『さぁ、始まりましたインペリアル500!今年はどんなレースを見せてくれるのでしょうか!!』
解説役のリポーターの声と共に一周2.5マイルのコースを52台のスキッパーが加速する。
その様子をピットからケイリーやネルがコース状況を把握していた。
「エマ、かなり間隔が狭いから事故に注意して」
「先頭のスキッパー、かなりペース上げてるな……」
二人は映像を眺めながらこれからの作戦を考える。
インペリアルシースピードウェイは湾内に設置されている為波は皆無に等しいが、潮の満ち引きがやや激しい。その為、クラッシュが起こるとすればその時間であると予想していた。
レースが始まったのを、サクラ達も待機室から眺めていた。
「始まったか……」
「うわぁ、初手から飛ばしてるね」
「すごい、もう130節越え始めているよ」
同じようにパイロット達が呟くと、モンタナのスキッパーは機体が浮き上がっても半ば海面に叩きつけるような形で進んでいるのに気がついた。
「(あれがアメリアの言ってた秘策なのか……)」
モデルはヘリコプターや船舶に付いている事のあるスポンソンだそうだが、これでウィリーを抑えることに成功していた。
「安定した速度が出せているな……」
なんでもあの翼を通る空気は形で言うと下に揚力が掛かるらしく、後ろのウイングも合わさって下に押さえつける力が生まれているとの事。
走行している間に最初の20周が終わり、キャノピーを開けながらピットに入ったスキッパーからエマが汗を掻きながら降りる。すぐさま、運転手が代わって走り出す。
「初陣お疲れ様」
「有難うございます。はぁ…疲れた……」
そう言いながらエマはスポーツドリンクを一気に飲み干して熱った体を冷やしていた。
レースが始まってから一時間、40周目に入ったところで途中報告が入る。
「さぁ、現在の順位を確認しておきましょう。
現在、一番手は33番キトサップクラス、二番手に45番キッドクラス。そして三番手には8番ギアリングクラスが食いついています」
「しかし、12番のモンタナクラスも追い上げてきていますよ。集団中央から今や五番手まで上がっていますからね」
すると解説役のリポーターがモンタナのスキッパーの映像を映しながら解説を入れた。
「モンタナクラスはこのレースの為に独自設計したフレームを使っているそうですよ?」
「何と!それは凄いですね!市販品の改造じゃなくてオリジナル機体なんですね」
「モンタナクラスの生徒の間ではその見た目と動きから『暴れ牡牛』なんて言われているみたいですし、この後の展開が楽しみです」
そう伝えながら純白の機体はコース上を疾走して居た。
コース周回は今までクラッシュもなく、極めて順調に進んでいた。
先のスポンソンのおかげでエンジン推力で吹っ飛ぶ事なく、機体後部のスタビライザーのおかげで旋回も難なく終わる。
正直オリジナルで行くと言った時は冷や汗ものだったが、いざ試合が始まると面白いくらいにペースが早く進んでいる。
現在の順位は四位。70周目の時に一台追い越し、もう少しで表彰台に上がれるところまで来て居た。
ラップ数79を数え、後一周でいよいよ自分の番だ。
水飛沫をあげてコースを疾走するスキッパー群。殆どが市販車の改造だが、一部オリジナル設計の物も混ざっており、見て居てとても面白い。
色とりどりの、中には企業のステッカーも混ざっている機体もあり、会場の外では実際に物販も行われており、まさに祭であった。
外では主計科が食品販売や物販で儲けている頃合いだろう。
先ほどから無線が声が聞こえ、忙しなく動いて居た。
すると、サクラに声がかかる。
「そろそろよ、サクラ。準備をして」
「了解」
ヘルメットを持ち、ピットの桟橋に出る。今でも多くの機体が燃料補給と運転手交代の為に忙しなく動き、走り出して居た。そして、そんな列の中に一台の純白のスキッパーが入ってくる。
ピットの側には圧力給油機を持ったクレア達が待っており、スキッパーの到着を待って居た。
キャンピーが開き、中から先ほどまで20周してきたクラスメイトがベルトを外して居た。
「お疲れ様」
「はい!艦長も頑張ってください!」
軽く労い、サクラは交代して席に乗り込む。既にクレア達が給油と軽くフロートのネジの確認をしていた。
ベルトを締め、体を包む様に敷かれたクッション付きシートに座ったサクラはレバースイッチを弾いてキャノピーを閉じる。
すると無線機からクレアの声が入る。
