ハイスクール・フリート 星の下の約束   作:Aa_おにぎり

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九八話

海上要塞占拠事件を経てまだ日も経っていない頃、横須賀港沖合でモンタナはサプライ級高速戦闘支援艦から補給と修理を受けていた。

 

「ケッ、また改装かよ」

 

そこでケースメイト化された3インチ連装速射砲(Mk.33 3インチ連装速射砲)を見上げてモンタナ砲術要員、アカシア・リクシーはため息を吐く。

 

「仕方ないわよ。この前の作戦でまたぶっ壊したし、元々入れ替える準備はされていたんだから」

 

その隣で宥めるようにケイト・マオは主計科の生徒達と共に納品されてくる新しい砲塔を見上げる。

以前はここに六連装40mm機関砲が装備されていたのだが、先の海上要塞占拠事件により要塞からの砲撃やミサイル迎撃などで多数の損傷をしており、事前に準備はされていたと言うことで思い切って機関砲の撤去を行うことになったのだ。

 

「まあ元々近接信管(VT信管)つけられないって散々嘆いていたくらいですし、案外こっちの方が飛行船もヘリコプターも叩き落とせますしね」

「接近されたら?」

「そんときゃCIWS(ファランクス)SeaRAM(RIM-116)ヘヴィー・ブローニング(M2重機関銃)ですよ。新しくM45機関銃架も納入されるし…」

 

ケイトはそう言い、今年に入って散々改装ばかりを重ねるモンタナを見上げた。

夏の修理兼大改装で煙突やGFCS、対空火器や主砲、VLSまで余すことなく変更された戦艦は、文字通りアメリカ最強の名を欲しいままにしていた。

 

「まあ元々傑作と名高い武器ですし?使えないことはないと思いますよ」

「でしょうね。流石に砲弾背負っての人力装填じゃないのがありがたいところかしらね」

「まあ整備マニュアルは全部覚え直しですけどね」

「本当、私たちを殺す気じゃあないでしょうね?」

 

砲術科の面々はそんな事を言いながら新しい武装が装備されていく傍でミサイルが回遊されていくのを見る。

動く弾薬庫と化した船体中央部のVLS(垂直発射器)。先の戦闘で対地ミサイルや対艦ミサイル、巡航ミサイルなど諸々を撃ち込んだことで、海上要塞へのミサイル有効打のレポート提出も求められたりと、ほぼ休みなしで彼女達はやるべき仕事が盛りだくさんであった。

 

「こっちは漸く新しい5インチ砲(OTO 127/64)を覚えたって言うのに…」

「しかも本国だと滅多に使われていない奴って言うね」

「誰よ、こんな無駄なことを覚えさせようとする阿呆は!!」

 

地団駄を踏んでアカシアは怒鳴り散らすと、彼女達は新しく納品されてくる速射砲のマニュアルを炎天下の中で読み進めていく。

 

 

 

その様子を艦橋から見下ろしていたサクラは言う。

 

「悪いことしちゃったわね」

 

船内に装備された機関砲を全て撤去する様を見ながら彼女は言うと、後ろで団扇を仰いでいたケイリーが答える。

 

「大丈夫でしょ。壊れた部分直すだけだし、Mk.33なら今も現用装備品だったりするし」

 

日本の夏に少しやられた様子で彼女はサングラスをつけて答える。先祖はアイルランド移民だという彼女はこの日本の日差しには弱い様子だった。

 

「換装を終えたら洋上で試験運用かしらね」

「まあ問題ないんじゃない?今まで採用実績の多い兵装だし」

「でもやっておかないと予想外の問題が出たりするわよ?」

「それはね」

 

現在、モンタナの船内には四〇名の生徒が常駐しており、言って仕舞えば深刻な人手不足が発生している。特に航空科で。

 

「航空科の方はどう?」

「なんとかやって行けているわよ。機関科の子からも派遣してもらってなんとか回せているみたい」

「来年からもっと人員は増やさないとダメそうね」

「一応、来年の海洋学校の採用人数枠は増えるらしいわよ」

 

航空科は一隻の航洋艦で二〇名、その他諸々諸兵科の人員も増やす予定であるという。

 

「今度はノーフォークで入学式だっけ?」

「ええ、航空科の創設で倍率が減ったとかって話もあるらしいわよ?」

 

来年の新入生達はどんな生徒が来るのか、基本的に一つの学校に一学年しかいない海洋学校は他学年との交流というのが滅多にない。周りを見ても同級生しかいないため、先輩との交流という青春は送れない。

 

「来年には三年生か〜」

「あぁ忙し〜、忙しくて死んじゃいそう」

 

海上要塞占拠事件の影響でいくらか予定にズレが出たとはいえやる事が目白押しな現状に白目を剥きたくなる。修理期間中は他の学科に影響しないように座学のスケジュールを中心に組んでくれているが、忙しいことに変わりはない。

 

「もういっそのこと、この前の勲章でチャラにしてくれないかしら?」

「できたら誰だってそれやってる」

「本当それ」

 

彼女達は疲れを隠しきれない様子でモンタナの船上で戦場のような労働環境に喘いでいた。

 

「換装が終わったら、次は訓練かぁ」

「仕事多いよ。やる事多いよ」

 

サクラはそう言い、宗谷真雪が約束をしてくれた宗谷真冬率いるブルーマーメイド部隊との訓練である。色々な意味でブルーマーメイド内外で恐れられている強制執行課。彼女の乗る黒いインディペンデンス級は見た者を震え上がらせる噂は事欠かない。

 

