横浜のフロートで行われた元晴風クラスによる飲み会。
立案者は言わずもがな、我らが艦長殿の岬明乃である。
「それじゃあ改めて!」
最後に遅れると言った万理小路楓が到着すると、そこで彼女はジョッキを持って音頭を取る。
「乾杯!」
『『『『『かんぱ〜い!』』』』』
すでに始まっていた飲み会だったが、全員が集まったことで会場もなった伊良子の店は盛り上がりを見せていた。
「んにゃあ〜クロちゃあ〜ん」
そこでは既に出来上がってしまっている柳原が、隣に座る黒木に猫のように溶けながら絡んでいた。
会場である料亭伊良湖は貸切営業となっており、大量の料理を作っては捌いていた。
「こうやってみんな集まれたのって奇跡だよね」
「本当にね」
そう言い、ここに晴風クラスの元クラスメイト全員が集まれた事実に驚く小笠原に武田が頷く。
「これも艦長のお陰かな?」
そんな奇跡に、今まで多くの事件に巻き込まれながらも生還できた運の強さの源を見る若狭麗緒。
「ありがたや、ありがたや〜」
「拝むな拝むな」
両手を合わせる駿河に和住が突っ込んでいた。
「…美味しい」
「Tボーンステーキだよ!Tボーン!」
立石と西崎は伊良子の出す料理に舌鼓を打つ。
二人は海洋大学に進学せずにブルーマーメイドとして同じ船で武器を操っていた。
「このお造り、とても綺麗ですわね」
「すごく綺麗だよね」
並べられた机に置かれた刺身の造りをみて万理小路と知床鈴は頷いてから、厨房に立つ杵崎姉妹と伊良子に言う。
二人は卒後に海洋大学以外の大学に進学し、それぞれブルーマーメイドではない職についていた。
「万理小路さん、仕事とかは大丈夫なの?」
そこで内田まゆみが聞いてくると、彼女は少し頷く。
「ええ、お仕事の方は既に終わらせております」
「おぉ、流石ですね…」
万理小路重工の経営者の一族として、万理小路重工に就職をした彼女は、関連企業を含めた多くの会社を回っており、経営者としての経験を積み始めたばかりであった。
「まだまだ私も精進する必要がございますので」
「偉い人ってのは大変だね〜…」
その話を聞いていた八木鶫はストローで飲み物を吸う。
「艦長」
「あっ、ありがと〜」
真白は隣に座る明乃にビール瓶を持ってくると、彼女はそれを手に取って自分でジョッキに注ぐ。
「相変わらずすごい飲み方しますよね〜、艦長は」
ジョッキに並々に注がれたビールを見て山下秀子は思わず口にしてしまう。彼女は恐ろしいくらい呑兵衛で、いわゆる鉄の肝臓を持つ女であった。
ジョッキなんて簡単に行けてしまい、酒をジュースか何かと勘違いしている類だ。大学生時代に飲み会でやった耐久大会でクラスメイトを全員潰したのは苦い思い出だった。
噂では知名もえかも同類の人間という話で、二人が飲む時は最初に焼酎一本をやるという末恐ろしい話がある。
「だってみんなで飲みながら話すんだよ?」
「だとしてもその飲み方はどうかと…」
ダバダバとウイスキーの瓶を開けて氷の詰まった特大ジョッキに入れていく様は、知らない人からすると顔を青ざめてしまうか酒カスのそれであった。
「本当、海賊に出くわすたびにどこかしら壊して帰ってくるのはどうにかならないんですかね?」
少し顔を赤くした黒木は心底恨めしい目で明乃を見ており、自覚がある彼女は誤魔化すように頭を軽くかいた。
「へへへ、それはごめんと思っているよ」
「もうこの前なんか班長が泣きながら『私もうここでやって行けない』って言って大泣きして大変だったんですから」
