横須賀の沖合に浮かぶ猿島フロート。
普段、艦載ヘリコプターは潮風が直に当たらない様にフロートの方に格納されていた。モンタナが出航をした場合のみ、このヘリコプターは離陸して洋上で合流する。
「そっち、油圧大丈夫?」
敷地内に新設されたヘリコプター格納庫と発着場。その格納庫の中でモンタナ所属の航空科の生徒達は新しく受領したヘリコプターの整備・点検を行なっていた。
先の作戦で偵察役として海上要塞方面やプラント船でも活躍を見せたヘリコプター。あの時は緊急ということで攻撃ヘリコプターの使用が許可されたが、平時は哨戒ヘリコプターを載せて偵察や弾着観測を主に担当していた。
「問題無いわよ」
整備班長のジーン・ガードナーの問いかけに、同じ整備班のローレン・テイラーが答える。彼女達は全員がブルーグレー色のツナギ服に白いヘルメットを被っており、機体離陸時は色とりどりのジャンパーを羽織ってレインボーギャングとして飛行要員も兼任する。
「兵装は?」
「異常なーし」
エリザベス・バコールが答えると、彼女は機首のマウントから飛び出る
「あっ、そういえば横須賀の補給艦のクラスがカフェやってるとか言ってなかったっけ?」
「へぇ、カフェ?喫茶店じゃなくて」
「キッサテン?」
聞き慣れない日本の言葉に彼女達は首を傾げた。
日本語に関してはネイティブのサクラという強い講師がいた事で日本の文化には色々と触れているつもりだったし、彼女から日本に来た時の注意点なども教えてもらっていた。
給糧員のシルフや砲術員のシュライク・アリサカなども祖父が日本人であったことから、日本の料理などもモンタナでは時折提供されており、日本という異国への抵抗感は薄かった。
「日本版カフェ…みたいなお店らしい」
「へぇ、そう言うのがあるんだ」
「日本語ッテ難シイネ〜」
基本的に彼女達は全部英会話が日常である。留学に来る前に短期間のサクラによる日本語レッスンを受けたが、軽い会話ができるだけで一部日本人が身近にいる生徒以外ではなかなか苦労する場面もあったりした。
「カフェねぇ、どんなのがあるんだろう?」
「さぁ?でも日本の料理は冷めても美味しい」
「それな。本当に信じられない」
そんなことを話していると、そこでふとクロディーヌ・ルージュが機体脚部の点検を終えて顔を覗かせて言う。
「そう言えばこの前の学園交流祭の時の展示飛行、すごい人気だったらしいね」
「ああ、ニュースにもなってたくらいだもんね」
「やっだぁ、有名人みたい」
彼女達はそう言いながら競闘遊戯会の初日の歓迎祭で大盛り上がりを見せた展示飛行を思い出す。まだ飛行船以外の航空機がお目にかかれる機会というのは少ない為、あの時のスモークを展開しながらの飛行は興奮を巻き起こしていた。
「…が、あの事件と」
「己許すまじ、海賊」
「怒りで要塞吹き飛ばしてますやん」
本当であれば最終日にヘリコプターを使った海難救助の展示訓練を行う予定だったのだ。それが学生艦隊の出動とその後のゴタゴタで立ち消えである。入念に整備していたとはいえ、楽しみにしていた訓練が消えたことで航空科整備班達の怒りはMAXであった。
「で、間宮カフェどうする?」
「うーん、私はパスで」
「私も、まだ機体の整備とかあるし」
そこで整備班達はそれぞれ別々の受け答えをして是非を取った。
横須賀在籍の各学生艦の修復が進む中、サクラはもえかと共に校庭を歩いていた。
「成程ね…。晴風は空中線もそう張り替えとはね」
「見張り台を折っちゃったらしいからね。レーダーも新装備しないといけないとかで…」
「まぁ忙しい」
二人は期間限定開催の間宮カフェに一緒に行こうとサクラが誘ったことでアフタヌーンティーでも堪能しようかと考えていた。
「お姐ちゃんって、こう言うの得意だったりするの?」
「え?うーん…どうかな、まあ人並みくらいにはできるんじゃないかな…」
義妹に突然聞かれて少し返答に困る彼女。何せアメリカ人と言うのは祖先を辿ればイギリスからの跳ねっ返りであり、欧州動乱時はモンロー主義が勝利こそしたものの、その後はじわりじわりと欧州やアジアに手を伸ばしたことで経済的な繁栄を見せた国だ。時代の変革とともに、西部開拓の終焉と共にモンロー主義は消え去った。
そんな紅茶臭い元宗主国とは相容れないぞと言う意気込みからか、アメリカのソウルドリンクはコーヒー、同じ英語圏でありながら城はカッスルとキャッスル、地下鉄はアンダーグラウンドとサブウェイ、車のハンドルは右ハンドルと左ハンドル、メートル法にヤード・ポンド法と、挙げ出したらきりがない跳ねっ返り娘である。ただ最近はメートル法に色々と規格が直されつつあるが…。
「あっ、ここか」
もえかとそんな話をしながら歩いていると、二人は看板を建てられた校舎の中庭に到着する。この時間でも賑わいを見せており、日々の艦隊修復に疲労した生徒達が甘味と紅茶でキマッていた。
「うわぁ…」
「結構混んでるね」
サクラはキマッていた生徒達に引き気味に見て、もえかは人の多さにやや驚く。給糧支援教育艦の間宮が主催するこのイベントは、この前のモンタナでのアイスクリームイベントに触発された様子で開催されていた。同様の施設は一〇箇所ほどで開催されているそうだ。
