ハイスクール・フリート 星の下の約束   作:Aa_おにぎり

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九五話

海上要塞の占拠事件が終わり、その後のアメリカ政府による功労者の表情を終えて少しした頃。

 

「オーラーイ!」

 

両手に誘導灯を持った生徒が誘導を行う。

その視線の先ではモンタナ所属の対潜哨戒ヘリコプター(SH-2G)が着艦を行おうとしていた。甲板ではベアトラップが置かれ、ヘリコプターのプローブと接続していた。

本機にはMAD(磁気探知機)やソノブイ、レーダーにESM(電波探知装置)、フレアを装備し、スタブウィングには二発の短魚雷が装備可能だった。

入れたり尽くせりの装備がこの機体には装備されており、ブルーマーメイドは既にUH-1とSH-2Gの採用を行い、調達を開始していた。

アメリカのITAR(国際武器取引規則)に抵触しないようにヘリコプターの販売は行われており、世界各国ではヘリコプターの自国生産を行うための設備装置と技術導入が進められていた。

 

「オーラーイ!」

 

けたたましいローター音が後部甲板に響き渡り、色とりどりのジャンパーに身を包んだ生徒たちが着艦を行うヘリコプターを見ていた。

現在、モンタナは洋上にてヘリコプターの着艦訓練を行なっており、パイロットのアリス・マーキュリーは確認を行いながら甲板に着陸を行う。

 

「オーライ!…良し!」

 

そしてドスンと足のショックアブソーバーの衝撃を感じながら着艦を行うと、エンジンを切ってヘリコプターの調子を確認する。

船体後部に改装を加えられてヘリコプター甲板となったモンタナ。広く場所が取られ、巨大なHの文字の中央に着艦する。

露天駐機が基本のこの機体は整備を終えると防蝕のためのカバーが必ず掛けられ、港に着くと機体は潮風の当たりにくい校内の格納庫に移動する。

現在、モンタナにはこの対潜哨戒ヘリコプター(SH-2G)汎用ヘリコプター(UH-1Y)攻撃ヘリコプター(AH-1Z)の三機種が搭載されて各種試験を行なっていた。

 

現在ヘリコプターはアメリカが積極的な販売を行なっており、モンタナはブルーマーメイドの売り込みの為に搭載されていたが、ブルーマーメイドは前二つの機種を採用したため、攻撃ヘリコプター(AH-1Z)はもう一つの攻撃ヘリコプター(AH−88)と共に第七艦隊に乗せられて回収されていった。

 

「お疲れ〜」

「お疲れ」

 

エンジンを切り、電源を落としたヘリコプターのコックピットでアリスは被っていたHMD付きヘルメットを外す。

ヘリコプターはあまりにも音がひどいのでヘルメットは防音がしっかりとした代物であり、機内の通話ですら無線が当たり前だった。

 

「今日は着艦、明日は魚雷かぁ〜」

「まあ、何でも屋だからね。こいつは」

 

大型のスライドドアには小規模ながら貨物室があり、数名の人員輸送も可能であった。

そして多種多様に搭載された武器は哨戒から攻撃が可能で、貨物室には先の作戦で電波妨害装置の搭載を行えるほど余裕があった。

 

「いつも思うんですけど、こいつ何でも屋すぎて器用貧乏になってないですかね?」

 

そこで航空科のアニータ・フェリエが話しかけてくる。

 

「さぁ?でも流石に電波妨害装置は重すぎて燃費悪化したわよ?」

 

アリスはそう言い、先の作戦時に予想よりも燃料消費をしたことで早めの帰還となり、作戦区域の監視に若干の空白時間が生まれたことを思い出す。

 

「まあおかげでいい戦訓も得られましたよ」

「流石にレポートの量にはうんざりさせられたわよ」

 

アニータにアリスはため息を漏らす。

あの作戦の後、ヘリコプター運用を行っていた十名を対象に今後必要な対応策と問題点をレポートにして出せと言われ、彼女たちはうんざりしながら書き上げた。

 

「まあでも、流石に十人で三機のヘリコプター運用は無理がありますよ」

「そりゃあそうよ。限度ってもんがあるわよ」

 

現在は十名で運用されているモンタナのヘリコプターだが、今までの改装や運用試験などで機体は三つに増えており、全て別々の機体で、整備マニュアルも違うため、整備担当の会計科はこの仕事の増量キャンペーンに顔が死にかけていた。

十名のヘリコプター要員では圧倒的に不足しており、この人数での機体の整備は二機が限界であった。

そのため大規模な増員が必要であると言うレポートを書き、来年度の新入生のための重要な資料を作成した。

 

「機関科から救援がなかったらとうの昔に整備不良で事故起こしてますよ」

「笑えない冗談やめて?」

「冗談じゃないから言ってるんですよ」

 

アリスはアニータに言うと、コックピットから降りて甲板を歩く。

 

「んな〜、ずっと座ってるから腰やりそうになるわね」

 

軽く腰をトントン叩いてアリスが呟くと、聞いていた航海科の一人が茶化すように言った。

 

「歳でもとった?」

「五月蝿いやい!私はそんなババアじゃないわよ!」

 

そんな軽口を言いながら船内のパイロット休憩室に入る。

広い船体には分解された予備機や広い休憩室が備わっており、パイロットはここで飛行後の休憩と、シア・コトーによる健診を受けていた。

 

「お疲れ」

「うい〜」

 