「あははは…」
裏方の事実を聞き、明乃は海賊対策だから仕方ない部分もありつつ、どうにかそうならないように努めようと思っていた。
「しかし…」
真白はそこでやいのやいのと飲み会をしているかつてのクラスメイト達を見ながらふと思う。
「変わりませんね…」
「まあどうしても、高校生の時の友達と大学の時の友達は変わってきちゃうよね」
明乃はそう言い、真白が海洋大学に進学した後の話を少し思い出す。
宗谷家の三女、という事で何かと色目をつけられ、ブルーマーメイドの名家の名がどうしても彼女には降りかかった。
上の二人が武蔵の艦長であり、自分だけ航洋艦の…というのは晴風の活躍によって完全に吹き飛んでしまっており、むしろ上の二人よりも鉄火場経験が豊富と言われていた。
そしてそれだけに期待値も大学に入ってきた時点では高くなっていた。
『参謀の長女、指揮官の三女、現場の次女』なんて言い方をされたこともあった。
「正直、『宗谷』の家名を高校の頃は考えなくてもよかったのが幸いでしたね…。大学では意識していなくとも家の名前がのしかかって、そういう目で見られてきましたから」
「それは…」
そこで納沙は一瞬言葉に詰まってしまった。
海洋大学では専攻が別れてしまったことで、途中から顔を合わせる機会が減ってしまった。そして同じ教室にいたときですら、彼女は『宗谷家の娘』として他の生徒からは見られていた。
「ブルーマーメイドとホワイトドルフィン、双方の監察官候補生が通う海洋大学だ。まあ、ある程度覚悟はいていたんだがな…」
そこで彼女はグラスに入ったソーダ割りを傾ける。
「だがまぁ、お陰で多少のわがままもできる。上手くやって行けているさ」
「…そっか」
そこで明乃も少し安堵して居ると、
「ク、クロちゃん…」
「ん?どうしたのマロン?…って!?」
肩を叩いた柳原を見た黒木は、思わず驚いた声を上げる。
「す、すまねぇ…気分が悪りぃ」
「ちょっと!だから飲み過ぎないでって言ったのに!!」
黒木は慌てて彼女をトイレに連れ込もうと立ちあがろうとしたが、
「私がやるよクロちゃん」
そこで明乃がだって柳原のそばに立つ。彼女は黒木よりも後に到着し、まだそこまで飲んでいない上に酒にはめっぽう強かったので足元は固まっていた。
「す、すみません艦長」
「大丈夫だよ。マロンちゃん、しっかりね?」
「す、すまねぇ…」
柳原は明乃に介抱されながら顔を青くして店を出ていくと、
「どうしていつもあそこまで飲むんだ…」
真白は軽くいつもの光景に呆れていた。
「どうしても盛り上がっちゃうと止まらなくなっちゃうのよ。マロンは」
「自制してくれ、と思うのは私だけか?」
「私も見て居るつもりなんだけどね…」
黒木はため息を吐き、真白は呆れた眼差しで視線を海に戻した時。
「…ん?」
ふと、海の水面が強く反射した気がした。
今日は満月だが、やけに強い反射光だと首を傾げて居ると、そこから白い線を引く影が映った。
「っ!!」
真白はその影がなんたるかを今までの経験が理解し、思わず立ち上がって海を確認した後に叫ぶ。
「魚雷だ!伏せぇっ!!」
真白が叫ぶと、会場にいたクラスメイト達は最初困惑したが、水面に映る雷跡から、それがこのフロートを狙ったものであり、尚且つ回避はできないと言うことをすぐに判断した。
そこで彼女達は直ぐに地面や床、柱などにしがみついて防御姿勢を取ると、
ッーー!!
フロートに一発の魚雷が命中して激しい水柱が立つ。
ッー!!ッー!!
