内部ドックで砲座を破壊した晴風はそのまま動力部に続く水路を進む。
「スーちゃん、この先の水路は?」
「暫ク直線、水深モ十分ニアル」
「サトちゃん、内部の事前情報との違いをスーちゃんと至急確認して!」
「了解ぞな」
内部の武装配置が事前とかなり違う事を受け、明乃は一旦情報の整理を行う事を指示した。
ここまで何とか駒を進め、このまま行けは動力部に直接行ける晴風。しかし前を見ていた野間がその違和感に真っ先に気づいた。
「っ!左右に砲座!!」
その瞬間、水路に取りつけられていたCIWSが射撃を開始、晴風に猛攻を加える。
晴風は駆逐艦だからこそ、こんな豆鉄砲に何の効果もないが。もしここでスキッパー部隊が突入していればまず確実にミンチにされていた事間違いなしだった。
「だぁぁぁぁ!魚雷撃ちたーい!!」
「狭いから避けられないよぉぉぉ!!」
西崎は段々と魚雷を撃てないことに徐々に情緒不安定になって行き、鈴は涙目で悲鳴を上げる。
「左…」
しかし立石の非常に落ち着いた一言で一瞬で静まり返った艦橋、そして立石の指示で動く砲塔は左側のCIWSを砲撃で破壊した。
しかしモグラ叩きのような物で、おそらく水路には無数にCIWSが置かれている事だろう。事実、他の砲座が射撃をしてきていた。
「最適航路のプロットと想定砲座位置、確認終了ぞな!」
「頑張ッタ!」
しかしそこで、勝田とスーの情報の照らし合わせが終わった報告があり。明乃は活路を見た。
「サトちゃん、スーちゃん、偉い!」
そして次に鈴を見る。
「リンちゃん!プロット済み航路に従って航行!」
「はい……!」
そして明乃は直ぐに鈴にその航路を取るように言う。
「ココちゃん!万里小路さんを呼んで!」
「はい」
そして明乃は音に敏感な万里小路を艦橋に呼ぶ。彼女は仕事場の肝心のソナーが壊れて手持ち無沙汰になっていたのが功を奏した。
「次、右で機械音…距離四.〇」
そして銃座が旋回する音を聞き分けた万里小路は人間ソナーで簡単に測距をする。
「一番砲、二〇度。仰角一五度に備え…射距離四.〇……
撃っ!」
そして銃座から発射される前に次々と砲撃でCIWSは叩き潰される。
「成程!見えないなら別な手段を使えば良いと……!」
真白は納得の表情を見せて軽く手を叩いていた。
まさか海賊側もこんな人間ソナーがいるとは思っても見なかっただろう。あっという間に撃破される銃座に大混乱を起こしていた。
「目標までの距離八.〇」
「戦闘。右、魚雷戦!」
そして明乃は指示を西崎に飛ばす。
「やったー!出番だー!でっかいの使っちゃって!」
今まで押さえ込まれた欲望を発揮できるチャンスだと気分は最高潮の西崎は伝声管に向かってそう叫ぶ。
「えっ、あれ使うんだ……」
「発射管に入らないよ……」
西崎の命令であの特別な36インチ魚雷を使う事実に姫路達は驚いていていた。晴風の主砲にも匹敵するあの魚雷はいくら他の列強よりも大きな61センチの魚雷を持つ晴風でも発射出来ない大きさだった。
するとそんな二人に青木達が声をかけた。
「こんな事もあろうかとッス!」
「一応レール、敷いておいだけど!」
36インチ魚雷を見ていた青木達は即興ではあるが、36インチ魚雷を発射できる簡易カタパルトを晴風の右舷側に設置していた。
「コノ先動力用ゲート、距離六〇〇」
「それを破壊すれば止まる筈!」
「速度このまま、通路から出た瞬間に取り舵一杯!」
「了解!」
目的地までの距離を聞き、明乃は軽く頷く。
「魚雷発射位置まであと十五秒……十…九…八…七…六…五…四……」
目的地に近づき、勝田がカウントダウンを始める。
「取り舵一杯!」
発射四秒前で明乃は左に舵を切るように指示を出す。
「取り舵一杯!」