片手に淹れたてコーヒーを飲んで待っていると、制服姿のシアが現れて健診をしにきた。

彼女はこの船の医療担当であり、自分たちと同い年でありながら大学を出ている。つまり飛び級をしているわけだ。

 

「健診すっぞ〜」

「ほい」

 

そこでシアに頷くアリス。そして健診中に彼女はシアに聞いた。

 

「新しい剥製はどう?」

 

彼女の趣味である剥製製作は、作成時の表情にはドン引きであるが出来栄えは流石の一言で一級品。

艦長でサクラにもムクドリの剥製を誕生日に送ったことがあり、ムクドリはサクラドリと呼ばれることがあり、受け取ったサクラは嬉しそうにしていた。

 

そしてそんな彼女からハクトウワシの制作依頼を受け、完成させたそれは両翼を広々と広げた堂々たる代物で、完成品を見たサクラですら思わず素晴らしい、と評価するほどだった。

そして完成したその剥製は彼女の父、つまり現職の大統領の誕生日に贈られた。そして贈られた剥製を見たモーリスは満足げに笑みを浮かべて喜んでいた。

その事を後に知ったシアは軽く絶句しながらも、褒められたことに誇りを持っていた。

 

「順調だとも!よかったら見ていくかい?」

「いや、やめておく」

 

マリアはシアの少し興奮した眼差しに恐怖を覚えて丁重にお断りを入れた。彼女の剥製を作る上で必要な鳥の遺体をどうやってしれているのか、それが不明であり、余計のそれが彼女の剥製製作に恐怖を加えていた。

彼女は今、ニシマキバドリの剥製を制作していた。かの鳥はモンタナ州の鳥であり、戦艦モンタナにはぴったりの剥製。艦長室に飾る用に製作していた。

 

「そりゃあ残念だ。ちょっと手伝って欲しいこともあったのだがねぇ」

「…(あっぶねぇ!!)」

 

まさかの発言にアリスは戦慄した。もしこのまま言っていれば、確実に変な実験の実験体にさせられていたと確信したからだ。

 

「はい。健診はこれで終わりだ」

「ど、どうも」

 

そこで最後に歯の確認を終えると、シアはカルテをまとめて席を立つ。

歯を健診するのは、高度をあげると気圧の差で歯に詰めていた詰め物から歯が弾け飛んだと言う事故がかつてあったからだった。

飛行船と違い、簡単に高度を上げられるヘリコプターでは、気圧変化で歯が痛むことはあったが、歯が割れることはなかった。だが急激な気圧変化により、虫歯などであれば詰め物の中に残っていた空気が膨張を起こして歯を破壊して口の中で散弾のように爆発してしまっていた。

だから虫歯があればパイロットになれなかった。

 

「はぁ…」

 

そして健診を終えたアリスは軽くため息をついて緊張の糸がほぐれた。そしてもう一人のパイロットのクラウ・ロムの事を案じる。

 

「大丈夫かなぁ…」

 

この船が三機体制だった時はロート・ライがパイロットに任命されていたが、彼女は本来会計科所属のヘリコプター要員であり、あくまでも臨時のパイロットであった。

そしてこの後クラウは宗谷真雪、古庄薫、老松亮などの横須賀女子海洋学校の教師陣を乗せてのデモンストレーションが行われる。

この飛行は来年度に航空科の生徒の受け入れを行う舞鶴・佐世保の海洋学校の教師も訪れてヘリコプターに試乗する。

舞鶴・佐世保の教師陣は自分の番だが、横須賀の教師陣は彼女が行う。

飛行内容は横須賀女子海洋学校のヘリポートから航行中のモンタナ、その飛行訓練を行った直後であった。

往復で訓練の過程で教師陣を乗せる予定であった。

 

「ミスんなよ〜、クラウ」

 

アリスはそう言うと、今頃横須賀のヘリポートにいる友人のことを思った。

 

 

 

「では、こちらに」

 

同じ頃、横須賀女子海洋学校に設置されたヘリポートでは真雪をはじめ複数の教師たちがクラウの案内で着陸していた汎用ヘリコプター(UH-1Y)に乗り込む。

中には窮屈だが十名分の座席が用意され、ペイロード限界まで人員を輸送できるようになっていた。

 

「これがヘリコプターか」

「思った以上にでかいな」

 

初めて本物を見た教師たちは思わずそんなことを呟きながら案内された座席に座る。

 

「搭乗しましたら、全員そばのヘッドホンを装着してください」

 

副操縦士が乗り込んだ教師たちにそう説明すると、乗客たちはその通りにヘッドホンをする。

 

「通話をする際はヘッドホンの電源の切り忘れに注意してください」

 

そしてヘッドホンに関する説明をすると、乗り込んだ真雪と古庄は話す。

 

「飛行船以外で空を飛ぶなんてね」

「良い機会です。これで作戦にも大きな変化が加わることでしょう」

 

安全のため目の前のスライドドアは閉められしまうが、ここを全開にして、あるいはドアを外して飛行することもあるという。

 

「では離陸します。ドアを閉めますので気を付けてください」

 

副操縦士と機長の生徒はそう言うと目の前のドアを閉める。

そして乗り込んだ全員が装着したヘッドホンの使い方を覚えると、機長がエンジンの確認を行った後に上のローターが回転を始め、離陸を始めた。

はじめは飛行船と違う飛び方に教師たちも興奮した様子だった。

 

『かなりの音と振動ですね』

『なるほど、これなら確かにヘッドホンは必須ね』

 

古庄と真雪もその例に漏れなかったが、同時にヘリコプターの音に関して少々騒音の問題を懸念していた。

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