「ようこそ、御二方」
「あぁ、これはどうも」
そこで彼女達は藤田に出迎えられた。
カフェは多くの横須賀女子の生徒達が出入りしており、その中にはモンタナクラスの生徒達も混ざっていた。
モンタナクラスの制服は古き良き水兵服であり、日本の海洋学校の制服であるセーラー服と違ってスカートではなく、ズボンタイプの海軍軍服に近い制服であった。
学校カラーでもあるブルーグレー色に紺色の襟で、胸元は古いアメリカ海軍のようにV字に開いていない。胸元のタイは自由に選択可能で、個人個人で誰のものなのかすぐに分かるようになっていた。
「何にされますか?」
「あぁ、ではこのアフターヌーンティーセットを」
「畏まりました」
そこで対応をした間宮の生徒は確認をとってから一礼をして去っていった。
「へぇ、気合い入ってるわね」
そこで間宮の生徒達がメイド服。それもヴィクトリアンメイド服を纏っていたことにそんな感想が溢れると、もえかが言う。
「噂だと晴風の生徒が衣装を用意したって噂だよ?」
「へー、誰なんだろう?」
ちょうどこのカフェは見覚えのある顔もあり、晴風クラスの内田や知床の姿が見受けられた。
「それでさ、修理の方はどうなの?」
「順調だよ。姐貴ちゃんの方は?」
「武器換装で大忙しよ。修理自体はすぐに終わりそうなんだけどね…」
モンタナで習練を行なっているサクラ達。それは反対に座っているもえかも同様であった。
二人は超大型直接教育艦の艦長を勤めており、その証でもある特製の士官服を纏っていた。
「お待たせしました。アフターヌーンティーセットです」
そこで間宮の生徒がケーキスタンドを持って机の上にセットを置いていく。
「ショートケーキどうぞ」
「ありがとう」
しっかり最初にショートケーキをもえかに渡すと、彼女は嬉しそうにサクラを見た。ケーキスタンドにはスコーンなども用意されており、これでこの金額というのは生徒達にもお優しいボリュームだった。
「こちらアールグレイです」
「ありがとうございます」
そこでティーポットに入れられた紅茶が用意され、アフターヌーンティーを堪能していく。
「ミケ、シローーっ!こっちこっちーー!」
するとそこでこの女子校では随分と若く聞こえる子供の声がした。
「あっ、サク!」
「よっ、お先に失礼〜」
カフェに訪れた少女、スーに軽く手を振って答えると、彼女の後ろから明乃と真白が現れた。
「あっ、姉貴ちゃん」
「座るかい?」
「え?いいの?」
その時、明乃は少し目を明るくさせたので彼女は微笑んで開いていた席に案内する。
「どうぞどうぞ」
「し、失礼します」
そこで真白達も案内されると、座り始めていくが明乃は周りを見回していた。
「どうかしました?」
「ううん。リンちゃんたちがお手伝いしてるって聞いたから、ここかなーって」
彼女はそう言うと、ちょうどそこで野間が話しかけてきた。
「知床さんなら別の場所」
「あっ、野間さん」
そこで明乃は彼女を見てやや驚く。彼女は黒いタキシードを纏っており、元々ボーイッシュなところも相まって女子人気が凄まじいことになっていた。
「野間さんも手伝っていたんだね」
メニューを受け取りながら話すと、そこで等松が反応した。
「マッチあるところに私ありッ!!」
「うわっ…等松さんもか」
その声に真白が思わず驚くと、彼女もタキシードを纏っていた。
「さっきまでモモちゃんもいたわよ。お客として」
「あぁ…それでその衣装…」
そこで真白はこの服を用意したのが青木であると納得する。彼女の衣装持ちは艦内でも有名であり、洋服屋の娘らしく凄まじい衣装持ちであった。
そしてもえか達と同じセットが用意され、スーはと頬張って満足げな顔をしていた。
「…それにしても、野間さんまで手伝っているのは意外だったな」
真白はそこでタキシードを纏っていた野間を見ながらいつもの彼女からは少し意外な事を言う。
「接客…と言うほどでもないが、こういったことはあまり好きじゃ無いと思っていた…否定はしない」
野間もそのことは認識しており、趣向をした上で真白は少し邪推をした。
「…まさか等松さん達に何か弱みでも握られているわけでは…」
「そんなわけないでしょ!」
しかしそんな邪推は本人の手によって真っ向から否定される。
「むしろ握られているのは私の心なのよマッチィーーっ!!」
「まぁ確かに」
いつどこにいてもノマと一緒にいるイメージがあり、尚且つペンライトを振って興奮するほどの彼女だ。真白もそのことは否定せずに苦笑する。
そして彼女は自分の中で起こっている変化を口に漏らす。
「…入学したての頃は人とコミュニケーションをとることに消極的だった。見張員になったのも一人で気楽だと思っていたからだし」
「でもみんなといると楽しいよ」
「ん」
明乃に野間も頷く。
「今も一人でいるのは好きだけど、それ以外の時間も悪くない」
「それで今回協力しているのか」
「…気まぐれだけど」
真白に野間はそう答えると、明乃はスーを見る。
「スーちゃんも何か困ったことがあったら何でも言ってね」
「わかった!」
彼女に聞かれ、スーは子供らしく素直に頷いた。
別でロレーライの乙女達の二次創作を書きたくなってきたので、もしかしたら出すかもです。