犯罪組織による襲撃事件より一ヶ月後。一時的な休暇を貰っていたモンタナクラス。
あの事件のショックから学校に来なくなるものがいなくなるかと思われていたが、幸いにもクラスメイトが欠ける事なく学校生活ができている。
そして今日は、死体まみれだったモンタナの清掃、消臭作業が終わり、再び試運転に入る日であった。
いつも通りに出航して行ったモンタナ。
いつも通りの配置、いつも通りの人員だが。大きく変わった所があった。
「
『あぁ、バッチリだ』
そう、サクラとクレアの関係に変化があったのだ。
あの事件以降、険悪だった関係は不思議とよくなっており、クラスメイトからは『モンタナ七不思議』と言われる始末だった。
メキシコ系犯罪組織による襲撃事件が解決した後、身を挺してクラスメイトを守ったという位置付けとなったサクラは他の生徒から尊敬の目で見られていた。
男子校と併設しているサンディエゴ海洋学校だが、男子部と女子部は風紀的問題から学内で生徒同士が会うことはない構造をしている。
校則で恋愛も禁止されており、業後に男子生徒が女子生徒をナンパしようもんなら教官が飛んできて即停学だ。
しかし、その代わり欲求を発散する為に持ち込んで良いものはかなり緩い。何せ、教室の前にポップコーン製造機が置いてあったり、誰かが持ち込んだエ○本が廊下に転がってるくらいだ。
それこそ銃撃戦以外なら何やっても良いんじゃないかというレベルだった。まぁ、やりすぎると教官が飛んできて反省文地獄だが……
そんなこんなで危機を乗り越えてより一層、団結力が高まったモンタナクラス。
遅れているカリキュラムを取り戻す為に毎日のように忙しい日々を送っていた。清掃が終わるまで教室で座学が行われ、航海実習分はまるまる座学へと変わってしまっていた。本来行われるはずだった他校交流演習もご破産となり、彼女らは少し残念がっていた。
命あっての物種ともいうし、何より死人が出なかった事が最も幸いだ。
航海中、クラスメイトは今までの鬱憤を晴らすように思い思いの時間を海の上で過ごしていた。海賊のトラウマはないのかと聞くと、どうやら監禁中もある程度の自由はあったらしく。なんとマシューもいたと言う。
死体も見ていないということでトラウマもへったくれもなかったと言う。
そして、今はモンタナ船内の教室に当直以外全員が集まっていた。前にはサクラが立っており、ある報告をした。
「……さて、この前の事件で色々と大変だったと思われるが。昨日、学校長より通達があった」
校長からの話ということで一体なんなのかという緊張感がクラスメイトを包んだ。そんな中、サクラはある発表をした。
「今回、我々モンタナクラスが日本へ留学に向かうことになった」
「「「おぉ〜……!!」」」
サクラの発表に全員が驚いた声や、嬉しそうな声を上げた。クラスメイトが浮き足立つ中、サクラはさらに続けた。
「その為、この度の留学に為に我々は試験的に武装を搭載する事となった。その為、留学まで特別訓練を受ける事となった」
「まじか……」
サクラの伝えた報告に、クラスメイトの反応は別れる。
「ウチらこの前補習終わったばっかよね?」
「だが、日本に行く為なら……トントンかな?」
「日本…行きたいねぇ……」
「特別訓練ってなんだろうね?」
「さぁ?」
そう言い、クラスメイト全体では日本留学に好意的な雰囲気が多かった。少し前に海賊事件があったとは思えぬ程ゆったりとした空気だった。
そんな中、サクラは気を引き締める意味を込めて伝えた。
「だが、我々は努力しなければ留学の件は無しになる。日々の努力を怠らないよう努めなさい」
「「「了解っ!!」」」
そう言うとクラスメイトは部屋に戻って行った。
クラスメイトに留学が決定した話をした後、サクラは機関室に来ていた。
「どう?調子は?」
サクラが話しかけたのは撃たれて傷が治ったシリカだ。病院で偽装入院していたサクラと違い、シリカは実際に撃たれて入院していた。シリカを見ると罪悪感が生まれてしまうが、サクラはその後感情を堪えつつ話しかけた。
サクラが聞くと、機関室でボイラーを見ていたシリカは元気よく腕を回しながら答えた。
「ええ、大丈夫ですよ。シアのおかげで後遺症もないですし、すっかり治りましたよ」
「そう…‥なら良かったわ」
サクラがそう答えると、奥からクレアが階段を登って機関室に戻ってきた。
「おぉ、艦長も来ていたのか」
「ええ、シリカの様子を見にね」
「だったら、もう無事さ。シアのお墨付きだからな。……あ、そうだ艦長。少し相談が……」
「?」
