ハイスクール・フリート 星の下の約束   作:Aa_おにぎり

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五九話

ケイリーとクレアが屋上で話している途中。サクラの病室にはモーリスが見舞いに訪れていた。

 

「ともかく大事にならなくて良かった……」

「心配しすぎだよ父さん」

 

モーリスは心底ホッとした様子でサクラに言い、彼女は大袈裟だと思っていた。しかし、病人に見舞いに来たモーリスはサクラに声をかける。

 

「友人が言っていたぞ『無事で良かった。お陰様でこちらも胸を撫で下ろせる』とな」

「それは良かった」

 

そうサクラは答えると、一週間までの出来事を思い返していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

時を遡ること一週間前。

アザゼルは船内を走っていると背中に銃口が当てられた。

 

「誰だぁ…お前?」

「……ついて来てもらおうか」カチャッ

 

アザゼルは後頭部に銃口が当てられ、そのまま後ろに回り込んだ女性の指示に従う。

知らない声だと思いながらアザゼルはその女性に問いかける。

 

「今から何をするんだ?女」

 

すると、銃口を立ち上げたままその女性は答える。

 

「指示することをそのまますれば良い」

「……報酬でもあんのか?」

 

アザゼルがそう問うと、女性が答えた。

 

「……脱出路がある。モンタナから逃げられるな」

「ほぅ?そんな場所があるのかよ」

「私の指示に従えば教えてやる」

「……了解、引き受けるぜ」

 

俺の好みの女じゃねえが、襲えない事はなさそうだ。しかし、変な動きをすればすぐに撃たれる。こんな場所で死にたくはないので、大人しく従うことにしていた。

そして、連れてこられた場所は艦長室だった。

 

「中に入れ、そしてサクラを撃て」

「っ!マジかよ」

 

その女性の命令に思わずアザゼルは驚く。てっきり、銃口を突き掛けているのはモンタナの生徒だと思っていたが、自ら艦長を撃たせるとは思わなかった。いや、もしかすると今回の作戦メンバーに混ざって女が居たのかもしれない。だとすれば惜しいことをした。

 

そう思いながらアザゼルはその女性の指示通りに艦長室に入ると、そのまま持っていた拳銃を持って椅子に縛られて動かないサクラに銃口を向ける。

 

「マスクを取れ」

「これでいいのか?」

「ああ、そしてそのまま左肩だ」

「へいへい」

 

人を撃つことができるのは良い。味わえない快感だ。

その気分が高揚するのを感じながらアザゼルは引き金を引いた、

 

ダンッ!

 

一発の弾丸がサクラの左肩に命中し、そのまま衝撃で椅子ごと倒れる。

壁に血が飛び散り、窓ガラスが赤く染まる。

指示を聞いたアザゼルは振り向くと、そこには三脚を蹴飛ばして倒す覆面を被った仲間がいた。

体格からしてやはり構成員の中に女がいたのかと思いながらアザゼルはその女性に聞いた。

 

「……で、仕事はしたんだ。脱出路まで案内してくれや」

「こい、こっちだ」

 

そう言い、時々銃声が響く中。アザゼルと女性は甲板に出る。

そして左舷側まで行くとそこには無事だった一隻のボートがあった。

 

「このまま進路を北に行け。軍艦がそこには居ない」

「……本当か?」

「ああ、()()()()()()()

「……なるほど、そう言うことかい」

 

アザゼルはその一言で覆面の下が誰なのかを理解した。

 

「(こいつぁ、良いネタになるぜ)」

 

この情報を売れば高い金になること間違いなしだと感じ、アザゼルは意気揚々とボートに飛び乗ると振り向かずに船を走り出させた。

どんどん視界からモンタナが外れていく中。アザゼルは金のことしか頭になかった。

 

「ケッケッケッ!まさか米国の工作とはなぁ……!!」

 

思ったよりもでかい金が入ると思い、すでに金の使い方をアザゼルは考えていた。

 

「カジノ……いや、娼館…いや、誰か買うか……」

 

アザゼルはこの世の天国とも言うべき気分で浮き足だっていた。

モーターボートの舵を握りながら取らぬ狸の皮算用をしていた。

 

「あぁ、これを出汁に金を要求すれば良い。そうすれば……」パシャッ!「……は?」

 

突如視界が上に飛んだ。

何が起こったのだ?