鈴は左に大きく舵を切る。
「三…二…一…〇!」
「よーい…撃っ!」
そして回頭した瞬間、真正面に主機関のゲートが来た瞬間に晴風から36インチ魚雷が発射された。
「衝撃に備え!」
36インチと言う道の威力を持つ破格の魚雷に明乃達は防御姿勢を取る。
そして放たれた巨大な魚雷はそのまま動力部のゲートに着弾すると凄まじい爆発を引き起こした。
「要塞内部で大規模な爆発を確認!!」
「っ!!ミケちゃん!!」
その報告を聞き、もえかは反射的に双眼鏡を覗くと。そこにはゆっくりとこちらに向かって前進している要塞の姿があった。
「まだ……動いている」
もえかは作戦が失敗したのかと一瞬考えてしまった。
「今の爆発は魚雷か……」
「ああ、あの馬鹿デカ魚雷?」
CICから上がってきたケイリーがそう答えると、サクラはケイリーを見ながら言った。
「なんだ、上がってきたのか」
「ええ、私も直で見たくてね」
そう言い彼女は双眼鏡で海上要塞を見ると、そこでネルが届いた伝聞を読み上げた。
「返信届きました。『モンタナへ、味方艦が内部へいるため攻撃は許可しない』です」
「…はぁ……」
提案の却下に軽くため息が漏れると、横でケイリーがやや呆れた様子で答える。
「仕方ないでしょう?晴風に何かあった時のバックアップに備えましょう」
「そうね……それまで待つとしますか」
そう溢すと、二人は海上要塞の動向を気にかけていた。
「まるで神殿だな……」
36インチ魚雷で吹き飛ばした動力炉のゲートを見た先では、爆発の衝撃で露わになった要塞の主機関があった。
「スーちゃん、ここは知ってる?」
「ううん…」
明乃は流石のスーでも知らないと答えたこの場所に若干の危機感を感じつつも、作戦目標に対しての攻撃を許可した。
「砲撃、許可します」
「うい」
そして立石が砲塔を回して砲撃を行うも、主機関を支える複数の柱が防壁となっていた。
晴風の主砲ではまたも火力不足となっていた。
「柱が邪魔で、砲弾が通らない!」
「まずいな……」
真白はこのままでは目標を破壊できないと対処法を考え始める。
「『枯れ木も山の賑わいじゃがの……柱も要塞の賑わい……かのう』」
するとその横で納沙がいつもの一人芝居を始めると、真白も最近の癖(洗脳)でつい乗っかってしまった。
「柱……『柱に食い潰されるにはいかんけぇ!』」
と言って真白が思わずノリに乗っかると、納沙は真白の受け答えに少し喜ぶと共に軽く腕を組んで答える。
「おうよ!」
「はっ!?」
真白はどうして自分がこんな納沙の一人芝居に付き合ったのか訳が分からなかった。
「魚雷が自由に動き回ればいいのに……」
「っ!それだ!」
そんな時、鈴の溢した一言で明乃はあることが閃いた。
「ココちゃん!美波さん呼んで!」
そして納沙は頷くと内線を使った。
「怪我人か?!……あっ!」
呼び出した直後にセグウェイに乗って飛び込んできた鏑木の両脇を山内達が抱えてその反動だけセグウェイだけ明乃の足元に軽く飛んでいった。
「美波さん、これ貸して」
明乃はそのセグウェイを手に抱えながら鏑木に聞くと、彼女は一瞬困惑した後にやや慌てた様子でセグウェイに手を伸ばした。
「え?それ、私の兎走鳥飛24号!」
その後、事情を知った鏑木は大いに納得した上で後部甲板でヘルメットを被って呟いた。
「完成だ……」
そしてそこにはセグウェイに魚雷の弾頭部を無理やり載せて作った、いかにもテクニカルといった様子の即席誘導弾があった。
「題して、超ダブルクロス号っす!」
そう言うとラジコンの部品をブッピガンして爆誕した超ダブルクロス号は艦橋に居る鈴が操縦していた。
「ここれなら全然怖くない!」
遠隔での操縦だからか安堵した様子の鈴はタブレットを使って動かしていた。
