ルギア、拾っちゃいました。   作:じゅに

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第13話 幼女の説教は泣くほどしみる。

 

 

 

 ───ルギアを放鳥してから数時間。

 俺はほとほと困り果てていた。

 

 もうすぐ夏も本格化する頃合いだというのに山頂は肌寒かった。刻一刻と寒くなっていった。

 このうえ日が落ちれば、滑落や遭難の危険性もぐんと増すだろう。山は、登る時より下るときのほうが遥かに危ないのだ。

 だから日のあるうちに急いで下りようとしたのだが、帰宅を察したルギアが降りてこなくなってしまった。どれだけ「帰ろう」と叫んでも、山間に虚しく響くばかり。

 もう無理やりボールにしまったれと思ったが、小癪なことに捕獲ビームが届かないギリギリのところを飛んでるせいで強制連行も叶わなかった。

 

 なんて悪賢いやつなんだろう。捕獲されてまだ半日しか経ってないくせに! 俺は歯噛みした。

 レホール先輩なら「素晴らしい学習能力の高さだな(ウッヒョー!!!!)」とか欣喜雀躍するだろうが。

 

「いい加減にしないと唐揚げ(メシ)抜きだぞ〜!」

 

 仕方なく最終兵器をチラつかせたが、やはり反応は薄かった。よほどここの空気が肌にあったんだろう、微かに聞こえる鳴き声は、歌っているように節がついていた。

 

「…………しゃあねえ。カブルー」

「ぎゅっ」

「撃ち落とせ」

「ぎゅえっ!?」

 

 それはさすがにいくらなんでも、と相棒(カブトプス)が縋りついてくる。

 ええい止めるな、ダダっ子には鉄拳制裁じゃ!

 お主がやらねば俺がやる! 

 そこら辺の石を拾おうと屈んだところに影が出来た。誰かがすぐそばに立っている。

 山男たちがリベンジにでも戻ってきたかと視線を上げると、年端も行かない少女が音もなく佇んでいたので、俺は心底驚いた。

 

 白くなめらかな肌に夜明け色の髪。折れそうなほど細い首と華奢な二の腕。歳はどんなに多く見積もっても2桁には達していないだろう。きっちり着込んだ登山服とやけに濃いサングラスがミスマッチだが、それでも簡単にはお目にかかれないほどの美貌の持ち主であることがわかる。順当に育てばさぞ世を狂わせる美女になるに違いない。

 

 妖精のように可愛らしい子だ。しかし場違いである。なんでこんなところに。

 

 よもや────幽霊か?

 

 仄かな恐怖が駆け抜ける。だが、彼女の可憐な唇からとんでもない発言がぶっこまれたせいで、そんな感情は即座に霧消した。

 

 

「あなた、とほうもないバカなんですか? それともむこうみずなじさつしがんしゃなんですか?」

 

 

「…………はぇ?」

 

 俺の目がゴマゾウのような点になった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 少女は腰に手を当て、むくれた表情で俺を睨んだ。

 

「そんなケイソーでこんなじかんにすりばちやまをのぼるなんて。あなた、ぶじにおりられるとおもってるんですか。なんてムケーカクなんでしょう!」

 

 びしっ! と指を突きつけられ、俺はたじたじになりながらハンズアップした。

 

「いや、もっと早く降りるつもりだったけど───」

()()じゃありません!」

 

 追求の手は弛まない。

 

「おもうだけではむいみです! こうどうしなければ! まったく、いいとしをしたおとながみっともない! じぶんのゲンロンとコウドウにはセキニンをもちなさい!」

「ふ、ふぇえ」

 

 一分の隙もない正論パンチに俺は泣いた。

 …………なんて威力なんだろう。

 舌っ足らずな口調でカマされるド正論が、こんなにも心にくるなんて。どんだけ脳みそを回転させても反論が浮かんでこない。消え入りそうな声で何度も頭を下げるのみだ。ああ情けない。大人の面目丸潰れである。隣でカブルーも項垂れていて、余計に落ちこんだ。

 

「すんません勘弁してください本当すんま……………………ほァっ!?」

 

 しかし悄げている暇はなかった。

 一体いつからそこにいたのか、あれほど降りてこなかったルギアが少女の真後ろにちょこんと座っているではないか。

 お話してるの? といった具合に瞳をぱちぱちさせている。テッメェこの野郎! お前が大人しく言うこと聞いてりゃこんな思いせずに済んだんじゃい! 

 

 全身から汗が噴き出した。まずい。非常にまずい。いまこの子に振り向かれたら一貫の終わりだ。

 なんとかタイミングを見計らってあのアホを回収しなければ。

 

 目をかっぴらいて身構える俺に、少女がびくりと肩を震わせた。

 

「な、なんです?」

 

 声まで心細げに震えている。あああ違うんだ君を怖がらせたいんじゃなくて君の後ろに用が────

 

「…………うしろ?」

「ちょまっ」

 

 怪訝そうに振り返る彼女を押し留めようとしたが、間に合わなかった。

 ルギアと少女の視線がばっちり交錯する。

 

「おぁァあぁあ」

 

 俺は半泣きで頭を抱えた。

 願わくば、ルギアのことなぞ何も知らん子でありますようにっ。

 

 ────ところが。

 

「うしろがなんなんです?

()()()()()()()()()()()()()()

「…………へ?」

 

 思いがけないリアクションに、俺はぽかんとした。

 何も居ないわけがない。だって現に、ルギアがそこにいるじゃないか。

 ほら、げるげる歌うように鳴いて────

 

「ん……?」

 

 よーく見ると。

 ルギアの周りの空気が微かに揺らめいていた。まるでそこだけ蜃気楼が立っているみたいに。

 

「なんだ?」

 

 もっと近くで見ようと目を凝らしたその時。

 

 足元が、ガラリと崩れた。

 

「えっ」

「きゃぁあぁああぁあ!」

 

 神の無慈悲か悪魔のいたずらか。

 俺たちは、突然開いた穴から底知れぬ暗黒へと落ちていった。

 

 

 

 




というわけで第13話。
本当はもう少し先まで書きたかったんですがキリがいいのでここまで。
出てきた幼女が誰か分かったあなたは凄い。

よければ感想評価おなしゃす。
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