 

乗っていたモーターボートは何故か真っ赤に染まっていた。視界がやけにゆっくり動く。

 

窓ガラスは赤くなって砕け散り、さきほど握っていた舵の近くには二本の棒があった。

 

その二本の棒には布が巻き付けられており、上は赤色の何かで染まっていた。さらに下には泥で少し汚れた布の袋があった

 

いや、それは布の袋じゃない。

 

 

 

 

 

靴だ。

 

 

 

 

 

誰かの靴だ。

それに巻き付いている布はズボンだ。

 

しかし、ボートに靴やズボンが置いてあった記憶はない。じゃあ誰のなんだ?

 

あれ?そう言えば俺は舵を握っていた。なのに何故舵が下にあるんだ?

 

何故だ?

 

何故だ?何故だ?

 

何故だ何故だ何故だ?

 

 

 

 

 

ーーーあっ

 

 

 

 

 

足が無い

 

 

 

 

 

ふと下を見ると、そこに足はなく。代わりにボートが走った跡の波が残されていた。

そして視界には赤色のボートが映り、二本の足が虚空の中を突っ立っていた。

ボートが何故か止まっている様に見え。視界の中にある艦影が映る。モンタナだ……

 

 

 

 

 

 

何が起こったんだ?

 

 

 

 

 

最後に見た景色にモンタナが映ると、アザゼルはそのまま空中に赤い液体で線を描きながら海中に身を落としていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーボートの運転手の喪失を確認。ボートも竜骨が折れたみたいね。真っ二つに折れて沈んでいくわ。……流石よ」

 

モンタナの甲板では双眼鏡で脱出して行ったボートが沈んでいくのを確認したサクラが呟く。

その横ではケイリーがOSV-96の引き金に指を掛けており、銃口からは煙が少しだけ流れていた。

甲板に排俠された薬莢が転がり、ケイリーの腕をサクラが誉めた。

引き金を引いたケイリーは一言、

 

「ありがとう」

 

そう答え、観測者をしていたサクラはそのまま双眼鏡を片付ける。そして二人はそのまま艦長室に戻る。

 

 

 

 

 

艦長室には先ほど撃たれた人物が残されており、サクラはその髪を引っ張った。

すると、カツラが取れ。中から先程ケイリーに撃たれて絶命したテロリストが現れた。

 

「じゃあ、後のことを頼むよ」

「了解」

 

テロリストの服から血濡れた制服に着替えたサクラはそのまま遺体を外に放り投げるとケイリーによって縛られた後、カメラを繋いでいたパソコンを触っていた。

 

「これですぐに乗り込んでくるわ。じゃあ、また後で」

「ええ、また後で」

 

そう言うとケイリーはAR-18を片手に艦長室から走って出て行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今や、国民が戦争を望み。麻薬を悪と称する風潮ができた。これで国内から麻薬犯罪。麻薬被害を減らすことが出来る。

改正麻薬取締法も議会を通った。来月から施行される。よくやってくれた」

 

モーリスは満足そうにサクラに言う。

 

 

 

 

 

そう、この時間は殆どが想定内の出来事。計画された襲撃だったのだ。

モーリスが作成した法案はほぼ確実に製薬会社や麻薬カルテル、麻薬使用者からの反発をモロに受けることになる。

そこで、モーリスは国民の間に麻薬=悪という風潮を作り、国民からの支持を得ようと模索していた。大統領令を用いて無理矢理法案を通させても国民が反発すれば改正され、確実に元通りになってしまう。

それを防ぐには麻薬を悪の象徴にすれば良いこと。ついでに国内に潜むカルテル、麻薬を使うギャングなども潰せれば万々歳だ。

 

 

 

政界に興味はないと常日頃から言っているサクラだが、政治に興味がないわけではない。むしろ、興味津々と言うべきだろう。

モーリスの提唱する改正麻薬取締法は大麻を全面的に禁止し、完全に麻薬指定することを目的とした法律である。いずれは商用大麻も政府の管轄下において管理をする条文が追加される事も既に考えていた。

