ハイスクール・フリート 星の下の約束   作:Aa_おにぎり

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九二話

その日、横須賀は軽く喧騒に包まれる。

 

埠頭では吹奏楽隊が錨を上げてを演奏しており、その先の海では無数の灰色の軍艦が横須賀の港に停泊していた。

その艦船のマストに掲げられるは日の丸と星条旗。

 

「うぉ〜」

 

そんな大量の軍艦を前に明乃達は感嘆の声を漏らす。

今日は先の作戦で日本の管轄海域外縁にて展開中であった米第七艦隊が横須賀に寄港していた。

目的は先の海上要塞の攻略を行った学生艦隊への感謝であった。

 

「すごいです!」

 

その中の一隻、巨大な軍艦を前に納沙がタブレットで連写していた。

 

「これが…アメリカ海軍第七艦隊」

「あれはその旗艦であるロナルド・レーガンですよ!」

「おっきい〜」

 

全長333mの船体は大和型戦艦と並んでおり、あの大和型の全長を軽く超えるサイズの船体と排水量を有していた。

 

「まな板みたいな甲板だね〜」

「ね〜」

 

あかねとほまれがロナルド・レーガンの特異的な船体形状を面白がっていると、

 

「あれはヘリコプター母艦として万全に活動できるように設計されたアメリカが世界に誇る最新鋭の艦艇なんですよ!!」

 

納沙が興奮した様子で目の前の軍艦の説明を捲し立てる。その様はオタクに長い説明を受ける一般人のようであった。

 

「まぁ、あれも最初に進水してから三〇年以上立っているがね」

「「「サクラ艦長(サクちゃん)」」」

「よっ」

 

他にもアメリカ海軍の艦隊の寄港を一眼見ようと集まる他の生徒達の中、サクラは明乃達に話しかけていた。

 

「しかし壮観な眺めだ…」

「サクちゃんも初めて見るの?」

 

明乃が聞くとサクラは頷く。

 

「えぇ、第七艦隊は初めて見ているわ」

 

フィリピンを拠点に活動している米海軍第七艦隊はサクラ達本土住みの人間からも初めてみるものであり、実際留学生達もその威容を見にここに出て来ていた。

 

「すごい艦艇数ですね」

「えぇ、最大六〇隻の艦艇で構成されているわ」

「ろっ、六〇ですか…」

 

艦隊の隻数に真白は思わず絶句してしまう。

その隻数は横須賀海洋学校に所属している教育艦・教官艦全て合わせても届かない隻数だ。

そんな数がたった海軍の一個艦隊で終わるのだから、アメリカという国の国力をまざまざと見せつけられている気分だ。

 

「アメリカってすごいねぇ〜」

「ねぇ〜」

「私達の学校にある教育艦より多いよ」

 

そんな隻数に他の生徒達も絶句していた。

 

「凄い数だね」

「あぁ、アメリカが世界に誇る最強の海軍さ」

 

サクラは誇りを持って艦隊を見ていると、

 

「と言う訳じゃないけれど…」

「ん?」

 

するとサクラは明乃にある一通の封筒が渡される。

 

「ほいミケちゃん」

「何これ?」

 

封筒を手渡された明乃は首を傾げると、真白は封筒に刻印されている合衆国の国章を見て目を見開いた。

 

「この後に行われるあるパーティーの招待状」

「「「えっ?!」」」

 

封筒の正体を聞き、明乃達は目が点になって驚く。

 

「一応、今回の参加艦艇の艦長全員が招集されるけど、晴風乗員は全員が招待される事になっている」

「「「「えぇっ?!」」」」

「当たり前さ。今回の晴風の行動は賞賛されるべき事案じゃあないか」

 

そう言いサクラは明乃達を見ながら当然のように言うと、

 

「ど、どうしよう?!」

「正装なんてあったっけ?」

 

そう言い、正式なパーティーの招待状に慌て出す晴風乗組員。

 

「おー、落ち着け落ち着け」

「これが落ち着けられますか?」

 

真白が聞くと、サクラは真顔で言う。

 

「いや、あんたら高校生じゃろ?」

「はい、そうですが…」

「だったら制服が正装になるやろがい」

 

そう言った瞬間、明乃達の混乱がぴたりと止まるとポンと手を当てて納得した。

 

「「「あっ、そっか」」」

「ウッソだろおい」

 

サクラはそんな明乃達に思わず突っ込んでしまうと、驚いた目をしていた。

 

 

 

その後、サクラとケイリーはある場所に向かっていた。

 

「お疲れさまです」

「ご苦労」

 

それは先ほど明乃達が見ていた第七艦隊旗艦、ロナルド・レーガン。甲板にヘリコプターで乗り込むと、彼女を見た水兵が敬礼をした。

そしてそのまま艦橋まで通されると、そこでは海軍将校がサクラ達を出迎えていた。

 

「ようこそ空母ロナルド・レーガンへ。サクラ嬢」

「初めまして。リチャード・ボイス中将」

 

サクラは艦隊司令長官のボイス中将と握手を交わす。

相手は大統領の御息女、養子とはいえその類まれなる有能な才能は彼の知る所であった。

 

「こうしてお会い出来た事を嬉しく思います」

 

制服姿だが、まるで一人の上級将校を相手にしているような空気に艦橋にいた乗組員は思わず息を呑んだ。

 

「もうすぐマリーン・ワンが到着します」

「わかりました」

 

ボイスはサクラに腰を低くして話しかけると、サクラもそれに応えるように応える。

そしてそのまま二人は艦橋の備え付けの椅子に座ると、他の艦橋要員はそれに合わせるように出て行った。

 

「先の作戦でのご活躍。我々も拝見させていただきました」

「いえいえ、要塞を直接止めたのは日本の海洋学生ですわ」

「はははっ、そうでしたな」

 

