九一話
海賊によって占拠された海上要塞の奪還を完了した海洋学校の生徒達。
学校に帰還し、一夜を過ごして休息をしっかりと取った生徒達は翌日、親睦会を学校の施設を借りて開いていた。
「最後の遊戯会が、まさか海賊に邪魔されるとはねぇ…」
阿部がため息を漏らしながら会場で吐露する。そして酔っ払ったおっさんのだる絡みのように近くにいた山下に話しかける。
「わかるー?山下ちゃ〜ん」
「大変でしたねぇ」
聞き上手の山下は相槌を打って答えると、河野が注意を入れる。
「社長、後輩に変な絡み方しないでください」
そして別所では千葉が内田に絡む。
「へぇ!君は柔道の経験があるのか!ぜひ一度、手合わせしようじゃないか!」
そう言い、内田の肩をバシバシ叩く。
「いや、一度と言わず何度でも良いぞ!あっはっはっ!」
「お、お手柔らかに〜……」
そう言い、親睦会では至る所で誰もが笑って過ごしていた。
「むむむ〜…?」
そんな様子を若狭がやや興味深く見る。
「なになに?あの二人って大和型の艦長達と知り合いなの?」
「フツーに話してる…」
「あぁ、」
そんな二人に駿河も首を傾げ、伊良子は知っている様な口調で頷く。
「歓迎祭の時にね、大和型の艦長さん達が揃ってウチのお店に来たの」
「えぇっ!?」
ウチのお店と言う単語に駿河は軽く驚いた。
「ミカンちゃん、自分のお店持っているの!?」
早くも暖簾分けを果たしたのかと、彼女は軽く勘違いをするとすぐに広田が突っ込んだ。
「じゃなくて歓迎祭の日にやっていたとんかつ屋さんの事でしょ」
「ルナも食べに行ってたじゃない」
「…そうだった!美味しかった!」
伊良子達が歓迎祭の時に間借りしていたとんかつ屋で自分達も昼食を取っていたのを思い出す駿河に伊良子は相変わらずだと苦笑する。
「あはは…それでね、」
そして伊良子はその時に出会ったと言う。
「その時丁度しゅうちゃんとまゆちゃんもお店にご飯食べに来て…そこでちょっと話してたんだよ」
「へぇー、そうだったんだ」
事情を知った伊勢はそこで納得していると、広田達機関科の面々は呟く。
「信濃と紀伊の先輩は来年にはブルマーでしょ?早くもパイプを作るとはやるわねぇ」
「しゅうちゃん聞き上手だからねー」
「やっぱ出世の武器はコミュ力か…」
そんな和気藹々とした空気の中、宮里と能村も他の生徒と同様に楽しんでいた。
「賑やかじゃんねぇ」
「ええ」
親睦会と称した戦勝パーティーとも言うべきこの雰囲気に宮里は安堵もしていた。
「今回の事件、損害は小さくなかったけど」
そして会場を見回しながら呟く。
「こうして親睦会を開いて笑っていられるのも犠牲者が出なかった不幸中の幸い…それを喜び合うのは良い事だと思うわ」
そう言い、盛り上がっている中。二人に声をかけるのが一人。
「お疲れ様です」
「やぁ、武蔵の」
「お疲れ様」
知名は宮里達に声をかけると、早速宮里は彼女を褒めた。
「…今回の作戦におけるあなたの指揮は素晴らしかった」
彼女の立案した作戦は上級生である自分達を唸らせ、かと言って自分達を立てる作戦だった。
「一年生とは思えない…と言うのは失礼かもしれないけど、とても良い腕ね」
「いえ、優秀な先輩方のサポートがあってこそです。助けていただいて感謝しています」
「ふふっ、力になれたのなら良かったわ」
一番の感謝はサクラにしないと、と思いながら知名はそう答え、少し笑うと宮里も少し誇らしげに答える。
「それにしても、晴風は随分と無茶をしていたわね。学生艦の中でも特に損害が大きかったと聞いているけど…」
「はい、ですが一番活躍したのも晴風ですから」
「それには私も同意するわ」
マストが折れてたり、要塞の中に突入したりで色々と派手に大立ち回りをした晴風に二人は納得していると、能村が知名のあの行動について聞く。
「無茶といえば、武蔵もどえらい無茶なことしとったじゃん」
それは晴風を要塞まで誘導したあの染色弾による砲撃だ。
「染色弾で晴風に進む道を示すなんて普通考えんし、思っても実践なんてしないだら」
「そうですね」
海賊もおったまげるか、あるいは狂気を感じるだろうその行動に知名も頷きながら答える。
「私も相手が晴風でなければやろうとは思いません」
「ふふっ」
「それでもやらんじゃん」
知名の二人は少し苦笑気味に答えるも、それが今の状況につながっていると思うと否定しないわけにはいかなかった。
「…よほど信頼しあっているみたいね。晴風と武蔵は」
少し羨望してしまう関係だと思っていると…
「おやおや、知名艦長に宮里艦長じゃあありませんか」
「あっ、サクちゃん」
銀髪が特徴的な緑の瞳を持つ一人の少女。自分達の見たことのない士官服を纏っており、なんというか。ブルーマーメイドの制服に似ている部分があった。
そんな彼女に知名は少し驚いていたが、顔見知りな様子だった。
「貴方は?」
宮里は現れたその女生徒に名前を聞くと、彼女は自己紹介をした。
「初めまして。モンタナ艦長、サクラ・A・ミヤマ・ファーゴと申します。以後お見知り置きを」
名前を聞き、宮里達はまさかと言った表情を見せた。
