銃を持って縛られたサクラを見ていた。
「何をする気だ……?」
すると、覆面を取った男はサクラに向かって何かを呟くと拳銃をサクラに向けた。
「っ!!まさか!!おい!やめろ!」
モーリスが思わずマイクに向かって叫んだ直後。
男はサクラに向かって一発の銃弾を放った。
艦長室の壁に血が掛かって赤く染まる。
撃たれたサクラはそのまま椅子ごと後ろに倒れ込んだ。
一連の映像を見て司令官が叫んだ。
「対象が撃たれた!突入!艦長室に迎え!!」
コメント欄で撃たれたことに対する衝撃が走り、一気に荒れ出す。
カメラが倒れ、撃たれたサクラは映像から消える。
職員が走り出し状況把握を始める。
そんな中、モーリスは娘が撃たれた事実に呆然となってしまって居た。
モンタナの近くで待機していたNavy SEALsの部隊と、ブルーマーメイドの強制執行課は命令を受けてヘリコプターとスキッパーを駆使してモンタナに乗り込む。
途中、勇気を持って逃げ出してきたケイリー達を乗せたボートを発見、保護をした。
生徒の安全を確保しつつ、テロリストの射殺を許可された彼らは甲板に降り立った。
そしてそのまま走って船内に入り、生徒達の捜索を始めた。一部部隊は艦長室に向かって走る。
そして、艦長室に向かった道の先でNavy SEALsの隊員達はその光景に絶句していた。
「これは……!!」
「うっ……」
そこには赤く染まった通路があり、テロリストの遺体が山のように重なっていた。
壁には銃弾の跡が残り、足からは水溜りを踏んだ時の音が聞こえていた。
遺体は身体の真ん中から真っ二つに分かれているのもおり、ここで何が起こったのか。思わず歩みを止めてしまった。
「サクラ嬢の安否を優先するぞ」
「「「はいっ!」」」
そう言い、艦長室に入るとそこには血を流して壊れた椅子で倒れているサクラの姿があった。
咄嗟に隊員は彼女の脈を測る。
「……まだ脈があります!!」
「よし!すぐに連れて行け!」
「他の生徒も保護したと報告が……」
「司令部に報告。サクラ嬢は生存と」
「はっ!」
そう言い、隊員の一人が部屋を出て行く。
艦長室のカーペットには赤い靴跡がくっきりと残り、カーペットは赤く染め上げられていた。
サクラの着ていた制服は赤く染まり、制服の左肩には穴が空いていた。
その日から、世界は麻薬を排除する方針が広まっていた。
犯罪組織=敵=麻薬と言う繋がりで世界で麻薬を排除する風潮が出来上がった。
女子高校生が生放送で撃たれて重傷を負った映像が世界中で配信され、世界中で麻薬を作るものは淘汰されていた。
また、公式発表で負傷者が二名確認された事が報告され、アメリカ国民の怒りに油が注がれた。
事件より一週間後
サンディエゴ市内の病院
そこではモンタナからヘリコプターで搬送されたサクラがある来客を受けていた。
「珍しいわね。機関長自らやって来るなんて」
「……ああ、言いた事があったからな」
そう言うと、病室に入って来たクレアはサクラの顔を見るとまずは頭を下げた。
「ウチの友人達を守ってくれてありがとう……」
そう言うと、サクラは少しだけ驚いた様子を見せつつも、少しだけ軽い笑みを浮かべるとこう答えた。
「艦長と言う職を貰ったからには同時に船員の命も預かる。それが艦長と言うものでしょ?」
「それは…そうだが……」
クレアはそう言い、締まらない納得をしながらもサクラを見た。
「じゃ、じゃあこれで失礼する。言いたいことは言ったからな」
そう言うとクレアは席を立って病室を後にする。
外ではケイリーが壁に背を預けて待っており、クレアが出てきたのを見ていた。
「お、話は終わった?」
「ああ、言いたい事は言った」
そう言い、クレアは病室を出ようとした時。クレアはケイリーにふと聞いてみた。
「副長、聞いてもいいか?」
「?いいよ、どうした?」
そう言われ、クレアはケイリーに聞いた。
「副長は、艦長のことをどう思っている?」
「どう……?」
するとクレアはケイリーに問いかける。
「副長から見て、艦長とはどんな人物なんだ?」
クレアの問いに、ケイリーは納得した様子を浮かべるとクレアを見ながら誘った。
「うーん……ちょっと屋上で話そうか。時間あるかい?」
「あぁ……」
そう答え、二人は病院の屋上に向かって行った。
屋上に向かい、ケイリーは柵に寄りかかる。そしてケイリーはサンディエゴから見える大海原を見ながら呟く。
「まぁ、サクラがどんな人って言われたら。私は……
この世で一番責任感が強い人間。
……って答えるね」
ケイリーは自信満々でそう答える。
「責任感……」
するとケイリーはと遠くのドックに入灌しているモンタナを見ながら続ける。
「サクラは、どんな時でも自分は大統領の娘になるんだと意識して過ごしていた。だから、お義父さんの心配事を増やさないために護衛の要らない、常に警備の厳しいこの場所を進学先で選んだ。
決して努力を怠ったこともないし、まだまだ自分は出来損ないだと思っている。
モンタナの艦長になった時に言ってたよ。『自分の判断で全員の命を左右するのだから油断はできない』って……。
艦長たる者、部下の命を最優先に考えなきゃいけない。だから、今回の事も結構負い目を感じているんだよ。自分が大統領の娘になったから全員を危険に晒したと……」
「…….」
ケイリーの話を聞き、クレアは思わず自分のして来た事を思い出すと恥じてしまった。
するとケイリーはそんなクレアを見ながらサクラから教えてもらったある話をする。
「『海の仲間は家族』」
「……へ?」
「昔、サクラが日本で暮らしていた時に現地の子から教わった言葉だってさ。英語にすると『A marine companion is a family』って感じかな」
「はぁ……」
クレアはサクラが教わったと言う言葉を知り、あそこまで自分を気にかけていた理由を理解できた。
「私は『サクラについて行けば絶対安心出来る』って思っている。
サクラは間違った判断をしたことが今まで無かった。
サクラの言っている事とは参考になるし、実際役に立つ。
その知識は私がサクラと知り合う前からサクラ自身が毎日続けて来た努力の賜物。だから、サクラが主席入学したことに疑問も持たなかったし、サクラが身代わりになった事にも疑問を持たなかった。……まぁ、もうちょっと命を大事にして欲しいとは思うんだけどね」
「ははは……」
ケイリーの呟きに思わずクレアも苦笑してしまう。
真っ先に自分の身を差し出すことに躊躇がなく、尚且つ海賊相手に強気に出て銃口を自分の頭に向けた話を聞かされた時の衝撃は今も思い出せる。
するとケイリーは最後にこう言った。
「私はサクラには勝てない。どんな分野でもね……強いて出来ることと言えばサクラに掛かる重圧を少しでも軽くしてあげることくらいだね」
ケイリーの話を聞き、納得して帰っていった様子のクレアを見届けながら、ケイリーは病室に戻る。外ではメキシコに陸軍の派遣を訴える市民がプラカードを片手に街を歩いていた。
あの事件以降、アメリカではメキシコに存在する麻薬カルテルの排除を掲げる『対メキシコ麻薬戦争』を声高らかに訴えていた。
「国共内戦に次ぐ新たな戦争ビジネスの始まりですか……」
ケイリーはそんなデモ隊を眺めながら一週間前のことを思い出していた。