ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第11話 いっちょ山でも行きますか。

 

 

 

 

 翌日。窓の修理を見届けてからアカデミーに行った俺は、研究室の本を片付けている教授に遭遇した。

なんて珍しい光景。

 

「明日は雨ですかね」

 

 軽口を叩く俺に教授はニヤリとして、

 

「昼にもならないうちからあなたがやってくること自体、既に奇跡でしょうに」

 

 と返してきた。ド正論である。元よりキキョウアカデミー1弁が立つと言われる古代神話の専門家に口プロレスを挑んで勝てるはずもない。早々に降参して整理を手伝った。みるみる床が見えてくる。どうせ半日ともたないだろうが、部屋が綺麗になるのはいいことだ。

 

 本を棚に差しながら、教授の横顔を盗み見る。相変わらず、マネキンのように整った造形をしていた。

 

 彼ほど愛と憎しみを享受している人間を俺は知らない。

 どういうことかと言えば、この人はモテる。そりゃもう引くほどモテるのだ。

 

 金髪白皙の美貌もさることながら、立ち居振る舞いも言葉遣いも洗練されていて、《理知的な美形(インテリイケメン)》を完璧に体現している。それゆえ毎年多くの女生徒から惚れられ、熱烈なアプローチを受けることも少なくない。本人もそれを楽しんでいるフシがあるので、ますます女性陣が盛り上がる一方、大半の男子からは蛇蝎のごとく忌み嫌われているのだ。

 

 しかし古代神話の研究に関してだけは真摯なひとで、半端な人間がゼミに入ることを決して許さなかった。

 おかげで、俺もレホール先輩も、落ち着いた雰囲気のなかで研究に打ちこむことができている。

 

 ざっと一時間で魔窟化していた本を一掃することができた。数万冊にも及ぶ本が全てあるべきところに収まっている光景はある種の快感を覚える。

 

「素晴らしい。美しいですね」

 

 教授が感嘆の吐息を漏らす。ファンの連中が見たら卒倒しそうなほど絵になる仕草だ。

 

「この状態をなるべく長続きさせてくださいよ?」

「善処します」

 

 にっこりする教授に肩を竦めた。

 モップと掃除機をかけてから自分の席に向かう。窓から射しこむ光が、舞い上がる埃をきらきら反射させていた。

 

「今日もいい天気になりそうっスね」

「絶好の行楽日和だそうですよ」

 

 ────ふと、ポケットの中の小さな雛が脳裏をよぎった。

 こんな晴天の下で自由に飛べたらさぞ心地いいだろう。飛ばしてやりたいが、果たして人の目を気にしなくていい場所があるだろうか。

 

「……あるわけねぇか」

「何がです?」

 

教授が不思議そうな面持ちで俺を見ていた。しまった。声に出てたらしい。

 

「あ〜……っと。そうだ、教授って確か、トゲキッスをお持ちでしたよね。その子を誰にも見られずにのびのび飛ばせてあげたいときって、教授ならどこに連れて行きます?」

 

 苦し紛れの無茶な問いだが、意外にも答えはすぐに返ってきた。

 

擂鉢山(スリバチやま)ですね」

「……って、エンジュとチョウジの間の?」

 

 俺は目を丸くした。

 あそこは定番の登山スポットじゃないか。

 そう言うと、教授は「甘いですねえ」と笑った。

 

「あそこは地下に潜れば潜るほど、曲がりくねった地形が広がる天然の迷路なんです。山男が頂上ではなく地下の最奥を目指す、世界的にも珍しい山なんですよ。標高自体は高くありませんから、若い君ならすぐにテッペンに行けるでしょう」

「なるほど…………」

 

 知らなかった。盲点とはこのことか。

 そこならルギアをたっぷり遊ばせてやれるかもしれない。思い立ったら吉日だ、早速出かけるとしよう。

 

「すみません教授、野外調査(フィールドワーク)行ってきます! 帰りは未定!」

「はい、行ってらっしゃい。お土産はいかり饅頭でお願いしますね」

 

 にこやかに手を振る教授に見送られ、全速力で駆けだした。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「おお…………近くで見ると圧倒されるな」

 

 バスを乗り継ぎ辿り着いた擂鉢山は、ジョウトの名山に数えられるだけあって中々の威風を誇っていた。エンジュシティとチョウジタウンを繋ぐ42番道路のそばに堂々と聳えており、樹木は無く、見渡すかぎりに砂利道が続いている。石山なのだ。

 確かに教授の言う通り、標高は大したことがない。裾野がだらだらと続くタイプの、「大きい」というより「広い」山だった。

 

 見えてる部分でこれなら、いったい地下空洞はどれぐらい広大なんだろうか。わざわざ入りに行くなんて、山好きたちはみんな狂気に犯されているとしか思えない。

 

 擂鉢山は初めて登るが、遺跡探検なんかで山を歩くのには慣れている。登山道がきっちり整備されているから、迷うこともないだろう。

 

 フレボから相棒(カブトプス)を出して、入念にストレッチした。

 

「よおし、サクサク行くぞカブルーぅうぉおおあ!?

 

 記念すべき第1歩を踏み出そうとした途端、もう1つのフレボがポケットのなかで激しく揺れた。おちびさんが自分も出せと騒いでいるのだ。気持ちはわかるがこればっかりは仕方ない。

 

「あとで思いっきり飛ばしてやるから、な?」

 

 ボール越しに宥めすかす。分かりやすくぶーたれてたが、なんとか納得して貰えた。

 …………ふう。育児も楽じゃない。

 

 気を取り直し、山道を進む。怪しい連中が後ろをつけてきていることに、この時の俺たちはまだ、気づいていなかった。

 

 

 

 




というわけで第11話。ルギアを拾って2日目の朝です。
研究室の教授初登場。今後もちょくちょく出るかも?

スリバチ山のモデルは比叡山らしいですね。初めて知りました。

日刊ランキング4位に入りました!
めっちゃ嬉しいです! ありがとうございます!
よければ今後とも感想評価おなしゃす!
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