ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第10話 ささやかな歓迎パーティーじゃい。

 

 

 

 

 今日は解散だ、とレホール先輩が言った。

 

「新人歓迎会は速やかに開くものだろう?」

 

 楽しめよ。背中越しにひらりと手を振られて、あまりのかっこよさにくらくらした。

 中身の入ったボールが2つポケットに収まっている

(しかもそのうちの1つには伝説ポケモン(雛)入り)のは初めての経験で、俺は寮につくまで頬がムズムズしっぱなしだった。

 

 寮はアカデミーの敷地を一旦出て、エンジュ方面にぐるっと回りこんだところにある。木造二階建てアパートの2階角が俺の部屋だ。

 玄関前で、人待ち顔で佇んでいる人が居た。日に焼けた褐色の肌に若葉色のアフロ。ノコッチ柄のエプロン。寮長のアロエさんだった。

 

「おや、今日はお早い帰りだね」

 

 闊達に笑う姿は、俺のほんの1つ上とは思えないぐらいの貫禄がある。地元の博物館の学芸員(キュレーター)になるべくイッシュ地方から留学してきた彼女は、持ち前のバイタリティと面倒見の良さであっという間に寮長に就任した。

 

 寮で起きたトラブルはまずアロエさんに持ち込まれ、彼女が公明正大に裁定する。また、毎月食費を渡しておくと素晴らしく美味い弁当を作ってもらえるので、アパートの住人で彼女の世話になっていないやつは居ない。

 

「あ、ども。夜食の件ですか? ごちです!」

「それもあるけど」

 

 卑しく両手を差し出す俺にいつもの紙袋を渡しながら、アロエさんが嘆息した。

 

「あんたんとこの窓が割れてるのを他の子が教えてくれてね。どういうことか訳を聞かせてもらおうと思ったのさ」

「……あ」

 

 ────そういえば、今朝方ちびが突っこんで来た時に壊れた窓ガラス、そのままだったな…………。

 

「あんたも知ってると思うけど、ここは静かに暮らしたい奴らが集まる寮だ。乱癡気騒ぎを起こす輩はお呼びじゃない。何もしないで窓が割れる筈がないんだから、納得のいく説明が出来ないなら出てって貰うよ」

「あ〜〜…………」

 

 俺は頭を抱えた。ありのままを説明すれば彼女にもルギアを見せる羽目になる。だが超希少なポケモンをほいほい晒すわけにはいかない。ただでさえ、今日だけでレホール先輩とミナキに見られてるんだから。

 

 しかし聡明な寮長に下手なごまかしは逆効果だ。悩んだ末、俺は真実と嘘を絶妙にブレンドさせることにした。

 

「……鳥が」

「鳥?」

「そう、鳥です。鳥がぶつかってきたんです。ガラスが見えなかったんでしょう。可哀想にそいつ翼が折れちまって、いままでポケモンセンターに行ってたんですよ」

「その子はどうしたんだい」

「無事に治ったから逃がしました。やっぱり鳥は大空を飛ばなくちゃ」

 

 アロエさんもそう思いますよね? ね? ね? としつこく同意を迫ると、「分かったから静かにおし!」と叱られた。

 

「……まあ、あんたは入寮してから2年間、とくに面倒も起こしてないしね。信じるよ」

 

 よおし! 作戦成功!

 俺は内心ガッツポーズした。

 

「だけどね」

 

 びし、と指を突きつけられ、心臓が跳ねる。

 あれっ、やっぱ見破られた? 

 

「今度からはそういうことがあったらすぐに報告しな。こんなボロ屋にも泥棒が入ったかと肝が冷えたよ、まったく」

 

 セ──フ! バレてはない!

 俺は額の冷や汗を拭った。

 そしてアロエさんの言うことももっともだ。金目のものなんてないが、不用意に泥棒を呼び寄せてしまいそうな窓は早急に塞いだ方がいい。第一、穴をそのままにして雨が吹き込んだりしたら階下にも迷惑が及んでしまう。

 素直に反省し、腰を直角に曲げた。

 

「はい! すんませんでした!」

「分かればよし。明日にも修理人を呼ぶからそのつもりで」

「あざす!」

「調子いいんだから」

 

 アロエさんは笑いながら1階の寮長室に戻っていった。

 ほっとしつつ部屋に滑りこむ。部屋中の施錠を確認してから腰を下ろした。

 

 この寮はとにかく古く、全てがボロい。このご時世に風呂なしトイレ共同の六畳一間が存在しようとは思わなかった。壁の薄さといったら、2つ離れた部屋のティッシュを抜く音だってクリアに聞こえるレベルである。おかげで家賃はべらぼうに安い。だから実家からの仕送りが期待できない俺みたいな人間でも、なんとか最低限文化的な暮らしが送れているわけだ。

 

 部屋唯一のテーブル……粗大ゴミ置き場から拝借した(パクった)卓袱台にアロエさんの弁当を広げる。今日は具だくさんの惣菜パンだった。

 コロッケパンに焼きそばパン、オムレツパンとカレーパンが、はちきれんばかりに膨らんでいる。みんな俺の手よりデカい。食べ応え充分だ。ポケモン用の果物も並べてからカブトプス(カブルー)たちを呼んだ。

 

「飯だ! 今日は豪華だぞ」

「ぎしゅっ」

「げるる〜」

 

 ふたりともアロエさんのパンに釘付けだ。もちろん分け与える。カブルーはコロッケパンを、ルギアはオムレツパンを選んだ。

 

 使い古したコップにサイコソーダを注ぐ。1個にはカブルーが飲みやすいようにストローを差した。ルギアはコップじゃあ飲みづらいだろうから、平たい皿に入れてやった。

 

「んじゃ、乾杯の前に一言」

 

 俺はカブルーを見やった。

 10年以上、たったひとりで俺と共に歩んでくれた戦友。勝てて嬉しかったあの日も、負けて死ぬほど悔しかった夜も、ずっとそばに居てくれた。カブルー以上の親友は、この世に居ない。

 

 つぎにルギアを見る。

 おちびさんは1秒でも早くパンにかぶりつきたくてソワソワしていた。嘴の端からよだれがたらーっと垂れている。

 

 俺はおもわず噴き出した。

 そうだよな、早く食いたいよな。

 くだくだしい言葉なんて要らないか。

 ジュースの入ったコップを掲げ、音頭を取った。

 

「────今日からあらためて、宜しくな! かんぱぁい!」

「ぎっしゅ!」

「げるーる!」

 

 万感の想いを込めてソーダを飲み干す。

 ────まともなトレーナーからすれば笑えるほどささやかなパーティーだろうが、俺たちは心から楽しんだ。

 

 

 

 




というわけで第10話。
お気づきでしょうか。ルギアと出逢ってまだ1日経ってません。
ちまちま書いてたらこんな話数になりました。わはは。

そして登場、寮長アロエ。
彼女のご飯は絶対美味い。

よければ感想評価おなしゃす。
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