あの事件以降、クレアから一方的に名前呼びで良いと言われ、その通りに名前呼びで話し合えるほどまで仲が良くなった。
そんなサクラは疑問に思うと、クレアはつなぎのポケットからある広告を出した。
「この大会に出たいんだが……どうだ?」
そう言い、見せた広告はスキッパーレースの広告だった。
「インペリアル500……」
「ああ、学生限定スキッパーレース。もし出られるなら出たいのだが……」
「なるほど……」
サクラは広告を見ながら少しだけ考える。
これからモンタナクラスは留学の為の特別訓練を受けることになっている。そしてインペリアル500はその訓練期間中に行われる物だ。
もし、特別訓練に支障が出るのであれば参加できないのだが……
「少し考えさせて。全員と相談してから決めても良いかしら?」
「ああ、それで良い」
そう言うとサクラは広告を持ったまま機関室を後にした。
「うーん……」
「ちょっと無謀じゃない?」
「でも、私は出て見たいですね」
艦橋にスキッパーレースの話を持ってきたサクラはそこで意見を聞いていた。反応は微妙と言った様子で、レースに出たいと言う者や特別訓練との両立は無理と言う者に分かれていた。
そこでサクラは主計科に依頼してスキッパーレースに出たい人物を有志で募ることにした。
「ーーんで、集まったのがこの人数……と」
そう言い、目の前にクラスメイト全員が居るのを見ながら呟いた。
「なんやねん。結局皆んな出たかったんかいな……」
「だって、レースに出れることなんてそうそうないですしお寿司……」
「私はスキッパーを改造できるから参加する」
そう言いながらレースに参加しようと志願するクラスメイト達を見ながらケイリーが聞いてきた。
「役割どうすんの?」
「うーん、これは予定立ててルーティン作らんと行けんな……」
「だよね……」
そう呟くと、サクラは教室の壇上で声を上げた。
「これから役割分担で行くわよ。まず機関科はそのままメカニックとして活用するとして。スキッパー免許保有者の中で運転が上手い人はドライバー。エンジニアも選抜しないと……」
「そこは私がやっておくよ」
「ええ、お願いするわ」
そう言い、ケイリーが申し出ると早速ケイリーは人を集めて会議を開き始めていた。その間、サクラはアビー教官に連絡を入れた。
初めは難色を示されたが、有志のみで行うと言う旨と、クラスメイトの熱心な説明もあってなんとかOKを貰えた。
まぁ、主となって動くのは機関科と航海科、主計科で。特別訓練は主に砲雷科と、ヘリコプター要員ばかりの為おそらく許可が出たのだろう。
インペリアル500は全米スキッパーレース協会、通称NASSERの運営する学生限定のスキッパーレースの為。安全の為の絶対履行しなければならないルールが多かった。
スキッパーレースの出場という事でクレア達機関科はやる気に溢れ、早速市販されている中型スキッパーの改造の為の設計を始めていた。
クレア曰く『ルールギリギリの設計を目指す』と言っていたが、正直心配しかない……
だってあんだけヒャッハー状態で改造をする奴は大体調子こきそうだからだ。
「はぁ…大丈夫かなぁ……」
思わずサクラはそう呟いてしまった。
クレア達の機体が完成するまでの間、スキッパーを操縦する航海科の面々は練習もかねてモンタナの周りを周回する訓練をしていた。幸いにも、会場となるインペリアルビーチはサンディエゴのすぐ近くであり、練習時間は多かった。
海上をスキッパーが走り抜け、一定時間で交代などをする中。サクラはネルが収集したデータを見ながら呟いていた。
「問題は交代のタイミングね……」
「燃料補給のタイミングも掴みずらくて時間かかっていますね」
「うーむ…どうしたものか……」
現在、砲雷科のメンバー全員が特別訓練の為にモンタナに居ない。しかし、錨を下ろしているのが陸地から見える範囲の為。何かあればすぐに飛んで来れる場所だった。
現在、落下した時用の水着を着ながら甲板で周回するスキッパーを見ているとサクラの携帯が鳴った。
「はい、もしもし?」
『あ、もしもし艦長?機体が完成したから帰ってきてもらって良い?』
「ん、もう出来たの?了解、直ぐに取りに行くわ」
『すごいのが出来たから期待してくれ!』
クレアが満足にいく機体。……楽しみではあるが同時にどんな化け物マシンなのかも気になってしまう。
学校に戻ったサクラ達は学園内にあるスキッパー演習場で思わずドン引きする。
「「「うわぁ……」」」
そこには明らかにヤバめ、見るからに安全性能皆無に見えるスキッパーがあった。
と言うか原型どこ行った?市販品改造するの何処行った!?