故に、この後のパーティーでは晴風の乗組員全員が呼ばれる事になっている。

その内容は勲章の授与式であった。

 

「しかし、海洋学生に勲章とは…」

「例外というのは事前に作るべきものでしょう?」

「いやはや、サクラ嬢の提案には我々も驚かされました」

 

ボングは目の前の少女が提案したことが大統領のみならず他の将校達も驚かせた事実にそこはかとない恐ろしさを覚えていた。

 

「おと…大統領は私の提案を呑んでくださった事が幸いです」

 

サクラはそう言うとヘリが退けられている甲板を一瞥していた。

 

「…なぁ」

「なんだ?」

 

艦橋下の階段、そこである艦橋要員が口を開く。

 

「見ていたよな?」

「何をだよ」

 

分かってはいるが、その乗組員は聞き返した。

 

「サクラ嬢だよ」

「あぁ…あのお嬢様か?それがどうした」

 

恐らく、ここにいる乗組員のほとんど全員が感じた事だろう。

 

「本当に十七歳の高校生なのか?」

「あぁ、大統領の一人娘だ。何でも養子らしいがな」

 

大統領は結婚をしていたが、若くして妻を亡くして以降は再婚する事なくサクラを養子に迎えていた。

それは有名な話であり、サクラはアメリカ生まれの日本育ち…と言ってもアメリカにいる期間がもうすぐで長くなる事も事前情報で知っていた。

このサクラ嬢も親の関係で壮絶な人生を経験している事は一部で有名だった。

 

「ありゃまるで軍人だぜ」

「あぁ、戦い慣れた軍人じゃねえかと思っちまったよ」

 

そう言う二人に一人の女性士官が話しかけてくる。

 

「あれじゃない?去年海賊の事件に巻き込まれたから…」

 

そう言い去年のモンタナの海賊襲撃事件で彼女は成長したのだと言った。

 

「一回だけだぞ?それであの雰囲気は出せねぇよ…」

「あぁ、ありゃ何度か実践経験があるぞ」

「…」

 

階段で自分たちの司令官との会談を終えるまで待機している彼らは上を皆から呟く。

 

「司令官…大丈夫かな?」

「あの人だぞ?子供相手に遅れはとらんだろ」

 

予想外だったサクラに乗組員達はそんな事を呟いていた。

 

「いや…正直あれは予想外だったぜ」

「そうだな…」

 

彼らが想像していたサクラのイメージは大統領の娘としてストレスになるから、外の世界と隔絶される海洋学校に逃げたお嬢様、と言うイメージだった。

しかし蓋を開けてみればこの様、確かに大統領が頼れる娘としてこれほど頼もしい家族もいないだろう。

 

「そりゃ大統領が鬼可愛がるわけだ…」

「ははっ、ちげぇねぇ」

「俺の娘もあんなしっかりた子に育ててみたいもんだ」

 

すると一人の士官がそう溢すと別の士官が返す。

 

「はっ、お前の子だから口うるさくなりそうだな」

「五月蝿ぇ」

 

そんな乗組員達の会話を、静かにケイリーは彼らから見えない通路の角に立って聞いていた。

 

 

 

 

 

サクラがロナルド・レーガンに乗り込んだ理由は一つ。

 

『間も無くマリーン・ワンが到着します』

「着艦要員は準備しろ!」

 

甲板で走り回る乗組員を艦橋下の甲板で眺めているサクラは遠くから聞こえてくるローター音を耳にした。

 

「…来たか」

 

視線の先、オリーブ色と白色に塗装されたVH-92 ペトリオットが接近してくる。

夏のヘリコプターの側面には白文字で『UNITED STATES OF AMERICA』の文字が塗装されている。

 

マリーン・ワン、又の名をアメリカ合衆国大統領専用ヘリコプターと呼ぶ。

予備の政府用人を乗せた同型機数機がロナルド・レーガンに着艦すると、側面ハッチを空母の乗組員が開けると即座に敬礼をする。

 

最初にボディーガードが安全を確認して降りると最初に数名の書記官や政府要人が降りると、その次に一人のスーツに身を包んだ男が降りてくる。

 

「ようこそ、大統領」

「あぁ、ご苦労」

 

兵士に敬礼をして空母に降りた現職アメリカ合衆国大統領、モーリス・ファーゴはファーストレディーのルディー・ジョンソンを連れてそのままボディーガードに囲まれて乗ってきたヘリコプターから離れる。

 

「初めまして」

「やあ、ボイス中将」

 

最初にボイスと握手を交わし、モーリスは先の作戦を労うとそのまま艦橋の方に近づいてくる。

そこではアメリカ海軍の制服ではなく、海洋学校の制服に身を包んだ二人の生徒が立っていた。

モーリスは自分の娘を見つけるとサクラはモーリスに近づいて軽く笑った後にモーリスが言った。

 

「まさかこっちで会うことになるとはな」

「えぇ、私も正直驚きですよ」

 

そう言い、サクラもモーリスと同じ感情を抱くと、

 

「お久しぶりです。ルディーさん」

「お久しぶり、サクラちゃん」

 

父のファーストレディーを務めている女性、モーリスの大学の同級生であるというルディーとも挨拶を交わす。

彼女とはアメリカに住んでから何度か出会っており、サクラにとってみれば第二の母であった。

 

「お久しぶりです。おじさま」

「いつも娘が世話になっているよ、ケイリー君」

「いえいえ、いつもサクラには助けられています」

 

その横ではモーリスとケイリーが軽く話しており、軽く談笑をした後に彼らは下の格納庫につながるエレベーターに乗り込んだ。

サクラは先の事件で日本政府との会談に訪れたモーリスの出迎えをするためにこの空母に訪れていた。

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