『給油完了!出して!』
クレアの声と共にスロットルレバーを倒す。
水飛沫と気流が発生し、ピットから飛び出す様に出て行く。そしてそのままコースに出るとケイリーから無線が入る。
『サクラ。そろそろ干潮の時間よ、海流に気をつけて。それと、スプルーアンスクラスがペースを上げてきたわ』
「了解」
取り敢えず今の所作戦は上手く遂行している。このまま速度を上げていけばギアリングクラスを追い抜ける。
徐々に速度を上げていき、サクラは周回をしていき。集団の中にいるギアリングクラスのスキッパーを視界にとらえた。
「あれか……」
スキッパーを見つけ、速度を上げてインサイドから抜いていこうとした時。ケイリーから通信と、目の前の景色の変化があった。
『気をつけて!第三コーナでクラッシュよ!!』
前を走って居たスキッパーが姿勢を崩して回転する。それに衝突する他のスキッパー、至る所から衝突音と水柱が上がり、頭上を何処かのクラスの吹っ飛んだスキッパーが通り過ぎて行く。
「くそっ!!」
咄嗟にハンドルを握って機体を動かして衝突を避ける。
『おぉっとぉぉ!!第三コーナーでクラッシュだ!』
『この時間は海流の流れが変わりますからね、それで足を取られたのでしょうか?』
『凄まじい数のスキッパーが巻き込まれて居ます!大丈夫でしょうか……?』
何十台ものスキッパーの音が響き、観客も思わず心配する声が出て居た。
『……サクラ!無事?!』
無線でケイリーが呼びかけると、返答があった。
「あー、こっちは無事。どこもぶつかって居ないからね」
『よかった……』
「でも、高速で逸れたからだいぶ差が出たわ……ケイリー、現状はどうなっている?」
そう聞かれ、ネルが映像を見ながら答える。
『海流の変化で集団先頭のスキッパーが事故を起こして、クラッシュよ。
それでさっきのクラッシュでキトサップが吹っ飛んだわ。でも、キッドクラスとスプルーアンスクラスは耐えて前を走っている。順位は三位よ』
「了解、ありがとう」
『気をつけて、周回しても片付けが終わってない可能性が高いわ』
そう言いながら大規模クラッシュの映像を見て居たケイリーが伝えると、サクラはそのままスロットルを倒してスキッパーを飛ばす。
『残り10周、まだ半分だから現状を維持して』
「了解!」
そう答えるとスキッパーは速度を上げてコースを突っ走って居た。
それから時は過ぎ、三時間が経過した。現在のラップ数は178、順位は一位キッドクラス、二位スプルーアンスクラス、そしてモンタナは三位に浮上していた。一時はギアリングクラスの追い上げで順位を落とすも、109周目にエマが衝突覚悟で速度を上げてくれたおかげで表彰台に喰らい付いていた。
「艦長、頑張って下さい」
「宜しくお願いします」
エマ達がそう言い、サクラに懇願する。予定ではこの時点で二位になるつもりだったが、現状はまだ三位。一位になるには残り22周で二台を越す必要があった。そんな彼女らの願いに、サクラは答える。
「ええ、私も頑張るわ」
そう言うと、サクラはヘルメットを持つ。いよいよ最終決戦。モンタナの中でも抜群のスキッパーの腕を持ち、先ほどのクラッシュを無傷で乗り越えたサクラに大きな期待がのしかかる。
予定より早くピットに入り、サクラの運転時間を増やしたモンタナクラス。キャノピーが開き、先ほど運転していたクラスメイトが涙ぐんだ声でサクラに言う。
「すみません…」
「大丈夫、あとは任せな」
そう言い、運転手を交代してサクラが乗り込む。クレア達も最後という事でサクラの言う通り、重量軽減と時短も兼ねて燃料はギリギリゴールできるほどまで給油する。
「終わりよ!ラスト頑張って!!」
「あいよ、一位もぎ取ってやんよ」
そう言うとサクラはキャノピーを閉じながら走り出す。コース上に飛び出し、先頭に追いつく為に隙間を縫って前に出る為に8周。先頭に追いつく為に12周、残り2周であった。
最後と言うことでサクラはケイリーに言う。
「ケイリー、相手の位置は?」
『サクラのおよそ0.5マイル先よ』
「了解、一気にペースを上げるわ」
そう言うと、ケイリーはやや驚いた声を上げる。
『えっ?!ま、まさか……!!』
ケイリーは少しだけヒヤッっとなると、サクラはニヤリと笑った後に叫んだ。
「さぁ、行くわよぉ!!フルスロットルッ!!」
そう言うと、レバーをかつてない程倒した。
ゴォォォォォオオオ!!…キィィィィイイイイ!!!
