午前九時、海上スタジアムには複数の内火艇が一列に並び、会場の席には多くの生徒が座って歓声を上げていた。
『それだはただいまより、競闘遊戯会を開催します』
アナウンスと共に更に声援は加熱していた。
「行けーっ!」
「頑張れー!!」
海洋学校の生徒達が応援する中、一区画だけ熱の違う場所があった。
「絶対勝てよ大和クラス……!!」
「榛名クラス、頼むから優勝を!!」
そう言い、紙を片手に祈るように声を出すモンタナクラスに横にいた晴風クラスの面々はドン引いていた。
「うわぁ、これで賭け事とか凄いっすね……」
「クラス内だけですけど、此処まで白熱するとは……」
青木や若狭が思わずそう口にする。
モンタナクラスではクラスメイト限定で賭けをしており、今日の昼食についてくるデザートを賭けて勝負をしていた。
結構向こうではやっていたことだからサクラ達も慣れていたのだが、晴風クラスなどは異質な目で見ていた。
『第一種目、障害物競走。…用意……』
アナウンスと音楽が流れ、その瞬間。会場に立った教官がフラッグを振り、それと同時に一斉に内火艇が飛び出した。
その中には晴風クラスも含まれていた。
「始まったか……」
「これは見ものだね」
「ええ、結果がどうなる事やら……」
そう言いながらサクラ達はレースを眺めていた。
「此処からコースが狭くなるよ!」
「前方、側方に注意!」
「「「ヨーソロ―!」」」
レースが始まり、航海科メンバーや真白が内火艇に乗り、レースをしていた。
内火艇を進ませると、コーズが狭まり、古い錆びついたフロートの下を早い速度で航行していた。
「何か凄いとこに入ってくね!」
「廃棄予定の小型フロートを通過するコースなんだって」
日置と等松がスクリーンを見ながらコースについて話していた。フロートを通過すると、海底に仕掛けられた模擬機雷が内火艇の接近を感知して自爆用の爆弾が爆発する。そして海面に水柱が立ち、それを見た明乃は知床に指示を出す。
「面舵いっぱ〜い!」
「面舵いっぱ~い!」
晴風クラスの内火艇は右に旋回をすると機雷の爆発を避ける。その華麗な避け具合に見ていた観客も大いに湧き立つ。
「流石の回避運動か……」
「あの、晴風の航海長の腕。凄く良いわね」
「そうね……」
一発も被弾せずに避け、他の内火艇が巻き込まれて脱落していく中。航行している技術に舌を巻いていると、次の障害物が姿を現した。
「右120度から魚雷!」
「左10度魚雷!此方に向かう!」
「取舵一杯!!」
そこにはシャークヘッドに塗装された模擬小型魚雷が接近していた。
陸地から発進したSHー2Gから発射された魚雷はそのまま内火艇に直進する。
「後ろ!真艦尾からも二本ぞな!」
「左80度からも来ているよ!」
しかし、さまざまな角度から発射された計五本の魚雷を確認して、知床は舵を回す。
「逃げるのは任せてぇぇっ!!」
そう言い、自信あふれる言い方で舵を回すと。明乃はそこで音響計器が警告を示したのを見てクラスメイトに叫ぶ。
「っ!皆、衝撃に備えて!!」
そう言うと一斉に全員が防御姿勢を取り、内火艇が大きく乱数軌道を描いて魚雷を衝突させる。
しかし、魚雷を避けた影響で内火艇は横になり、そのまま一旦止まってしまう。その好きに横から他クラスの内火艇が晴風クラスを追い越して行った。
複数の内火艇が進む中、大和クラスの内火艇も魚雷を交わしていたのだが。音響探知で進む魚雷を横からぶつけて無理矢理躱していた。しかし、秒数は全く変わっていなかった。それを見て思わずするがが叫んだ。
「えぇ~!!今の当たっているじゃん!!ズルい!!」