「失礼、サクラ艦長。その、ファーゴは…」
「えぇ、私の父はモーリス・ファーゴです」
「あらまぁ…」
彼女の父親が本物の事実に二人は驚愕する。
「どえらいもんやなぁ、アメリカ現職大統領の娘とは」
「まぁ、私の場合は養子ですけどね」
すると話半分に聞いていた明乃が驚いた様子で振り返った。
「え?!サクちゃん大統領なの?」
「「「「え?」」」」
するとそんな彼女の言葉に反応して他の晴風メンバーが一斉にサクラを見た。
「違う違う、私の父がやってるだけよ」
「えっ…」
その時、誰もが驚いた。
『『『『『えええぇぇぇっ!?!?』』』』』
そりゃそうだ、今まで友人や知り合いとして交流のある人物が。歴史に名を残せる人物の関係者なのだから。
「本当なんですか?」
「Wi○ipediaでウチの名前打ってみ?」
そう言われ、納沙がタブレットに試しにサクラの名前を打ち込んだ途端に固まっていた。
「うお〜!すごーい!有名人なんだ〜」
「父親がね」
「当たり前じゃないですか…」
アメリカ大統領よ?と広田が言いかけたところで、明乃が知名を見ながら聞いてきた。
「モカちゃんは知っていたの?」
「うん、久しぶりに会った時にね」
「え〜、言ってくれたらよかったのに〜!」
自分だけ外されていた様な気分に明乃はやや頬を膨らまして文句を言うと、サクラは軽く笑いながら言う。
「だって聞かれなかったもん」
「酷いよ〜」
そう言い、明乃はポカポカと軽くサクラを叩くと、そこで若狭が聞いた。
「じゃあ日本生まれなんですか?」
晴風メンバーはサクラが日本で過ごしていたのを知っているので、生まれは日本なのかと聞くと彼女は軽く首を横に振った。
「失礼な、私はシアトル生まれ日本育ちよ」
「へぇ〜、そうなんだ〜」
何気に初めて知ったサクラの出生に明乃達は驚いていると、広田達は感心した様子で呟く。
「生まれはアメリカ…」
「ってことは選挙には出られますね」
そんな事を言って親睦会で衝撃的な話を聞き、広田は早速手もみをしながらサクラに話しかける。
「じゃあ早速お友達に…」
「あら残念、私は政界に行かないわよ?」
サクラはそう言ってバッサリと切ると、晴風メンバーを軽く散らす。
「さぁ、散った散った」
「「「「えぇ〜」」」」
「せっかくの親睦会なんだろう?友人は多く作っておいた方がよっぽど強いパイプが作れるわよ」
そう言い、サクラは手を叩いて集まっていた生徒達を散らすとそこで知名は少し笑ってサクラに言う。
「そう言うところがサクちゃんらしいね」
「そう?」
彼女は本性がバレても気にしない適当な様子のサクラに昔を思い出していた。
「変わらないなぁ…って」
「変わらないねぇ…そう言う二人もだよ」
そう言い、サクラは少し緩んだ目でワイワイと真白のいる場所に集まって驚いている晴風の生徒達を見ていた。
「まさか誘導で砲撃を使うなんて…無茶する」
「でも、良い案でしょう?」
「狂気の沙汰でしかないね」
「ふふっ、そうとも言えるかも」
そう言い、呆れて苦笑するサクラに知名は言う。
「でもうまく行った」
「全く、次は無しにしてほしいね」
あの時、誘導砲撃の座標指定を行ったのはサクラの飛ばしたヘリコプターだった。
ヘリコプターとモンタナとのデータリンクがうまく行ってあれほどの精密な射撃指示を送ることができた。
あと晴風に染色弾が当たらなかったのは明乃の運もあったかもしれない。
「そう言えば、あのヘリコプターっていつ積んでたの?」
モンタナに搭載しているヘリコプターはAH-1ZとSH-2Gだった気がすると思っているとサクラは人差し指を口元に当てて言った。
「そこは企業秘密で頼むよ」
「あっ、ごめん」
軍事機密に触れたのかと一瞬で察した知名はそこ方深く追求することはなかった。
コンテナに収納できるAH-88の能力は一般的には公開されておらず、モンタナの中でも口外無用案件だった。ちなみにあのAH-88は第七艦隊の予備機を借りたものであり、コンテナに仕舞ったまま後日入港予定の第七艦隊に返却する予定となっていた。
「まぁ、また交換するらしいけどね」
「え?また?」
「元々売り込みの為に日本に来た様なものよ?色々と艦載ヘリコプターを試して行くらしいわ」
次はどんなものを押し付けてくるのやらと軽く愚痴るサクラだが、その表情はどこか楽しげでもあった。
やっぱり、ヘリコプターという空を自由に飛べる機械が自分の命令でとばれるとなると、思う部分はあるらしい。
「羨ましいなぁ、その気になったら自由に空を飛べるなんて」
「そう?私たちがブルーマーメイドになった時にはすでに普及しているわよ」
今年に採用が決まり、運用実績のあるUH-1Yがすでに運用に入っているので。自分達が海洋学校を卒業をした頃にはブルーマーメイドでも広く普及されているだろうと予測していた。
「さて、取り敢えず何か腹に入れましょうかね」
「そう言えば、今日は来るのが遅かったね」
「こちとら色々と仕事があって遅れちゃったよ」
全く、クソッタレの海賊どもめがと軽く愚痴りながらサクラは親睦会の食事に手を出していた。