「艦長、水深が浅くなってきています」
しかしそこで真白は要塞の変化に気づいて明乃に報告した。
「どうして?」
「原因はわかりませんが、このままだと座礁します」
おそらく、ここまで内部に突入された晴風を行動不能にするために海賊が動かしたのだろう。死なば諸共の感覚か、若しくは晴風を人質にする為か……。
「鈴ちゃんは今手が離せないから。サトちゃん操艦よろしく」
「了解ぞな!」
そこで鈴に変わって操艦を勝田が引き継ぐと船体を動かして艦尾を動力部に向けた。
「目標、見えました!」
「攻撃始め!」
「えいっ!!」
そして鈴がスイッチを入れると超ダブルクロス号は甲板で急加速を開始し、勢いよく飛び出した。
「無線の届くギリギリまで後退」
そして飛び出した超ダブルクロス号をみて明乃は船体を反転させると更新を入れて動力部の入り口まで後退する。
「両舷停止、両現後進減速!」
「マロンちゃん、爆発と同時に全速後退の準備!」
なるべく距離を稼ぐと明乃は機関室に伝える。
「ガッテンデイ!みんな正念場だ!」
「「「了解!」」」
そして機関室でも脱出の準備が進められていた。
「ふっふっふっ、ハイパードリフトターン……!」
そして飛び出した超ダブルクロス号を鈴はだんだんと興奮気味になりながら動かす。
「突っ込め〜!」
距離が離れているからか、怪しい目つきや笑みを浮かべて興奮している鈴を見て西崎は新たな発見とやや驚きの様子を見せていた。
「鈴ちゃんにも撃て撃て魂があったよ!」
「うぃうぃ」
そして改造魚雷はそのまま動力部に突撃するとその瞬間に明乃は叫んだ。
「後進一杯!」
そしてそのまま勢いで突入した動力部で魚雷が爆発するとそこから誘爆するように機関部が次々と爆発していくと、そのまま要塞上部まで炎が吹き上がった。
吹き上がった炎は容易に要塞を貫くと、その光景は外にいる武蔵まで見えていた。例えるなら『汚い打ち上げ花火』と言った様子だった。
「あれは……!!」
もえかが驚くと早速報告が入った。
「要塞、速度低下した模様!」
「やったわ」
「はい……」
真霜ももえかも安堵した様子で爆発した要塞を見ていた。
「ユナイテッド・ステーツの爆発を確認!」
「おお!」
モンタナ艦橋からも同様にその炎を確認されており、艦橋で紅茶を飲んでいたサクラはその一瞬の光が見えた後にネルに言った。
「ネル、旗艦に再度通信。残存兵装の破壊許可並びに要塞への接近許可を」
「了解」
そこでネルは再度通信を送っていた。
「これほどの爆発で…中で生きている人間がいるかは分からないが……」
サクラは小さくそう溢すとカップを傾けていた。
「モンタナから通信です」
「読み上げて」
武蔵でもえかはモンタナからの通信を読ませた。
「はい、『我、残存兵装の破壊並び、晴風出迎えに向かう。許可を求む』です」
それを聞きまた攻撃許可かと真霜は内心呆れると軽くため息をついた後に返答を出す。
「如何しますか?」
「この際仕方がないわ。精密射撃に長けたヘリコプターによる攻撃を許可します。ただし、使うのは機関砲のみと」
「了解」
要塞を止めたとはいえ、中の武装は生きている。残った戦力を破壊して晴風を安全に脱出させるのも我々の仕事だった。
「(よっぽど隠したいものでもあるのかしら?)」
二度も攻撃許可を求めたあたり、何かしらの意図があるのかと真霜はやや訝しんでいた。
その頃、攻撃許可を受けたヘルハウンドではロートが嬉しげに機首の機関砲の引き金を引いていた。
「ひゃっはー!」
下部の長砲身ガトリング砲を発射し、突き出ていた砲身を穴だらけにすると要塞の残った兵装を破壊していた。そしてそんな景色を見ていた真霜は『考えすぎだったか……』と小さくこぼしていた。