ターボファンエンジンの回転数が上がり、この加速には流石に今まで押さえ込んでいた揚力が負けてボディが浮き上がってウィリーしてしまった。
「くぅっ……!!おぉぉ!!」
凄まじくかかるGに耐えながらハンドルを前に倒してフラップを上げる。
加速が安定し、揚力も強まった事でボディは再び海面に着水する。
しかし、加速が激しく先端部は宙に浮いたまま。まるで、高速走行中のモーターボートの様になっていた。
エンジンの噴き出す排気が海水を吹き飛ばし、大波を作って観客席をずぶ濡れにする。
エンジンが周り、恐ろいくらいグングン加速していた。
『なっ、なんだあの加速はっ!?』
『凄まじい加速です!モンタナクラスは勢いよく先頭二台に追いつこうとしています!!』
『うわっ!観客席にまで海水がかかっていますよ!』
『レースも最終局面、モンタナクラスが脅威の追い上げだぁ!!』
その速度に思わず観客が大いに沸き始める。最後の最後にドンデン返しになるかもしれないこの試合、ここに来てモンタナクラスの本気の加速に他クラスは驚愕していた。
「……見えたっ!!」
サクラはコーナーを曲がる二台のスキッパーをロックオンする。
「このまま突っ込んで逃げる!!」
前が上がり、視界が悪いのにも関わらず。速度を落とすどころかドンドン上げて行くモンタナクラスのスキッパーはまさに暴れ牡牛そのものだった。
「だぁりゃぁあああああ!!」
メーターが170節を差し、コーナーに突っ込む。速度を殺さずに入った為に並列する二台の脇を突っ走って行く。
流石にこの二チームもまさか170節とか言う、事故ったら死ぬかもしれない速度でコーナーを走る勇気はなかった。
モンタナクラスのスキッパーはコーナを駆け抜けるとそのまま二台の横に張り付く。
『ここに来てモンタナクラスが追いつく!!脅威の追い上げ!優勝は誰の手に渡るかもう分かりません!!』
ピットで追いついた映像を眺め、ケイリー達は冷や汗を掻き、映像に注視する。そして観客席でもこの大どんでん返しに歓声を上げてつつも、激しい接戦に固唾を飲んでいた。
ストレートを高速で走り抜ける三台、いよいよ最終ラップだ。
『さぁ、最終ラップに突入!綺麗に並んでいる三台!今までの199周がどうであろうとこの一周に全てが掛かっています!!』
レポーターがかつてないほど興奮した声を上げて実況をする。テレビで生放送されているこのレースはおよそ一〇〇〇万人が見ていると言われていた。
並列に並んだ三台のスキッパーは同時にコーナーに入り、カーブを曲がる。
『三車共に譲らない!第一コーナーはほぼ同時のタイム!間もなく第二コーナーに差し掛かります!!』
もはやストレートの速度が異常なまでに速い。その速度はなんと大会史上最高速度の180節!!およそ時速333kmだった。
ここまでの脅威の追い上げだと言うのにも関わらず、キッドクラスやスプルーアンスクラスは平然を保っていた。そして、三者はほぼ同じことを考えていた。
「「「(仕掛けるなら最終コーナー……!!)」」」
三台のスキッパーは速度を維持したまま第三コーナーに入り込み、短いストレートの後。最終コーナーに差し掛かった。
最終コーナーに入った直後、そこでサクラが動いた。
「……ここっ!!」
サクラは右ハンドルを切って前の右スポンソンと右尾翼のフラップを落としながらスロットルを目一杯倒した。
左右で空気の流れが変わり、推力がさらに上昇したことで機体は横に滑り出し、海上でドリフトをした。
『ド、ドリフトだ……!!モンタナクラスが仕掛けた!ドリフトだ!激しい横波がキッド、スプルーアンスを襲う!!』
ドリフト後、すぐ翼を戻したサクラはそのままハンドルを左に切ってストレートに機体を戻した。
『モンタナクラスが前に出る!モンタナクラスが前に出た!!』
『素晴らしいコーナーテクニック!スキッパーでドリフトをしましたっ!!モンタナクラスが一歩前に出ました!!』
『『『『『ーーーーーーーーーーーっ!!』』』』』
サクラの運転技術に観客から声が上がる。ストレートに入り、一歩前に出たサクラはそのまま最高速度を維持して離しに掛かる。
目の前にはチェッカーフラッグを振る係員の姿が。サクラはそのままストレートで負けまいと駆け抜ける。
後ろで起きている接戦を見届けながらモンタナの暴れ牡牛は最初にラインを180節で通過した。
『ゴール!!優勝はゼッケン12番、モンタナクラス!!続いて二位は36番番スプルーアンスクラス!三位は45番キッドクラスです!!』
リポーターのアナウンスが響き渡り、観客やピットからも歓声の声が上がっていた。
そして最後にスキッパーを運転したサクラも……
「「「「ばんざーい!!」」」」
駆けつけたクラスメイトから盛大に胴上げをされていた。既に記者などが集まり、写真を撮った後に取材を始めていた。
その日、サクラ達の乗るスキッパー《Fabulous Raging Bull》は優秀な成績を収め。いくつかの構造はオリジナルとしてサクラに進められてアメリアは特許を取ることとなり、流体物理学を計算したあの機体は数日後にレース用スキッパーを販売している会社から連絡が来るほど洗練されていたと言う伝説を残していた。
そして数ヶ月後、モンタナクラスは日本へと留学に向かってアメリカの地を離れて行った。
これにてサクラの学校編終わります。(多分)