「強制執行課との訓練の前に装備品の変更もあるわよ〜」

「またかよって話なんだけど」

 

実証実験を兼ねているとはいえ、多種多様な期待を取っ替え引っ替えしすぎではないだろうかとケイリーは怪訝に思いながら補給艦から後部甲板に降ろされていく新しい艦載ヘリコプターを見る。

 

此度降ろされるのは捜索救難ヘリコプター(HH-2C)汎用輸送ヘリコプター(UH-2C)、現在運用中の対潜哨戒ヘリコプター(SH-2G)とエンジンを同型にした独自改修機だ。ブルーマーメイドやホワイトドルフィンの艦艇にも訓練終了生から次々と配属が始まっていた。

これらは既にブルーマーメイドで採用実績のある機体であり、モンタナの生徒達も操縦の勘は乗りこなしている事で特段必要な訓練はなかった。

 

「ドアガンの装着しておくのよ?」

「ええ、ガンポッドの類も装備するって話でしょ」

 

UH-1Yとの交換という形で新たにモンタナに配属となる二機のヘリコプター。これで艦載機は三機体制となり、念願の三交代制システムが出来上がることとなる。

作戦に参加したモンタナは海上要塞との戦闘で所々に損傷を負っており、また日本の艦艇側とは違って外国船籍であったことなどから別個で修理を受けており、損傷を受けた戦艦の中では元も早い復帰が可能であった。寧ろ修理よりもその後の改修作業の方が手間取っていた。

 

「とりあえず届いた機体は習熟訓練で免許持ちの形を順々に乗せて飛ばす感じかなぁ」

「取り敢えず飛行計画をマリルに組ませるか…」

「後で発狂しなきゃいいけど…」 

 

基本的に大型直教艦(弩級戦艦以上)である艦艇では当たり前のように起こっている人員の不足。特に今年のこのクラスは航空科が酷い。いくら整備ができるとはいえ、整備員が機関科から出されている時点で末期も末期。特に先の作戦ではパイロットに無理して飛んでもらうほどであった。

 

「キィィイイイイイッ!!次から次に何なのよ!!」

 

そして船内のCICの航空管制を行う席で先の作戦中は途中からワンオペをしていた航空管制員のマリル・モンローは頭を掻きむしって怒鳴り散らす。

艦内でミセス・モンタナをすればぶっちぎりで優勝するとされる彼女が荒れるとまるで夜叉のようになっており、遠目で彼女のことを見ていた航海科の生徒達は見て見ぬ振りをして新しく装備される速射砲のシステム調整を手伝っていた。

 

「阿呆!ボケ!カス!なぁにが新機体だ!何が同型機だ、クソ喰らえ!!」

 

新しい機体を受領し艦載機の統一を行なったモンタナであったが、代わりに渡されたのは新しいマニュアルである。この後の習熟飛行訓練はヘリコプターの免許を持っている生徒全員に実施する必要があり、飛行を行う上で必要な整備・点検・給油諸々の計画を彼女一人で立案して、艦長のサクラの確認をとっていくと書類仕事がねずみ算方式で増えることに彼女は怒鳴り散らしていた。まるで月初のナースセンターのようなピリピリとした緊張感がCICを包んでいた。

 

「ん?どした」

「ウチの航空管制員が発狂中」

「あー…」

 

そこでシルフが納入された新兵装の諸元表を届けに来ながら発狂している彼女を見て首を傾げた。

 

「アニータどしたの?」

「上で新機体の受領書にサイン中」

 

同じ航空管制員の筈のアニータの居場所を知ると、彼女が発狂する理由を察する。大方、この後の新機体の習熟飛行訓練の飛行プランの策定に頭を抱えていたのだろう。

 

「逃げたの?」

「人聞きの悪いこと言わないでよ」

 

するとシルフの背中から反論するように制服を纏ったアニータが戻ってくる。帰ってきたんだと態とらしく反応すると頭にバインダーを叩きつけられた。

 

「いでっ」

「話す余裕あるなら仕事せい。まだシステム調整とかは終わってないんだからさ」

「へい」

 

そこで肩を落としてシルフはCICを後にする。すると今度は反対の通路から機関科のヘディ・スノードンが現れて片手にCICを訪れる。

 

「ふぅ…」

「終わった…」

 

するとCICでは航海科のエマ達がシステム調整を終えて全員で息を吐いていた。

 

「終わった?」

「こっち手伝って〜」

 

その隣で砲雷科のルイーザ達が悲鳴を上げながらシステム調整を行なっていた。今回は対空火器の変更により、新しいGFCSのダウンロードと微調整が必要だった。以前の大改修の際に本国から持ち込まれた砲射撃装置(Mk.86)の微調整を行い、新しく納入される艦砲の諸元を入力していく。

日本のように艦艇毎の大きな変化こそ無いが、モンタナ級戦艦は戦艦であるが故に数が多かった。射撃可能な範囲を個別で設定し、自動装填装置の諸々を自分たちでする必要があった。

 

「よっ、手伝いに来た」

 

すると彼女達からすると神様よりも有難い救いの一声がCICに響いた。

 

「あっ、艦長!」

「副長〜」

 

そこでCICにサクラとケイリーが来ると、途端に彼女達の顔色が良くなる。手伝いに来たという彼女達の言葉は、今の彼女達にとって福音にも聞こえていた。

 

「助かります。お願いしてもいいですか?」

「もちろん」

 

砲雷科出身のケイリーはそこでCICに詰めていた他の同級生達の中に入ると、この日差しでやられた体をCICのエアコンで冷やしながらシステム調整の手伝いを行なっていた。

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