一部の州では合法となっている麻薬だが、同時に未成年者による麻薬被害も年々増えている。

事実、私が通っていた中学校でも同級生が一人、麻薬中毒で亡くなった。

そう言った事例がある事からも、州の方が強い権限を持つアメリカで強制的に麻薬を押さえ込む法律が改正麻薬取締法である。

 

まぁ、この法律が議会を通れば連邦政府の意向を強めることができ、日本のように連邦議会>州議会の体制を作ることができると言う思惑もあったりするがこの際は深くは考えないでおこう。

 

 

 

兎も角、事の経緯を話すと。サクラを救出したケイリー達はそのまま船内で銃撃戦を始め、サクラが殺したテロリストを土嚢代わりにテロリストの遺体を通路に積み上げ、生徒達が監禁されている教室から甲板に通じる最短ルート以外で戦闘を行い、ケイリーが倒している間にサクラは制服をケイリーが最初に殺したテロリストの一人に着せ、カツラで誤魔化す。

 

映像は既にネルの手によってループ再生されているので気づかれる事なく、工作を行い。次にテロリストの中から一人をランダムで脅しをかけて自分に偽装させた遺体に拳銃で撃たせる。その映像は終始録画し、ループ再生中の映像と繋げた。

 

元々は身代わりを撃った直後に殺す算段だったが、相手がシリカを撃った相手だったので予定を変更し、一旦逃した後に船ごとケイリーの対物ライフルで撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

絶望を味合わせるために……

 

 

 

 

 

この作戦の失敗点はやはり、シリカが撃たれた事だ。モンタナの生徒相手に、アメリカ人を撃つのは躊躇するだろうと考えていた。

しかし実際は統率を守らない一人が暴走して生徒を撃った。

危うく死に至らしめる所だったのが唯一の反省点であり、自分のミスだった。

 

「本当は負傷者一名のはずが二人になってしまった……考えが浅はかだった……」

「あまり気を重くするな。幸いにも死ななかった。それだけで十分だ」

 

そう言い、気にしない事を薦めるモーリスだが、サクラは表情を暗くしながら呟く。

 

「しかし、部下を危険に晒す事を。……私は事前に言わなかった」

「だが、言うことは絶対にできない。……その背叛する気持ちをどうすれば良いのか……か」

「……」

 

この事実を伝えたくない。いや、伝えられるわけがない。

この作戦には国防総省や大統領府、さらには国内の軍需企業も絡んでくる。

つまり、事件が起こった際にホワイトハウスにいた殆どの人員が作戦に参加している者達と言うことになる。

あの場にいて唯一、海上安全整備局のみが作戦に参加しておらず、知らなかったと言う事になる。

 

しかし、もう終わった事。これからモーリスは議会でメキシコ進駐に関する議論を進めていく事になる。

おそらく、過半数がメキシコ進駐に賛成するだろう。理由は簡単で票集めや、軍需企業によるロビー活動が行われるからだ。

 

 

 

ここ数十年、軍需企業は低迷をしていた。

冷戦が終わり、軍縮の時代に入った世界はどんどん軍事費を減らし、注文が減った軍需企業は閑古鳥が鳴いていた。

冷戦の終結により、最も危険地帯と言われている黄河付近ですら大規模戦闘は発生していない。戦闘が起こらなければ武器が壊れないので、武器が売れないのだ。

 

しかし、そんな中でのアメリカ軍によるメキシコ進駐はまたとないビジネスチャンス。この好機を逃すまいと既に多くの企業がメキシコ進駐を支持していた。

 

モーリスの説得でこのまま学校に通う事を決めたが、もしシリカやクレアがもしこの事実に気付き、私を問い詰めれば学校を辞める覚悟でいる。

 

 

 

アメリカという国のためにクラスメイトを危険に晒す事を決めてしまった愚かな艦長。

 

 

 

サクラはその汚名を背負いながら生きて行くのだと思いながら、外でデモ行進をする市民を眺めていた。

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