直後に警報音がフロート全体に鳴り響く。
「フロートに攻撃!?」
「避難指示だ!フロート内の市民の避難をするぞ!」
「なんでいきなり…!!」
水柱が立ち上り、ブルーマーメイド関係者である彼女達はすぐさま緊急時のフロートの避難活動をマニュアル通りに開始する。
「じゃあさっきのは…!」
真白はそこでバルコニーから先ほど見えた反射光の場所をじっくりと見ると、角度と距離を感覚で伝える。
「野間さん!方位三四〇!距離約一二〇〇!」
「了解!」
野間マチコはすぐさま真白の指示した方向を眼鏡を外して凝視すると、一瞬だけ潜望鏡を確認した。
「潜望鏡視認!距離、約一四〇〇!」
「潜水艦か、と言うことは…」
真白はそこで二本目を予想すると、野間が叫んだ。
「っ!雷跡視認!数一!」
「また来るぞ!総員、衝撃に備え!」
直後、再びフロートに魚雷が命中する。
「チッ…」
「潜望鏡、発見できず!」
「潜航したか…避難誘導だ!」
真白は二発の魚雷が撃ち込まれたフロートに浸水被害が拡大する可能性があると考えて避難誘導を指示した。
まあ柳原を介抱していた明乃も一発目の魚雷が当たった時に、その爆音と振動を感じ取っていた。
「魚雷…!?」
すぐさま彼女はこのフロートが攻撃を受けて居ることを把握すると、柳原に聞く。
「マロンちゃん、大丈夫?!」
すると柳原はトイレから水洗の音が聞こえると、個室から飛び出してきた。
「今のは何でぃ!?」
顔色は良く、酔いも魚雷の爆発音と振動で吹き飛んだ表情をしていた。
「分からないけど、とにかく市民を避難させないと」
「分かってらぁ、いくぞ艦長!」
すると柳原は頷いてから明乃とともにフロートの通路に出ると、
「何だ今のは!?」
「攻撃されているぞ!」
「急げ!ここも沈んじまう!!」
中に居た市民達は混乱しており、不安によるデマで混乱しかけていた。
「艦長…」
「うん、分かってる」
柳原が不味い空気を感じ取ると、明乃は一旦息を吸ってから叫んだ。
「皆さん!良く聞いてください!」
彼女の大声は通路に良く聞こえると、その声に一瞬市民達は驚く。
「今から避難指示を出します!フロートの避難手順に従って…」
その直後、二発目の魚雷が命中し、フロート全体が大きく揺れる。
「ひぃっ!?」
「魚雷だ!」
「逃げろ!!」
二発目の魚雷が命中すると、不安に駆られた市民達は我先にと逃げ始めた。
「くそっ!」
「不味い、このままじゃあ…」
不安と恐慌に駆られ、フロートからの脱出を試みる市民達は救命ボートに向かっていた。
「艦長!」
すると二人に店から飛び出してきた真白が叫んだ。
「シロちゃん、これは…」
「わかりません。ですが二発の魚雷を受けたので…」
フロートがもつか分からない、と彼女は言った。
既にフロートが魚雷攻撃を受けたのは感覚で分かっていたのでそれを会うことはなかった。
「フロートにいる市民はパニック状態です!」
そこで状況を見た山下が報告をすると、明乃は真白を見る。
「まずは避難を優先しよう」
「救命ボートには既にフロートの警備員が誘導をしているでしょう。我々は救助に来る水上バスの方を誘導しましょう」
「そうだね…」
真白の提案に明乃は頷くと、直ぐにクラスメイト達に指示を出して行動に移す。
「前を押さないように!」
「一歩ずつ詰めて!」
水上バス乗り場で係員と共に真白達は非番ながら誘導を行う。
「フロートはまだ沈むまで時間があります!」
「落ち着いて誘導に従って下さい!!」
現役のブルーマーメイド隊員達である彼女達は、フロートの中を探索して取り残された人がいないかを探索しながら乗っていた市民の誘導を行う。
「誰かいませんか!?」
「いたら音を出して下さい!!」
既に魚雷の爆発を見ていた多くの水上バスが駆けつけており、フロートに居た市民をギリギリまで乗せていく。
「誰かいませんか?!」
明乃もすっかり静まり返ったフロートを探索して居ると、上にヘリコプターが到着したのを見た。
「もう救難ヘリが?」
到着の早いヘリコプターに明乃は近くで飛んでいたのかと首を傾げて居ると、
「艦長!」
「もう他にはいなさそうです!」
勝田と内田が同じ階層を見てそう判断を下した。
「うん、分かった」
明乃も避難が完了したと判断してその場を去ろうとした時、
「…ん?」
フロートの反対で彼女は複数の人影を見た。
まだ照明の生きていたフロートで、彼女は自動小銃を持ってしっかりとした防護装備を持った小隊規模の集団がフロートを走っていたのだ。
「ん?」
明乃はもう一度よく見てみたが、既にその影はなかった。
どう言うことだと疑問に思ってその方に向かおうとしたが、
「艦長!フロートが傾き始めました!」
「分かった!」
自動排水装置が機能しなくなるほど大きな破口ができたフロートに、沈降の危険を感じて彼女は避難せざるを得なかった。