「エンジンデカっ!」
「すげぇ、全部で四基分っすか?!」
「どこでこんなエンジン仕入れたのよ……」
とこんな感じで操縦する予定の航海科メンバーは明らかにやばい見た目から引いてしまっていると、機関科達はその詳しい諸元を熱く語り出していた。
「こいつは元の市販から重心低下と軽量化、グラスコックピット化をし、推進器は並列搭載した小型ターボファンエンジンを取り付け。推進器の馬力は聞いて驚け規定値ギリギリの5600馬力だ!」
「「「「えぐいって!!」」」」
少なくとも規定値ギリギリまで馬力上げんなよ!!これ絶対バランス狂ってウィリーするって!!
因みに設計したのは機関員の一人であるアメリア・ライト。
デイトナ出身の代々自転車屋をしている家の娘で、夢は『ヘリコプターより速く飛べる飛行船を作る事』だそう。
近年、関心が再び高まっている航空技術に関する研究。アメリア曰く『曽祖父達がそれに最も近い物を開発していた』そうだが、家が洪水にあってそう言った物は全部押し流されてしまったらしい。それで曽祖父兄弟は心が折れてそれっきり航空機の研究は辞めてしまったそうだ。
「今回のスキッパーだって大出力のエンジンに、家中探しまくって見つけた曽祖父の資料を元に作った翼を取り付けた。これで結果が出れば機体を下に押さえつける力が生まれるはず。そうすればウィリーする事もないし、私の実験に大きく寄与する」
と言って豪語していた。実際、ラジコン制作で何度も実験をしているらしく。クレア達も実験に付き合わされてややゲンナリしているらしい……
米国が開発したヘリコプターを最初に発明したのは当時のソ連より亡命したイーゴリ・シコールスキィと言う人物である。
ロシア革命により、アメリカへと亡命した彼は『水素やヘリウムを使用しない新たな飛行船』と言う新たな技術に興味を示したアメリカ政府による多大な資金援助を受け、1940年代に世界で初めてヘリコプターを完成させたが。当時の冷戦に伴いこの技術はその全てを秘匿され、極秘に開発が行われる事となった。
実際にヘリコプターに関する情報が公開されたのは実に50年後の1991年のソ連崩壊に合わせてであった。
今ではアメリカ国内に存在するヘリコプター業者は多数存在し、それぞれが凌ぎを削っていた。
元々アメリカという広大な大地をより短時間で移送するために航空機の開発は世界的に見ても盛んに行われていた。
その為、多くの空飛ぶ夢を見た科学者や発明家はアメリカに帰化し、政府の援助を得ようと様々な設計を持ち寄っていた。
しかし、その情報公開で『世界初の飛行技師』という称号を失った彼らの熱は一気に冷めてしまい。以降、航空機開発は消極的になってしまっていた。
兎も角、アメリアの実験も兼ねているというスキッパーを見ながらサクラはふと思った。
「(大会規定に違反して無いか確認しておこう……)」