「魚雷一発に付き、ゴールタイムに三秒の加算ペナルティーだよね?」
武田が念の為ルールの再確認をすると、松永達が先輩がああした理由を話した。
「命中する時の角度が浅いと本物の魚雷でも威力が落ちるんだよね〜」
「撃発しない事も有るよ」
「そうなんだ……!!」
そう言い、駿河は納得と驚きの声をあげ。等松は納得した声をあげた。
「流石上級生、最小限のロスで魚雷に対処しているって事ね」
向こうは上級生、だからルールの抜け穴を理解しており。操艦技術がもろに出る競技であると理解した。
「でも、うちのクラスもまだドキュンと挽回できる位置だよ!」
「ペナルティゼロだし、上位狙えるよね!?」
しかし、晴風クラスはこれまで一度も被弾していないから。まだスクリーンの上の方に順位が乗ったままだった。そんな様子を眺めつつも、柳原と納紗が思わず呟く。
「一発も当たらねぇってのは凄いけど抜かれまくっているぞ……」
「回避に専念し過ぎて、本来の目的を見失っていますね」
これが実践であればおそらく満点合格なのだろうが……生憎とこれは競技で、なおかつ競っているのはタイム。
春の伊号潜の経験が良くも悪くも足を引っ張っていた。
「後ろから比叡クラスが追い上げて来ているよ!」
「っ!比叡……」
報告を聞き、真白は唖然となりながら双眼鏡で接近してくる比叡クラスの内火艇を見ていた。
「できるだけ抜かれない様に!」
「分かりました!」
明乃が指示を出して、知床は速度を上げようとした時。真白のいる左舷側の監視が不十分となり、接近する二本の魚雷に気づかなかった。
「っ!?回避!!」
咄嗟に指示を出すも、間に合わず魚雷がダイレクトに内火艇に命中した。
「「「うわぁーっ!?」」」
その振動から全員が驚きの声をあげた。
「何処から?!」
「くっ…すみません!!」
咄嗟に真白が謝るも、勝田達はそんな真白を励ましていた。
「見えづらい所から来ていたんだね」
「死角って奴ぞな。仕方がないぞな」
「……」
この時、真白は内心とても悔しかった。
魚雷が当たったとはいえ、監視していたのは自分だ。比叡クラスの内火艇によそ見をしていなければよかったものを、こうして温かい言葉で慰められた事に心が少し痛かった。
そう思い、思わず真白は唇を強く噛んでしまっていた。
それから少し経ち、発進した内火艇群が会場の横の水路を抜けて戻って来る。
上空には飛行船やヘリコプターが飛行し、結果発表がされた。
『競技終了!!一位、呉女子海洋学校。大和クラス!』
結果は二位が舞鶴の榛名。三位が佐世保の霧島。四位が横須賀の比叡で終わり、モンタナクラスで大和にかけていたクラスメイトが大喜びをしていた。
序盤は優秀な成績を収めていたが、魚雷二本の命中はやはり痛かった。
「皆!お疲れ様!飲み物用意してあるから、飲んで」
競技が終わり、伊良子達が水筒をを明乃達に渡していた。
「うぅぅーー……、御免なさい〜!!」
そんな中、知床は負けた理由が自分のせいだと思って泣き出していた。
「皆で頑張ったんだけど……」
そう言い明乃は知床を慰めると、杵崎姉妹が励ました。
「気にしないで、まだ最初の競技が終わったばかりだし!」
「きっと盛り返していけるよ!」
「うん、そうだね」
そう、まだ第一種目が終わったばかり。まだまだ競技は残っているので挽回するチャンスはいくらもでもあった。
一方真白は心ここに在らずといった様子で半分呆然としているとふと歩いて来たある生徒とぶつかってしまった。
「あっ!?失礼……」
「あっ……」
そこでぶつかってしまった相手を見て思わず真白は固まってしまった。
「知名、艦長‥‥」
そう、ぶつかったのはもえかだったのだ。思わず、真白と見合う形で暫く時が止まったように黙り込んでしまうが、真白はつい気になることを彼女に聞いた。
「あの……」
「何?」
「つかぬ事をお聞きしますが……貴女にとって艦長とは何ですか?」
思わぬ問いにもえかはキョトンとなった後、真白に己の艦長としての目標を言う。
「……私は、艦の皆のお姉さんになれたらなって思っている」
そう言うと、もえかは思い出すように明乃の目標も呟いていた。
「そう言えば、ミケちゃんは、艦のお父さんになりたいって言っていたな……」
「……」
そんな二人の艦長の目標を聞き、真白はその覚悟を見てなんともいえない表情を浮かべていた。
現在、横須賀に接岸する猿島フロートでは競闘遊戯会で必要な設備が設置されており、その物の多くは海上にあった。
そして消化されていく競技の中、ついに留学生組の目玉競技が行われた。
『間も無く競技を開始します』
アナウンスと共に競技会場に足を踏み入れたサクラ率いるモンタナクラス。
そう、この競技は留学生組が参加することができる競技の一つであった。
会場にはいくつか同じ施設が設けられ、モンタナクラスが晴風クラスとかち合うには決勝まで行かなければならなかった。
日本の海洋学校の生徒はスクール水着を着用し、モンタナクラスはセーラー服と同じ濃いブルーグレーのスポーツビキニを来ていた。盗撮対策で肌の露出は控えている方なのだが、それでも結構腹部などは見えていた。
「さて、いっちょやりますか」
「艦長、間違って相手の腕折らないでくださいね?」
「馬鹿タレ、そんな事しないわよ。実戦でもあるまいし……」
そう言い、競技に参加するクレアにツッコミを入れながら持っていたウレタンソードを手に持つ。
そして別のステージには晴風クラスがおり、サクラ達は警戒をしていた。
「うちのクラス、此処まで良い所ないし、この競技は頑張らないとね!」
「はい!」
「おうよ!」
そしてその晴風クラスでは等松の意見に柳原と納紗が頷き、前に主戦力である野間と万里小路が立った。
「先輩方の胸をお借りしましょうか……」
そう言い、配置に着くとアナウンスが鳴り響いた。
『それでは第五種目、水上無差別合戦……用意!……初めっ!』
アラームが鳴った瞬間。万里小路が恐ろしい速度で飛び出し、野間が持っていたウレタンソードを万里小路に投げた。
「フンッ!!」
そして投げられたウレタンソードは万里小路の右手に収まり、二刀流となった万里小路はそこで一気呉の生徒三人を制圧していた。
「ヒュ〜♪」
その光景を見て思わず宮里も口笛を吹いてしまった。
同じ頃、試合開始と共にシュペークラスに襲いかかる佐世保の生徒を、背中合わせに立つテアとミーナが一人ずつ制圧していた。
『舐めるな!!』
そう言うとテアは体を捻らせて斬撃を避けて舞鶴の生徒二人を制圧する。
『さすが我が艦長!!』
その光景を目にし、思わずミーナはテアを褒めていた。
『風船が割れた選手は速やかに競技フィールドから出る様に』
試合中にそうアナウンスが流れる中、とある事故が起こった。
それは阿部がシュペーの一人にウレタンソードを振り下ろすもズレてしまい、そのまま水着をずらしてしまう事故があった。
その生徒は恥ずかしさの余りそのまま海に飛び込んでしまった。
『風船が無事でも落水は失格とします』
そう言われ、黒木は呉の生徒を制圧するとウレタンソードを捨てて走り出す。
「じゃあ!これも!ありなの……ね!」
そう言い、駿河と鍔迫り合いをしていた呉の生徒を相撲の投げ技で海に叩き落としていた。
試合は接戦となり、徐々に脱落していく人数が増えていった。